第262話 学生たちを助け出そう!③
「総員、構え!」
ジャキンジャキン――!
同調し、最初の風紀部の人と同じように、銃口を向けてくる。
一般生徒を押しのけ、邪魔だとばかりに散らし、横一列に隊列を揃え、
徹底交戦の構えだ。
「ううっ……」
彼らの怒り、嘆きはすべて正しい。
なぜなら私が無力だったせいで、この市の危険度レベルが上昇しているからだ。
だから怖気づいて、足が震えてしまう。
するとサンデーちゃんが思いっきり肩をバシンと叩いてきた。
「痛あっ!?」
「もう、しっかりしなさい!
連続結界テロ事件のせいでパニックを起こしているだけですわ!
ぶん殴って気絶させますわよ夜見さん!」
「は、はい!」
こういう時に、曲がらない芯の強さを持っているサンデーちゃんが心強い。
そうだ、正しさなんてそもそも状況によって揺らぐもの。
わたし達も、彼らも、誰かを守るためにその力を使うべきだ。
「そっか、だから怒りなんだ……」
ぼそっと呟く私。
おしゃれコーディネーターK氏なる人物が言っていた、
最終フォームに至る道「アルティメイク」。
そのために必要な感情が怒りなのだと、彼女は言っていた。
であるのならば――……
「この世すべての、理不尽な正義に怒れ私……!
守りたい命を守るために……っ!」
今はただ、自分の心にある正義を信じる。
彼らの背後の――強制収容を待つ何の力もない私服の学生は、
隅っこで頭を抱え、ただ怯えて震えることしか出来ないというのに、
今の彼らの行いが治安維持とはなんの関係もない、
ただの搾取に繋がるだけだというのに、
それすらも分からなくなったというのなら……私は魔法少女として、
彼らの正義を否定する!
キッと目の前で銃を向ける風紀部を睨んだ私は、
握りしめたステッキを前に出し、変身の構えを見せた。
「――なんと言われようとも、
私たちの考えは変わりません!
あなたたちを倒してでも横暴を止めます!
みんなを守るために!」
「そうですわ! すこし頭を冷やすと良くってよ!」
「「――変身!」」
瞬間、赤とピンク、二人の少女が白い光に包まれた。
二人の制服が素粒子レベルまで分解され、魔法少女の衣装に再構成される。
両手には硬い素材の手甲、足にも桃色の上げ底靴。そして各部位へのリボンと、胸元に宝石ブローチ。
最後に二人の全身の白い光が花びらのように散って、
赤とピンクのロリータコーデになった。
『魔法少女ラズベリーサンデー!』
『魔法少女プリティコスモス!』
『『純正式礼装!』』
二人の魔法少女による同時変身だ。
グオオッ、と先ほどの私の変化よりも膨大なエモ力の風が吹き荒れ、
圧が隊列を乱さんとする。
すると指揮系統を掌握したであろう、口火を切った人が叫んだ。
「怯むなぁッ!
暴徒鎮圧用電撃弾、撃てェッ!
リベリオンに風紀部の力を思い知らせてやれェ――!」
「「「うおおお―――っ!」」」
ババババ――!
同時に、私たちへの攻撃が始まる。
アサルトライフル型ペルソネードから放たれたエモ力の光弾が、
バチバチバチッ!と勢いよく、周囲の魔法障壁にぶつかって、
ものすごい量の電気の火花をあげだした。
私はとっさに前に出て、サンデーちゃんを守る。
「さ、サンデーちゃんどうしましょう……!」
「大丈夫、陽動は出来ましたわ! 前を見なさい!」
「前……!?」
言われたとおりに前を向き、奥の方を見れば、
月読学園の制服に身を包んだいちご・おさげ・ミロと州柿先輩が、
戦闘に紛れて月読ランドマークタワーに潜入していく様子が見えた。
なら、あとはとにかく時間を稼げばいい!
「よし、じゃあ、敵に近づきますね……ッ!」
「初撃は任せましてよ!」
ダッ――
「うおおお――――ッ!」
なぜか普段の何十倍も厚くなっている魔法障壁に身を任せ、
隊列を乱すべく思いっきり突進した。
目論見はうまくハマり、私のぶちかましを受けた隊列が乱れる。
ロングレンジでの射撃戦から、
近距離での乱戦へともつれ込ませる第一歩に成功した。
「何ィィ――――!?」
現場指揮の風紀部さんは思いっきり驚愕の声を上げたが、彼はあとだ。
先に弱そうな周囲の人間から叩く!
「サンデーちゃん!」
「任せなさい!」
カチッ!
