第260話 学生たちを助け出そう!①
「まず、学生が意味もなく集まってもいい理由が必要よね」
といういちごちゃんの発案から、
屋根付きガレージに置かれたままのアーケード筐体にフォーカスが当たる。
月読学園の近くに秘密のゲームセンターがあれば、
多少なりとも学生の興味は引けるはずだ。
それを私の家のガレージに作ろうと、みんなで合意する。
すると州柿先輩が口を開いた。
「せっかくだし、謎世界側に安全に入れる裏口も作っちゃわない?」
「例の口寄せで……ってことですか?」
「そうそう。夜見ちゃんの受け継いだ名字、
西園寺家に雇われた歩き巫女さんたちに管理を手伝ってもらおうよ。
わたしら魔法少女はあんまり長く香川に滞在できないわけだし」
「そうですね。テレパシーで連絡してみます」
額に指を当て、『奈々子、聞いた?』とテレパシーを送る。
奈々子は快く了承してくれて、たった今向かわせたと教えてくれた。
しばらくして、佐藤ツムギさん率いる数名の黒髪私服美女が、
私の家までやってくる。
彼女たちはイメチェンした私(紫髪ロングの姿)を見るなり、
うるっと涙ぐんで「お美しい……」「可愛すぎる」などとうろたえたものの、
途中で自制心を強めたのか、すぐに冷静な対応に戻った。
「……お久しぶりですライナ様。佐藤ツムギです。
依頼内容はすでに奈々子さまから聞いています。何なりとご指示を」
「あ、はい。どうもお久しぶりです。
ちょっとだけ待ってくださいね、どうするか聞きます」
発言に困った私は州柿先輩を見る。
すると先輩はガレージのアーケード筐体を指さした。
「あれを結界の要石にして、
謎世界の空白領域部分をゲームの世界観で上書きする感じでいいと思う」
「な、なるほど?」
聞いたところで分からない。
今よりもさらに高度で専門的な知識が必要みたいだ。
再び振り向いて歩き巫女の佐藤さんたちを見ると、
彼女たちは分かっているようだった。
「つまり……そのアーケードゲーム筐体の世界観を、
謎世界に付与すればいいわけですね。サクッと仕上げます」
そう言ってアーケード筐体に集まり、
「かけまくも~」と祝詞を呟きながら指先で宙に星を描き、
手のひらで筐体に押し付ける。
すると、筐体の下に一瞬だけ青い魔法陣が浮かび、消えた。
終わったようだ。
「……終わりました。
謎世界は今後、このアーケード筐体のゲーム世界の法が優先されます」
「もう終わっちゃったんですか?」
「はい。ざっくりと説明すれば、
現実から謎世界に対して、結界の強度を保証する縛りを設けました。
消滅させない代わりに、こちらの身の安全を保証させるという、
単純ですが強力な縛りですね」
「相互確証破壊みたいな感じですかね……?」
「物言いが物騒ですよライナ様?
