第55話 おじさん、落選する
放課後のホームルームが終わった頃、マジタブにメッセージが入った。
「あ、イベント開催者からの連絡が来たみたいですね! みなさーん確認して下さーい!」
担任の先生が元気よくメッセージの閲覧を促す。
私もダント氏と共に確認した。
「「――――!?」」
「あ、見てよ夜見! 私もフロイライン・ダブルクロスに参加出来るわ!」
「うちもや! これで争奪戦でも一緒やね!」
いつもの二人が話しかけてきたり、サンデーちゃんやミロちゃんが我先にと教室を出るときにすら、声をかけられないほどの衝撃だった。
不思議に思った二人が私たちのマジタブを見たことで、真実が知れ渡る。
「「落選通知!?」」
「……はい、そういうことみたいです」
そう、私は参加者の枠に入れなかったのだ。
内容はこう書いてある。
――――――――――――――――――――
フロイライン・ダブルクロス運営チーム
魔法少女プリティコスモス様へ
厳正なる審査の結果、
貴方様の実力があまりにも逸脱
していると判断されたため、
申し訳ながら落選とさせて
頂きます。
貴方様の今後の活躍を、心より
ご期待させていただきます。
追伸:
お詫びとしてシャインジュエル
C等級を10個贈呈致します。
お近くの購買部支店にお問い合わせ下さい。
――――――――――――――――――――
「……どうしましょう?」
「とりあえず、受け取りに行くモル?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ二人とも! もう一通来てるわよ!」
「もう一通?」
いちごちゃんに言われた通り、未読メッセージがもう一通だけ残っていた。
シャインジュエル争奪戦の運営を担う組織委員会からだ。
――――――――――――――――――――
「シャインジュエル争奪戦」組織委員会
運営責任者より
夜見ライナ様へ
厳正なる審査の結果、
貴方様の実力があまりにも逸脱
していると判断されたため、
申し訳ありませんが、参加申請を
取り消していただくことは
出来ませんでしょうか。
追伸:
あくまでも提案なのですが、
梢千代市外での広報活動に
興味はありませんか?
よろしければ、
各地域の責任者にお問い合わせ下さい。
――――――――――――――――――――
「すぅ――――ふぅ――――……」
「完全に囲いにきてるわね。運営委員会が夜見を」
「特に目立つような――ことしかしてませんでしたね、私」
こうされる覚えがありすぎる。
雇用契約を結んで魔法少女になったし、期待の新鋭だし、協力を得たとは言え、入学二日目で世界を救ったし、佐飛家の当主から免許皆伝を得たし。
「来年には騎士爵を授与されるとも決まっているから、しょうがないかもモル」
「ね。ちょっとやりすぎましたかね」
「そら参加辞退をお願いされるわなぁ。梢千代市の騎士爵って、一国を救える力を持つ個人にしか渡されへんもんやし」
「私自身は救国の英雄って柄じゃないんですけどね」
「功績は事実やし、しゃあないよ。寂しいけどな」
「はい……」
参加辞退を求められるのは悲しい。
しかし、私のわがままで、他の魔法少女の夢を壊すのは良くないな、とも思った。
シャインジュエル争奪戦は確かにお祭りだけど、魔法少女たちが競い合うことで、お互いを高め合う場でもあるのだ。
「ともかく、赤城先輩に言わなきゃだめですね。辞退を」
「そうモルね。気持ちを切り替えていくモル」
「ねえ夜見」
「どうしました?」
いちごちゃんが不満そうに唇を尖らせていたので、精一杯の笑顔を浮かべる。
「心配しなくても大丈夫ですよ」
「そうじゃなくて。別に、蹂躙したっていいのよ。争奪戦」
「ど、どういう?」
「だって、参加しないことで喜ぶ人間は大勢いるもの。だからそういう思惑をぶっ壊すために参加して、容赦なく勝ち続けるのが、最高の魔法少女を目指す、あんたの責務だと、私は思う」
「……でも、その生き方は、人の夢を壊してしまうことの方が多いと思うんです」
「バカね。梢千代市に住んでいるだけで、魔法少女に選ばれただけで。世界中に存在する何十億人の夢と希望を壊して、踏みにじってると思うのよ」
そう言われて、生まれて初めての衝撃を受けた。
私はなにか勘違いをしていたのかもしれない。
偶然にせよ何にせよ、私は魔法少女になれたのだ。
足元で何者にもなれずに忘れ去られていく、何千、何万もの人々の上に、私はこうして立っている。無意識のままに。
目の前の少女は、そのことを分かっているのだ。
「……あはは、耳が痛い話です。私は何も分かっていなかった」
「まあ、夜見はんが出ないで得をするんはうちらもやけどな」
「もー余計なこと言わない! で、どうするの? 夜見」
「少しだけ、考える時間を下さい」
「そ。なら私たちは先に行くわ。イベントに向けた準備があるし」
「またあとでなー」
彼女たちはそう断って、教室を出ていく。
「……どうしましょうかダントさん」
「僕が決めていいモル? 僕なら――」
「あ、いや、自分で考えます……はい……」
私は答えを決められなくて、ただただ、教室にとどまるしかなかった。
テロテロリン♪
そんなときに、マジタブから変わった音が鳴る。
また勧誘メッセージかなにかだろう、どうでもいい、とうつむいていると、ダント氏が肩を叩いた。
「……夜見さん」
「すみませんダントさん、結論を出すはもう少しだけ――」
「僕たちが落選した真の理由が分かったモルよ」
「どういう、ことですか?」
見せてくれたメッセージには、こう書かれていた。
――――――――――――――――――――
支援者S.G
拝啓、魔法少女プリティコスモスへ
このメッセージは自動送信だ。
しかし、これを見ているということは、
君はイベントに参加できなかったのだろう。
理由は一つ。
ダークライの構成員が、運営委員会に潜伏
しているからだ。
君を排除したのも、争奪戦初日という大舞台で、
重大な発表がしたいからだ。
そこで君に伝えたいことがある。
姉妹の誓いを利用しろ。
そうすれば君は、問答無用でイベントに参加できる。
敵の思惑に負けるな。野望を打ち砕け。
――――――――――――――――――――
「これは――」
「あ、お姉さま! こんなところに居たんですねー!」
「「!」」
声がしたので顔を向ける。
そこには妹のヒトミちゃんが、満面の笑みで立っていた。
「私もフロイライン・ダブルクロスに参加できるんですよ! せっかくですし、一緒に行きましょう! ね!」
答える前に目をつむる。
私が争奪戦に参加できなかったのは、他の誰でもない、ダークライが原因なのだと、謎の人物はメッセージを送ってきた。
果たして信じるべきかどうか。
「……いや」
信じられなくても、信じて行動した方がいい。
いままでずっと周囲に振り回されたまま、やられっぱなしで、自分で解決できたとも思えないことばかりで、自信を失いそうなのだから。
それになにより――
「私も争奪戦を楽しみたい」
「??? ――あ、楽しみですよね! 分かります!」
「行きましょうかヒトミちゃん。ダントさん。相手の思い通りになんてさせません」
「オッケーモル!」
「はいお姉さま!」
誰かに勝つためには頑張れないとしても。
他のみんなを守るためなら、私は全力を振るうことが出来るのだ。
私は、二人を引き連れて梢千代市へと向かった。




