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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第二部 一章 シャインジュエル争奪戦・デビュー編

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第52話 おじさん、生徒会に直談判する

「もう、夜見のバカ! 自己犠牲人間! 頑張り屋! どうしてもっと早く相談してくれなかったのよーっ!」

「あはは、その、いつ切り出せばいいか分からなかったので」

「いや笑い事やあらへんし! 無理しすぎやし、ほんまに!」


 いちごちゃんには背後から強く抱きしめられ、おさげちゃんも顔は怒っているものの、目尻に涙を浮かべていて、本気で心配してくれているようだ。頬を優しくむにむにされる。


「なんで、頬を、むにむに?」

「怒りたいのと優しくしたい気持ちで心が複雑なんやっ!」

「なるほど?」


 ちょっと分からない。かなり複雑な心境なんだろう。


「ほどほどにしてくださいね」

「……やっぱいやや。ちょっといじめる。怒った」

「そんなぁ」


 ひたすらむにむにされる。

 おさげちゃんは多分、嗜虐心(しぎゃくしん)が強いというか、好きな人に意地悪したくなる気持ちをどうしても抑えられない子なんだろう。

 それさえ分かっていれば可愛いものなのだけど、いちごちゃんと出会った当時はおそらく小学生。彼女に嫌われ、悪評が広まるのも当然か。

 あまり他の子に向かないよう、私が受け止めていかないとな。


「夜見はん。今はしゃあないとか、受け止めなあかん、とか考えたやろ?」

「? まあ否定はしませんけど、特に困ってないですし」

「伝わらんなあ、もう! 嫌やったら耐えたらあかんでって、うちはな!?」

「でも、そういう意地悪なところが素直じゃなくて可愛いなあ、と私は思うので」

「~~っ!」


 おさげちゃんは真っ赤になって顔を背けてしまった。

 お返しに、と彼女の頭を撫でると、スンスンと泣き出してしまう。

 こ、困った……


「夜見さんが女の子を泣かせたモル」

「合ってますけどダントさん、その言い方はちょっと」

「……待って、ください。ということは」

「どうしましたミロちゃん?」


 そこで、いままで静かだったミロちゃんが何かに気づいたようだ。

 ハッとして、ピンと人差し指を立てた。


「生徒会に直談判しに行きましょう夜見さん!」

「直談判」

「夜見さんに起こった一連の不幸や、入学式の翌日に私たち中等部一年組が、どういう経緯で高等部校舎地下の閉鎖されたアクアラインまで運び込まれたか伝えれば、きっと力になってくれます!」

「ああ、そう言えば!」


 なんとなくで流されていたが、彼女たちも私と同じ陣営争いの被害者なのだ。

 みんなで苦情を言えば、生徒会も事態の収集に動いてくれるだろうし、各陣営の非人道的な行動も抑制出来るかもしれない。


「じゃあ早速――」


 キーンコーンカーンコーン――

 活動方針が決まったタイミングでチャイムが鳴り、中庭の生徒たちは教室に戻っていく。みんなで話し合ったところ、直談判は次の休み時間に行うと決まった。

 ではお先に、と教室に向かったサンデーちゃんが、ふと思い出したように戻ってきて私に忠告した。


「夜見さん、さきほどまでの会話は他言してはいけませんわよ」

「はい。それはもちろん」

「行動するのは次の休み時間。よろしくて?」

「了解です」


 返事を聞いたサンデーちゃんは颯爽と教室へと戻っていった。


「あー、希望が見えてわくわくします」

「今は我慢モルよ。……あ、そうモル! 僕も言い忘れていたことがあったモル! 第三ボタンのことモルけど――」

「はいはい?」


 続いてダント氏から伝えられたのは、かなり致命的な弱点だった。

 なんでも固有魔法の媒体となるコア――胸部ブローチの宝石がどういうわけか紛失したとかで、ギフテッドアクセルの出力が大幅に低下しているらしい。

 最低でも十分の一になっているとか。


「やばいこと多すぎですね今日……」

「控えめに言わなくても厄日モルけど、あとで絶対に好転するモル! ピンチはチャンスモル! だからまずは二限目を乗り越えるモル! ファイトー!」

「おーっ!」

 

