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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
四章 三つ巴陣営の人員争奪戦編

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第39話 おじさん、誘拐されていた友だちを救う

 校内での戦いは激化していたが、憑依している『ざんきまるさん』の探知魔法のおかげでどう動けばいいか分かった。


「体が軽い! こんな楽しい気持ちで戦うの初めてです!」

「それ死亡フラグだからやめるモル!」


 新フォームになった影響もあるのか、私は基本フォームの三倍もの速度で動けた。

 中等部付近でボンノーンに苦戦している同学年の魔法少女たちを辻助けしつつ、高等部校舎に向かう。そこが唯一、学校の地下に降りるための道だからだ。


「――これで百体! 私ってどうしてこんなに強いんです!?」

『拙者の力で、貴殿に見合う英霊の技を本能に刻み込んだであります。不要ならば――』

「いえ必要です! むしろもっと楽に強くなりたい!」

『ふむ……これも時代の流れでありますな。ではさらに強き者、無敗無双の英雄に仕立て上げて見せようぞ』

「楽して最強だー!」


 道中、剣術の腕や体捌きが笑えるくらいに上達していった。

 最初はボンノーンを五秒に一体倒すのが限界だったが、高等部校舎にたどり着く頃には敵を一瞬で千切りにするのは当たり前で、倒し方にこだわらなければ、秒間で10体も倒せるようになっていた。