謎世界と協力関係を結んだのかなというんです、そういう時は」
「ああ、そうですね! 失礼しました!」
佐藤さんの言う通りだ。
もっとプリティな言葉遣いを心がけないと。
まあ、特に活かされることもない私の反省はさておき、
報酬は後払いでいい、ここで謎世界の管理をさせて欲しいというので、
ガレージの管理は佐藤ツムギさんたちに任せた。
「あ~、楽に稼げるわ~」
「お優しい、ライナ様は本当にお優しいお方です……」
「お、近所にコンビニとか雑貨店がある。ザ・都会って感じ~」
……急に普通のお姉さんになる彼女たちはさておき、
私たちは月読学園に強制収容された大学生の救出方法について話し合う。
「とりあえず、謎世界の安全性は確保されたと信じましょう!」
「せやなミロはん。
やけど、安全な裏口を作るっていう話やった気がすんねんけど。
州柿先輩はん、そこら辺はどうなん?」
「それはあと♡ 先にぃ、大学生を逃がす方法を考えよっか♡」
「それこそシンプルに正面突破ですわ!」
握りしめた拳を、もう片方の手のひらで受け止めるサンデーちゃん。
「何の罪もない人たちが目の前で虐げられているんですの。
真っ向から立ち向かうべきですわ!」
私もうんうんと頷いて同意する。いちごちゃんは続けた。
「じゃあサンデーと夜見は真正面から乗り込んで、
他のメンバーは騒動に紛れて潜入し、学生の開放を目指す方がいいわね」
「せやな。ミロはんと州柿先輩が本命や」
「りょーかい♡」
「分かりました!」
役割分担も済んだ。私とサンデーちゃんは陽動らしい。
「じゃ、次は月読学園サイドの協力者探しね。
ねえ夜見、協力してくれそうな知り合いいない?」
「いますね。ダントさん?」
「大丈夫、いま願叶さんとの情報共有を済ませたモル」
ライブリさんの頭上に目を向けると、
ダント氏が私のマジタブでメッセージを交換し終えていた。
「学生たちの保護と、彼らが謎世界に逃げ込むためのルートは、
僕たちに任せて作戦を実行してくれ、とのことモル」
「心強いですね! よし、じゃあ――」
「ええ! 最後は私たちが月読学園で名乗る部活名よ!」
「ぶ、部活……?」
「部隊名とも言うよね♡」
「あっ、そういうこと!?」
学校モチーフだったせいで理解が浅かったが、
州柿先輩のフォローでようやく、いままでの知識と用語が一致した。
私たちは魔法少女であり、公安の特殊機動部隊。
インスタント部活の名前がそのまま部隊名になるのか。
んふふ、ワクワクしてくる。
「いちごちゃん! 部活名は何にしますか!?」
「救出した大学生たちも名乗れるようにしたいから、
謎世界と、その研究に関するワードは大事よね?」
「あとは……要石になっているアーケードゲーム筐体ですの?」
「謎世界、研究、アーケードゲーム部、とか?」
私が草案を出すと、おさげちゃんは指を振った。
「ちゃうちゃう。もっとふざけた名前にせなあかん。
うちらの部活名を呼ぶたびにモヤモヤさせて、
敵対する相手のダークエモ力を無駄遣いさせな」
「お、おお……」
敵の戦闘リソースの余計な消耗。
そ、そこまで考えて名付ける必要があるのか。奥が深い。
するといちごちゃんが「来た、天啓よ」と言って指を鳴らした。
「謎世界解明ゲームセンター部。
夜見の案を元に、いい感じにアレンジしたわ。
これでどう?」
「おお、いいですね!」
「ま、妥当やな」
残る二人、サンデーちゃんとミロちゃんもグッドサインを出し、
ライブリさんと州柿先輩も満足そうに腕を組んだ。
エモーショナル茶道部改め、謎世界解明ゲームセンター部の新発足だ。
あとは行動を起こすのみ。
「夜見さん、行きますわよ」
「分かりました。じゃ、そっちはお任せします」
「「「任せてー!」」」
別動隊として動く四人とは一旦お別れだ。
「グワッ」
大人しく私の頭上に乗っていたフェザーも、
騒動の気配を感じたのか急にバサバサと飛び立ち、
ムクムクと大きくなりながら上空で飛び始めた。
「わあ、フェザーがストレス感じちゃったみたい」
「いいえ、臨戦態勢になったと考えるべきですわ。
自分の役割が分かっているんですのよ」
「なるほど。ポジティブ思考って大事ですね……!」
マジカルステッキを取り出した私とサンデーちゃんは、
六十階への強制収容から月読学園生を助けるべく、
月読生徒会風紀部に真正面から勝負を挑む。
「ダント、俺たちはプリティコスモスに続くぞ」
「分かったモル」
ライブリと聖獣ダントは二人と少し距離を取りつつ、
いつでも救援に入れる位置につき、
彼女たちの後を追った。




