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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.4『限界卒論生大脱走! 締め切り間近の極限おしゃれコーデバトル!』

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第265話 新興カルト宗教「プリティコスモス教」爆誕

「ら、ライナ様~? お楽しみ中に失礼しても~?」

「はい?」


 背後のガレージ側から声をかけられたので振り向く。

 発言主はツムギさんだ。彼女はお腹側の服を捲り、おずおずと名簿を取り出す。

 どうやら政府非公認の「魔法少女支援機構」なる組織の構成員名簿らしい。


「それは?」

「見ていただければわかります……!」

「私ども歩き巫女にもどうか、その魔法による御慈悲を……!」

「は、はあ……」


 最初に「組織の概要説明」ページがあり、ペラリと少しだけ内容を読んだが、

 日本各地で発生する魔法事件に関する情報や、

 怪人や悪魔などの出現情報を独自に収集し、

 魔法少女ランキングの掲示板機能を通して情報共有を行う組織とのこと。

 ナターシャのサインと共に走り書きがあり、

 「ラズライトムーンの未来のために貢献求む」と書いてあった。

 ふむ……赤城先輩のためになるなら断れないな。

 私はステッキを一振りした。


「ブースト」


 書類に魔法のキラキラが降りかかり、

 彼女――ツムギさんの背後にいた二名の歩き巫女さんから、

 比較的強めのエモ力が感じられるようになった。

 なるほど。私の魔法はスマホ越し、対面だけじゃなく、

 書類越しでも相手を成長させられるらしい。

 気になったので話しかけてみた。


「調子はどうですか?」

「なんだか……いつもより調子がいいです。不思議です」

「身体の不調が急に治った気がいたします。

 ありがとうございますライナ様。

 これからも精一杯お仕えさせていただきます……」


 ペコリと頭を下げられたので、

 つい「どういたしまして~」と照れ気味に謙遜しておいた。

 だが、それはそれ。いまスポットライトを当てるべきなのは、

 エモ力が満ち溢れている月読学園初等部生徒たちだ。

 ツムギさんたちとの交流はそこそこにして、

 私の魔法の力はどうだ~、とばかりに振り返ると、

 思うところがあったようだ。


「魔法少女支援機構……か、カッコいい……!」

「私たちも、秘密の組織を作って活動するべき……じゃない!?」


 ざわざわとし始める初等部生たち。

 き、気になるのはそっちなのかと思うも、これくらいの年頃なら当然か。

 そこでふと思いつき、こう伝えてみた。


「小学生のみなさん、私の話を聞いて下さい」

「「「!!!」」」

「実は私、友達と一緒に秘密作戦中でして。部隊名があります」

「「「秘密作戦部隊!?」」」


 なにそれー!? すげー!と男子も女子も、目のキラキラが止まらない。

 す、素直だし、ぐっと食いつくなぁ。

 ちょっと楽しくなってきたので、思わせぶりな表情で言う。


「その名は――……」

「「「その名は……!?」」」


 何だっけ……土壇場でど忘れ。

 ああ、ええと、たしか、こうだ。


「謎世界解明センターです」

「「「謎世界解明センター!!!」」」


 わーと喜ぶ小学生たち。

 なんか名前を間違えた気がするけど、言っちゃった。

 ええいこうなったらヤケだ、

 幼少期から思春期にかけて浴びたカルト宗教パワーで突っ切ってしまえ。


 私は手を合わせ、聖ソレイユ女学院の頃から、

 やたらめったらに擦られる三位一体の構造体、三角形を作る。


「いま、神託が舞い降りました……」

「神託……!?」

「それって……!?」

「この無機質なガレージこそ、

 謎世界の解明にもっとも重要なキーパーソン。

 あなたたちはこのガレージを拠点に……謎を解き明かす門となる謎、

 おしゃれコーデバトルの情報を探るべきだと。

 三角形の中に宿るこの瞳が、あなたたちを見守っています……」


 エセイルミナティで少年少女たちを覗くと、

 カルト教主の演技があまりにもバッチリキマってしまったのか、

 彼ら彼女らをあまりの興奮で黙らせ、武者震いさせてしまった。

 し、小学生には刺激が強すぎたか……?

 様子をうかがっていると、やがて一人の男子が笑顔で拳を突き上げる。


「うおおっプリティコスモス教、最高(サイコ)~!!!

 俺もプリティコスモス教に入れてくれー!」

「「「!!!」」」


 他の子もその発言で理解に至ったらしい。

 一斉に「私も私もー!」「僕もー!」と止まらなくなったため、

 「き、許可しますから、ひとまず深呼吸して落ち着きましょう」と指示を出す。

 みんなで深呼吸してワンクッション置くと、

 冷静になった例の子――フェザー付きの女の子が、あっと声を出した。


「みんな聞いて! 教祖プリティコスモスが語る、

 おしゃれコーデバトルと謎世界の繋がりを解明するには、

 もっとたくさんの準備が必要よ!

