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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.4『限界卒論生大脱走! 締め切り間近の極限おしゃれコーデバトル!』

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第266話 黎明――パラレルワールド(推定)「謎世界」

 ――半時間と、およそ半日。

 時刻は午後五時を周り、二月らしい冬の夜が訪れる。

 到着したデミグラシアメンバーの協力もあり、

 私邸のガレージに「謎世界解明センター」という名称が側面に描かれた、

 キャンピングカー型の移動秘密拠点が完成した。

 まさか内部燃焼機関からエモーショナルクラフトで作り上げてしまうとは。

 恐るべし一般工業魔法。


 で、内部。中には見慣れた喫茶店デミグラシアが広がっており、

 キャンピングカーの後部にあるドアが出入り口になっている。

 喫茶店ルームの奥には研究室や事務室のほか、仮眠室もあり、

 当然ながらワープポータル部屋も。

 そこで自宅からワープしてきたのか、

 我がプリティコスモス教の信徒である初等部生徒たちが、

 奥の事務所側から嬉しそうに小走りで戻ってきた。


「ママがお泊りしても大丈夫だってー!」

「だってー!」

「分かりました。ここではあんまり暴れちゃだめですよ?

 静かに過ごしてくださいね?

 良い子のみんなと魔法少女プリティコスモスのお約束です」

「「「はーい!」」」


 久々に青少年を見守る魔法少女活動ができて私は楽しい。

 プリティコスモス教を作る前までは、

 正義の味方らしく治安維持に注力するべきだと思考が凝り固まっていたが、

 どう考えても良い子の味方をする方が楽しいし、心がぽかぽか暖かくなる。

 私の将来の夢は小学生教師か保育士さんかも。

 なんて、ふふ。


「よし、拠点ができたわ! まずは塾にしちゃいましょう!」

「ピウ!」

「「「さんせーい!」」」


 フェザーお気に入りの女の子がそう宣言すると、

 彼ら彼女らはテーブル席のほとんどを占拠し、宿題をし始めた。

 わ、我が信徒たちは勉強熱心だなぁ。見習わないと。

 すると、トントンと指でカウンターをノックする音。池小路さんだ。


「ライナさん。夕飯ができましたよ。

 子どもたちとの交流はとても大事ですが、食事を抜いてはいけません」

「はひゃい」


 私はおずおずとカウンターに向かい、惣菜ベーグルを受け取った。

 その後、近くの座席に座る願叶さんが、

 ティーカップに入れたルイボスティーをひと飲みしてから言葉を漏らす。


「こういう移動拠点を真っ先に思いつくべきだったな……」

「拠点は店舗であるべきという固定概念に囚われすぎていましたね。

 地下怪獣組織の捜索や魔法事件の調査をするなら、

 臨機応変な対応ができる車を選ぶべきでした」

「だね。僕も小学生たちの思考の柔軟さを見習わないといけないな」


 マスターの池小路氏も同意し、

 隣の新入り給仕(メイド)のリズールさんもコクコクと頷く。馴染むの早い。

 私はというと、席に座り、惣菜うどんベーグルをもぐもぐ。

 食事を抜いてはいけませんと池小路氏に怒られたので、頑張って食べている。

 少しすると、玄関のドアが開いて、

 中等部一年組&州柿先輩があくびをしながら帰ってきた。

 木津裏&万羽ペアと、ダント氏&ライブリさん、

 技術支援チームの男性四人もその後ろから続き、願叶さんの元まで来る。

 やがて願叶さんが「報告を頼むよ」と言うと、主任さんが口を開いた。


「えー、簡潔に。謎世界上層なる結界が無力化しました。

 無力化を行った物体はこちらになります」


 主任さんが道を譲ると、ドヤ顔のミロちゃんが前に出てくる。

 彼女の手のひらの上には、まるで宝石かガラスのようにキラキラと透明な白い花――香川の県花である、大きなオリーブの花のような宝石があった。

 水晶のように透明な花びらの内部には、

 ミニチュアサイズの高松学園都市が乱反射しながら透けて見えている。

 うどベーグルにかぶりつきながらじいっと眺める私。

 我が父、願叶さんは「んー……」と考えるような仕草をして、改めて聞く。


「この際だ、原理は聞かないでおこう。

 謎世界上層なる結界出現事件は解決した、ということでいいね?」


「言ってしまえばそうです。謎世界上層は無力化されました」


 主任さんが素直に肯定した。驚き。

 しかし「ただ……」と引っ掛かりがあるように話し出す。


「問題は、これを行ったのが我々ではない、ということです。

 こちらの動画をご確認下さい」


 続いて前に出てきたのはいちごちゃん。

