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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.4『限界卒論生大脱走! 締め切り間近の極限おしゃれコーデバトル!』

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第269話 おじさん、リズール女史が捨てた肉体を仕方なく譲り受ける

 万羽ちゃんや願叶さんは朝ミーティングがあるとのことで、

 事務所に引っ込み、それから五分くらい。

 三人で朝飯後のティータイムを優雅に楽しんでいると、

 奥からぞろぞろと謎の白いマントを羽織った小学生たちがやってきた。

 彼ら彼女らは私を見るなり、「あ!」と大きな声を出す。


「プリティコスモスだ!」

「教祖さま!」

「おはようございます!」


「「「!?」」」


 ぎょっとした表情の結衣ちゃん、しかめっ面のマリアちゃんに睨まれ、

 私はあははと苦笑いしながら対応した。


「お、おはようございまーす。登校ですか?」


「お休みだよ!」

「今日は土曜日だもん!」


「そ、そうですか。

 いろいろと聞きたいことはあるんですが、今日の活動内容は?」


「「「プリティコスモス教の布教活動ー!」」」


 一斉合唱した小学生たちは、

 羽織っているマントをべろんと前に出し、被った。

 金色の刺繍糸で布の縁と両目が彩られたシーツおばけが爆誕する。


「……それは?」


「「「メジェド!」」」


「メジェド」


 エジプト神話において「打ち倒す者」という意味を持つ不可視の神。

 詳細なことは分かっていないが、目からビームを出すという。


「い、一体誰がそれを……」


『私が作りました』


「「「!!!」」」


 小学生たちの後ろから声の主が現れる。

 古いゴシック製本を手に持ち、目を瞑ったまま動く青髪の巨乳美女。

 その服装はメイドにしてはやけに露出が多い、

 袖無しブラウスにショートスカート&黒タイツという衣装。

 リズールさんだ。

 ペコとお辞儀をした彼女は、スススとカウンター内に入る。

 私はおずおずと質問に入った。


「なぜ……いや、ええと、制作理由は?

 それと、その服装は?」


『どちらとも端的に言えば、暇だからです』


 返答の声は彼女本人からではなく、

 手持ちの古いゴシック製本から響いた。


『小学生たちに与えたマントは私の腕鳴らし兼、護身用装備。

 適当にメジェドと名付けました。似ていますし。

 目の模様から高出力エモーショナルビームを発射できます』


「そ、そうなんですか」


『そして一番疑問に思っているだろう私自身の状況ですが、

 脆弱性解決のために受肉体を捨て、

 本来の魔導書形態に戻った形になります』


「肉体を捨てたァ!?」


 さらっととんでもない状況だと困惑したものの、

 彼女が『不要なので譲りますよ』とさらにとんでもない発言をするので、

 やっぱ常識からして私と思考回路とか価値観が違うなと、

 リズールさんの特異性に驚かされた。これが異界生まれか。

 ……うう、ここでスルーすると絶対に事件が起きる。聞かなきゃ。


「ち、ちなみに……私がその肉体を貰わなかった場合は、

 どういうふうに処分する予定ですか?」


『まあ、普通に死体として処分するだけですね。

 ただ私用に設計した神の宿る肉体ですので、

 火葬場の火力程度では髪の毛一本燃えませんし、

 溶岩に落ちても無傷ですし、

 腐って消滅するまで何億年とかかるかもしれませんが』


「ハァー……」


 ……なんてめんどくさいことをしでかすんだこの人。

 ハインリヒさん絡みの事件で拒否犬化し、音を上げていたが、

 それがいかに初歩な事件だったか思い知らされる。

 常識という底がないのだ。魔法事件には。

 一般常識や物理学に頼っていては、人類に解決できない。

 だから魔法少女が必要とされている。

 これは、仕方ない……事件は未然に防がなきゃいけないので、言うか。


「……わ、分かりました。その体、私が貰います。

 他の方に処分を任せていたらどうなるか分かりませんし」


『本当ですか? 助かります。

 所有権を委譲しますので魔導書の私にお触れ下さい』


「は、はい」


 言われるがままに現在のリズールさんの本体――魔導書に触れると、

 彼女の受肉体と私の精神がテレパシーで接続された。

 やがてバチバチと脳のシナプスが弾ける感覚がして、

 私の全身が青い粒子になり、受肉体の体内へと浸透した。

 ……お、終わったのかな?

