第42話 魔法少女プリティコスモス
「よし、これで目標金額に届きました」
「一体なんの話モル?」
11月の初頭、遠井上家の自宅。
私は預金通帳を確認してガッツポーズを決めた。
「なにって、遙華ちゃんたちへのサプライズプレゼントですよ」
「なるほどモル。何をプレゼントするモル?」
「マジカルステッキです」
「え?」
事情を知らないダント氏は困惑していた。
「マジカルステッキでお金で買えるものだったモル?」
「実はですね、校長先生にお願いしたんですよ。わかば幼稚園のみんなのために、変身アイテムを作って欲しいって」
「一体いつの間にそんなことを――あ、ここ最近、報酬にこだわってたのって」
「そういうことです。ダントさんから漏れたら秘密にならないので」
「……これは一本取られたモルね。歴史が変わっても夜見さんは夜見さんだったモル。流石は正義の味方モル」
理解したダント氏は、気が抜けたように机の上でペタンとなった。
「それで、どうしてプレゼントしたかったモル?」
「そもそもの話、私が魔法少女になりたかったのは、幼女先輩と仲良くなりたいという一心でした。人生をやり直したいという欲は、後から湧き出したものなんですよ」
「ほうほう」
「でも今の私は、女学院での学業や、魔法少女として、平和維持のためのパトロールで忙しい。どうしても会えない時間が多いんです。なので考え方を変えました」
「というと?」
「『幼女先輩が魔法少女になれば、私は先輩としていつでも会えるんじゃないか』と。普段の彼女たちは幼稚園で勉強しながらほのぼの暮らしていますが、ひとたびお外に出ると危険がいっぱいなんです。誘拐事件や交通事故に会ったり、それこそ、あの日の高校生みたいな人に脅されるかもしれません。だからこそ、最低限は自己防衛出来る力を持つべきだと、ね」
「正論モルけど、過ぎた力は身を滅ぼすモルよ。彼女たちは稚すぎるモル」
ダント氏の言葉は正しい。
なのでこう返答した。
「はい。なので防御機能に特化して貰いました。魔法・魔弾・武器機能を完全に無くして、代わりに強力なオートシールド機能を発動するように設計して貰いました。さらに周囲の危険を察知したら自動で変身するようになっています」
「……ホントに、僕の知らないところでどうやって話を進めてたモル?」
「十割くらい青メッシュ先輩の協力のおかげです。私はメールで意見交換を重ねてただけなんですよ」
「どこでそんな営業力を」
「社畜時代に営業もやらされていた経験が生きました」
「そう言えば夜見さんってIT系企業に十数年勤めていたベテラン社員だったモル」
忘れていたことを思い出すようにため息を漏らすダント氏。
「でも次からは僕にも話を通して欲しいモル。僕も夜見さんの役にたちたいモル」
「ああ、それはすみません。まだ一人で仕事をこなす癖が抜けてないみたいです」
次からは気をつけます、と言って、宿題を終え、その日は就寝した。
そして事前に有休を貰っていた翌日の朝。
遙華ちゃんが登園したのを見計らって、ダント氏と共に段ボール箱を抱えてわかば幼稚園に乗り込んだ。
「みんなー! おはようございまーす!」
「ええ!? あっ! らいなおねーしゃん!」
「プリティコスモスだぁー!」
変身した私の周りに、わいわいと集まる幼女先輩たち。
私は今回の協力者である幼稚園教諭さんに掛け合い、みんなに教室に集まってもらって、一人づつ名前を呼んで、小さめのマジカルステッキを渡していった。
「マジカルステッキだー」
「変身できうの?」
「うん、できるよ! じゃ、お外で練習しましょうか!」
「「「はーい!」」」
私がその場で実演すると、流石は幼女先輩。
一瞬で方法を理解していた。
「おしてへんしんっ、だね?」
「うん、そうですよ。みんなも分かりましたかー?」
「「「分かったー!」」」
「凄まじいセンス力だモル」
「だから幼女先輩が好きなんですよ。じゃ、行きますよー? ――変身!」
「「「へんしんっ!」」」
みんな上手に、色とりどりのロリータファッションの魔法幼女に変わる。
それからの私は、魔法少女プリティコスモスとして、お外の危険を知らせる正義の味方を演じた。
「おそとにでるときは、このステッキを持っていけばいいの?」
「そういうことっ! みんなも魔法少女として、社会のルールと交通ルールをしっかり守ろうね! 私と一緒に、清く正しく世界の平和を守ろう!」
「「「はーい!」」」
我ながら上手くいったと思う。
そのあとは一緒に国語と算数の勉強をして、お昼休みになったのでお別れする。
「ばいばいプリティコスモスー!」
「またきてねー!」
「うん! また来ますねー!」
遙華ちゃんも大喜びだったので、私もとっても嬉しい気持ちになった。
帰宅途中、ダント氏に話しかけられる。
「夜見さん」
「ふふ、なんですか?」
「夜見さんは、魔法少女を楽しんでるモルよね。どうしてそんなに人のために頑張るのが好きなんだモル?」
「ああ、簡単なことなんです」
私は笑顔でこう言った。
「だって、みんなの笑顔が見たいから」




