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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第二部 一章 シャインジュエル争奪戦・デビュー編

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第53話 おじさん、清掃作業に駆り出される

 三限目が終わった頃、マジタブに生徒会広報部からの臨時ニュースが入った。

 紺陣営の高等部三年生(トップスリー)が、下級生に対する略取・誘拐罪により無期限謹慎処分を言い渡され、活動ができなくなったことで、組織が瓦解したらしい。


 開放された多数の下級生たちは強い洗脳状態にあったため、郊外にあるカウンセリング施設に搬送されたようだ。学校への復帰には数ヶ月かかる見込み、とのこと。

 緑、赤の両陣営にも同様の事象が認められたため、生徒会風紀部はそれらについても厳しく追求していく、と最後に書かれていた。


 苦情を申し入れてからのあまりにも早い決着に、私は笑うしかなかった。


「もう生徒会だけでいいんじゃないかな」

「先輩たちの卒業後が大変モルから、夜見さんたちの担任になったんだモルよ」

「私の生徒会入りは確定事項だった……?」


 ニュースを見たらしき中等部生たちは、廊下に出てざわざわと不安がり、魔法少女がそんなことをするなんて、先輩って怖いね、と戸惑いを隠せないようだ。

 先生や専属聖獣たちはというと、陣営加入に関する注意事項が書かれたプリントを配布し、「先輩の、上からの指示だからと従うのではなく、相手の意見を聞いた上で、魔法少女としての正しさに従って行動することが大切なんだよ」と優しく諭すことで、生徒たちの不安を、全ての魔法少女が持つべき「愛と平和(ラブアンドピース)の使命」へと昇華していった。

 しばらく経てば、学院内でも自浄作用が働くようになり、マイナスイメージも払拭されることだろう。


 そんな出来事のあと、私は、学校裏手のレクリエーションセンターにて、生徒会主導の清掃作業に参加している。主に空き缶拾い。

 中等部一年組は四限目から特別授業になるから、と赤城先輩に呼び出されたのだ。


「赤城先輩ー」

「どしたの夜見ちゃん?」

「ふと気になったんですけど、私を紫以外の陣営に入れようとしていた本当の理由ってなんですか?」

「まあ、夜見ちゃんの将来に向けたコネ作りだよね。各陣営に入れて内部の問題解決させれば、中等部生徒会の発言力を高められるかな、って打算こみこみで指示してました」

「え、中等部にも生徒会があるんですか?」

「もちろんあるよ。役員が紺陣営で埋まってたから機能してなかったけど」

「なるほど……」


 高等部生徒会に私たち中等部の内情が伝わっていなかったのはそれが原因か。


「とすると、あのくせ毛の白衣先輩は、入学初日から夜見さんを生徒会に入れようとしていたってことモル? めちゃくちゃモル」

「ね。いきなり生徒会入りしても、紺陣営の先輩にこき使われる未来しか見えないです」

「真実を知っている赤城先輩は、答えるわけにはいかないのでとりあえず「私も同感」と答えた」

「何かあるって言ってますよねそれ」

「あ、聞きたい? 紺陣営が実質滅んだ今がチャンスだよ」


 ダント氏と顔を見合わせる。


「聞くモル?」

「悪影響とかありますか?」

「辛い話だったら相手に同情するかもモル。内容によっては夜見さんの心が折れるかもしれないモル」

「……先輩、聞くのはやめておきます」

「そう? 分かった」


 赤城先輩は作業に戻る。

 しかし思いついたようにピタ、と停止し、私の耳元に寄ってきた。


「な、なんですか。赤城先輩」

「紺陣営は、高等部二年までは信用出来るよ」

「え?」

「高等部三年は信じちゃだめ。敵にエモーショナルエネルギーを横流ししてたから」

「ええええ!?」


 いきなりの爆弾発言に叫ぶしかない。


「そ、それを教えて、私にどうしろと!?」

「だって、こういう重大ニュースは一人で抱えてると辛くなるもん?」

「もんじゃないですよ! 私、今、心拍数やばいですよ!?」

「まあまあ、理由はあって。今日の午後からシャインジュエル争奪戦が始まるじゃん? もしかしたら接触してくるかもしれないから、注意してね、ってこと」

「あ……ああ、なるほど」


 スッと納得できる理由だった。気をつけよう。


「よーし、そろそろ私にも、担任の先生らしいことが出来る日が来たかな?」

「今日まで出来なかったんですか?」

「私、赤城(めぐみ)ちゃん。高等部二年生。オートテレポートなんて便利な固有魔法を持っているせいで、社会の闇という闇は嫌になるほど見ています」

「は、はあ」

「ちなみに殺害予告数なら会長超える逸材ね」

「怖っ」

「でも、私の守護精霊こと斬鬼丸さんが敵対企業の殲滅を、生徒会風紀部が女学院の粛正を行ってくれたおかげで、ついに言論の自由を手に入れました。やったね」

「ちょっと待って下さい、情報の洪水で頭が混乱します。守護精霊とは」

「勝手に喋ってるだけだから流してくれてもいいよ? ちなみに守護精霊っていうのは、「人」という概念がなかった光の国ソレイユにたどり着いた最初の人為現象の一種で、元はというと、この世界とは異なるファンタジーな世界の剣技と剣士への信仰を――」


 情報が、情報が多い!


