第264話 現実サイドの協力者を増やそう!
私がガレージに寄ると、初等部の女の子やツムギさんが警戒して後ずさる。
ツムギさんたちは不審者から女の子を守るような態勢だ。
ただしフェザーは無反応。
「何者……!」
「あの、ええと」
あ、あれ? どうしてそんなに警戒されるんだ?
はあ、と呆れのため息をついたリズールさんが、
後ろから私のロボフェイス&認識阻害の仮面を剥いだ。
プリティフェイスがあらわになり、全員が安堵の表情を浮かべる。
「なんだライナ様でしたか……」
「てっきり謎世界で生まれた魔物かと……」
「ええっ!? そ、そんなんじゃないですよ、あはは」
振り向き、リズールさんを見上げると、
ガポ、とロボフェイスをはめ込まれる。
「敵対者はともかく、
仲間や家族と接触する時はさっさと正体を明かした方がいいですよ。
怖いだけで面白くないです」
「あ、あはは……はい」
同時に苦言を呈された。
いまのは面白くないのか。じゃ、じゃあ、やめないとな。
ボキッと心を折られつつも、すぐに思考を切り替える。
ともかく、ツムギさんたちと情報共有だ。前を向く。
「ええと、姿を隠しているのには事情がありまして」
「いえ、説明の必要はありませんよライナ様。
風紀部と一悶着を起こしたため――
こちら側、現実世界では表立って活動できない。
しかし謎世界も未知の領域。さらなる探索を進めるには、
物資の確保や拠点構築が必要不可欠。
なので、こちらの知り合いや仲間と接触する必要があった……。
そういうことですね?」
「あ、はい。そうです。なんで分かるんですか?」
「経験を積んだからです。お忘れですか?
ライナ様のおかげで私のレベルがカンストしていることを……」
「ああ~、なんかそんなことありましたねぇ!
ちゃんと効果があったんだー」
「いやあの、あったんだーじゃなくて、本当にあるんですよ!?
ラストダイブで表示されるレベルとは、
七彩魔法の習熟度を総合値で表したもの!
同時に、脳機能の成長速度とも直結しています!
短いほど有利!
成人するまでにレベル20に到達していれば優秀と言われる数値を、
ライナ様は詠唱ひとつでカンストさせられるんですからね!?
レベル30もあれば大企業でエース級社員扱いですからね!?
もはやこの世界におけるバグ、神の所業ですからね!?」
「ほへー……」
「じ、自覚が薄すぎる……!」
膝から崩れ落ちるツムギさん。
そう言われても自分に恩恵がないからなぁ……。
などと考えていると、リズールさんが耳元で囁いた。
「いまどき無自覚無双系主人公は受けませんよ。
主流はガツガツとレベル上げに熱中する過集中型攻略廃人主人公か、
そういう時期が過去にあり、
落ち着いた精神と豊富な経験で若者を導き、人生無双するアラサー主人公です。
そっちの方があなたのアイドル性と合っていて面白いです」
「じ、自覚するかぁ……! アイドル性とチート性!」
なんだか急に自分がすごい存在で、
ちょっと魔法をかけただけで尊敬の念を受けてしまう人気者なのだと、
思いたくなってしまった。
なのでちょっと、ツムギさんたちに尊大に振る舞う。
「ふふん、まあ崇めてくれていいですからね。
私のギフテッドアクセルは最強の魔法ですから」
「そう! そうです! その調子です!
自分の才能と強さに自信をお持ち下さい!
