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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第二部 一章 シャインジュエル争奪戦・デビュー編

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第49話 おじさん、姉妹の誓いを申し込まれる

「みんなよく頑張りました! お疲れ様です! 授業終了までまだ時間があるので、あともう一戦だけマッチングしますが、その前に全員にご褒美を配りますね!」


 先生は生徒の聖獣たちを呼んで、飴玉を配布した。

 ダント氏が貰ってきたのはピーチ型のキャンディだった。

 ビー玉くらいの大きさだ。


「それはなんですか?」

「これがシャインジュエルだモル」

「おお、これが」

「サイズ等級はCで、エモ力換算すると100モル。食べるモル?」

「いえ、大事に取っておきましょう」

「分かったモル。でもピンチになったら僕の判断で食べてもらうモルよ」

「了解しました」


 どうやらシャインジュエルはフルーツの形をしているらしい。

 私以外の子は食べる選択肢を選んだようで、口の中でコロコロと転がしていた。


「ああ、ダントさん。食べるとどうなるんですか?」

「エモ力の上限値がアップするモル」

「回復はしないんですか?」

「副次作用として上昇値分のエモ力・体力が回復するモル」

「なるほど、即時回復としても使える、と」

『はーい! みんなに行き渡ったみたいなので、三戦目を始めます! 同じ番号の子を探してください!』


 シャインジュエルには多様な使い方があると分かったところで、デラックスセイバーの底面を見た。最後は二番だ。


「ミロちゃん、サンデーちゃん。番号は」

「ひぇ、わた、たしは、一、です」

「わたくしは三番ですの」


 ということは、全員で遠征することになるようだ。

 サンデーちゃんはため息をついた。


「はあ、最後は夜見さんかミロさんのどちらかと戦いたかったのですけれど、次の機会までは我慢して差し上げますわ」

「あはは、サンデーちゃんってかなり武闘派ですよね」

「……気付いてないのかしら? 夜見さん。貴方、わたくしと同類ですわよ」

「そ、そうですかね?」


 ミロちゃんが必死にコクコクと頷いているので、私は思っているよりも武闘派だったらしい。


「ダントさん私って武闘派なんですか?」

「脳筋信仰が強いのは事実モルね」

「そう言われればそう――ですけど、話し合いも重視してると思うんですが」

「なら夜見さん、一つだけ質問しますわ。怪人が人を襲っていたらどうしますの?」

「襲われている人を助けます」

「怪人は倒しますわよね?」

「……」


 少し考えた末に答えた。


「まあ、話が通じないなら」

「武闘派ですわね」

「違うモル。脳筋なだけモル。ちゃんと会話を試みているモル」

「あら、調和派でもあるのかしら? でも……その割には戦闘センスが良すぎますし」

『はーいそこのZ組の二人! 急がないと時間超過になっちゃうから、早く番号の子とペアになってくださーい!』

「「!」」


 気がつけば、私とサンデーちゃんだけが準備できていない状態だった。

 ミロちゃんはいつの間にか抜け出して、次の勝負に入っていた。


「ミロちゃんはちゃっかりしてるなあ」

「あとで絞めますわ」

「はは……仲良くしましょうね。いや、本当に……」


 そうしてくれないと、私の胃が壊れる。

 いちごちゃんとおさげちゃんはまだ止められるレベルだが、ミロちゃんやサンデーちゃんクラスの子が本気で仲違いしたとなると、もう私だけでは対処出来ないからだ。


「では夜見さん、また次の機会に」

「ああ、はい。念のために言いますけど、ホントに絞めちゃだめですからね?」

「……ジョークですわよ、ただのジョーク。でも記憶には留めておきますわ」


 なら良いんだけど。

 ちらりとサンデーちゃんの聖獣――ジャンガリアンハムスターさんを見たら、私に向かってぐっと親指を立てていた。


「ダントさん、サンデーちゃんの聖獣さんが私にサムズアップを」

「あとは任せろってことモル。ジャンガリアンハムスターのジャンさんは、僕よりも職歴が長い聖獣さんなんだモル。だから安心して。夜見さん」

「ええ、分かりました」


 ダント氏がそう言うなら大丈夫そうだ。

 サンデーちゃんと別れたあとは二番の子を探した。

 二番は一人だけ余っていて、それは授業説明中に話しかけた一年D組の女の子。

 黒髪目隠れな子で、よく見れば瞳の色が綺麗な紫だった。


「ひぇ、あぅ」

「さっきぶりですね。説明の時は、あなたも巻き込んでしまってごめんなさい」

「だだだだだ」

「大丈夫です、落ち着いて下さい。とりあえず深呼吸です」

「ひひゃい。すー、ふー」


 この子もマルちゃんと同じように、私のことを苦手に思っているのかな、コンプレックスになっているのかも、と考えていると、目の前の子は突然、片膝を付き、剣を地面に置いて頭を垂れた。


「お姉さまっ!」

「え」

「私はこれから貴方を心から慕い申し上げると共に、その手足となって動くことを、光の国ソレイユの名の下に誓います。ですのでどうか、その麗しき手に敬愛のキスをさせて下さい!」

「え、え。……え?」


 いきなり忠誠を誓う目隠れちゃん。戸惑う私。

 それを見た周囲の子たちは「あ、あれってまさか」「姉妹の誓いよ」「すご、初めて見た……!」とざわついていた。


「えっと、ダントさん。どうしましょう」

「ぼ、僕も戸惑っているモル……あの、黒髪メカクレの魔法少女さん」

「はい、なんでしょうか」

「何が目的モル? どうして、姉妹の誓いを?」

「それは――愛ゆえに、です。私なんかに優しくしてくれる貴方に報いるためには、その妹となり忠誠を誓う以外に知りません」

「なるほどモル。他に理由はあるモル?」

「……というより、もう、貴方が上で私が下という関係をきっちり決めてしまわないと、緊張で意識が保てなくて、まともに話せないんです。どうか受け入れてくださいませ」

「とのことモル。夜見さん、どうするモル?」

「え、ええええ~~――――……!?」


 これは、また、大変なことになってしまったなぁ……。

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