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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第二部 一章 シャインジュエル争奪戦・デビュー編

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第55話 おじさん、落選する

 放課後のホームルームが終わった頃、マジタブにメッセージが入った。


「あ、イベント開催者からの連絡が来たみたいですね! みなさーん確認して下さーい!」


 担任の先生が元気よくメッセージの閲覧を促す。

 私もダント氏と共に確認した。


「「――――!?」」

「あ、見てよ夜見! 私もフロイライン・ダブルクロスに参加出来るわ!」

「うちもや! これで争奪戦でも一緒やね!」


 いつもの二人が話しかけてきたり、サンデーちゃんやミロちゃんが我先にと教室を出るときにすら、声をかけられないほどの衝撃だった。

 不思議に思った二人が私たちのマジタブを見たことで、真実が知れ渡る。


「「落選通知!?」」

「……はい、そういうことみたいです」


 そう、私は参加者の枠に入れなかったのだ。

 内容はこう書いてある。


――――――――――――――――――――


 フロイライン・ダブルクロス運営チーム


 魔法少女プリティコスモス様へ


 厳正なる審査の結果、

 貴方様の実力があまりにも逸脱

 していると判断されたため、

 申し訳ながら落選とさせて

 頂きます。

 貴方様の今後の活躍を、心より

 ご期待させていただきます。


 追伸:

 お詫びとしてシャインジュエル

 C等級を10個贈呈致します。

 お近くの購買部支店にお問い合わせ下さい。


――――――――――――――――――――



「……どうしましょう?」

「とりあえず、受け取りに行くモル?」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ二人とも! もう一通来てるわよ!」

「もう一通?」


 いちごちゃんに言われた通り、未読メッセージがもう一通だけ残っていた。

 シャインジュエル争奪戦の運営を担う組織委員会からだ。



――――――――――――――――――――


「シャインジュエル争奪戦」組織委員会

 運営責任者より


 夜見ライナ様へ


 厳正なる審査の結果、

 貴方様の実力があまりにも逸脱

 していると判断されたため、

 申し訳ありませんが、参加申請を

 取り消していただくことは

 出来ませんでしょうか。


 追伸:

 あくまでも提案なのですが、

 梢千代市外での広報活動に

 興味はありませんか?

 よろしければ、

 各地域の責任者にお問い合わせ下さい。


――――――――――――――――――――


「すぅ――――ふぅ――――……」

「完全に囲いにきてるわね。運営委員会が夜見を」

「特に目立つような――ことしかしてませんでしたね、私」


 こうされる覚えがありすぎる。

 雇用契約を結んで魔法少女になったし、期待の新鋭だし、協力を得たとは言え、入学二日目で世界を救ったし、佐飛家の当主から免許皆伝を得たし。


「来年には騎士爵を授与されるとも決まっているから、しょうがないかもモル」

「ね。ちょっとやりすぎましたかね」

「そら参加辞退をお願いされるわなぁ。梢千代市の騎士爵って、一国を救える力を持つ個人にしか渡されへんもんやし」

「私自身は救国の英雄って柄じゃないんですけどね」

「功績は事実やし、しゃあないよ。寂しいけどな」

「はい……」


 参加辞退を求められるのは悲しい。

 しかし、私のわがままで、他の魔法少女の夢を壊すのは良くないな、とも思った。

 シャインジュエル争奪戦は確かにお祭りだけど、魔法少女たちが競い合うことで、お互いを高め合う場でもあるのだ。


「ともかく、赤城先輩に言わなきゃだめですね。辞退を」

「そうモルね。気持ちを切り替えていくモル」

「ねえ夜見」

「どうしました?」


 いちごちゃんが不満そうに唇を尖らせていたので、精一杯の笑顔を浮かべる。


「心配しなくても大丈夫ですよ」

「そうじゃなくて。別に、蹂躙したっていいのよ。争奪戦」

「ど、どういう?」

「だって、参加しないことで喜ぶ人間は大勢いるもの。だからそういう思惑をぶっ壊すために参加して、容赦なく勝ち続けるのが、最高の魔法少女を目指す、あんたの責務だと、私は思う」

「……でも、その生き方は、人の夢を壊してしまうことの方が多いと思うんです」

「バカね。梢千代市に住んでいるだけで、魔法少女に選ばれただけで。世界中に存在する何十億人の夢と希望を壊して、踏みにじってると思うのよ」


 そう言われて、生まれて初めての衝撃を受けた。


 私はなにか勘違いをしていたのかもしれない。

 偶然にせよ何にせよ、私は魔法少女になれたのだ。

 足元で何者にもなれずに忘れ去られていく、何千、何万もの人々の上に、私はこうして立っている。無意識のままに。

 目の前の少女は、そのことを分かっているのだ。


「……あはは、耳が痛い話です。私は何も分かっていなかった」

「まあ、夜見はんが出ないで得をするんはうちらもやけどな」

「もー余計なこと言わない! で、どうするの? 夜見」

「少しだけ、考える時間を下さい」

「そ。なら私たちは先に行くわ。イベントに向けた準備があるし」

「またあとでなー」


 彼女たちはそう断って、教室を出ていく。


「……どうしましょうかダントさん」

「僕が決めていいモル? 僕なら――」

「あ、いや、自分で考えます……はい……」


 私は答えを決められなくて、ただただ、教室にとどまるしかなかった。


 テロテロリン♪

 そんなときに、マジタブから変わった音が鳴る。

 また勧誘メッセージかなにかだろう、どうでもいい、とうつむいていると、ダント氏が肩を叩いた。


「……夜見さん」

「すみませんダントさん、結論を出すはもう少しだけ――」

「僕たちが落選した真の理由が分かったモルよ」

「どういう、ことですか?」


 見せてくれたメッセージには、こう書かれていた。


――――――――――――――――――――


 支援者S.G

 拝啓、魔法少女プリティコスモスへ

 

 このメッセージは自動送信だ。

 しかし、これを見ているということは、

 君はイベントに参加できなかったのだろう。


 理由は一つ。

 ダークライの構成員が、運営委員会に潜伏

 しているからだ。

 君を排除したのも、争奪戦初日という大舞台で、

 重大な発表がしたいからだ。


 そこで君に伝えたいことがある。

 姉妹の誓いを利用しろ。

 そうすれば君は、問答無用でイベントに参加できる。

 敵の思惑に負けるな。野望を打ち砕け。


――――――――――――――――――――


「これは――」

「あ、お姉さま! こんなところに居たんですねー!」

「「!」」


 声がしたので顔を向ける。

 そこには妹のヒトミちゃんが、満面の笑みで立っていた。


「私もフロイライン・ダブルクロスに参加できるんですよ! せっかくですし、一緒に行きましょう! ね!」


 答える前に目をつむる。

 私が争奪戦に参加できなかったのは、他の誰でもない、ダークライが原因なのだと、謎の人物はメッセージを送ってきた。

 果たして信じるべきかどうか。


「……いや」


 信じられなくても、信じて行動した方がいい。

 いままでずっと周囲に振り回されたまま、やられっぱなしで、自分で解決できたとも思えないことばかりで、自信を失いそうなのだから。

 それになにより――


「私も争奪戦を楽しみたい」

「??? ――あ、楽しみですよね! 分かります!」

「行きましょうかヒトミちゃん。ダントさん。相手の思い通りになんてさせません」

「オッケーモル!」

「はいお姉さま!」


 誰かに勝つためには頑張れないとしても。

 他のみんなを守るためなら、私は全力を振るうことが出来るのだ。

 私は、二人を引き連れて梢千代市へと向かった。

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