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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
七章エピローグ

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第166話 おじさん、デートのリザルトを貰う

 遙華ちゃんを抱えて寮の部屋に戻り、どこでも遠井上家ドアから家に帰ると、お手伝いさん総出で私の部屋の収納棚をくまなく捜索中だった。


「遙華さーん! かくれんぼはやめて出てきてくださいなー!」

「旦那さまが心配されてますよー!?」

「あ、あのー」

「「「ライナさん!?」」」


 お手伝いさんたちは私たちにびっくりして、小走りで部屋から出ていった。


『奥さま! 旦那さまー! ライナさんと遙華さんが戻られましたよ~!』

『戻ってきたのね!』

『本当か!? ああ、良かった!』


 願叶さんと凪沙さんの声のあとにドタドタと廊下を駆ける音。

 わずかに憔悴した様子の二人が顔を覗かせると、遙華ちゃんはいたずらっ子っぽい笑みを浮かべた。


「みつかっちゃった!」

「ら、ライナちゃんが見つけてくれたのかい!?」

「ああ、はい。正面校舎の中で遊んでいたところを見つけました」

「本当にありがとう! これで病院の予約に間に合う!」

「え?」

「ライナちゃん、ちょっと急ぎの用事なの。遙華を渡してくれる?」

「あ、はい」


 凪沙さんに身柄を引き渡すと、遙華ちゃんは何かを察したのか暴れ出した。


「お注射いやぁー!」

「ダメよ遙華。旅行行くんだから今日までに全部の予防接種やらないと」

「いやー! ぎゃああああん!」

「わあギャン泣き……」

「ごめんねライナちゃん。本当に急いでるからこれでね」

「ああはい。どうぞ」


 行ってらっしゃい、と二人を見送る。

 すかさず佐飛さんが入ってきて私の名前が書かれた予約表を見せられた。

 インフルエンザや新型感染症、四種混合に狂犬病予防などの海外渡航ワクチン。

 ワクチン接種てんこ盛りセットだ。


「これは」

「ライナ様は明日でございます」

「わあ……分かりました」


 では、と佐飛さんも急いで二人の後を追う。

 部屋に残り、予防接種の予約があると聞いてとまどった私は、とりあえず赤城先輩に相談するべく女学院の自室に戻った。

 思考を切り替えるためにお風呂に入ってから、わずかに休憩し、夜になったところで隣の464号室にいる赤城先輩を尋ねる。眠そうだったが対応してくれた。

 場所を移し、中央の大階段付近にある自動販売機エリアで話し合う。


「さて、じゃあデート配信のリザルトでもしよっか」

「実は明日、予防接種みたいなんです」

「ん、怖いの?」

「たぶん。ええ、はい」

「夜見ちゃんなら耐えられるよ。頑張って」

「が、頑張ります」


 よしよしと頭を撫でてくれた。

 なんだか明日を乗り越えられそうな気がする。


「夜見ちゃんって実は甘えん坊さんなんだね」

「あはは、ついにバレちゃいました」

「あんまり無理して隠さずに、友達や私、家では両親にちゃんと甘えるんだよ?」

「は、はい。それも頑張ってみます」

「よろしい。それじゃあ今日のデート配信のネタバラシに入ります」

「どうぞ」


 赤城先輩がマジタブで見せてくれたのは、夕方ごろに倒した半グレたちに待機指示を出す朔上警備隊の方々の姿だった。

 マルちゃんは市内のパトロール中にそれを見つけたようで、倒そうとしたらしい。

 先ほどの個人商店以外にも、彼女はいくつかの拠点を壊滅させ、最後にたどり着いた場所でリーダー格に圧倒されて敗北。あの場面に繋がったようだ。


「主人公してますね……」

「そうだね。これをふまえたうえでどうするべきだったか考えてみて?」

「まず、朔上警備隊の方々と接触するのが正解の選択でした」

「一つ目の反省点だね。まだあるかな?」

「他にも、先輩と一緒に市内のパトロールに出向くのが正解で」

「二つ目だね」

「マルちゃんのように市内をパトロールをしていた魔法少女と情報交換して、協力していれば、マルちゃんは敗北しませんでした」

「三つ目も出たね」

「反省です」

「でもバトルはすごい強くてカッコよかったよ。活かしていこ」

「ありがとうございます」

「じゃあ次は私。赤城先輩の視点から見た正解ルートを言うね」


 赤城先輩はマジタブの画面を切り替え、さらなる追加情報を見せてくれた。

 朔上警備隊にそう指示を出した黒幕はアリス先生で、半グレ集団はスタントマンの方々であり、マルちゃんはそこに飛び込んできたようだ。

