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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第二部 一章 シャインジュエル争奪戦・デビュー編

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第43話 おじさん、生徒会に呼び出される

 わかば幼稚園に行った翌日。

 玄関で靴を履いていると、後ろから来た遙華ちゃんがハグをしてくれた。


「らいなおねーちゃんあいがとう。だいすき」

「私もだいすきです。立派なレディになってくださいね」

「うん!」


 とても嬉しい。

 遙華ちゃんや、幼稚園のみんなと仲良くなれて。

 やはり魔法少女は最高だと、登校中に改めて確信した。


「んふふ」

「いつにも増してエモ力が高まっているモルね」

「嬉しいサプライズがありましたから。えへへ」

「夜見さんが幸せそうでなによりモル。けど、そろそろ人通りの多いところに出るモルよ」

「あ、はいっ」


 慌てて顔を引き締める。

 こんなに緩んだ顔は大ぴらには見せられない。

 気をつけよう、と市内に出たとたん、一人の女学生に出くわした。


「……! あの、おはようございます」

「おはようございます」


 丸めがねをかけた緑髪の子だ。

 腕章をつけていないことから、上級生ではないとは分かった。

 印象的なのが、右目の泣きぼくろだろうか。


「夜見さん、ですよね」

「そうですよ。どうされました?」

「あの……いえ、やっぱり何でもないですっ」

「あ、ちょっと」


 しかし何か話をするでもなく、相手は逃げてしまった。


「何だったんだろう?」

「ファンの人モルかも」

「なのかな」


 次はちゃんと話せたらいいな、とバス停に向かう。


 ピロン♪

「モル? 夜見さん、夜見さん」

「どうしました?」

「マジタブにメッセージが来てるモル。確認してほしいモル」

「メッセージ?」


 マジタブを確認すると、副会長からだった。

 内容は『数ヶ月前の事件について』とのこと。

 調査レポートがまとまったので、内容を確認して欲しいようだ。


「なるほど、じゃあ学校についたら」

「生徒会室に直行モル」

「分かりました。今日は忙しいですね」

「もっと忙しくなるかもモルよ?」

「あはは……それはまたどうして?」

「中間テストが近いからモル」

「ああ! テスト!」


 そう言えばもう11月だった。

 聖ソレイユ女学院の一学期は9月1日に始まり、12月末日で終わる。

 なので中間テストは11月の中旬、期末テストの魔法少女試験は12月下旬と、学期後半はなかなかに過密なスケジュールなのだ。


「ちゃんと勉強しなきゃ、ですね」

「そうモルね。夜見さんの人気度は十分モルから、知力と魔法能力も高めて三位一体の黄金比を目指すモル」

「ああ、魔法少女ランキングの評価グラフ」

「ちなみにモルけど、評価値がオールD以上かつ、正三角形グラフを持つ魔法少女は『トライフォース』と呼ばれて恐れられているモル」

「トライフォース」


 どこかで聞いたことのあるネーミングだ。


「やっぱり普通の魔法少女と違うんですか?」

「エモ力に十倍以上の差あってもトライフォースの方が強いモル」

「……どこからそんな力が」

「エモ力が起こす奇跡の一つモル。愛と勇気と知恵が完全に調和したとき、魔法少女はいかに強大な悪だろうと滅する「聖なる力」を発揮するんだモル」

「聖なる力?」

「簡単に言うとコスチュームが進化するモル」

「なるほど新フォームのお披露目だからですか」


 たしかにそれは勝てない、と納得した。

 いつものバス停で立ち止まると、遅れておさげちゃんがやって来る。


「ふふっ、おはようさん」

「おはようございます。今日はご機嫌ですね」

「ええ話を聞かせてもろたからな」

「へえ、誰からですか?」

「目の前の二人から」

「あはは」


 どうやらダント氏との会話を聞かれていたらしい。

 ニコニコと笑うおさげちゃんは、それよりも、と話を打ち切った。

 聖ソレイユ女学院に向かう送迎バスが来たのだ。


 乗り込んで、昇降口で向かい合う。

 周囲から感じる熱っぽい視線や、ひそひそ噂話には相変わらず慣れない。

 やっぱり、私とおさげちゃんは恋仲だと思われているのだろうか。


「ふぅ」

 プチッ。

