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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
三章 おじさん、魔法少女になる

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第19話 おじさん、生徒会長から担任不在を知らされる

 同級生との親交を深めていると、隣のテーブル席の副会長から『他の陣営への臨時加入を許すから、腕章は暫く使用するな』と申し付けられた。

 みんな驚いた顔になり、緑腕章の先輩がニヤリと笑ったのは言うまでもない。


 親睦会は数名の生徒が門限だと話す午後五時で終了し、それぞれ帰路についた。

 私は、帰り道が同じだと言う赤城さんと一緒に。


「ねぇ夜見ちゃん」

「何ですか赤城さん」

「夜見ちゃんの家ってどこ?」

「たしか上東区です。高級住宅街の」

「番地は? 表札の名前は?」

「えっと、109の42……だったかな。表札は遠井上家です」

「ふーん……? ね、君の部屋の窓の鍵さ、開けておいてよ」

「どうしてですか?」

「明日の朝に向かえに行くから」

「でも防犯的にちょっと――」

「先に言うよ? もし開けてないとピッキングしてでも拉致する。問答無用で」

「開けときます……」


 赤城さんは怖い人だ。

 従わないなら犯罪行為も辞さないって、どういう経験があったら言えるようになるんだろう。

 私は明日になるのが怖くて、家に帰ってすぐに義理の妹の遙華ちゃんに泣きついた。


「先輩が怖いよぉはるかちゃん……」

「どうこわかったの?」

「野獣みたいな目つきだったの……」

「おねーちゃんはせんぱいさんによわよわさんなんだね。しょーがないから、わたしがよしよししてあげうね」


 なでなで、よしよし。

 ちっこいおててで頭を撫でてもらって、膝枕もしてもらった。

 執事さんは苦笑していたが、色々なことがありすぎて疲れたんです、と今日の出来事を教えると、でしたら今日だけは見逃しましょう、と言ってくれた。


「ですがライナ様。あまりそのような……幼娘(おさなご)に甘える姿ですが、衆人に見せないよう注意してくださいませ。よいですな?」

「はい」

「ライナちゃん、おなかすいてますか? おもちゃさんがいりませんかー?」


 私と遙華ちゃんの母子のようなおままごと関係を表すように、ガラガラ、と音がなるオモチャだけが鳴り響いていた。



 ピピピッ。ピ――

 次の日、私は目覚ましの音で起きる。

 身支度を終えて制服に着替えていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。


 コンコンコン。

『ライナ様、よろしいですか』

「今着替えてますので少々お待ちをー」

『分かりました、ではリビングで』


 何だろう? 赤城さんが来たのかな?

 キュッとリボンの調整をして完了。リビングに出る。


「やぁ夜見くん。朝から悪いね」

「生徒会長さん!?」


 待っていたのはまさかの生徒会長だった。

 執事さんは『ライナ様。送迎の準備は出来ています』とだけ伝えて下がっていった。

 私は場を受け持つべく、慌てて会長を近くのソファーに案内しようとしたが、このままでいいと静止されて、話しだされた。


「夜見くんすまない。とても困った事態が起きたんだ」

「何があったんですか?」

「江東区で敵怪人が活性化し始めてね。赤城くんの緊急出撃が決まった」

「え?」

「だから、君の担任の先生はしばらく居ないままになる」

「ええええ――――!?」


 突然のことで、朝から元気に叫んでしまった。


「じゃ、じゃあ、私は誰から学べば――」

「夜見さん落ち着いて。続きは送迎車の中でした方が良いモル」

「あ、ああ、はい。ダントさん。会長、よろしければ」

「ああ、相乗りさせてもらうよ。続きはそこで話そう」

「はい」


 私と会長は、まさかの同じ送迎車で女学院に向かう。

 高級車特有の静かな乗り心地の中で、私たちは言葉を交わす。


「それで会長、私は誰から学べば」

「そのことだが、赤城くんがこう言っていたよ。『君に教えられることは実戦以外ない』と」

「つ、つまり? まさか……!?」

「待て、待ちたまえ。いきなりそんなことはさせない。赤城くんが戻ってくるまでは普通に授業を受けることになるだけだ」

「良かったぁ」


 ほう、と安堵の息を漏らす。

 会長は少しだけ笑顔でこう言った。


「でも安心するのはまだ早い。一番の問題は、君一人だけでこれから始まる『シャインストーン争奪戦』をクリアしなければならない、という点に尽きる」

「シャインストーン争奪戦」

「ああ。君も魔法少女ランキングという名を聞いたことがあるはずだ」

「はい。今はマジタブのアプリが主流だと」

「君たち中等部は、これから怪人ボンノーンとクライミー、その上の幹部怪人との戦いも想定したシミュレーション訓練を受けることになっている」

「は、はい」

「魔法少女ランキングはその成績表のようなものだ」

「なるほど!」

「そして我々生徒会は、現役生と訓練生がどういう関係であるべきか、と赤城くんにアピールさせたかったんだが、理想と現実は違うものだね。すまない夜見くん」

「いえいえ……そ、それで、シャインストーン争奪戦ってなんなんですか? 私何も知らなくて」

「校則違反になるから語れないんだ。詳しくは先生に聞いてくれ」

「うう……分かりました。でも、シャインストーン争奪戦ということは、そのままの意味でとらえて良いんですよね?」

「ほう、君は頭が切れるな。そういうことだ」

「が、頑張ってみます!」

「ふふっ、赤城くんの言っていた通りの子だ。頑張りたまえ」


 ガチャ。

 送迎車のドアが開き、執事さんが『到着でございます』と告げる。

 正門は目の前だ。


「ライナくん、先に行きたまえ。私はあとで向かう」

「どうしてですか?」

「副会長が側に居ないと、その、勘違いされるんだ。だから彼女が迎えに来るまで待つのさ」

「不思議な関係ですね……」

「勘違いしているようだが、恋仲という意味ではないよ。見知らぬ誰かが勘違いして君の首を狙いにくるという意味だ」

「わわ、そういう意味でしたか。ではお先に失礼します」

「ああ。気をつけて」


 車外に出るとき、執事さんに『後はお任せください』と言われたので、任せることにした。正門を抜け、女学生に混じって中等部校舎に向かう。

 すると右肩で静かにしていたダント氏が話しだした。


「罪な女モルね、夜見さんも」

「えー私が悪いんですか?」

「ま、とにかく。会長が側にいても嫉妬されないくらい、凄い魔法少女になろうモル!」

「うーん私に出来ますかねー?」

「夜見さん、そこは頑張るぞー、と叫んで欲しいモル。不安ばかり口にしてたらエモ力が上がらないモルよ?」

「あ、そうだった。エモ力が上げるには自己肯定感を上げないといけないんでしたっけ?」

「わ、忘れてたモルか……しょうがない、クラスについたら改めて説明するモルよ」

「はーいっ」


 校長先生に言われていた通りに私は一年Z組だった。

 新しい座席表も、昨日と同じ一番後方の窓際だったので、少しは幸運があるんだと安心した。

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