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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
七章エピローグ

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第167話 おじさん、赤城先輩と座学の勉強をする

 さらに一週間後。クリスマスイブの日。

 制服姿の私は遙華ちゃんを連れて赤城先輩の部屋のドアを叩いた。


 コンコンコンコン。

「赤城せんぱーい。出てきてください」

 ドタドタドタ……ギイ。ゆっくりとドアが開かれ、赤城先輩が顔を見せる。

 メイクも制服の着こなしもバッチリなのに中々出てこなかった。

 ああ、マスクをしてないからか。

 私のお化粧ポーチから取り出し、渡してあげると喜んで装着した。


「よし赤城ちゃん完成。二人ともおはよー」

「おはようございます」

「おはとうごあます!」

「ふふ、面白い子。ええと、入る?」

「せっかくですから外に行きましょう」

「今日が何の日が知ってるよね?」

「クリスマスイブですね」

「恋人の日だよ?」

「先輩と私はもう恋人でしょ?」

「そうだけどさぁ」


 恥ずかしそうにモジモジ。

 何か言いよどんでいるようだ、と分からないふりをしつつ。

 ほんのりと頬を赤らめる先輩の手を引いて、外に連れ出す。


「外で一緒に遊びましょうよ」

「せ、積極的だね。今日は私狙い?」

「一週間ほど、先輩と一緒に座学の勉強をして分かったことがあります」

「何が分かったの?」

「赤城先輩って焦らされるのが好きですよね」

「いやっ、まあ、そんなことは……あるけどぉ」


 恥ずかしいからか、爪や指を丁寧にケアをした手で顔を隠し始める。

 事あるごとに色っぽい仕草でベッドインを誘ってくるので、我慢できずにネイルの練習台にしたらずっとこの調子だ。

 今ではネイルを見せるたびに、私こと夜見ライナの一部になったような実感が湧いて、脳が幸せを感じてこんがり焼かれるらしい。

 ワードセンスはともかく、先輩が幸せそうで私も嬉しい。


「今日は先輩をどこに連れて行くの?」

「正面校舎に行って実戦講習の座学を勉強しましょう」

「んふふ、ラブラブなとこ見せつけていいんだ?」

「ただちょっと距離感が近く感じられるだけの勉強会ですよ」

「匂わせ~」


 先輩もやる気になったようだ。

 遙華ちゃんと赤城先輩のペアショットを撮り、マジスタにアップする。

 フォローしている中等部一年組からのいいねが来て嬉しくなった。


「はあ、急に万バズしなくて安心します……」

「バズり制限(せいげん)機能、便利でしょ?」

「はいとても。友達と交流しやすくて助かります」

「はるかもおはなしにまぜて~」

「ああ、ごめんなさい。先輩、話はこれくらいにして行きましょうか」

「そうだね。行こ」


 マジタブの話題はほどほどに、正面校舎に向かう。

 一階の自販機で三人分のいちごミルクを買ってから二階に上がり、適当なベンチに座って、先輩や遙華ちゃんと雑談しながら実戦座学を学ぶ。

 赤城先輩の勉強法はかなり特殊で、カスのような嘘知識や、どうでもいい豆知識を叩き込まれているはずなのに、終わってみれば座学の知識しか残らないのだ。

 理由も理由で、


「どうしてノートやメモも取らずに覚えられるんでしょう?」


 とつい口を滑らせたところ、


「私の話だけ聞いてればいいからじゃない? 学校の授業って気が散るじゃん」


 と根も葉もない話をされた。

 まあ、そこから「魔法絡みの事件は伝聞に頼ることが多いから」という情報が開示され、聞き取り調査の重要性に繋がり知見を得たので、やっぱり赤城先輩が凄い。

 頭の中が整理整頓されていて、関連ワードを聞くとすぐに引っ張り出せるのだ。

 天性のおしゃべり力とはこういうことだろう。


「それより昨日も話した空飛ぶポテト、フライドポテトの話なんだけどー」

「またですか? ダントさんノイローゼになってましたよ」

「なんのおはなしー?」

「ああ、遙華ちゃんはまだでしたっけ」

「ききたーい!」

「聞く!? 実はね、空輸されたポテトがあったんだけどさー」


 そして隙あらばフライドポテト語り。

 何か関連ワードがあるとかではなく、単純に好きすぎて一生擦るつもりのおしゃべりの定番ネタ、いわば十八番らしい。

 夜見ちゃんも定番ネタがあると盛り上がるよ、と言われたので現在模索中だ。


「――わかった! おそらをとんだじゃがいもさんのおはなしなんだね!」

「そう。おそらを飛んだじゃがいもさんなの。それを英語で言うとー……?」

「フライドポテト!」

「よく出来ましたー」


 遙華ちゃんは賢いねー、と彼女の頭をナデナデする赤城先輩。

 私は微笑ましくなってクスリと笑った。


「先輩も子供のお世話が得意なんですね」

「ん?」

「ああいや、ええと、子供のお世話が得意ですねって」

「ああー……」


 急に先輩の視線が曖昧になり、目を閉じ、お腹を抑えて大きく深呼吸。

 どうしたんだろう?


