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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
三章 おじさん、魔法少女になる

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第21話 おじさん、テロリストに襲撃される

 教室の机は角に退けられ、私たちは部屋の中央に集められる。

 私は一番大きく目立つので、動きづらいよう、みんなに囲まれるように座らされた。


「よーし、集まったな。ではマジカスステッキを出せ! オモチャみたいな変身武器だ! 出さずに隠し持とうとした者は射殺する! それを秘密にした者も同罪だ!」


 彼らは私たちから変身武器を奪って、どこかへ持ち去っていった。

 色々とこちらのことを知っていることから、どうやら本当にテロリストらしい。


「だ、ダントさん」

「夜見さん、今は静かに。あれを見るモル」

「はい」


 ダント氏が指さした方角では、クラスメイトの聖獣達が動いていた。


「……うん、この人達、私たちが見えないみたいチュン」

「私たちは動けるぴょん」

「よし、話し合おうワン」


 どうやら、彼ら抵抗組織には聖獣の姿が見えないようで、私たちは従うふりをして反攻の時を待つことにした。

 私たちのサポート役である聖獣達が集まって会議をし始める。


「先に一つの案を提示するチュン。ダントさんとプリティコスモスに全てを任せて戦ってもらうべきチュン」

「どうしてモル?」

「私たちは250から多くても500エモーションしかないぴょん。だからマジカルステッキで変身しないと魔法が使えないぴょん」

「でも、5000エモもあるプリティコスモスなら、素の状態でも魔法の力が使えるはずワン」

「そ、そうなんですモル?」

「えっ、ど、どうして知らないワン?」

「ワンダさん。ダントさんは有名だけど新人聖獣さんだから、魔法少女に詳しくないんだぴょん」

「くぅん……ダントさん、ごめんなさいワン」

「こちらこそ不勉強を恥じますモル」


 何というか、ダント氏の立ち位置がよく分かる会議だ。


「――簡単に言うと、魔法少女にはそれぞれ固有の力があるぴょん。オンオフはマジタブのカスタマイズ機能を使うのが一番手っ取り早いぴょん」

「でも、この状況でマジタブは見れないモル」

「それなら古から伝わる方法、エモーショナルセンスの強制励起(きょうせいれいき)を使うぴょん」

「一体どうすればいいモル?」

「これは一桁台(シングル)と呼ばれる伝説の世代の一人、魔法少女レッドスクリプトが初めて魔法に目覚めた際の方法ぴょん。方法は簡単で非常に危険。誰かを守るべく敵の目の前に飛び出し、強い殺意を浴びること」

「き、危険すぎるモル……!」

「とても危険な賭けぴょん。でも他に方法がないぴょん」

「そんな……そんなのダメモル。夜見さんはただでさえ可哀想なのに」

「分かっているぴょん。でもね、ダントさん。それでも立ち向かわなきゃいけないのが、魔法少女なんだぴょん」

「いや、うさぴょんさん。ダントさんの言う通り、他にないか考え直そうチュン。レッドスクリプトは幼い頃から格闘少女だったから立ち向かえた。それにもし、プリティコスモスの能力が戦闘に関わらなかったら、みんな殺されちゃうチュン」

「それは、うん、確かに一理あるぴょん……」


 会議は難航しているようだ。

 戦闘が起こると聞いた私は、先にテロリストの配置を確認しておいた。

 部屋中央の私を起点に、マシンガン装備の八名が私たちに銃口を向けながら囲い込み、出口では一人の指揮官らしき男がハンドガンを片手に暇そうにしている。


「隊長、中等部二階、その隣校舎二階までの制圧は終わりました」

「捕虜は」

「いえ、全て空でした。三階の連絡通路を使って逃亡したようで、全員高等部の校舎に立て籠もっています」

「三階は」

「敵とのにらみ合いが続いています」

「チッ、面倒な形しやがって」


 こちらがただの小学校上がりの少女だと油断しているのか、内情をべらべらと喋ってくれていた。ダント氏に目配せすると、ふと思い出したような顔をしていた。


「……いや、待って欲しいモル。もしかしたらその案で良いかも」

「ど、どういうことだチュン?」

「今思い出したんだモルけど、夜見さんは、すでにそんな目に合っているモル」

「ホントにどういうことだワン!?」

「だからエモーショナルセンスは励起(れいき)しているはずなんだモル。あとは夜見さんが力の名を知るだけ」

「じゃあ簡単だぴょん。ダントさん」

「はいモル。夜見さん、僕の言葉をよく聞いて欲しいモル。君の力の名は――」


 緊張で息を呑む。


「――身体強化の力、『ギフテッドアクセル』モル」


 ギフテッドアクセル。

 理解した私は小さく頷く。


「力のギアを入れるには『ブースト』と言うモルよ。その瞬間に体感時間が伸びて、敵の動きがスローに見えるようになるモル。体は普段どおり自由に動くモルから、一気に倒しちゃって!」


 OK! 私は二度頷いた。


「そこのピンクの貴様! さっきから何をしている! 遊んでいるのか!?」

「え!? い、いや、そのー」

「なら立ってこっちに来い! 俺の膝元で静かに座ってろ!」


 すると指揮官様から直々のご指示が下る。

 これはこれは、とてもありがたい。


「夜見さん、僕のカウントにタイミングをあわせるモル。ゼロで開始モル。5、4、3、2――」


 私が近づくにつれ、指揮官は警戒を解いてハンドガンを降ろし、膝下を指差す。

 確かに戦い慣れはしてないけど、そんなに侮られるような容姿――でしたね。

 大きいと言っても所詮は女子高生と同じでした。

 相手は高身長の大人ですもん。勝ち目なしです。


「――1、ゼロ!」


 普通はね。


「ブースト」


 ギュァァァッ――

 力の発動と共に、急速に思考が早くなった音がした。

 私は、どんどんと動きが遅くなる指揮官のヘルメットを剥ぎ取り、力の限り思いっきりぶん殴った。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「なら立ってこっちに来い! 俺の膝元で静かに座ってろ!」  この指揮官、完全に変態でセクハラ野郎ですね。  滅されて良いと思います(無表情)
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