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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第五部 魔法少女試験編・破章

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第118話 争奪戦実行委員、ファンデット榎本の乱入

「行くわよ夜見、変身!」


 いちごちゃんがステッキを引き、底のボタンを押した瞬間。

 急に、彼女の背後から不快な黒い感情が湧いて私たちの間に割り込む。

 その中から、オレンジの腕章を付けた一人の男性スタッフが現れた。


「――いけません、いけないことだ。魔法少女同士で争うのは」

「あ、あなたは?」

「シャインジュエル争奪戦実行委員の榎本(えのもと)。お見知りおきを」


 前髪の一部だけ金色になった、茶髪ショートカットでスーツ姿のイケメンだ。

 深々と礼をした彼の背後で、コスチューム姿のいちごちゃんが前のめりに倒れているのが見えた。

 周囲を見ると、州柿先輩や赤城先輩は静観を選んでいる。

 というより、いや違う。

 私とダント氏以外の誰も動けていない。

 これは――


「まさか時間が停止しているモル……?」

「ご明察の通り。流石はプリティコスモスの聖獣様だ」

「っ、改めて聞きますけど、あなたは何ですか」

「私は争奪戦実行委員の榎本。リズール・アージェントCEOに代わり、魔法少女たちを争奪戦の舞台である梢千代市に導く案内係を務めさせていただく者です」

「そうじゃなくて、ええと」

「こちらが敵か味方か分かっていなさそうだ。では少しだけ時を動かしましょう」


 彼が腕まくりをすると金色の時計があらわになる。

 キリリリ、とネジを回した瞬間、赤城先輩が私の前にテレポートし、州柿先輩が紫のオーラをともなった円形の領域を生み出していた。


「おっと、ここまで」


 再び時が止まる。

 先輩の反応を見て分かったのは、相当やばいタイプの敵だということ。

 そりゃそうだ。時間停止系の能力者なのだから。

 私に影響がないのは同系統の固有魔法(ギフテッドアクセル)だったおかげだろうか。

 ともかく、と私はゆっくりとマジカルステッキを構えた。彼は苛立つ。


「……説明に時間がかかって面倒だ。こちらの言いたいことだけ言わせてもらう」

「何が目的ですか?」

「俺は異常存在第四号。新たなるファンデット。せまる12月中旬の魔法少女試験――ファンデットの本格出現日に向けて、君たち魔法少女の平和と平穏を脅かすために宣戦布告しにきた」

「どうしてそんなことを」

「シャインジュエル争奪戦は未来永劫続けられなければならない。ソレイユが国交断絶を選んだ程度で魔法少女が梢千代市に来なくなる、そんなことは断じてあってはならない。エモーショナルエネルギーは、シャインジュエルは。世界全体で行われる経済活動の要。世界の維持に必要不可欠な万能資源だ」

「分かりますけど、あの話を」

「だからここに宣言させてもらう。争奪戦五大イベントのひとつ、マジカルコンクエストの開幕を!」


 彼が手を挙げると、薄いガラスで出来た球体のようなものが発生。

 それはどんどん大きくなり、私や先輩たちの身体を通過し、校庭やエモ技研を通り過ぎ、空の向こうまで広がっていった。私はとっさに顔を覆った腕を下げる。


「な、何をしたんですか!?」

「アージェントCEOの指示通りに行動したまでだ。フフ、ハハ……ハハハハハ! これで俺は完全無欠のゲームマスターとなった!」

「げ、ゲームマスター?」

「もう何も怖くはない! 時を動かそう!」


 今度の彼は指を鳴らす。

 時が動き出し、州柿先輩の領域(テリトリー)が瞬時に彼――榎本を捕らえる。

 ズン、と地割れが起きるほどの圧力が発生し、彼は地面にめり込んでいく。

 続いて赤城先輩がどこからともなく取り出した金属製のバールでぶん殴った。


 ゴォン!