「いきなりため息なんて、何に緊張しているモル?」

「人気者ですけど、心は市民ですからね」

「夜見さんらしいモル」


 それでも緊張感はなくならない。

 困ったように目の前を見ると、真っ赤な顔のおさげちゃんが息を呑んだ。


「? どうしました?」

「よ、夜見はん、たしか今日からやろ?」

「今日から……えっと、何でしたっけ」

「まだ聞いてないん? 今日からシャインジュエル争奪戦が始まるんやで?」

「え? ダントさん知ってました?」

「僕もまだ知らないモル」

「くふふ、ならうちの方が耳が早いってことやな」


 おさげちゃんも、その聖獣も嬉しそうだ。


「これは、一本取られましたねダントさん」

「勝てるなんて思ってないモル。参考のために聞きたいモルけど、その情報はどこから伝わってきたモル?」

「うちな、今は緑陣営におるんよ」

「緑陣営モルか」


 もう自分がどこに所属するか決めたのか。

 判断が早い子だ。


「なるほどモル……詳しいことは」

「うちからは秘密や。ま、先輩か先生にでも聞いたらええんちゃう? ちょうど学校についたし」


 おさげちゃんの言った通り、バスは女学院の正門前に停まった。

 生徒たちがバスを降りていく。私たちも降りた。


「おさげさんの言う通りモルね。夜見さん、先輩か先生に聞こうモル」

「そうですね」

「えっと、夜見はん。あんな?」

「はい」

「し、シャツの第三ボタンのとこ、開いてるで」

「え、ほんとですか!?」


 慌てて確認したところ、シャツの第三ボタンが千切れてなくなっていた。

 隙間からブラジャーがチラリと顔見せしている。

 これは恥ずかしい。手で抑えて隠した。


「あはは、すみませんおさげちゃん。恥ずかしいものをお見せして」

「え、ええよ。……気合の入ったブラなんやな、ピンクの」

「なにか言いました?」

「なな、何も言ってないっ! 夜見はんのアホスケベっ!」

「ええ!? ま、待ってくださいよー!」


 おさげちゃんは逃げるように学内に入った。

 慌てて追いかけるも、相手の姿は女学生たちの中に消えてしまう。

 朝の聖ソレイユ女学院正門前は、驚くほどに生徒が多いのだ。


「うう、ついに友達のおさげちゃんにまで避けられるように……私は悲しい」

「同情するモルけど、まずは生徒会室に向かうモルよ」

「わかりました……」


 それはともかくとして、私は高等部の生徒会室へと向かうこととなった。

 高等部のお姉さま方に挨拶をしつつ、胸元を隠して歩くのは恥ずかしい。


「ダントさん、裁縫道具を持ってませんか? メンテナンス用とかで」

「……夜見さんごめんモル。僕はマジタブ世代だモルから、アナログ式メンテナンスの機材は持ち合わせてないモル」

「いえいえ。ダントさんってデジタルネイティブ世代なんですね」

「そうモルよ。聖獣用デジタル機材の扱いは得意分野だモル。今はインカムとかの周辺機器を買ってくれるとサポートしやすくなって嬉しいモル」

「なるほど、覚えておきます――と、生徒会室ですね」


 到着して早々にドアをノック。


 コンコンコン。

『許可する』

「失礼します!」


 ガチャリ、と開けた先には生徒会長・副会長の二人が待っていた。

 私は静かに入室し、立ったまま姿勢を整える。


「朝早くから呼び出してすまないな夜見。当事者の証言を聞いて――」


 こちらを見た副会長はピタリと硬直し、あっという間に顔を紅潮させると、しずかに目を覆った。


「……先にボタンを縫い付けてからこい、バカモノ」

「すすす、すみません! お急ぎの用事だと思っていたので!」


 直立不動の姿勢を崩して、慌てて胸元を隠す。

 会長はクスリと笑った。


「ふふ、合格だ。夜見くん」

「な、何を言っているのですか会長!?」

「その職務への姿勢を認めたまでだよ。彼女はたしかに魔法少女だ」

「お認めになるのは良いのですが、間が悪すぎます!」

「ははは、否定できない。困ったな」


 赤城先輩と同じように、会長も掴みどころのない人だ。


「ええと、どうしましょうダントさん」

「ここで僕に聞かれても」

「ああもう、話はあとだ。夜見。ボタンを付けてやるから隣の会議準備室に来い」

「は、はい!」


 隣の部屋に繋がる扉を開けた副会長は、私を手招きした。

 私は失礼します、と会長にお辞儀をしたあと、隣の部屋に入室する。

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