 ぱちくりと目を覚ますと、青い髪と、たわわな胸部が目の前に広がる。


『はあ、ようやく肩の荷が降りました』


 やれやれと疲れたように、

 手元でふわふわと宙を浮く魔導書形態のリズールさんが漏らす。

 青髪メイドとなった私は、ただわなわなと震えた。


「……わ、私の肉体は一体どこへ?」


『言わなくても分かると思いますが』


「ですよね」


 言わずもがな、この肉体と同化したのだろう。

 ハインリヒさんの時に学習済みの内容だった。

 問題は……私に何かしらの悪影響があるかどうかだ。

 軽く身体を動か関節を回して、目立った異常がないと知り、

 まあ確認といっても一般常識が通用しないしなと秒で諦めた。


「ヨシ。私は生きているので問題なしとします」


『何度もご迷惑をおかけします』


 魔導書形態リズールさんは申し訳なさそうに傾いたあと、

 『では少し黙ります』と言って中空に土塊を生成し始め、

 以前通りの見た目麗しいゴーレムレディに戻った。


「はあ……やはりこれが一番落ち着きますね。

 人の肉という器は、私にとっては制約がありすぎる」


「そうなんですね……」


 相手は事実上の神的存在。

 いわば何でもありなのでさらっと聞き流すことにした。

 真面目に対応していると無限に時間が溶けるからだ。

 すると、リズールさんが思い出したようにこう言う。


「ああ、そうそう。ライナ様」


「なんです?」


「その肉体の所有権と同時に、

 謎世界の管理権限なども保有しています。

 結界の主として共に頑張りましょう」


「ああ、はい……うわ、マジだ」


 このまま事態が悪化していくばかりだと思われていた謎世界事件だが、

 リズールさんから青髪巨乳メイドの受肉体を譲り受けたことで、

 一気に事態解決への道筋が見えてきた。


 現在の私が管理権限を行使し、

 謎世界に秩序をもたらす絶対の神として君臨する。

 それで謎世界事件は解決だ。


「まあ結果的オーライか……」


 それはそれとして拳を握りしめ、興奮する私。

 これは……性癖で言うところの憑依だったか。

 ハインリヒさんの時から若干これが好きになった感がある。

 なので恐怖や困惑というより、興奮と嬉しさが勝っている。

 今の私はエッチな大人のお姉さんだ。


 ……まあそれはそれとして建前の構築だ。

 ただ魔法少女に事件の対応を任せるだけではなく、

 共に現場で戦う大人が必要だろといううっすらとした怒りが私にはあった。

 じっと耐えていても現れないのなら、

 このタイミングを好機と捉えて、私がなるしかないのだろう。

 魔法少女の見本となる、真のレディに。

 ……ああ、でも、せめて髪色とかは戻したいな。


「はあ、困りました……せめて髪をピンク色に戻さないと、

 私がプリティコスモスだって伝わりません」


「たしかにそうですね?」


 リズールさんも同意する。

 しかしマジタブや変身アイテムのマジカルステッキは、

 リズールさんの受肉体と同化したタイミングでどこかに消えてしまった。

 結衣ちゃんやマリアちゃんの物を借りるわけにはいかないので……

 あれだ、マジカルガーリィで手に入れたアルカナカード。

 シンデレラフィット・スターの出番だ。


「これは……ニチアサでいうあれですね。

 販促の時期、変身アイテム乗り換え期間ってやつです。

 幸いにもアテがありました」


「というと?」


「来い……アルカナカード、シンデレラフィット・スター!」


 手を空にかかげて叫ぶ。

 すると急に頭上から光が降り注ぎ、私の髪をピンクに染めた。

 しかしやはり成人女性相手、

 それも神的存在の受肉体相手だと分が悪かったらしく、

 じわじわと変化が収まり、

 元の髪色と容姿――青髪メイドに戻ってしまった。


「くっ、変身パワーが足りない……そんなに甘くないか」


「よく分かりませんが……元の姿に戻るには、

 アルカナカードなるものを収集する必要がありそうですね?」


「そうなりますね……はあ」


 リズールさんと顔を見合わせつつ、しれっと前を向くと、

 そこにはすべてを察して興奮するメジェドフォルムの小学生たちがいた。

 やがて白々しく騒ぎ立て始める。


「た、大変よ! 私たちの教祖の姿が変わっちゃったわ!」


「プリティコスモスを元の姿に戻すには、

 アルカナカードを集めないと!」


「これもおしゃれコーデバトルと関係があるからに違いない!」


 続いて結衣ちゃんとマリアちゃんを見ると、

 二人も察したようにお互いの目を合わせた。