『ラズベリースマッシャー!』
彼女のマジカルステッキの武器機能。
基本コスチュームであるガントレットに、
ルビー色の外付け装甲と、前腕に十字架のような杭が付く。
「ハアッ!」
私の後ろから飛び上がり、風紀部に接近した彼女は、
大きく振りかぶった握りこぶしで、着地先の風紀部をぶっ飛ばした。
その後は暴の嵐。相手の横っ面をとにかく拳で殴り殴ってぶっ飛ばす。
わたし達を取り囲ませるようにあえて相手を散らし、
戦うための円形スペースを作ってくれた。
「今ですわ夜見さん!」
「はい!」
カチッ!
『プリティコスモスソード!』
私も武器機能を起動し、
プリティコスモスソードで近接格闘術で抵抗せんとする風紀部の人たちを、
武器の長さを活かして遠距離からいなし、
時には身軽になった身体で華麗に飛んで避け、
一方的に斬り伏せて気絶させた。
でも――
「く、くそっ……!」
「リベリオンなんかに負けるか……!」
すぐに目を覚まし、ふらつく身体に無理をさせてでも、
銃口をこちらへ向ける風紀部の方々。
ダークエモ力による何らかの作用か、気絶からの復帰が早い。
ダメだ、下手に手加減をしても、彼らの怒りが高まるだけ。
彼らの本音と――怒りと向き合うには、
私の心からもっと大きな感情を呼び起こさないと!
だったら――!
「サンデーちゃんしゃがんで!」
「了解ですわ!」
口火を切った風紀部の方を投げ飛ばしたサンデーちゃんは、サッと地面に屈む。
周囲を取り囲んでいる仲間の輪に入り直した彼が、
顔の前に剣を掲げる私に「プリティコスモスラッシュか!?」と恐れたが、
私の取り柄はそれだけじゃない。
「これは私が考えた新たな境地!
エモーショナルエネルギーの導きです!」
カチッ――!
私はステッキの杖部分にあるボタンを押す。
「プリティフラッシュ!」
「「「ぐあああ――――っ!?」」」
トドメとばかりに聖なるエモ力の剣光を風紀部の生徒たちに浴びせた。
この攻撃は誰も何も傷つけない。
代わりに、ダークエモーショナルエネルギーを浄化して、
人々の心身や都市の治安を健やかにする。いわゆる治癒魔法。
二千個くらいある私の必殺技のひとつだ。
やっとお披露目できた。
「あ……あはぁ~」
「おぅ~……」
風紀部の方々の顔を覆っていた黒バイザーが、
まばゆい光で粉々に砕かれたかと思うと、彼らの黒いオーラも晴れ、
普通の状態に戻った。ふにゃふにゃと気が抜けて倒れていく。
心も身体も、私の剣光で完璧に整ったようだ。
どうだふふんとドヤ顔を決めてやった。
「……その顔……覚えたからな……
必ず、お前は……俺が……裁きを……がはっ」
最後は、口火を切って敵対した風紀部の方が、
割れたバイザーの隙間から、敵意の視線で私を睨みながら、
口から黒いもやもやを「ゲロロロロ」と吐き出しながら倒れた。
そのナニカは『オボエテイロ……!』と捨て台詞を残しながら、
地面の中に浸透し、消えていく。
風紀部の方々は、何か良くないものに取り憑かれていたから暴走していたのか。
私は元凶らしき地面に沈んでいくナニカに向かって告げた。
「今のはプリティフラッシュ。聖なる光の魔法です。
次はおしゃれコーデバトルの舞台で会いましょう。
そこでならいくらでも相手をしてあげますよ」
「オシャレコーデバトル……オボエテイロォォ……!」
ナゾのモヤモヤは、恨めしそうに地面の中に消えた。
同時に本命の作戦も成功したのか、
タワーからワッと学生が溢れ出してくる。
「大学四回生以外の卒論未提出生は開放~!
