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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第五章エピローグ

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第143話 おじさん、同意のもと拉致される

 立食パーティーは午後三時に終わり、一年生全員で片付けを行った。

 マジカルステッキを一振りすると料理のお皿やテーブルなどを中等部食堂に入れられ、魔法で洗浄されて元通りになる。ステッキの基本機能らしい。

 私はマジカルステッキの便利さを舐めていたことを恥じた。

 食堂から戻りながらぼそりと呟く。


「そう言えばこれって魔法の杖だった」

「夜見さんって意外と常識に縛られがちモルよね」

「まあ大人ですから――あれ?」


 正門前に行くと、とある人物たちと再会する。


「合格おめでとうだね。夜見ちゃん」

「赤城先輩……と副会長?」

「一学期で試験を完全制覇するとは大したやつだ。よくやった」

「わあ」


 高等部の先輩方だった。

 赤城先輩はハグを、副会長は頭をぽんぽんと優しく撫でてくれる。

 続いて高等部の先輩方も私にハイタッチを求めてきた。

 最後に金髪モデル美人の生徒会長が来て、私にこう言った。


「中等部副会長に就任したと聞いた。おめでとう」

「ありがとうございます」

「梢千代市の愛と平和は君たち中等部に任せるよ。我々にはやることがある」

「どこに行かれるんですか?」

「そうだな……夜見くん。魔法少女の職務とは何か分かるか?」

「ええと」


 ダント氏を見る。代わりに答えてくれた。


「怪人退治ですモル?」

「三割正解だ。正しくは調査活動。怪人が生まれる原因、元凶を探すために魔法少女は存在している。見つけた結果として討伐しているだけにすぎない」

「そうだったんですかモル」

「ああ。正直に言えば、君たちにもこの調査活動に協力して欲しいが……」

「ひええ」


 私が怯えると、生徒会長は頭を撫でた。


「しかし、君には選ぶ権利がある」

「権利?」

「中等部の訓練生として現場入りを拒むか、期待の新星として現場入りするか」

「ええとあの、争奪戦はどうなるんですか?」

「先に訂正しておきたい認識がある」

「あ、はい」

「君以外の中等部一年組は全員現場入りする予定だ」

「ええ!?」


 普通にたまげた。


「誰も教えてくれなかった……」

「はは、だろうな。なにせ定員が八名しかない」

「て、定員?」

「聖ソレイユ女学院の生徒会執行部のことだ。会長、副会長、会計、書紀、庶務、広報、美化、風紀。毎年八名だけ選出され、日本国内での治安維持活動に限り、超法規的措置な解決を可能にする「強制執行権」が与えられる。君はその一人だ」

「わあすごい」


 つまりは法律による罰則が適応されないのか。

 というより、私そのものが警察と裁判所と同等の機能を持つということだから。

 司法で裁けない悪を裁く権利を与えられた、ということ?


