第150話 おじさん、心の友「魔法少女フェアリーテイル」と出会う
それから放課後のこと。
私は屋形先輩とともに裏梢千代市のコロッセオ――梢千代市民体育館におとずれていた。マジスタなどのSNSやインターネットの力を活用すれば特定はたやすい。
「やけに時間がかかりましたが、到着です」
「勝算はあるのかい?」
「我慢しないので大丈夫です」
「言っている意味はよく分からないけど、自信があるのはいいことだよ」
同時に、紺陣営の在り方についても疑問が生まれた。
ただのなりきりチャットだったはずの夜見ライナと遊びたいスレと連動するように、市民体育館前には紺陣営の腕章を付けた多くの上級生がいたからだ。
「私としてはこの状況の方が分からないんですが」
「単純な話さ」
「?」
誰一人として裏掲示板に書き込んでいないにもかかわらず、何が彼女たちを駆り立てるのかと思い、聞いた答えはこう。
「単純な話とは?」
「夜見くん。嘘がバレるとどう感じる?」
「心がズキッとします」
「じゃあ偶然が起こって嘘が真実になり、言い訳せずに済んで安堵したら?」
「嬉しい……あ、エモ力になりますね」
「紺陣営はそれを大掛かりにやって多くのエモ力を集め、貯蓄しているだけさ」
「なるほどー」
とても分かりやすい話だった。
溜まったエモ力の行方については……まあ、高等部三年が横領の罪とやらで停学を食らっていたし、そういうことなのだろう。
良いことに使って下さいよホントにと思うばかりだ。
「おい。ひとつだけ訂正する必要があるだろ、屋形妹」
「「!」」
そこに私を拉致した上級生グループが近づいてくる。
先頭の見たことのない女学生はかなりの高身長で、おそらく高等部三年だと分かった。
その人物――金髪灼眼で片目メカクレの美女は、グループから一歩前に出る。
さらに制服の裏から取り出したココアシガレットを口に加えた。
「お前の姉、屋形恵美子が横領したのは事実だ」
「私だけに罪を押し付けるのもやめたまえよ、高等部三年の墨田智子。君が気づいていても止められなかったのも事実じゃないか」
「いま私に意見をしたか?」
ガリッと噛み砕かれるココアシガレット。
バチギスするなぁ、もう。
巻き込まれる私の身にもなって欲しい。
はあ、とため息をついた……ええと、トップスリーの墨田智子さんは眉間を抑えた。
「まあ、私が居ながら止められなかったのも事実だ。自省しよう」
「偉い」
「反省できるなんて素敵です姐さん」
取り巻きと化した上級生たちに拍手され、墨田智子はまんざらでもない顔をする。
羨ましいなぁ。私も無条件で褒めてくれる人たちが近くにいて欲しい。
すると相手の視線が私の方を向いた。
「お前が魔法少女プリティコスモスか?」
「ああ、はい」
「はあ……御託は無しだ。ステッキ構えろ」
問答無用でマジカルステッキを取り出す相手。
しかしなんというかモチベが低い。
心が萎えているのが目に見えて伝わる。早く帰りたいと。
取り巻きの一人もそれに気づいたのか止めに入った。
「ちょちょ、ちょっと待ってください姐さん。戦うのはコロッセオの中で――」
「ランクマなど知ったことじゃない。私がマッチングを受けたのは、こいつが空渠陽子の後釜になりうるのか確かめるためだ。他の用などない」
「せめてやる気は出して下さいよぉー!」
「やる気……そうだな。おいプリティコスモス!」
「は、はい!?」
「お前はどんな男がタイプだ!」
「ええっ!?」
「返答次第では本気で遊んでやる。答えろ」
「わあ、ええと」
急にどんなタイプの男性がタイプか尋ねられた。
実はわりと興味があったので、検索履歴を思い出しつつ、少し照れながら答える。
「私が好きな男性は……ええと、同い年なのに私より身長が高くて、胸板の厚い細マッチョな男性がタイプですかね? やっぱり守られたい欲がありますよね」
「――ッ! ゆ、有名人で例えるなら?」
「た、例えるなら……男だった頃のライトブリンガーさんとかが、年齢に比べてとても背が高いし、銀髪碧眼の美男子でカッコいいなぁ、と思ってて……」
チラリと前を見ると、墨田智子は天を仰ぐように泣いていた。
「二人で◯リキュア、か……」
「え?」
「夜見ライナ。どうやら私たちは戦友だったらしい」
「まだ戦ってないのに!?」
「分かるさ。男の好みは女の全てを物語る。お前は私と同じだ、戦友」
彼女はステッキを降ろしたかと思うと、奇跡と出会えたかのように私に抱きつく。
距離感が近い。でもそういう人間は嫌いではない。むしろ好きだ。
だから話題も合うだろうと話を持ちかける。
「やっぱりライブリさんの活動休止がショックですよね……」
「ああ……美女になっても応援するつもりだったのに、性別を理由にアームズとしての活動をやめてしまって私は悲しい」
「分かります、アームズのままで居てほしかった。だから性転換事件を起こした犯人が許せないのに、心の中のライブリさんは復讐を望まない」
「戦友、ならば言葉は不要だな」
「ええ……せめて祈ることが、私たちに許された唯一の応援」
「お互いの悔いと恨み、コロッセオで存分に晴らし合おう」
『姐さんとプリティコスモス、なんで急に意気投合してんだ?』
『さあ……?』
「「はあ……」」
これだから受け身に生きている一般モブ魔法少女はダメだ。
何が起こっているのか全く理解できていない周囲を無視して、私は完全に意思疎通した墨田智子さんとともに、梢千代市民体育館の正面ゲートを潜る。
天井に穴が空いた廃墟の体育館には、リアルタイムの勝敗を自動で判定し、最大十位まで表示するランキングタワーと、二十メートル四方はある大理石の決闘場があるが、考えるだけ無駄なのでスルー。
お遊びの決闘をしていた木っ端共を退かして、お互いに相対する。
「まずは自己紹介だ。私は高等部三年の墨田智子。魔法少女フェアリーテイル」
「夜見ライナ。中等部一年。ヒーローネームは魔法少女プリティコスモスです」
「次はおさらいだ。訓練礼装は知っているな?」
「変身と言いながら横のボタンを押すんでしたね。そしたら体操服に変身して、エモ力無限になって死ななくなると魔法少女ランキングの用語説明で見ました」
「上出来だ戦友。開始の合図は譲ろう」
「どもです。対戦よろしくお願いします」
「全力で来い、戦友」
お互いに見合う。
少しの沈黙が流れ、開始タイミングをうかがう私。
やはりトップスリーと呼ばれて尊敬されるだけはある。
度胸があるし、何より立ち振る舞いに隙がない。
ならば胸を借りるつもりで攻めるのみ!
「「――変身!」」
ほぼ同時マジカルステッキの横のボタンを押す。
すると全身が白い光に包まれ、素粒子レベルまで分解された制服が赤いジャージになった。対して相手は白ジャージ。
ようやくフロイライン・ダブルクロスらしい紅白合戦の決闘が始まった。