 まずは謎世界解明センターらしい場所にしないといけないわ!

 このガレージを!」

「秘密の部隊名を隠すための視覚的な迷彩……ってこと!?」

「カバーストーリーね!? ◯CPみたい!」


 知ってる知ってる!と認知共有の連鎖が広がるので、

 少年少女たちの知見の広さに驚かされる。

 いや私が知らなさすぎるだけか。

 しばらくすると話がまとめに入り、共通認識が生み出された。


「――つまりここに秘密基地を作ればいいんだ!」

「あとそれと、秘密基地を知ってる仲間内だけで流通する、

 独自通貨を作る必要があるかも!

 よそ者と身内を分けないといけないし!」

「仲間内でのルールも作らないと!」


 ウキウキ楽しそうに話す月読学園の初等部生徒たち。

 最後に手を挙げて全体の号令役になったのは、やはりフェザー付きの子だった。


「――よし、いい!?

 まずはカバーストーリーの作成とルール決めからよ!」

「「「うん!!!」」」


 現金だとそこから絶対に足が付くからと、

 物資調達は各個人のエモ力によるエモ取引に絞るようだったので、

 リズールさんとの乳繰り合いでたんまりと増えた私のエモ力の一部を、

 フェザー付きの女の子に与えた。

 最大値が100万とするなら、そのうちの5%。5万エモだ。


「こんなに……!? いいんですか!?」

「プリティコスモスはここぞというときにエモ力を惜しまない……」

「――!」


 三角エセイルミナティポーズで適当言って誤魔化すと、

 女の子も私の真似をし、静かに頷いた。

 彼女がそのまま振り向くと、少年少女たちも同じポーズを取った。

 ノリでヤバいカルト宗教を作ってしまった気がする。大丈夫だろうか。


「プリティコスモス!」

「「「プリティコスモス!!!」」」


 うわ、共通の合言葉までできちゃった。

 ……ま、まあ、目の前の子たちは小学生だし、

 変なことに熱中するのはよくあることだよな、と言い訳し、心を落ち着かせる。

 そんなこんなと私が悩んでいるうちに、エモ力の分配が終わったようだ。

 自らの役割に自覚的になった彼ら彼女たちは、

 ガレージを拠点化するべく自発的に行動し初めた。


「それじゃあ出発よ!」

「「「おー!」」」


 それぞれペンとノートを手に、

 ガレージ内で秘密基地のルール作りを行う文官集団と、

 また、カバーストーリーである秘密基地作りのために動く実務集団に別れた。

 とても楽しそうに。

 一仕事終えた私は額の汗を拭う。


「ふう……なんとかなりました」

「流石ですライナ様」


 同時に、静かにしていたリズールさんが口を開く。


「しかしまさか……ナターシャ様顔負けの才能があったとは。

 やはり私の判断に狂いはなかった」

「えへへ、どういたしまして」


 ナターシャさんに才能で勝ったのか、今の私。

 ……え? ナターシャさんってさっきみたいなことしている時期があるの?

 などと疑問が浮かんだが、思考のゴミとして切り捨てた。

 秘密結社の長なんだから当然「する」に決まっている。

 私は肩の力を抜き、はあとため息をついた。


「でも、暇になっちゃいましたね?

 小学生ズを見守らないといけないので、ここから動けません」

「困りましたね……こんなときに隠密行動が取れる忍者か、

 瞬間移動魔法が使える人間がいると――便利なのですがね?」


 そう言ってリズールさんはガレージの外――大通りに視線を移す。

 向かい側には月読モニュメントの立っている公園が見えており、

 一匹のたぬきと黒髪メカクレ少女が、路地の影の中から顔だけ覗かせていた。

 あれはヒトミちゃんと、相方のたぬき聖獣ぽんすけくんだ。


「あ。ヒトミちゃんだ」


 視線が合ったかと思うと、二人は慌ててとぷんと影に潜って消え、

 太陽が雲で隠れた際にできた影を利用し、大通りをニュッと横断。

 たぬきを肩に載せ、その場でひざまづいた状態でガレージ前に姿を表した。


「ヒトミをお呼びですか、お姉さま!」


 日光を浴びて爛々と輝く、彼女の綺麗な紫の瞳。

 同時に、さっきまでの私がやっていたエセイルミナティのポーズまで取る。


「プリティコスモス!」

「はは……」


 ヤバいこれ一生擦られ続けて黒歴史になるやつだと後悔したが、

 やっちゃったからには後に引けない。

 同じようにポーズを返し、デミグラシアメンバーを呼ぶよう依頼した。

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狂信者が増えた(笑)
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