第130話 おじさん、実技試験を受ける③
改めて言う。ダント氏のスケジュール通りに危機感と焦りを覚えさせた。
いちごちゃんだけじゃなく、中等部一年生の全員に。
だから私は腕を組んでドヤ顔をする。
「私以外の子が先輩の魔法を突破するには、直感力の底上げがとても大きな課題でした。それを誰でも手軽に行えたらいい。そんな発想で編み出した新技です」
「は、はは。やはり君は天才だよ。特例合格だ」
「一年全員が、ですよね?」
「ああそうさその通りだよ君の言う通り! くそー、負けたー!」
先輩はそのままペタンと座り込み、悔しそうに地面をぺちぺち叩いた。
私はえっへんと胸を張る。
ただ、観客たちは状況を良く分かっていないので拍手はまばらだ。
それを少し不服に感じていると、大人しくなった屋形先輩が口を開く。
「はあ。今回は負けたけどねえ、夜見くん」
「なんですか先輩?」
「エモーショナルセンスの新しい特訓法の発見で特例合格扱いになるのは、あくまでも君が中等部一年生で、今日が初めての魔法少女試験だからだ。次はそうはいかない。なぜなら次は中等部二年の合格基準まで底上げするからねえ」
「うわーいじわるー……」
「試験監督とはそういうものさ。でさ、よかったら風船を割っていく方法――いわゆる正攻法の回答もみんなに見せてやって欲しい。思い当たる節はあるだろう?」
「まあ、ありますけど。ね?」
ダント氏を見ると、彼もうなずく。
「僕が求めてたのもそっちモル。実演して欲しいモル」
「ダントさんもですか?」
「あ! 私も私も! 私も見たーい!」
「お願いプリティコスモス~!」
「そこまで言われたら、やらなきゃですよね」
ファンの子がそう言うのなら、やれやれ仕方ない。
観客たちも期待しながら実演を待っているようだし。
私はファンの子に少し下がるように言い、マジカルステッキを握り直す。
ただ、消えたり現れたりしていた黒い風船が同じ位置に見えるようになり、他の風船も位置が変わったり動いたりする様子がないので、つい聞く。
「屋形先輩、シークレット風船の認識阻害は」
「もうやってやったよ。ククク、難易度爆上げさ。見えるものが全て正しいと思わないことだねえ。クククク……」
「うわー大人げない……」
「大人げない? いいや違うねこれは私の意地だ。私は中等部生徒会長だぞ? 君に負けるのは仕方ないと受け入れるけどね、気安く負けてはやれないんだよ」
「はあ、しょうがないから付き合ってあげますけど。勝った報酬は?」
「私を一日小間使い、つまりメイドにする権利なんてどうだい?」
「ありっちゃありですね……」
対面上はギスギスしているが、実は屋形先輩みたいな面倒くさくてプライドの高い子は好みなので報酬を承認したあと、ダント氏を肩に乗せた。
「「「がんばれプリティコスモスー!」」」
「はーいがんばりまーす! ……よし、いっちょやりますか!」
応援されると本当に力が湧く。
魔法少女って楽しい。ふふ。
「夜見さん、質問していいモル?」
「はーいダントさん?」
「まずはどう動くか聞かせて欲しいモル。最初の狙いは決まっているモル?」
「ええと普通――白い風船を割るのは当然として、まずは色違い風船の得点を調査しにいく感じですね。合ってます?」
「正解モル。えっと、黒い風船は風船が少なくなってから狙って欲しいモル」
「分かりました。正攻法で攻めますね」
「ありがとうモル。風船の獲得点数の確認は僕に任せるモル」
「頼みにしてますよ!」
「オッケーモル! よし、行くモル! ゴー!」
「「「がんばれー!」」」
「はーい! 行きまーす!」
ダッ――――
観客たちの応援やファンの声援を背に受けて、私は駆け出す。
まずは軽く小手調べ。風船を集団として見る。
そうして見つけた密集地点――高さで言うと校舎の二階付近めがけて軽くステッキを振り、十発のマジックミサイルを発射する。
パチン、と小気味いい音がして三つほど白い風船が割れた。
「15ptモル!」
「了解です!」
普通に外れたのは五発、当たったけどぼよんと弾かれたのは二発。
見た目は白い風船だから割れると思ったけど……
「ステッキの振りが甘いねえ! 初速が遅いと普通の風船すら割れないぞ!」
「それ私に教えていいんですか!?」
「全生徒の模範となるのは生徒会長の役目だ! たとえ賭け勝負だとしてもだ、相手に大事な情報を隠すなどという卑怯な行為は許されない! 君こそさっきまでの威勢のよさはどうしたんだい!?」
「なっ、言われなくても! 強化!」
まずは身体強化。
割れなかった風船が直線になる位置までジャンプし、強めに振って発射する。
マジックミサイルは二個の風船をほぼ同時に貫き割った。
「10ptモル!」
「先輩こうですね!?」
「それでいい!」
「よし!」
地面に着地すると風船が動き始めたので、追いかける。
屋形先輩、思っているよりも中等部生徒会長としての自負が強いらしい。
出会い方は最悪だったけど、初めて人として尊敬できた。
まあ、ともかく――
「もう遠慮しませんよ!? 私の一日メイドになっても知りませんからね!?」
「だからどうした! 本気で私を膝まづかせてみせろ!」
「何を言って……!?」
「お遊びはここまでということだ! さらに難易度を上げさせてもらう!」
「なっ!?」
全ての風船が規則的(これ大事)に上下左右に動き始め、さらに先輩の催眠魔法で作られた偽物も混ざりだした。
まだ輪郭にノイズが残っているので判別できるが、これ以上は流石に厳しい。
……ああ、他の中等部一年生が攻略するには、という意味で。
もっと検証と処理スピードを早めなければ。
「もー! 後悔しても知りませんからねー!!」
「後悔なんてしない! 早く勝って私をペットのように可愛がれ!」
「ホントに何言って……!?」
なんのために全力を注いでるんだこの人……!?
「ええい、もうどうにでもなれーっ!」
私は難易度の上昇に対応するため、両手にエモ力をまとう。
魔法「緑」でのエコーロケーション以外の使い道、見せるしかない。




