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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第二部 一章 シャインジュエル争奪戦・デビュー編

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第50話 おじさん、妹が出来る

 悩みに悩む、メカクレちゃんからの姉妹の誓い。

 だから私はとっさに答えを出した。


「あのメカクレちゃん」

「はい、お姉さま!」

「とりあえず戦ったあとで色々と考えませんか」

「それはどういう……?」

「授業中ですし、その方がいいと思ったので」


 なぜなら一限目が終わりに近いから。

 一戦交えたあとなら、時間に余裕もあるし、じっくり考えられると思ったのだ。

 しかしメカクレちゃんが出した結論は、私とは全くの別物だった。


「……盲点でした。真の姉妹関係を結ぶには、お姉さまへの忠義を示すと同時に、その傍らに立ち、剣となり盾となるだけの実力も示さなければならない。私はただ、お姉さまと話したいばかりに、その証明を怠った」

「え、はい」

「だからここで示します。最弱の私でも貴方に届き得る刃だということを!」

「――!?」


 立ち上がったメカクレちゃんはウレタンソードを逆手に構える。

 私はほぼ反射的にデラックスカリバーを正眼に構えた。

 彼女から感情の動きが消え、立ち姿から闇に潜む者の気配――私の知るところで言う忍者の雰囲気を出し始めたので、エモーショナルセンスが危険信号を発したのだ。


「あ、あとで話したかっただけなのになぁ」

「決闘の授業モルから自然な流れだと思うモル」

「それはそうですけど、ね?」

「どちらにしても終わってから話し合えばいいモルよ」

「たしかに」

「夜見さん、相手は全力で勝ちに来るモル。さっきまでのように油断していたら失望されるモルよ! 気合い入れるモル!」

「分かりました!」


 相手の想いに答えるため、私も本気で迎え撃つと決めた。

 手を抜けば失望されるとあっては負けられない。

 だからこそ名乗りを上げる。正々堂々と戦う意志を示すべく。


「私は夜見ライナです。夜見と呼ばれています。メカクレちゃん、貴方のお名前は」

「一年D組。ヒトミと呼ばれています。紫の瞳と学年最低値の130エモに由来します」

「分かりました。――ヒトミちゃん。対戦よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。夜見お姉さま」


 ヒトミちゃんか。

 なるほど覚えた。忘れない。


「「デュエル!」」


 五枚の魔法障壁(シールド)が召喚され、戦闘が始まる。

 先に動いたのはヒトミ。リーチの不利、ウレタンソードの取り回しやすさを活かすために前に飛び出した。接近戦に持ち込むつもりなのだろう。


 私は特大剣を大きく振るって、相手を近づけさせない――選択もあるが。


「ダントさんっ」

「横綱相撲モルよ!」

「はい!」


 相手がどれだけ熟練の剣客だろうと、今は私が絶対強者(お姉さま)

 真正面から受けては返す、堂々とした勝負が求められているのだ。

 まずは余裕を見せつつも、攻め方が安易だと指摘するため、手首のスナップを利用し下段から切り上げる。

 その一太刀を、ヒトミちゃんは横ステップで回避。

 私の眼前まで迫ると、背後に隠した逆手剣を勢いよく振り抜いた。


 シュッ――ガッ!