 そうだ。くよくよしていても仕方ない。今は授業に意識を向けるべき。

 ダント氏に勇気を貰った私は、平和な学生生活に戻れるかもしれないという期待を胸に、教室へと戻った。


 二限目は国語の授業。先生はおっとり系でウィスパーボイス持ち。

 バイノーラル音声作品のごとき柔らかな朗読には耐えられない生徒が多く、寝落ちさせまいと頑張る聖獣たちの声と、先生の謝罪が飛び交うカオスな授業となった。



 二限目が終わって休憩時間。中等部一年組は再び中庭に集合する。

 最初に言葉を漏らしたのはサンデーちゃんだった。


「国語の先生は夢魔の血を引いていますわね」

「そうなんですか?」

「賢人て呼ばれてる先生はな、魔に属する者の血が流れている人が多いんやで」

「へえー……」


 驚きの新事実だ。

 校長先生が自らを不老不死だと言っていたのは、その血が原因なのだろうか。


「それよりおさげちゃん、もう大丈夫ですか? 前の休み時間は泣かせちゃってごめんなさい」

「勝手に怒って勝手に泣いただけやし、気にせんでええて、もうぅ……」

「ちょっとー、まだいちゃついてる暇なんてないわよー? 私たち、また誘拐されてもおかしくないんでしょー?」


 少しだけむくれているいちごちゃんが、割り込むように話を打ち切り、サンデーちゃんに目配せを行う。サンデーちゃんも頷いた。


「では皆さま、高等部の生徒会に向かいますわよ。覚悟の準備はよろしくて?」

『もちろん!』


 みんな揃って私の横に並び、マジカルステッキを取り出す。

 私だけ首を傾げた。


「なんの覚悟ですか?」

「妨害工作を受ける覚悟モルよ」

「ああー!」


 たしかに、生徒会が各陣営の行動抑制に向けて動くとなれば、各陣営がそれを防ごうと躍起になる可能性はある。呑気に向かえるわけではないのだ。

 私は頬を叩いて気合いを込め、マジカルステッキを手に、大きく叫んだ。


「――魔法少女プリティコスモス、頑張ります!」

「よろしい! 出陣ですわ!」


 目指すは四連校舎の最奥、最上階の生徒会室。

 私たち中等部一年組は目的地に向かって駆け出した。


 ――しかし、特段と妨害されることはなく、生徒会室に着く。


「妨害されませんでしたね?」

「おかしいですわね、何かあると思ったんですけれど」


 ギィ……――

 全員で戸惑っていると、生徒会室の扉が静かに開らかれた。

 顔を覗かせたのは副会長。

 とても険しい顔で私を手招きしたので、怯えながら近くに寄る。


「ど、どうされました?」

「お前たちの行動を、わずかでも妨害されたか?」


 後ろを向いて一年組に目配せするも、全員が否定した。


「いいえ、特にないみたいです」

「また三つ巴で潰しあったなバカどもめ……まあいい、みんな中に入れ。話を聞く」


 副会長は全員を生徒会室の中に招き入れる。

 中には、生徒会長と共に紅茶を飲んでいるウキウキ気分の赤城先輩が居て、生徒会長は私たちを見るやいなや、安心したような笑みを浮かべた。


「みんな無事でなによりだ。早速だが、君たちの要件を聞こう」


 中等部一年組、全員で顔を見合わせる。

 とにかく事情を話すことにしよう、と結論を出し、最初の苦情案件として、全員が私を推薦した。


「あの、夜見さん、最初にお願いします」

「わたくしたち、ちょっと緊張していますの」

「そういうことなら分かりました。会長、実は――」


 入学初日、翌日に起こった私の誘拐事件と、その裏付けとなる中等部一年組全員の話を聞いた会長は、笑顔でティーカップを握りつぶした。


「……なるほど。年端も行かぬ中等部の一年生に。そんなことをしたのか。聖ソレイユ女学院の魔法少女が」

「会長、あの、あの、手が血まみれに、なって」

「なに、君たちが受けた苦痛と孤独に比べれば、この程度大した傷ではない」

「ひっ」


 笑顔ながらも、あまりにも怒りに満ちた瞳に恐怖し、私たち中等部組は押し黙る。

 会長がすっと立ち上がった時にはすでに、副会長と赤城先輩が足元で跪いていた。


「副会長、赤城。早急に風紀委員を集めろ」

「ハッ」

「了解です」

粛正(しゅくせい)……もとい、風紀を正すための不正行為取締り強化月間を発令する。民主主義だから、最善策だからと見逃しはしない。私の膝下で悪事を働いた罪、必ず贖ってもらう」


 なんだろう、おそらくだけど、私たちは生きやすくはなるんだろうな、とは思った。しばらくして黒色の腕章を付けた魔法少女が集まり始め、中等部一年組は会長の指示を受けた彼女たちに警護されながら、中等部校舎手前まで送り届けられる。


「一年生ちゃんお疲れ様ー! もう安心してくれて大丈夫だからねー」

「あ、は、はい……」


 入学翌日の友人救出作戦に参加した際に、愛について熱弁してくれた赤陣営の先輩が黒腕章持ちだったとは驚きだ。


「腕章って、複数所持出来るものなんですかね」

「なんとなくだけど、知らない方が幸せだと僕は思うモル。ともかく、今は教室に帰って、三限目の授業を受けようモル」

「そうですね。うん。自業自得という言葉もありますし」


 紺陣営も緑陣営も、知らないふりを続けた赤陣営も、これで多少は懲りるだろう。

 今は粛々と、中間テストやシャインジュエル争奪戦に向けて努力だ。

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