「――奥義、百花の舞。なんてね」

『グアア――』


 世界が動き出し、加速が終わる。

 背後の二百体を超えるボンノーンはほぼ同じタイミングで爆発し、ピンクの砂に変わった。するとガクン、と膝にきた。


「はぁ、はぁ、流石に燃料が、切れましたか」

「夜見さんゼリー食べるモル!」

「もぐもぐ……」


 体のガス欠は、スロウダウンウォッチでも消せないデメリットだったようだ。

 私はゼリーを食しながら小休憩を取った。


「あ、あなた! 学年は!?」

「中等部一年です」

「ちゅ、中等部の一年生!? どうしてそんな、そのフォームは」

「色々あって進化しました。今後ともプリティコスモスをよろしくお願いしますね」

「あ、ああ、あーっ! あの中学生ちゃんだったんだっ! やだっ、凄ーい!」


 そこで高等部のお嬢様方との握手会が始まってしまう。

 先輩方は、魔法少女になると意外と若者言葉をお使いなられるようで、マジスタというSNSアプリにアップするためのツーショット写真を沢山撮ったと記憶している。


「――なるほど、ボンノーンはやはり地下から湧き出してきたんですか」

「校内に溢れた原因が分かったモルね」

「ね。急いで直さないと」


 先輩方からの説明でそう知った。

 手足に力が入ることを確認してから、私は動き出す。


「頑張ってプリティコスモスー!」

「私たちのぶんまでー!」

「よし。ファンの声援で元気がもりもりです。行ってきまーす!」


 高等部一階の階段から地下に降り、シミュレーションではシェルターとして利用されていた空間に出る。

 そこには数名の先生と一体のボンノーン、そして私の友人たちが居た。


「そこで止まりなさい! 動くと、この子達を殺しますよ!?」

『……!』


 先生は友人に銃口を向けていた。

 私は大きくため息をついて、こう返答する。


「それが魔法少女学院に務める先生の姿ですか? 笑えるくらいに悪役ですよ」

「五月蝿いんですよ歩く戦術兵器が! 大人しく武装解除されていれば良いものを! この日本という国に軍事力は必要ないんです!」

「先生まさか、憲法9条を守って戦争反対を掲げるようなお方だったんですか?」

「良いですか! 真の平和とは! 武力を用いない対話によって生み出されるものなのです! 魔法少女の存在は我が国の理念に反する!」


 心の底から呆れてものも言えなくなりそうだ。


「誰に思想教育を受けたのか知りませんけど、先生が持っている銃、それは武力じゃないんですか? しかも子供に銃を向けるなんて最低です。人間の屑ですよ」

「君たちが放棄しないから武装するのです! 捨てられるならとうに捨てている!」

「自分の発言が矛盾してるって言ってて分かりません?」

「黙れええええ!」


 相手の銃口がこちらを向き、甲高い発砲音が鳴ってシールドにぶつかる。

 カチ、カチ、と弾切れになった辺りでこう呟いた。


「ダントさん、撮れました?」

「ばっちりモル」

「なぁっ」


 そう。ここまでの会話は撮影済み。

 これで裁判で何があろうとこちらが正義なのだ。

 私は剣を投げ捨て、手指を軽く鳴らした。


「変身解除――ま、これで正当防衛ですよね。大人しく負けてください」

「おのれ世界の敵がああああ!」

「お前たちが言うな!」


 私はあえて変身を解き、純粋な徒手空拳で対応する。

 相手はポケットに隠し持っていた鋭利な刃物で切りつけてきた。


「死ねッ!」

「はぁっ」

「う!? ぐはっ――」


 しかし無力だった昔とは違い、今の私は、戦う方法を本能に刻み込まれている。

 無刀取りからの反撃、先の先を取るカウンターで全員をなぎ倒したあと、急所に一撃を加えて、一人づつ戦闘不能にさせていった。


『グオオオオ! マホウショウジョ!』

「夜見さん!」

 シュン、パシッ!

「どうも。動くのが遅いんですよっ」

 ザンッ――

『グアアア――』


 最後にボンノーンが襲ってきたが、ダント氏が投げてくれた剣で斬り伏せた。

 砂化を確認してから剣モードを解除し、クルクルと回して腰ポケットに収納する。


「みんなお待たせしました。救出が遅れましたね」

「夜見はん……!」

「ライナぁ~~……!」


 怖かったのだろう、みんな私に抱きついてきた。

 とても震えているので、もっと優しく抱きしめてあげたいところだが、私にはまだやらなくてはならない事がある。


「皆さん、すいません。私はまだ戦わなくては向かわなくてはならないんです。あの入り口から地上に出て、先輩方と合流して下さい。――変身!」

『魔法少女プリティモスモス! 運命礼装(デスティニーサッシュ)!』

「うわぁ!?」


 突然の変身に友人たちは驚いていたが、その意味を感情で理解していた。

 全員、倒れた先生からそれぞれのマジカルステッキを回収し、地上に向かって走り出す。


「プリティコスモス! 地上は私たちに任せなさい! あなたは騒動に決着を!」

「はい! 地上をお願いします!」


 心で通じ会えた瞬間だと思った。

 彼女たちの心にもちゃんと、恐怖に立ち向かうための勇気が宿っていたのだ。

 私は背中を預けて先に進む。


「良いライバルになってくれそうモルね」

「ですね。最深部に降りるための階段はあそこですか」

『然り。緊急用脱出口に偽装されているであります』


 最下層に降りるための階段は、アクアラインの端の緊急用出口の先らしい。

 斬撃や刺突が通らないほど分厚い鉄の扉だった。


「脳筋作戦は無理そうですね」

『またもや然り。扉は硬く分厚いために破れず、正攻法で内部に侵入するには窪みにマジカルステッキを差し込む必要がある故、拙者個人での帰還が望めなかったのであります』


 ざんきまるさんが諦めるほどなんだからそりゃそうか。

 諦めて剣を消した。


「この窪みですね。よっと」

 ギギ、グゴゴゴ――

 ステッキを差し込むと私の変身が解け、重々しい金属音が鳴った。

 ハンドルが回るようになったので扉が開いたらしい。

 代わりとしてステッキが壁に飲み込まれた。


『まさかこのような仕組みとは。すまぬ夜見殿』

「いえいえ。……なんて嫌らしい仕掛け」

「設計者の性格の悪さが滲み出てるモル」


 敵はどうあっても魔法少女を武装解除させたいようだ。


『……ふむ。ではアレでありますな』

「とは」

『夜見殿。気にせず進むであります。敵に気付かれる故』

「あ、はい。行きましょうかダントさん」

「わ、分かったモル」


 私たちはざんきまるさんの漏らした言葉に疑問を持ちながらも、扉の先の、底の見えない大きな螺旋階段から、学院の最下層へと降りた。

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