その尊大さが許されるほどにチートなんですライナ様は!」
「んふふ~んっ」
ツムギさんにベタ褒めされてまんざらでもない、自信満々に胸を張る私。
そうそう、こういう”褒め”を味わいたかった。
久しくエモ力が上昇するのを感じる。
……って、そうだ。女の子と交流して仲を深めないと。
「ああ、話を戻しますが――」
「お待ち下さいライナ様。戻す必要はありませんよ」
女の子を見つめたとたんにツムギさんが割り込む。
「先ほども述べたとおり、ライナ様の目的は把握しております。
こちらの女の子と接触して交流を深め、
さらに強い協力関係を結ぼうと思われていますね?」
「あ、はい。そうです」
「しかしライナ様、最高の魔法少女に言葉が必要だと思いますか?」
「――!」
「魔法少女とはすべての女の子が憧れるバトルヒロイン。
自らの理想の具現化。
その立ちふるまい、所作だけで、
女の子はみずからの心の内に眠る使命を理解し、察します。
ゆえに――必要な行動はただひとつ。
魔法をかけてあげることです」
「たしかにそうだ……なんで気づかなかったんだろう」
私は言葉を使った友愛や平和を信じるあまり、魔法の力を軽視していた。
言葉は不要なのだ、そもそも。
魔法少女が存在そのものが平和の象徴だから。
ただ、魔法をかけてあげる――――それが私の使命。
魔法の力で女の子の夢を叶えてあげれば、世界中のみんなを笑顔にできる。
私のギフテッドアクセルには、
それを実現させるだけのパワーがあった。
「誰だって心地いい夢を……みたいよな」
おじさんだった私でさえそう思うのだ。年頃の女の子ならなおさらだ。
静かにロボフェイスを外し、女の子にこう問いかけた。
「あなたも魔法少女に……
プリティコスモスみたいなヒロインに、なりたいですか?」
はっと驚き、笑顔になった彼女は、うんうんうんと思いっきり頷く。
じゃあ……魔法をかけてあげよう。
ステッキを取り出し、先端をくるんと回して女の子に向けた。
「ブースト」
キラキラとしたエモ力が放出され、女の子を優しく包み込み、やがて消える。
容姿や髪色に特に変化はなかったが、
彼女が不思議そうに上げたおててから、ポウと金色のエモ力が出た。
「エモ力がある!!!」
「これがプリティコスモスの魔法、ギフテッドアクセルの力です」
「ありがとうプリティコスモス!」
「どういたしまして」
きゃっきゃと喜ぶ女の子が微笑ましくて、つい笑顔が浮かぶ。
そうそう、これが私がやりたい魔法少女だよと心のおじさんも言う。
ギフテッドアクセルはみんなを笑顔にする魔法だったんだ。
すると女の子がまたしてもはっとし、もじもじして、思い切ったように言った。
「わ、私のお友だちを呼んでもいい!?
みんなもエモ力を使えるようになって、魔法少女を目指したいと思うの!
お願いプリティコスモスっ!」
そして、ぺこっと頭を下げた。
私はライブリさんの真似をして、拳を上げるガッツポーズ。
「もちろん!
みんなの夢を叶えて笑顔にするのが私の使命です!」
「わ~!!! ありがと~!」
ダッと女の子が駆け寄ってきて、私に抱きつく。
フェザーは女の子の肩から頭部にバサバサっと飛んで移動し、
私を見つめて小さくクルルンと鳴いた。
おおっ、なんとなく分かる。いまフェザーに褒められた。
そこで再びリズールさんからの囁きボイス。
「魔導とは、こうした寄り道を極める道のこと。
騒動の解決やタスクの消化に従順になる必要はありません。
運命であるならば、自然と惹かれ合います。
何より――その方が面白いです」
「なるほど」
てっきり仕事には全力で取り組むべきだと思いこんでいたが、
そんなことよりも目の前の女の子を見てあげるべきだったらしい。
何より、拠点構築なんて一朝一夕で済む話じゃないもんな。
女の子の友達にも魔法をかけて、協力してもらおう。
「ピウ、ピウ」
「あっ! そうよね、急いでお友だち呼んでこなきゃ!
プリティコスモスありがとう! すぐに戻ってくるね!」
「はい。ここで待ってます」
フェザーも同じことを考えていたようだ。
鳴き声で女の子を我に返らせ、
共に月読ランドマークタワーの方向へと飛んでいった。
いつも教室に残って友達となにしてるのかな、青春だなぁと思いつつ、
暇そうなツムギさんの輪に混ざる。とりあえず尋ねた。
「椅子とか用意しますか?」
「ひとまず、あの子の友達が集まってからですね。
人数が分からないうちに調達して、
あとで足りないとなると不公平感が出ます」
「たしかに。待ちますか」
またしても待ちのターンが来たものの、
地面に直で座っているのはプリティコスモスらしくない。
なので仕方なく、立ったまま待つことに決めた。
認識阻害のロボフェイスも――
まあ、私くらいになれば簡単に返り討ちにできるしなと思い、
女の子たちが戻るまで外したままにする。
……それから五分後。
先ほどの女の子が、同級生らしき初等部生徒たちを引き連れて戻ってきた。
魔法少女になりたい女の子だけが来るものだと思っていたが、
男子も女子も特に関係なく入り混じっている。
おそらく話を聞いて我先に着いてきたのだろう。青春。
みんなワクワクとした視線を向けてくるので、ステッキを一振り。
「ブースト」
魔法のキラキラが初等部の生徒たちを包む。
少しすると、全員が身体や手からエモ力を出せるようになり、
子供らしい歓喜の声が上がった。
そして列を揃えて並んで「ありがとうございました!」とお礼をしてくれる。
ううむ、ガキ大将気分も悪くない。
……で。みんなをここまで案内した女の子が、バッと前に出た。
「みんな聞いて!」
「「「!!!」」」
「お礼にみんなでプリティコスモスのお手伝いをしましょう!」
「「「分かったー!!!」」」
女の子の素晴らしい演説により、
魔法で強くなった月読学園初等部ズが協力者になった。ありがたい。




