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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
四章 三つ巴陣営の人員争奪戦編

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第32話 おじさん、真実を知る

「ここどこですか!?」

「部活棟モル!」


 部屋の位置は二階で、非常用階段を降りると第二・第三校庭――テニスコートや競技場などが広がっている。部活棟の玄関側には、紺腕章の先輩方が集結していた。


『夜見ライナを返せ!』

『彼女はお前達のものじゃない!』


 施錠された扉をバンバンと叩いている。

 まるでゾンビ映画みたいだ。


「まさかこれもシミュレーション? ログアウトっ」

「現実モルよ夜見さん」

「じゃあどうすれば?」

「赤城先輩か大人の先生に救助を求めるモル」

「分かりました。赤城先輩の元に行きましょう」

「せ、先生にしないモル?」

「怖いですけど、赤城先輩には実績があるので」

「分かったモル」


 幸い、彼女たちはこちらに気づいていないようで、逃げるのは容易かった。

 そうして高等部の隣校舎までたどり着いた私は、赤城先輩がレッスンを受けているという総合訓練室に飛び込む。


「赤城先輩助けてください!」

『はい。ワン、ツー。ワン、ツー』

「わお夜見ちゃんじゃん。どったの」


 そこには長袖の体操着(赤いジャージ服)でダンスの講義を受けている赤城先輩の姿があった。


「紺陣営に追われてるんです!」

「なんで?」

「なんでって、私が無所属だから!」

「あーなるほど」

『赤城さん。レッスンに集中してください』

「ごめんなさーい。夜見ちゃん、レッスン終わるまで待っててね」

「は、はい」


 赤城先輩はとても元気に呑気に、スタイルの良い女性トレーナーさんとのダンスレッスンをこなしていた。そこでふと気づく。


「……あれ? ブルーノさん居なくないですか?」

「そう言えばそうモルね」


 訓練室で会長が語った『訓練室でダンスレッスンをしている』という話は真実だったが、聖獣は居ないし、反省を促しているような素振りもない。


『はい、休憩。いまのところバッチリよ』

「ありがとうございます。夜見ちゃんおまたせー」

「お疲れさまです」


 タオルで汗を拭った赤城先輩が隣に座る。

 すごい甘い香りがした。


「あの、赤城先輩。聖獣さんはここに居ないんですか?」

「居ないよ? うちの子は好き勝手に動く子だから」

「生徒会長から、昨晩の戦闘シミュレーションのことで、反省を促すダンスレッスンを受けてるって聞いたんですけど」

「戦闘シミュレーション? 反省? 今日のダンスレッスンは私のファン感謝祭に向けた練習だけど」

「あれ?」

「ん?」


 どうにも話が噛み合わない。


「あの、えっと、赤城先輩の聖獣って青い狼さんですよね?」

「ん? 私の聖獣は人の形を保ってるよ?」

「ええええ!?」

「ど、どういうことモル!?」


 本格的にわけが分からなくなってきた。


「んー……夜見ちゃん。何があったか詳しく教えてくれる?」

「は、はい。実は――」


 昨晩の誘拐シミュレーション事件、そして一限目の総合訓練室での話を聞くと、赤城先輩は大笑いし始めた。


「あははは、夜見ちゃん一杯食わされたね」

「ど、どういうことですか!?」

「多分だけど、帰り道で君と一緒になった私は、入学初日に君を誘拐した紺陣営のニューリーダーだよ。魔法で変身したんだと思う」

「えええ!?」

「拉致してコフィンに入れたのも紺陣営の補給部隊の誰かだと思うな。触られたりマーキングされたりしてない?」

「おお、思い当たる節はありますが、ほ、本物の赤城先輩はどこからどこまでなんですか!?」

「デミグラッセで遊んだところまでだね。そのあとで入れ替わられたのかも」

「魔法怖い……」


 私は怖くて震えた。

 言われるまで疑問に思わなかったからだ。

 ダント氏が会話を引き継ぐ。


「ぼ、僕たちは混乱してて何もわからないモル。詳しく教えて欲しいモル」

「んーっとね。簡単に言うと君たちは、紺、緑、赤、この三つの陣営のどれか、もしくは全部の策略にまた巻き込まれてる」

「だ、誰が黒幕モル!?」

「さぁ? とりあえず、1000エモ以上の子に高校生の担任を付ける校則が決まったのは事実だけど、各陣営が共同で魔法少女らしい振る舞いを教えようねー、となってるだけで、専任にしようとは決まってないはずだよ? 変更は私にも知らされるから」

「つまり一限目の訓練室集合は誰かの罠だったモル!?」

「そゆこと。大当たりー」


 にっこり笑う赤城先輩。

 恐怖から立ち直った私は改めて問いただした。


「ま、まだ混乱してますけど……と、とりあえず、赤城先輩は昨晩のシミュレーション事件に関わってないんですね?」

「関わってないと言えば嘘になるけど、犯人ではないかな」

「今、目の前にいる先輩は本物ですか?」

「触る? それともマスクの下でも見る?」

「触っていいですか」

「えっち」


 彼女はそう言ってマスクを手で隠した。

 赤城先輩は性格に掴みどころがなくて困る。


「え、ええと、先輩が本物で嘘をつかない人だと思って聞きます。もし総合訓練室への集合が罠なら、そこに集まっていた生徒会長や副会長、役員さん、各陣営のリーダーは本物ですか? どこの陣営か分かりますか?」

「見てないから分からない。でも、紫の私を呼ばない時点でどう考えても訳ありだし、緑と赤は生徒会を動かせるほど影響力のある陣営ではないよ。今の私に分かるのはそれくらい」

「分かりました、ありがとうございました。先輩が目的のために非合法な手段も辞さない人間じゃないと知って安心しました」

「あははは、そんなの当たり前じゃん」


 立ち上がった赤城先輩は手を差し伸べてくれた。


「ま。どうしてもって時は私の元に駆けつけてきなさい。一応担任ですので」

「ありがとうございます」


 私はその手を強く握り返した。

 全てを理解できたわけではないが、一つだけ分かっていることがある。

 私の友人たちはおそらく、紺陣営に拉致されたのだ。助け出さなければ。


「それで夜見ちゃん。これからどうするつもり?」

「赤陣営……いや、不本意ですが、まずは緑陣営リーダーの青メッシュ先輩との合流を目指します」

「青メッシュ――ああ、あの子ね。どうして不本意なの?」

「その先輩にも拉致されましたので。部活棟に」

「うわぁ……あの子が管制室の外に出るなんてレアだね」

「そうなんですか?」

「うん。ま、詳しいことは本人から聞いてね」

「はい」

「よろしい」


 頭を撫でてもらえた。嬉しい。


『休憩終わり。赤城さん、レッスンを再開しますよ』

「はーい。じゃあ頑張ってね。バイバイ」

「ありがとうございました!」


 深く頭を下げたあと、私は、ダント氏が『緑髪の人に教わったモル』という合流ポイントに向かって移動し始めた。

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