「生徒会の権限って凄いんですね」

「ああ。話を戻そう。どちらを選ぶ? 争奪戦は個人の自由に任せるとしてだ」

「わ、ええと、ダントさんどうしましょう?」

「現場入りするモル」

「だそうです」

「フフ、了解した。必要になれば呼ぶ。それまで待機していてくれ」

「はい!」

「君は素直でいい子だ」


 生徒会長は私を愛おしそうに撫でると、高等部の先輩方のもとに戻る。

 そして学校支給の白いマジタブを取り出した。


「マジカルコンクエスト、ログイン」


 すると近くに白亜の門が現れ、扉を開く。

 溢れんばかりの銀色のエモ力のせいで中が見えない。


「機は熟した。創始者リズール氏を追うぞ」

『『『はい!』』』


 そう言って、会長は門の中に入っていく。

 高等部の先輩方もマジタブを手に「ログイン」と言い、会長のあとに続いた。

 なんだかカッコいい。すると赤城先輩が近づいてくる。


「夜見ちゃん」

「ああ、赤城先輩は……参加出来ないんでしたっけ」

「と思うじゃん? これ見て」


 見せてくれたのは、ファンデット榎本が送信した「強制参加のお知らせ」。

 出禁になった赤城先輩も参加できるらしい。


「ということはつまり」

「うん。マジカルコンクエストで会おうね」


 とても楽しそう……というか、愉悦に満ちた顔だった。

 私に向けていた視線が、可愛い後輩から狩りの獲物に変わったと言えばいいのか。

 バイバイ、と赤城先輩は私のもとから去り、足早に扉の中に入る。

 私は作り笑いを浮かべながら見送った。

 門が消え、その場に一人残された私は、はあ、と大きな息を漏らす。

 ワクワクを隠すために息を止めていたからだ。


「赤城先輩……絶対に満足させてあげますからね」

「そのためにも配信活動モル」

「話の繋がりがよく分かりませんが、頑張ります」


 配信活動と争奪戦を結びつけるのは分かる。

 ただ、赤城先輩を満足させるために配信する意味がちょっと分からない。


「どうして配信する必要があるのか分かってない顔モルね?」

「まあ、はい」

「それは――」

「待たせたねえ!」

「「!」」


 そこで聞き覚えのある声のそばかす美人メイドがやってきた。

 癖毛の黒髪をツヤがでるまでストレートにしたあと、お団子ヘアにして、白いシニヨンカバーを付けた髪型。

 腰部がコルセット状になっているハイウエストの暗色のスカートに、白いブラウス。質感のいい黒羽織を肩に被せ、メイドなのに良家の令嬢のようだ。


「本気を出せば可愛いじゃないですか屋形先輩!」

「ソバカスのせいで男子に告白されすぎるんだよ! まったく」


 側まで来たソバカス美人メイド姿の屋形先輩は、私の腕を掴んで寄り添う。

 さらに恥じらいの表情を浮かべた。可愛いなあ。


「そ、それでだけどね夜見くん」

「なんですか?」

「いい加減、この世界の物語に振り回されるのにも疲れただろう? サイドクエストの消化と洒落込もうじゃないか」

「あ、もしかしてデートのお誘いですか?」

「そそそ、そういう直接的な表現は風紀違反だよ!? こ、梢千代市は昭和レトロの街だからね。昭和の芸能界のように、遠回しに誘うのがマナーなのさ」

「へえー」


 そうなんだ。

 私は梢千代市での正しい口説き方を覚えた。


「そ、それでさ。私とサイドクエストを網羅する旅に出るかい?」

「いいですよ。とりあえず甘いもの食べにいきましょう」

「ふふ、やった! 君にオススメのスイーツ店を教えてあげるよ!」


 すると屋形先輩はマジタブを取り出し、紺陣営に「活動停止解除」メッセージを送る。とたんに紺陣営の上級生が表に出現し始め、私たちを囲った。


「――屋形会長」

「なんだい?」

「ご理解されているかと思いますが、プリティコスモスには通常の生徒のように裏チャンネルに来られても面白くありませんので、拉致させていただきます」

「いいとも」

「なんで!?」


 つい叫んでしまう私。

 大きな敷き布団を持った上級生がにじり寄ってくるので、私は後ずさった。

 しかし屋形先輩が押しとどめる。


「夜見くん、君と戦いたくて仕方のない子が大勢いるんだ」

「分かりますけどね!? こう、普通がいいんですけど!」

「ならこう例えよう。魔法少女同士の決闘(デュエル)はプロレスだ。君は正統派ヒロインだから、彼女たちは悪役(ヒール)を演じることで君とのバトルを盛り上げたいんだ。分かるね?」

「ッ、分かってしまった……!」


 だとしたら、私は乗らなければならない。

 屋形先輩を守るように前に出る。上級生は嬉しそうに笑った。


「すみませんが屋形会長。あなたも拉致します」

「はあ!? なんだって!?」

「立場的に正義側と判断しました。出来るだけ境遇を辛くしますので耐えて下さい」

「ふ、ふざ、むぐっ」


 言い切る前に謎のハンカチで口元を抑えられ、秒で昏睡させられる。


「や、屋形せんぱ」

「当て身!」


 バシッ!

「あうっ」

 首元に鋭いチョップが振り落とされ、私は気絶したフリをしてその場に倒れ込む。

 さらにその弾みなのか、プロの技か、ダント氏とのカラビナが外れてしまった。

 私たちは簀巻きにされて担ぎ上がられる。

 ダント氏はペット用のキャリーケースに入れられたようだ。


『こんなの聞いてないモル! 夜見さん助けて!』

「だ、ダント、さん」

「許せ聖獣……予定外行動(アドリブ)も必要なことだ。ライブ配信を盛り上げるためにな」

「裏のコロッセオに連れて行け!」

「「「ハッ!」」」


 指示を受けた数名がマジタブで「黄金都市ソレイユ」というアプリを起動。

 天地がひっくり返るような感覚を味わいながら、私は裏チャンネルに連れ込まれたことを理解し。


「それでコロッセオってどこ?」

「ノリで行動したから知らね。とりあえず裏梢千代市に運び込んどけ」

「りょー」


 まだまだ移動するようなので、目をつむったまま到着を待った。

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― 新着の感想 ―
[一言] やってることは某宇宙刑事(笑) プレイ・バイ・メイルゲーム、ハート・オブ・マジックシリーズ(有限会社ホビーデータ)の学生ガーディアン制度と同じ制度ですね。(角川書店提携作品)
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