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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
四章 三つ巴陣営の人員争奪戦編

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第36話 おじさん、支援者が敵組織だと知る

「やぁやぁ、よく来てくれたね後輩くん」

「あなたが紺陣営のリーダーなんですね」

「いまのところはね」


 第二体育館で待ち構えていたのは、入学初日に私を誘拐したクセ毛な髪にアホ毛の生えた白衣先輩だった。明かりがついているのは私たちの居る中央だけで、周囲は暗くて見えない。


「早速ですけど、私の友だちを返して下さい」

「残念だがここには居ないよ」

「なっ、じゃあどこに居るんですか!」

「教えたら私のチームに入ってくれるのかい?」

「そんなわけないじゃないですか」

「だから教えられない」


 話し合いでは解決しなさそうな雰囲気だ。

 相手が何を考えているのか全く分からない。


「と、とにかく、友だちを返して下さい!」

「まぁまぁ、私たちにも事情があるんだ」

「事情?」

「そろそろか」

「何を――」


 バタン!

「入り口が!?」

 大きな音がして入り口が閉じた。

 続いて天井の照明がつき始め、二階にわんさかと集まった女学生たちが目に映る。

 皆不安そうな顔をしていた。


「な、何を企んでいるんですか!」

「君。なんでも最高の魔法少女を名乗ったそうじゃないか。しかも生徒会入りも確定しているとか」

「否定はしませんけど、あれは結果的にそうなっただけで……!」

「そうだとしても、だ。ふふふ、君が最高の魔法少女を名乗るというのなら、それに相応しい力を示して貰わなくては困るんだよ」

「何を言って」

「これから君には怪人ボンノーンと戦ってもらう」

「……ど、どういうことですか!?」


 私は驚愕した。ダント氏も驚いていた。


「この学院の支援者は面倒な性格の方が多くてね。魔法少女同士が戦うのは耐えられないが、怪人と戦うのは大歓迎なんだよ。しかもそれぞれ、自分の応援する魔法少女が最高だと思って譲らない」

「つ、つまり……私は支援者に疎まれているということ、ですか?」

「出る杭は打たれるのが日本の文化じゃないか。君たちは有名になりすぎたんだよ」

「……いや、ああ、そうか。なるほど。分かりました」

「じゃ、私はこれで失礼するよ。戦いに巻き込まれてはかなわない」


 白衣の先輩はスゥ、と透明になっていく。


「ブースト」

 キィィン――ガシィッ!


 私は捕縛するべくギフテッドアクセルを使用した。

 羽交い締めにしたあと、時計の針を進めて能力を切る。

 すると先輩の透明化が消え、観客も事態に気づいた。


「なぁ!? は、離したまえ! 私は戦闘向きじゃないんだ!」

「先輩。ここでボンノーンと戦わされるということはつまり、支援者がダークライということですよね? 支援者名簿はどこにありますか?」

「い、言えない」

「どうしてですか?」

「り、両親の首が掛かってるんだ。裏切れない」

「なるほどそういうことですか」


 先輩は敵に追い詰められて混乱しているようだ。

 目を覚まさせてあげないと。


「では言い方を変えましょう」

「どういう――」

「もしこのまま大人しく従っていたら、先輩は退学処分になって両親も首になるでしょう。私は梢千代市に来る前に、そういう人間をごまんと見てきました」

「なっ、なに」

「私には時間停止に近い能力があります。先輩が場所を教えてくれれば一秒もかからずに敵の全貌を知れます」

「だけど」

「私を信じて下さい。敵なんかより。守ってあげますから。ねっ」

「はあぁぅ、わかりましたぁ」


 耳元で甘く優しい声をかけると、先輩は一瞬で堕ちた。


「どこにありますか?」

「中等部職員室の金庫の中……パスワードは分からない」

「ありがとうございます。――ダントさん」

「分かってるモル。まずはここから脱出するモルよ。変身モル!」

「はい! ――変身!」


 白衣先輩を開放したあと、腰ポケットに隠し持っていたステッキで変身する。


『魔法少女プリティコスモス! 正式礼装(フォーマルコーデ)!』

「よし!」

『プリティコスモスソード!』


 ピンクロリータコーデになると同時に、間髪入れずにボタンを押して、マジカルステッキをピンク色の儀礼用両刃剣(ツーハンデッドソード)に変形させた。


「こ、後輩くん」

「先輩、事が終わるまで隠れていられますか」

「それくらいなら容易いことさ。でも――」

「学院の魔法少女全てが敵になる、ということですよね」

「そういうことじゃない。ボンノーンを倒すまでここからは出られないんだ」

「なるほど。敵はこの状態を維持して時間稼ぎをするつもりと」


 でもここで動かなきゃ支援者名簿を奪えない。


「ダントさんどうします?」

「必殺技で建物をぶった斬るモル」

「脳筋が足りてるアドバイスですね。二階席の人は逃げてくださぁぁぁぁい!」


 私は底のボタンをダブルタッチした。


『エモーショナルタッチ! プリティコスモスラッシュ!』


 上段に振りかぶった剣からピンク色のエネルギーが放出され、天井に穴が開く。

 観客は悲鳴を上げて一斉に逃げ出していった。


「おらっしゃあああ!」

 ドゴォォ――ン……

 前方に向かって振り下ろされたエネルギーは建物を割り、外への道を切り開いた。

 太陽の眩い光が差し込む。


「道が切り開けたモルね」

「ですね。では先輩! 隠れていて下さいね!」

「あ、ああ……」

「お達者で! ブースト!」


 白衣の先輩は魔法でスゥ、と透明になって消えた。

 私とダント氏はギフテッドアクセルで加速し、中等部の職員室に急ぐ。

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