「――ま、待って下さい! 斬鬼丸さんは精霊ですよね!?」

「うん」

「今までの情報からすると、斬鬼丸さんは赤城先輩の聖獣、ということですか!?」

「ううん。私の聖獣は子犬の黒柴ちゃんなんだけど、人類を滅ぼしたい欲が強いタイプだから、契約してからいままでずっと放置プレイされてて、それを見かねた「灰の魔法少女」さんがサポート役として斬鬼丸さんを派遣してくれた、って感じ」


 突けば突くほど出てくる! 何だこの人!


「さ、最後に一つだけ! その黒い子犬の聖獣さんは敵なんですか!?」

「梢千代市の公園で人に化けてシャインジュエルの両替商やってるよ。人類滅ぼしたい欲はあるけどコツコツ一人でやるのが好きなタイプでさ、若い頃なら国を滅ぼすのに一分もかからなったんだけどなー、でももう年だしなー、次に本気を出すのは千年後かなー、ってコークハイ飲みながら言ってた」

「それもうただのくたびれたおじさん!」


 私が「ここまで引っ張ってそれはないでしょうよ!」と思わず叫んだことで、赤城先輩は爆笑した。


「あっははは、夜見ちゃんホント面白い。ちなみに今の話は全部ウソね」

「っ、つ、作り話……っ」


 私はショックで膝から崩れ落ちる。

 エモ力が減少するのも肌身で感じる。

 信じていた人に裏切られるのは魔法少女メンタルにかなり響くようだ。

 赤城先輩は少しだけ焦った様子で私に駆け寄った。


「ああ、ごめん。ウソって言うのがウソ。私はただ、魔法「緑」で発言の真偽を見定める話に繋げたかっただけなの。マジでごめん。やりすぎました」

「どうしてそんなことするんですか……」

「夜見ちゃんを見てるとさ、こう、若い頃の生徒会長と同じ雰囲気するから、構って欲しくなるの。とりあえずラブホテルでお泊まり会しない?」

「とりあえず生ビールみたいな感じでホテルに誘わないで下さい……!」


 しかし皮肉なことに、エモーショナルエネルギーは性欲からも生まれる。

 私はみるみるうちに元気になっていく自分が恥ずかしくなり、しばらくその場から動けなかった。赤城先輩は「私のことそういう目で見てくれるんだ。えっちだね」などと耳元でのたまうので、なおさら。


「すぅ――ふぅ―――……」


 四限目を知らせるチャイムが鳴り、スッと立ち上がって大きく深呼吸した私は、ダント氏に目配せした。


「……どうして僕を見るモル?」

「性欲を消す方法ってありませんか」

「無茶なことを言わないで欲しいモル……人間から欲が消せれば、怪人ボンノーンやダークライなんて悪は生まれないモル」

「まあたしかに」

「だからアドバイスするとすれば、性欲はほどほどに発散した方がいいモル」

「なんてこと言うんですかダントさん!?」

「夜見ちゃんの性欲は私がいくらでも受け止めるから任せて」

「赤城先輩も! もうっ、私はそんなにスケベじゃないです! ちょっとドキドキしただけですから!」

「あはははは、夜見ちゃんの嘘つき。同性への愛情や性欲なんてね、頭の固い人たちが勝手に否定してるだけだよ。その同調圧力を受けてみんな抑制してるだけ」


 先輩の発言に少しだけどきりとする。

 良くないものだと自覚するところがあったのだ。


「……でも、私は」

「大丈夫。夜見ちゃんが養子の立場だからと我慢したり、辛く感じることが多いのは、私もよく分かってるつもり。だから、困ったらいつでも相談しに来なさい。一応、担任ですので」

「赤城先輩……」


 少しだけ恥ずかしかったのか、顔を赤くした赤城先輩は、「ここらへん終わったら魔法「緑」の特訓を始めるからね」とそっぽを向いて清掃作業に戻り始める。

 私はその背中に、なんとなく心を許せた気がした。

設定のど忘れで終盤ガバってたので修正しました。

この時間まで気づかなくて申し訳ない。

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