「ぐっ!?」

 榎本の頭部からパラパラ、と小粒のシャインジュエルが散る。

 先程仕留めた黒澤と同じように、顔にぴしりと亀裂が入ったことから、彼がファンデットなのは間違いないらしい。


「赤城先輩、仕留めた!?」

「ごめん州柿ちゃん、こいつ無敵っぽい」

「マジィ!?」

「……ふふ、容赦のない。だがゲームマスターとなった俺には無意味だ」


 榎本を見れば、顔の亀裂はすぐに修復され、元通りになった。

 続いてボコボコッと地面から抜け出し、スーツの埃を払って完全復活を告げる。


「さあ魔法少女よ、宴を始めよう!」


 ピロン、ピロン――

「「「!」」」

 続いて起こったのはメッセージの一斉受信。

 内容は「マジカルコンクエスト強制参加のお知らせ」というもの。

 彼ら争奪戦実行委員会は、聖ソレイユ女学院にファンデットとして乗り込み、魔法少女試験をハイジャックしてでも争奪戦を存続させるつもりらしい。


「実行委員の榎本だっけ? 私は生徒会風紀部の州柿井鶴。だから風紀部を代表して総意を言うけど、聖ソレイユ女学院がこんな横暴を許すと思ってる?」

「お前たちの意思など関係ない! 存続することだけが正義だ!」

「……止める気はないんだね?」

「すでに工作は済んだ! お前たちは敷かれたレールに乗るしかないんだよ!」

「はあ、分かった」


 州柿先輩は紫色の領域(テリトリー)を解く。

 ようやく理解したか、と榎本は腕を組み、不遜な笑みを浮かべた。

 それを見て、州柿先輩もくすりと笑った。


「――新入り。今だよ♡」

『エモーショナルタッチ・エクステンション! マックスボルテージ!』

「あ? な、何だと!?」

『フォーチュンスラッシャー!』

「ふんぬぅっ!」


 ザンッ!

「ぐあああ――っ!」

 一刀両断。敵がぺらぺらと喋っている間に復活したいちごちゃんが、ファンデット榎本を逆袈裟にぶった斬った。

 敵は容赦なく爆発し、沢山のシャインジュエルが散らばる。


「ハァ、ハァ、やった?」

『おのれぇ……!』


 しかしやはり榎本は生きていた。

 コインが投げられたような音がしたかと思うと、今度は空中に黒い悪感情が集まり、榎本の姿を生み出す。

 やはり無敵なのか? 私たちは身構える。だが榎本は不遜に振る舞う。


「ふん、まあいい、それはお前たちへのサービスだ! 倒した褒美にくれてやる!」

「そりゃどうも。で、まだやる?」

「……っ、くそっ! 今日のところは引かせてもらおう! だがな!」

「もーなにぃ?」

「マジカルコンクエストには時間制限がある! 一年以内に攻略されなかった場合は我々ファンデット連合軍が梢千代市を滅ぼす! 覚えておけ! エルサゲート!」


 ファンデット榎本はいきなり現れた謎の異空間内に逃げ込み、姿を消した。


「なんだか大変なことになりましたね」

「だよねー。めんどくさーい」


 さっきまで戦う気まんまんだった私といちごちゃんも、乱入者のせいで興ざめだ。

 いちごちゃんを見ると「中等部の風紀委員になったの。凄いでしょ」と自慢してきたので、戦うついでに自慢したかったのかな、と思った。

 とりあえず事件の報告は風紀部の州柿先輩に任せ、いちごちゃんとはエモーショナル茶道部の部室で会う約束をしたあと。

 赤城先輩と一緒にエモ技研前で行われている寮の振り分けの待機列に並んだ。


 ……しばらく待ったあと、順番が来たと思ったら。


「うわー、すみません。緑陣営リーフグロリアの個室寮はさっきの子で満室です。他の陣営に掛け合って下さい。ほんとすいません」

「あらら」


 榎本の対応をしているうちに、満室になってしまったらしい。

 緑陣営の男性スタッフ(赤城先輩曰く実は男装した女学生とのこと。驚きだ)さんに深く謝罪された。

 どうしましょう、と困って赤城先輩を見ると、彼女は仕方ないよね、次はこっちだよー、と別の場所を目指す。

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