フィールドワークに戻れ――!」
「「「うおっしゃああ――――っ!」」」
先頭で走って学生たちに通達するのは、
指揮長を恨みに恨んでいる目の下のクマが酷い人こと、
補修講座監督の紀伊一葉さん。
通りすがりに「サンキュー魔法少女!」と感謝の一言を送り、
「目的地は謎世界だ――――!」と大声で叫びながら、
卒論未提出生の大群に向けて、
腕をグルングルン回してGOサインを出し、
大通りをまっすぐ突っ切らせていく。
先ほどまで怯えきっていた収容前の学生たちも、
「逃げたきゃついてこーい!」と呼ぶ逃亡卒論生の言葉で彼らについて行った。
……で、わずかに残った四回生らしき大学生は紀伊さんに問いかけた。
「大学部の四年は!?」
「お前らはだめ! 卒論を書け!」
「月読学園は自由な校風が売りだろ!?」
「うるせえ卒論書くまで逃さねえ! 捕獲ネット展開ッ!」
「「「うわあああ――――っ!?」」」
紀伊さんがとつぜん投げた名称不明の球体が網になり、
四回生を一網打尽にする。
彼はそのまま一端を手繰り寄せ、
暴れる四回生たちをタワー内へとズルズル引きずり込んでいった。すごい腕力。
それから遅れて、いちご・おさげ・ミロ・州柿先輩が到着する。
「はぁ、はぁ、お待たせ夜見!」
「わあ! お、おかえりなさいいちごちゃん! みんな!」
「大学四年生は卒論未提出だと不味いとのことで、説得出来ませんでした!」
「そもそも今日まで遊び呆けて書かへんのも悪いしな」
「まあそうですよね」
「ですわよね」
うんうんと納得する私たち。
自由は大事だけど、卒業できないのはもっと良くない。
彼らの将来と、彼らのパパママの出費がかかっているのだから。
「でもちょっと待って! それは今する話じゃなくない?」
「あっ……ですねいちごさん!
――ねっ!? おさげさん!」
「せ、せやなミロはん!
この混乱に紛れてうちらも謎世界の裏口に逃げるで夜見はん!」
「えっ!? どど、どこにあるんですか!?」
「「夜見が手に入れた謎カード!」」
「ああっ、あれが!?」
唐突だったが、謎世界の裏口から降りてきたのだとすれば、納得がいく。
つまり地上ではなく上空に裏口を作ったのだ。
だったらあの子を呼べばいい!
「来て、フェザー! 私たちをお空の上に連れて行って!」
『ピーウ!』
呼び声とともに、待ってましたとばかりに舞い降りてきたのは、
家一軒分くらいありそうなバカでかい雷鳥、フェザー。
私たち全員を乗せてもスペースが残るくらいに大きくなっている。
そして、着地と同時に乗りやすいように座り、身体を傾けてくれた。
みんな急いで乗り込むと、返事も待たずに飛び立つ。
「ピーウ!」
「「うおおおお――――!?」」
最後に後方で撮影班をしていたライブリ&ダント氏ペアを、
羽毛もふもふの足でがっしり掴み、天高く飛翔。
雲が見えてきたので今だ!
「扉を開いて! シンデレラフィット・スター!」
私の声にカードが答え、目の前に出現。
まばゆく光って、はるか空の上に白亜の城を生み出す。
それはゆっくりと門を開き、キラキラと銀色に光るゲートを生みだした。
「飛び込んでフェザぁ――――っ!」
「ピーウ!」
私の掛け声で、フェザーがさらにスピードを上げる。
雲の合間のキラキラゲートに向かって、そのまままっすぐ突っ込んだ。
――瞬間、銀色のエモ力が弾ける。
ポータルに入ったと思ったら、目の前はいきなり雲の中。
パチパチとした不思議な感触をもったエモ力が顔や肌に当たるので、
目をつむって耐え、雲の中を突っ切る私たち。
しかしそれはすぐに終わった。
「う、うう……?」
「わあ、すっご……!」
サンサンと温かい太陽の日差しを浴び、私たちは目を開ける。
そこに広がっていたのは広大な水面の上にそびえ立つ高松学園都市だった。
同時に、地上から光の滑走路のようなものがこの上空まで現れ、
フェザーはそれに従って、
都市中央付近にある私の自宅の裏庭まで舞い降りた。
「わあ……色々と知りたいことばかり……」
「グワッ」
「あ、はい。降ります。みんなー!」
「「「はーい」」」
到着と同時にはよ降りろと急かすように鳴くフェザー。
いそいそと降りると、ぽふんと白い煙を出し、手乗りサイズまで小さくなった。
そのまま庭に生えている雑草をついばみ始める。
「ククッ、クルルルル……」
「あ、ええと、ダントさん。あの鳴き声の意味とか分かりますか?」
「そのへんの雑草だけど美味いなと言っているモル」
「なるほど、流石です」
「どういたしましてモル」
ダント氏はフェザーの言葉が分かるのか。
キラーパスを出して正解だった。お互いに親指を立てて認め合う。
彼を頭上に乗せているだけで、
全く関係ないライブリさんが誇らしそうに腕を組んで静かに頷いた。
「夜見さん? 少し会議を開いてもよろしくて?」
「あっはいサンデーちゃん戻ります」
そこで二人だけの世界から脱出。中等部一年組改め、
即興部隊の「謎世界解明ゲームセンター部」の輪に戻る。
で、会議のまとめ。まずは状況の整理と安全確認が大事とのことで、
この裏庭や私の自宅を調べることになった。




