第12話 おじさん、魔力テストで歴代最高値を叩き出す
しかし、流石にこれだけ人が集まると学校側も気付くようだ。
「はーい、色持ちの人が珍しいのは分かるけど集まらなーい。相手が困惑しちゃうからー。帰った帰ったー」
緑の腕章を付けた緑髪の先輩がやって来て、ワイワイと盛り上がっていた女学生たちを散らしてくれる。目が合うとウィンクしてくれて、ああ、これが本物の魔法少女かと即座に理解した。
キーンコーンカーン――
そうして二度目のチャイムが鳴り、私たちは魔力テストのために体育館に集められる。
「これから魔力テストを始めます。番号札を貰った一年生は隣の人と距離をとって、契約した聖獣と手を合わせてエモーション玉を生み出してください」
担任の先生方は待ってましたとばかりに号令を出し、番号札を貰った私以外の生徒は慣れた手付きで翼付き小動物――聖獣と手を合わせていた。
ちなみに私の番号は463だ。
「よし、夜見さんやるモルよ」
「ダントさんエモーション玉って何ですか」
「元気玉のエモ力版みたいなものモル」
「なるほど理解できました」
ようは私の持っているエモ力をダント氏の力と合わせればいい。
「でもエモ力ってどう扱うんですか?」
「体の中のエモ力をありのままで感じるモル。最初は僕に任せて」
「は、はい」
ダント氏と手を合わせ、体内のエモ力に意識を集中させる。
ゴウ、と足元から風が起き始め、眠っていた潜在能力が引き出され――
「12番! 250エモーション!」
「ええっ!?」
しかし先にエモ玉を練っていた生徒たちから、次々に光の玉が発生し始めた。
「29番! 260エモーション! 121番! 300エモーション!――」
「わっ、わわ」
「夜見さん集中するモル! 慌てちゃだめモル!」
「ひゃいぃ」
ダント氏に言われてエモ力に意識を向けるも、無意識に聞き耳を立ててしまって皆のエモ数値を知ってしまう。
今のところ、ほとんどの子が250前後で、たまに500越えの子が現れて先生から喜びの声が上がったりしてて――
「200番! 1500エモーション!」
「1500!?」
ざわっ、と私以外の生徒の集中も途切れた。
驚きの数値を出したのは、私の隣に座っていた黒髪の美少女ちゃん。
子猫の聖獣と共にどや顔を見せていた。
「181番! 1700エモーション!」
「1700!?」
それに続いたのは、今朝から色々と交流していたおさげの子。
凛とした表情をしながらも、悔しそうな黒髪の子をちらりと見て微笑んでいた。
聖獣は子狐らしい。彼女らしいというか、なんというか。
「はい、気を取られない。一年生の皆さん、エモーション玉作りに集中してください」
「夜見さん集中モル!」
「ひぃダントさんと先生ごめんなさい!」
怒られたので目を閉じ、エモ力の奔流に身を委ねる。
他の子は次々とエモ玉を発生させていくものの、1000越えはゼロなので私も安心して――
「398番! 3000エモーション!」
「3000!?」
「実戦級……!?」
今度は生徒だけでなく、先生までざわつく数値が出た。
「ま、当然の結果ですわね」
そう語るのは、燃えるような赤い髪を持ったお姫様ヘアーの子。
今まで目立たなかったのが不思議なくらいだ。
聖獣はジャンガリアンハムスターなのに強そう。
「はわわ、みんな凄い」
「きりがないモルね、夜見さんこれ付けるモル!」
「はいごめんなさい!」
ダント氏が渡してくれたのは耳栓だった。
私は両耳にギュッと詰め込み、外の雑音が聞こえなくなったので、ようやく集中出来るようになった。
『――564番! 3500エ――』
「すぅー、はぁー……」
大きく深呼吸し、再びゴウ、と巻き起こるエモ―ショナルエネルギーの奔流に身を任せる。体内で鳴りを潜めていた全ての潜在能力が、湧き上がる私の力の源が、ダント氏に引き出されるのを感じた。
「……っ!」
ズォ、と巨大な光の玉が発生し、ダント氏と私の頭上に浮かび上がる。
計測係の先生が声を張り上げた。
「よ、463番! 5000エモーション!」
「5000!?」
「凄い……!」
「歴代最高値じゃないの……!?」
ざわざわ、ガヤガヤとする体育館。
「ハァ、ハァ……」
「はぁ、ははっ」
肩で大きく息をする私は、同じような状態のダント氏と手を叩き合わせた。
「やりましたね!」
「――! ~~~~モ――!」
「あ、耳栓してるから何言ってるか分からないです」
慌てて両耳から栓を抜くと、周囲からワッと歓声が上がった。
「うわぁ、何があったんですか!?」
「夜見さんやったモルよ! 歴代で最高のエモ値を記録したモル!」
「あ、これ私に対して! ふふ、みんなよろしくねー!」
そうだ、皆の手本であらねば、と笑顔で手をふると、きゃあああ、と沢山の黄色い声が上がり、ふと視線があった子は頬を染めたまま卒倒してしまう。
「463番! 初な一年生を誑かすのはやめなさい! 怒りますよ!」
「ひぇ、どうして怒るんですか!?」
「まだ魔力テストが終わってないからです! 終わってからやりなさい!」
「はあぅっ、ごめんなさい!」
計測係の先生に怒られた。
私は『人気すぎるから』と先生に指示を受けて、体育館の外に向かう。
この騒動を収めるにはこうするしかないのでしょうがない。
「うう、張り切るタイミングを間違えた……」
「いや完璧なタイミングだったと思うモルよ。運がなかっただけで」
「それ一番嫌いな評価です……」
「へい、そこの一年生」
「「?」」
体育館の外に出た途端に声をかけられた。
ダント氏と一緒に振り向くと、紺色の腕章を付けた沢山の女学生――つまり上級生たちが待っていた。
「一つ質問がある」
「え? はい」
「君が5000エモーションの子だね?」
「そうですけど」
「期待の新人だ! さらえ!」
「ひえええええ!?」
私は逃げる間もなく上級生たちに捕まり、目隠しを付けられ、訳も分からないままどこかに連れ去られた。




