第59話 おじさん、支援者S.Gについて知る
先輩魔法少女たちを待っている間に、カフェ・グレープの会計がまだだったことを思い出して店内に戻った。
まだアイスコーヒーが残されていたので一気飲みする。
店内には、店長と共にバイトらしき金髪の外人メイドさんがいて、「私の代わりはいるでしょう?」と言われたことで、ああ、そういう意味での代わりか、と認識を改めた。
「――こちらレシートです。ありがとうございました」
「ごちそうさまです。コーヒー美味しかったです」
「……いや、ちょっと待て」
「はい?」
会計を終えて外に出ようとすると、レジ対応してくれた金髪メイドさんに引き止められる。
「もしかしてお前、アーミラルか?」
「アーミラル? えっと、どなたですか?」
「ああ、いや、人違いならいいんだ。行ってくれ」
「はあ」
アーミラル。私に似てる知り合いさんが居たのだろうか。
出会えたら友達になりたいな、と店の外に出る。
「そう言えば、夜見ライナ様」
「なんでしょうか?」
「先んじて仮契約を結びましたが、私の報酬についてお話することを忘れていましたので、いまからお話します」
「あっ……やっぱりお高いんでしょうか?」
「時間制の場合は一時間で十万円、月極、つまり一ヶ月単位の場合では七千万、一年契約は三億円とリーズナブルです」
「うわぁ」
恐ろしく高い。平均的なコンサル業者の数百倍はある。
特に細かく時間を取られるのが本当に嫌なようだ。
「だ、ダントさん」
「安心するモル。こういう時の僕モル」
ダント氏はマジタブでメッセージを送る。
どうやら上司に向けたプレゼン資料と決済申請書らしい。
少しして一年契約の許諾を示すメッセージとPDFの決済終了報告書が返ってきて、リズールさんへの報酬支払いはソレイユ持ちになった。
ダント氏と共にほっと一安心する。
「それとは別途でアイテムの購入なども出来ますが、いかがですか?」
次に渡されたのは扱っている商品が記載されたカタログ。
中を見ると用途別、種類別に細かく分類されていて、とても見やすい。
「――おお、幻術破りのお守りも売ってるんですね! 聖獣用のパソコンも!」
「なんでも取り揃えております。商品の注文は付属のテレフォンカードから接続できるサイトで、会計と受け取りはお近くのマジマートでどうぞ」
「分かりました! ありがとうございます!」
色々とやりたいこと、出来ることが増えた。
ともかく、購入品の選定はダント氏が「やりたいモル」と言ったので、任せた。
私は支援者S.Gや、潜伏しているダークライの情報収集に集中しよう。
「あ、いたいた! 夜見ちゃんだよね! おまたせー!」
「ああ、どうもこんばんは」
呼ばれたので振り向くと、そこにはどこかで見知った顔の女学生。
ぱっちりくりくりとした目に、ほのかな自信が感じられる口元、そこからちらりと覗く八重歯というかわいい系の顔立ちで、背は低く、茶髪。ショートボブにサイドテール。私と同じくらい大きな胸という見た目。そして黒腕章。
風紀部の先輩、なのだろうか?
「ええと、失礼ですがお名前は」
「私のこと覚えてない? 緑陣営のリーダーさんにバーチャルセクハラされた仲だよ? あ、ざーこ♡ って言えば分かる?」
「……ああ! 州柿井鶴さん!」
「もーフルネームで呼ばないでー? 結構はずいんだからー、それ」
そうだ思い出した。
戦闘シミュレーションの時に、青メッシュ先輩をおぶっていた魔法少女さんだ。
次の日の陣営争いの時にも出会っているというのに、それから二ヶ月も会わなかったので、メスガキムーブ以外の情報を忘れていた。反省しよう。
「というより、先輩もあの場に居たんですね。テロリストとの戦闘シミュの時に」
「管制室の隣がシミュレーションルームなの。夜見ちゃんのために頑張ったんだけど、触れられなくて寂しくて泣いちゃった」
「それは、ごめんなさいです。怒っていたので」
「分かりみー。あれほんとトラウマになるよね。初見でハッピーエンドに行けたの、たぶん夜見ちゃんだけだよ?」
「……その色々のついでに思い出したんですけど、先輩ってたしか紺陣営にも」
「ううん、私は生徒会風紀部のスパイ。黒腕章見てー?」
州柿先輩は(なぜか)胸元を強調しつつ、左腕の黒腕章を見せてくる。
ダント氏がマジタブで見せてくれた情報によると、風紀部所属とのこと。
本当にスパイ活動をしていたようだ。
そこに、一向に話が進まない状況を嫌ったリズールさんが介入してきた。
「お二方。そろそろ支援者S.Gについての情報交換しませんか?」
「あーそう言えばそんな話だったね! すごい気が合うから普通に喋っちゃった!」
「そうなんですよ州柿先輩。その人からいきなりメッセージが送られてきて、何者なのか、信じていいのか分からなくて」
「あー支援者S.Gさんね。紫のリーダー、赤城先輩の関係者の人だよ」
「えっと、赤城先輩の親戚、ということですか?」
「本名は佐藤学光さん。今住んでるのは長野。自分の友人と同姓同名だったから、赤城先輩の支援者やってるっていう変わった人だよ」
「何もかもバレてる」
「風紀部だからねー。支援者に紛れた厄介ファンや魔法少女アンチ、さらにはダークライを監視・特定するのが仕事みたいなとこある。特に行動力がすごい支援者さんはつい覚えちゃうよね」
「なるほど」
やれやれ、とため息をつく州柿先輩に、私も腕を組んで頷いた。
いくらファンとはいえ、直接的な接触はよくないと思っていたからだ。
「つまりS.Gさんは関わったらダメな方の支援者さん、という認識で良いのでしょうか?」
「正しい指示ではあるから、正規の手段で通報してくれればいいんだけど、すごい個別メッセージに拘るんだよねー。セキュリティをどれだけ固めても穴を見つけて抜けてくるの。緑に潜伏してた子が仕事終わらなくてまじつらたん、プロハッカー怖い、ってなげいてたよね」
「アングラ系技術者の方でしたか」
それは厄介だ。脆弱性を見つけてくれるのはありがたいけど。
「ま、支援者S.Gさんについてはそれくらいだねー。他に知りたいことはある?」
「そうですね――」
「あ、夜見さん。先にマジマートに寄って欲しいモル。買い物がしたいモル」
「分かりました。先輩、他の質問はあとでも良いですか?」
「いいよー。もう一人の子にはマジマートに行くって連絡しとくねー」
「ありがとうございます」
州柿先輩がメッセージを送り終えるまで待ったあと、近くのマジマートに移動した。
「夜見さん、即時受け取りしたいから僕に付いてきて欲しいモル」
「了解です。州柿先輩。リズールさん。少しだけお待ちを」
「かしこまりました」
「りょー」
「店員さん、聖獣のダントだモル。発注した商品の受け取りを――」
カタログを持ったまま店員に話しかけるダント氏。
私も後ろに続こうとするが、いきなりチンピラのような風貌の男性が割り込んできた。それも無言で。
「あ、あの」
「……」
「あの、すみません」
「あ? 誰に向かって口聞いてんだ喋るな殺すぞクソガキ」
な、なんだこの人……。
言動までもチンピラだったので、私は思わず身構える。