「先輩?」

「遙華ちゃんって私たちの子供だったかもしれない……」

「ええ……急になんですか怖い……」

「いやさ、黒髪で、美少女で、しかも夜見ちゃんの家族って、それって実質私と夜見ちゃんの子じゃない? 知らないうちに産んでたかも」

「たしかに」


 先輩がよく分からないゾーンに入ってしまった。

 でも、やけに興味が湧く幻覚だ。乗ろう。

 

「言われてみればそうなのかも。大切に守りたい子ですし」

「遙華ちゃん、これからは赤城家を名乗っていいからね」

「わかったー!」

「わあ、家名を継承させる幻覚まで見せちゃった……」

「だってさ? 可愛いじゃん?」

「分かりますー、傾国の美女感がありますよね」

「でしょ?」


 しかしすぐに遙華ちゃんの可愛さについての話に移った。

 そこから「傾国の美女といえば警告なんだけど」とワードが繋がり、さらにハンドルが急回転されて黄金のワンエーカー繋がりでファンデットの話題になる。


「夜見ちゃんの友達はさ、市内に潜んでる隠れファンデットの捜索はやってる?」

「か、隠れファンデット?」

「通称オクトパス探し」

「オクトパス探し? ちょっと何のことか分かりません」

「魔法少女試験で触手型ファンデットが出たじゃん? あいつら複数いるんだよ」

「そうなんですか!?」


 まさか、まだファンデットが潜んでいたとは。


「うん。手持ちのシャインジュエルを増やせるし、興味が出たら探してみなよ」

「貴重な情報をありがとうございます!」

「どういたしましてー」

「ねえねえ! おくとぱすってなに?」

「タコさんのことですよー」

「はるかもタコさんウィンナーすきだよ!」

「すっごく美味しいですよね」

「分かるー」


 赤城先輩との雑談と座学はいつものように夕方まで続いた。

 疲れて眠ってしまった遙華ちゃんを抱えて寮に戻り、赤城先輩と別れてワープドアでお家に帰すと、ダント氏がゲンさんの聖獣講習から帰ってきた。

 私は聞き取り調査の重要性や隠れオクトパスの話をして、また探しに行きましょうね、と約束し、赤城先輩の部屋につながるワープドアをノックした。


 コンコンコン、コン。

 ガチャ――。

「ふーん今日も入り浸っていいんだー」

「ネイルのケアをしたいだけですよ。毎日呼びますから」

「夜見ちゃんのえっち」


 ちゅっ、ちゅっ。

「はぁぁ……っ」

 首元でチークキスをされ、今にも高ぶりそうな心を抑えつつ、先輩の手を取り、目の細かい爪ヤスリで爪の形を微調整し、ケアオイルを塗って爪全体を保湿する。

 さらに大事な手が冬の乾燥で荒れないよう、たっぷり化粧水を擦り込み、ハンドクリームを薄く揉み込んであげると、赤城先輩はこそばゆさに指をビクつかせながら恥じらった。


「夜見ちゃんはもうさ、手付きが分かってるんだよね」

「我慢してる身にもなってください」

「やだ。いつか襲わせるし」

「もー」

「……はあ、なんて綺麗で美しい手」

「そうでしょ?」

「うん」


 彼女は綺麗に整えてもらった手指を、世界で一番の宝物かのように眺める。

 好きな人が自分のために作ってくれた誰にも渡さなくていい宝物。

 常に身につけられて、幸せを共有できて、でも本当の価値を知ってるのは私だけ。

 女の子にとってこんなに幸せな贈り物があるだろうか、いやない、と結論づけた彼女は、クリスマス気分を楽しむように、夜見ライナの肩に寄りかかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] fly(飛ぶ)とfry(油で炒める)の掛け言葉ですな。 尤も、フライドポテトは和製英語で正しくは「french fries(米語)」または「chips(英語)」ですね。 英語圏でフライド(f…
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