「……!」

 シールドを一度に二枚持っていってもおかしくない完璧な太刀筋。

 しかし私は、デラックスセイバーを軽く横に動かしただけで受け止めて見せた。

 驚きの表情を浮かべるヒトミちゃんに、私は微笑みを返す。


「佐飛流抜刀術、壱の型『鳴神』。出が早く隙も少ない良い技ですよね。こうしてガード出来るようになるまで一万回も模擬戦させられました」

「っ、流石はお姉さまです」

「ありがとうございます。――それじゃあ次はこちらから」


 正面シールドを狙った縦の一撃、全損狙いの横一閃、と立て続けに繰り出し、攻撃するたびに後ろに下がるヒトミちゃんを追い立てていく。

 最後に放った三連撃を受け止めた彼女は、悔しそうな顔で笑った。

「やりますねお姉さま。これならどうですか!」

 ヒトミちゃんはダブルブレイク狙いの返し斬りをバックジャンプして避けつつ、ウレタンソードを投擲してきた。

 それは私の胸元――前方のシールドめがけて真っ直ぐ飛んでくる。


「ッ、おっと」


 私はそれを左手で掴んで止め――


「――フッ」


 ――その瞬間を狙って、ヒトミちゃんが私に飛び掛ってきた。

 ウレタンソードを投げたのは、私を怯ませるためのフェイントだったらしい。


「ハァッ!」


 私は右手に持ったデラックスセイバーを、左袈裟に叩きつけた。

 容易く三枚のシールドを奪い去ったその一撃は、残る二枚のうち一つも砕き、最後の一枚へと迫る。

 だがそれよりも一瞬だけ速く、ヒトミちゃんは私の懐に入り込んでいた。


「くぅ……!」


 慌てて後方へ飛びのくが遅い。

 彼女の手が私の胸部に触れる。


「忍法、影縫い!」

「うあっ!?」


 ヒトミちゃんの手から伸びる黒い糸が私の全身に絡みつき、そのまま地面に固定され、動きが封じられた。

 ほどほどに容赦なく締め付けてくる糸により、手からデラックスカリバーがこぼれ落ちる。

 ヒトミちゃんは興奮を収めるように、大きく深呼吸をしてから、小さく喜んだ。


「や、やった!」

『うわ、すご……!』

『ウソでしょ!?』

『D組の子が勝ったぞおおおお!!』


 いつの間にかギャラリーになっていた生徒たちが湧く。


「これが噂の忍法、影縫いモルか」

「あはは、困りました」

「抜け出せるモル?」

「一回だけ出来ましたけど……うん、今は相手の出方次第です」

「ダメってことモルね」


抜け出そうともがくたびに、乙女の柔肌に糸が絡みつき、服が絞られて自慢のボディラインが浮き彫りになる。

動けば動くほど、逃げ出そうとするほど強固に相手を縛る忍術。それが『影縫い』の真価だ。

私はさてどうしたものか、とヒトミちゃんを見る。


「~~~~~~っ」


そして案の定というか、ヒトミちゃんは真っ赤な顔でうつむいていた。

無理もない。今や体育館にいる全生徒が私達の戦いを見ている。

これだけ注目されれば、誰だって恥ずかしく――――


『ねえ、夜見って子、あれで同い年とかやばくない?』

『分かる、スタイル良すぎ』

『縛られてる姿がえっちすぎて頭クラクラする……』


「……えっと」

「端的に言うと夜見さんが悪いみたいモル」

「私が原因」


 どうやらヒトミちゃんが赤面しているのは、注目されて恥ずかしいからというわけではなく、私が性的すぎるのが原因らしい。

 困ったな、私は普通に戦っているだけなんだけど。


「あの、ヒトミちゃん。そろそろ介錯をお願いできますか?」

「あわあははあひゃいっ」


 ぷるぷると震えながら私に近づいてきた彼女は、地面に落ちた私のデラックスカリバーを持つと、ザンッ、と一閃。

 私のシールドを全破壊し、無事に勝利の栄光――私の妹の座を手にした。

 同時に、影縫いも解除される。ようやく自由だ。


「負けちゃったモルね」

「そうですね」


 心の中で喪失感が強まり、私は悔しくて、左手で受け止めたままのウレタンソードを軽く握りしめた。

 ……持っていたのに、身体が動かせなかった。

 ダント氏は全てを察したような顔で「夜見さんはまだまだ強くなれるってことモル。顔を上げるモルよ」と言う。私は前を向いた。


『おつかれさまー!』

『二人とも凄かったよー!』


 拍手と歓声が鳴り止まない体育館の中、目の前に跪いたヒトミちゃんは、静かに私の右手を持ち上げる。


「……夜見お姉さま。これで、証明出来ましたよね。強さや凄さはエモ値では決まらない。私みたいな子でも貴方の側に立てるって」

「はい。みんなにも伝わったと思います。エモ値が全てじゃない、大事なのは本人の実力だって。ああ、でも――」


 後出しなのは分かっている。

 けど、負けたままじゃ悔しいから、言った。


「妹にするかどうかは、待ってもらってもいいですか?」

「……流石は愛しのお姉さまです。でも、今回は私の勝ちです」


 ちゅっ、と口づけの音がする。

 私の手に、ヒトミちゃんが敬愛のキスをしたのだ。

 同時に終鈴のチャイムが鳴り響いたことで、体育館は熱狂の渦に包まれた。

 そこまでは良かったが、あまりの熱気と興奮、さらには体育終わりの疲労でバタバタと女学生たちが倒れ始め、第一体育館周辺は一時騒然とした。

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