「これ夜見さんもグルですわ。謎世界事件」


「やられましたね。

 解決が難しいんじゃなくて、

 お使いイベントや寄り道を永遠とさせられるタイプの苦行だから、

 誰もやりたくないタイプのやつです」


 そうなんだ、などと白々しい同意セリフを思い浮かべつつ、

 私はカウンターに気だるげに肘をついた。


「私はただ、なんとなく流されてるだけなんですけどね?」


「「雰囲気に流されすぎ(ですわ)」」


 二人にベシンとおでこを叩かれ、テヘペロ。

 ノリツッコミ力が素晴らしいので私もボケがいがある。


「あはは、でもただ流されてるだけじゃないですよ。

 リズールさんの身体を譲り受けたことで、

 私は謎世界の管理者権限を得ました。

 現在進行系で起こっている方への明確な対抗札(キーカード)です」


「「なら正解かぁ……」」


 結果オーライですね、ですわねと二人も納得する。

 すると黙ってコップを磨いていたマスターの池小路氏が口を開く。


「そろそろ、奥の事務所で行われているミーティングが終わる頃でしょう。

 願叶さんに事情を説明してみてはいかがですか?」


「あはは、いいですね!

 お父さんどんな反応するだろ~!」


「教祖さまー!」

「あれやってー三角ポーズー!」


「あ、はーい!

 ……お聞きなさい。

 この姿は、謎世界の「破局」を鎮めるための姿。

 あなたたちが謎世界に入っても無事でいられるよう、

 神の加護を得た姿なのです……」


「「「おお~!」」」


 プリティコスモス教の基本礼拝作法である、

 手を三角形に合わせるエセイルミナティポーズしながら語る。

 教徒の小学生たちも真似をした。


「このナイスバディな謎の美女こそ、謎世界の新たなキーパーソン。

 プリティコスモスがプリティコスモスたる理由。

 アルカナカードがその真なる答えを教えてくれるでしょう……。

 三角形の中に宿るこの瞳があなたたちを見守っています……」


「「「プリティコスモス!」」」


 最後に三角形の中から覗き込むと、合言葉が叫ばれた。

 まだ二回目だけど手慣れたもんだ。

 そんなことをしていると、

 奥の事務所からフェザーがバサバサと飛んできて、

 リズールさんの肉体になった私の頭に乗る。


「ピウ」

「おお」


 またまた褒められた気がする。フェザーに。

 同時に、慌てた様子でデミグラシアメンバーも登場。

 願叶さんは私を見てわずかにぎょっとしたものの、おそるおそる聞く。


「……ら、ライナちゃん? なのかい?」


「はい。リズールさんはこの身体が要らないとのことでしたので、

 謎世界への対抗札として譲り受けました。

 これで無策ではないです」


「すごい覚悟だ……なら、僕も覚悟を決めよう。

 よかったら謎世界の調査のついでに、

 試作武器の性能テストをさせてくれないかな?」


「もちろんいいですよ」


「いい返事だ……!

 主任くん、用意を頼む」


「分かりましたッ!」


 待ってましたとばかりに力強く敬礼する主任&技術支援チーム。

 万羽&木津裏ペアは私を見たまま絶句しているし、

 いやダント氏とライブリさんも同じ反応かーい、と心の中で突っ込む。

 しかし他の成人技術者たちは特に気にせず、興奮した様子で話しだした。


「いやーやっとお披露目できますねー! 腕が鳴ります!

 ああえっと、とりあえず……ライナ氏呼びでいいですよね?」


「どうぞ」


「ではライナ氏、現場の謎世界で話の続きをしましょう。

 現実世界では守秘義務があって話せないことが多いんですよー」


「あ、そうなんですか?

 分かりました、じゃあ現場に行きましょうか」


 普段と景色や話の筋の通し方がまるで違う。

 やはりそうだ、今日までの私は子供だからと遠慮されていた。

 リズールさんの肉体を借りてようやく、

 ソレイユの大人社会に足を踏み込むことが許されたのだ。


 ともかく、現実側では話すに話せない事情が多いとのことで、

 主任氏の運転でキャンピングカーはさっさと出発する。

 目的地はすべての始まりの地、本社ビル街。

 オフィスがある高層ビル前で止まると、屋上雪さんが待っていた。

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― 新着の感想 ―
治時代の不運不幸がライナになったことで反転したのですね。 【不幸を幸運にunluck to luck】の魔法にでも掛かったのかな?
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