 彼女が取り出したマジタブに写っているのは、

 オリーブの花と実がついた枝を咥えた白い鳩だ。

 パトロール配信のアーカイブらしい。


 タップで動画が再生されると、

 結界内に物資運搬中らしき状況でどこからともなく飛来し、横切る。

 同時に、その枝から落ちてきたらしき実が、地面に付いたとたんに結晶化。

 空をまるで台風の目の中のようにかき混ぜながら、

 謎世界内の建物を消滅させ、私の家周辺だけにしてしまったようだ。

 一件の家とウユニ塩湖のような水辺だけが広がっている光景になり、

 動画の再生が停止される。願叶さんは唸った。


「不思議なことばかり起きるなぁ……流石は謎世界。

 で、主任くん。その後の内部はどう変わったんだい?」


「ええとその後、魔法エネルギー測定機を使い、

 魔力、エモ力、ダークエモ力など、

 さまざまな魔法の源となるエネルギー類の存在を調査しましたが、

 すべての検査は陰性。反応せず。

 謎世界上層なる場所からは、魔法的反応の一切が消えております。

 我々の専門用語で言うところの「無力化」です。

 もはや現実世界と変わりありません」


「つまり人が住めるってことじゃないか、それは」


「そうなります」


「……ああ待ってくれ。結界の維持者は調べたかい?

 謎世界が結界である以上はいるはずだ」


「えー、結論から話しますと、存在しません。

 そちらにおられるリズール氏は、

 すでに謎世界上層という結界を維持しておらず、

 結界を作るための仮の魔力貯蔵タンク、

 つまり呼び水に利用されただけの説が今のところ濃厚です。

 ……ここからは私個人の仮説になりますが、言ってもいいでしょうか?」


「構わない。言ってくれ」


「魔法少女と魔法が存在するこの世界を基準点として考えた場合、

 謎世界はおそらく……この世界に魔法が生まれる前か、

 魔法が存在しない世界線の、地球の地表だと考えられます。

 SF的に言えば並行世界(パラレルワールド)です」


「なんてこった……」


 流石の願叶さんも驚いたように口元を抑えた。


「……そうだ、待ってくれ。ひとつ気になることがある。

 SNSで謎世界がとつぜん消えたという話題は出ているかな?」


「今調べます」


 主任さんは自分のスマホを取り出し、

 中等部一年組&州柿先輩やその聖獣たち、ライブリさん、

 木津裏&万羽ペアも同じように、

 マジタブ・スマホでSNS調査を始める。

 二十分、三十分後の調査結果共有で、

 謎世界事件は未だに発生したままだということが分かった。

 そこで願叶さんが話を要約してくれる。


「……つまりだ。

 謎世界上層と、SNSで話題の謎世界には何の関連性もない、

 まったく別の事件らしい。ややこしいな」


「すみません、個人的な事情でご迷惑をおかけしました……」


 申し訳なさそうにリズールさんが頭を下げる。

 話がややこしくなったなぁ、とようやくご飯を食べきった私。

 そろそろ話に混ざるか。


「それで、謎世界上層の扱いはどうしますか?

 壊せっていうなら必殺技ぶっ放して壊しますが」


「だ、だめだよライナちゃん。

 なんでもかんでも壊せばいいってもんじゃない」


 すると願叶パパが珍しく焦った。


「たしか、謎世界と共存関係になる縛りを結んだんだろう?

 こちらに一切の危害を加えない代わりに、

 謎世界の存在強度を保証する縛りを。

 契約に違反するとどれだけライナちゃんが強くても死んじゃうぞ?」


「じゃあやめます……え、ということは、

 謎世界が自律的に危害を与えそうな要素を消したってことですか?」


「そうだ。だから僕は「人が住めるじゃないか」と言った。

 謎世界はただの結界じゃない。

 こちらが世界を守れば、謎世界もその願いに答えてくれる。

 僕たち人類が歩みだすべき新たな希望の大地かもしれないんだ」


「守りがいのある世界なんだ……」


 わあと驚くと、初等部生徒たちも興味を持って聞いていたのか、

 わあ、わーと私の真似をした。

 ともかく、謎世界上層の調査は一旦打ち切り。

 明日からは現在進行形で起きている通常の「謎世界」事件を解決すべく、

 報告会は解散し、休息の時間になった。

 さっそく中等部一年組に囲まれ、左右から腕を掴まれる。


「夜見!!! 行くわよ!!!!」

「お泊まり会のお時間ですわよ!!!」

「あはは、はーい」


 若き信者たちからまたねーと笑顔で手を振って見送られつつ、

 そしてダント氏&ライブリさんからは謎に敬礼されつつ、

 私は中等部一年組に引きずられて車を降り、我が自宅へと連れ込まれた。

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