 その行動力と勇気を評価されて、重要な役回りを獲得したらしい。


「やっぱり撮影だったんですね」

「依頼が多いんだよねー」

「もう少しガッツリ出たほうが良かったですか?」

「いや、おとといにも言ったけど、夜見ちゃんはしばらく真面目お仕事モードNGです。そして赤城先輩とのデート配信は終わってません」

「つまりは」

「ワイルドハントと出会わないルートが正解でした。まだまだ撮影できたよ」

「最初の二択でミスッたー……」

「情報不足だったのと、遙華ちゃんの存在に惑わされちゃったね」

「遙華ちゃんを探すのは正解じゃないんですか?」

「ふふ、そうだね。でも視聴者視点では未解明のまま事件が幕を閉じてます」


 マジタブをポケットに収納した赤城先輩は、改めて自分の黄色い瞳を指差す。


「だから、サーキュラーを使いなさいというお話です」

「烙印の存在を確かめろと」

「そういうこと。真犯人はだれか見極められるようにならないとね」

「肝に銘じます」

「よろしい。ではサーキュラーの使い方を復唱」

「五秒ほど瞬きをしない」

「よく出来ました。次からはラインを超えつつ情報を集めて、考察を立てるように」

「はい」

「以上です。それじゃあ部屋に帰るね。私の背中をじっと見ててもいいよー」

「ありがとうございました」


 ここでサーキュラーを使ってみなさいという指示だ。

 頭を下げて見送り、すぐに先輩の背中を凝視する。

 すると彼女の背中に魔法陣が浮かび、時計で言う十二時の位置から、外円が導火線のようにチリチリと燃え尽きていくのが見えた。


「赤城先輩が悪人だった……?」

『はい、そこ。私が悪人に見えたであろう夜見ちゃんへ』

「うわ!?」

『驚いた? これは背中の魔法陣に仕込んでおいた録音ボイスです。魔法陣眼(サーキュラー)の初使用おめでとー。パチパチパチ』


 同時に耳元から赤城先輩の囁き声が聞こえる。

 そうだ、魔法陣パズル。

 魔法陣は魔法使用の痕跡になるだけじゃなく、結界術としての応用が可能だ。

 時限式にすればこんな芸当もできるのか。


『ちなみに烙印は悪魔の紋章のことだよ。こういう普通の魔法陣とはまた別です』

「わあそうなんですか」

『勉強不足ですので、まだまだ中学生してなさい』

「は、はい」

『それと部屋に帰ったらワープドアを四回ノックしてね。今日から座学を教え込むためにお互いの部屋を行き来したいので。あ、エッチの練習もしようね。ちゅっ』

「わか、わ、分かりました」

『ワープドアに戻すときは執事さんに貰ったベルを鳴らしてね。おやすみ』

「はひゃい」


 とんでもない情報を入手してしまい、私は顔を赤くして固まる。

 エッチの練習ってなんだ。エッチにも段階があるのか?

 ダント氏を見ると彼はこう言った。


「お互いを信じ合うモル」

「その場のノリで言ってませんか?」

「言っておけば状況が分からなくても乗り切れる言葉だって習ったモル」

「誰に?」

「先輩聖獣モル」

「ダントさんにも教育が必要ですね」


 冷静になり、自室に戻ろうと赤城先輩のあとに続く。

 赤城先輩は自身の部屋の中に入るまえに、投げキッスをしてくれた。


「愛してる」


 カチャン、とドアが閉じられる。

 二つ目の超えちゃいけないラインが見えた気がした。

 自室に入った私は、先輩の作ったワープドアを見ながら、どうしようか考える。

 ダント氏はお腹が空いているようで、晩ごはんの小松菜を食べだした。


「また土壇場で悩んでるモルね」

「あはは……洒落にならない事態が起きそうで」

「でも勇気を出すのが夜見さんの使命モル。やっちゃえモル」

「背中を押してくれて助かります」


 コンコンコンコン。

「赤城せんぱーい」

 ドアを四回ノックし、赤城先輩を呼び込む。しかし返事がない。

 耳を当てるとシャアアアア……というシャワーの音が聞こえるので、ああ今お風呂タイムかと納得した。さらに見える三つ目の境界線。部屋に入れと?


「ああそうか」


 だからライン超えじゃなく境界渡り。

 一度超えたら答えを得るまで際限なく進むしかないんだ。

 ここで犯罪者とヒーローの違いが出るんだな。

 ヒーローなら立ち止まって戻れるから。


 「じゃあここは正義の味方らしく超えないのが正解。結婚するまで我慢です」


 先輩との約束を思い出し、理性的に超えるべきではないと分かったのと、お腹が空いていたこともあり、佐飛さんに渡された呼び鈴を鳴らして遠井上家に帰った。

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― 新着の感想 ―
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