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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第五部 魔法少女試験編・序章

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第108話 おじさん、学校で老齢の貴婦人と再会する

 キーンコーンカーン――

「――魔法少女に生理はあるのか、異性との正しい性行為の方法については以上カメ。次の授業ではコンドームの使い方を実技を交えて勉強するカメ。またねーカメ」

「「「はーい!」」」

「わあ……」


 私はあまりにも生々しい保健体育の授業に、終わった頃には顔を赤くしていた。

 他の子はとても真面目に、真剣に聞いていただけに、性行為への潔癖さを持っていたのが私だけだと分かってしまったからだ。

 授業を終えたゲンさんは、私の元に来る。


「ごきげんようカメ、夜見さん。少し刺激が強かったカメ? 大丈夫カメ?」

「ちょっと、はい」

「初めてだから緊張するかもしれないカメけど、卒業と同時に魔法少女を辞めて、立派な大人の女性になるには正しい性知識が必要カメ。これらを覚えることは、何も恥ずかしいことじゃないカメ。だから安心するカメ」

「は、はい」

「あと……魔法少女であるうちは起こらないけど、いつ来てもいいように、生理用品はちゃんと用意してるカメ?」


 私は頬を赤らめながらも少しムスッとした顔で、学生カバンから、義母の凪沙さんに用意してもらったポーチを取り出した。

 中には応急手当用のガーゼや絆創膏、消毒液のほか、生理用品一式が入っている。

 ゲンさんはニッコリと笑った。


「ちゃんと準備出来ているようで良かったカメ。それと、もし授業中に頭がボーッとする、なんだか気分が優れないと感じたら、すぐに保健室に行くカメよ」

「わ、分かりました」

「二限目は学期末に控えた魔法少女試験の説明会カメ。第一体育館に行くカメ」

「はひゃい」


 じゃ、また次の授業でカメ、とゲンさんは教室を出ていく。

 気がつけば、教卓に座っていたはずの色欲の悪魔も消え失せていた。

 追いかけるように教室から出ると、顔に一枚の紙が張り付く。

 何事かと剥がしてみれば、こう書いてあった。


――――――――――――――


 親愛なる夜見ライナ様へ


 予定とは違う方法で再会してしまい、

 申し訳ないと思っています。

 ですが、あなた様を正しく導くには

 この方法が一番だと思いました。


 なぜなら私――色欲の罪を晴らすには、

 あなた様に正しい性知識を入手させ、

 女性としての自我を目覚めさせる必要があったのです。

 もう二度と、男性に戻れないという事実を

 お忘れなきように。


 色欲の悪魔アスモデウスより


 追伸:ここで真実を一つ。

 あなたを魔法少女にしたのはダークライですが、

 元に戻れなくするよう願ったのは私です。

 だって、その方が幸せでしょう?

 では、また。うふふ。


――――――――――――――


「……むむむ、ダントさん」

「夜見さんを巻き込んだ僕は恨まれても当然モルね……好きにするモル」

「いえ、そうじゃなく」

「モル?」

「どう、生きればいいんでしょう。私が魔法少女を辞めたあとなんて、一度も考えたことなかったです」

「就職したり企業したりして、異性や同性と結婚したりしなかったりして、友達を増やしたり減らしたりしながら寿命まで生きるだけモル。諸行無常、それが人生モル」

「ずいぶんと悟ってますね」

「それが聖獣だモル。さ、体育館に行くモル」

「ああ、はい」


 ダント氏を肩に乗せ、体育館に向かう女学生たちの流れに乗った。

 彼が賢かったり、賢くなかったりするのも意味があることなのだろうか。

 いや、おそらくは激務と疲労で思考が鈍ってたんだろうな、私も経験あるし――などと考え、まあ、誰しも悩みはつきないものだよね、人生はさ、思考と帰結させる。

 人間とは三十五歳を超えると、辛い現実をあるがままに受け入れて「そうだね」の一言で流せるのだ。ダント氏も私と同じ領域にいるのだろう。


「あ。ダントさん、そういえば他の聖獣と顔合わせするとか」

「夜見さんが保健体育の授業を聞き入っている間に済ませたモル」

「……気づかなかった」

「魔法少女のサポートは僕たち聖獣の領分モル。夜見さんはそこまで気を配らなくてもいいモルよ」

「分業は大事ですよね」

「ちなみに、意見を聞いた限りでは、僕たちも他の子たちと変わらず新入り扱いみたいだモルから、もっと手を抜いて仕事するモル。今は気楽に行くモル」

「脳ある鷹は爪を隠す、ということですか?」

「そうモル。夜見さんのイメージアップのためには、まず普通さを手に入れることが重要だとも聞いたモル。ちょっと騒動に首を突っ込みすぎる、そのやり方では危ない、お互いに長く持たないと先輩方に言われたモル」

「めちゃくちゃ苦言を言われてる」

「でもその正義感の強さと、器の広い心はとてもいい強みだよ、さらに磨きをかけなさいとも言われたモル。貴重なフィードバックを受けられて僕はありがたいモル」

「なるほど……つまり、ほどほどに首を突っ込めということですね」

「そのタイミングは僕が指示するモルよ。夜見さん」

「了解しました」

「ほんとにモル?」

「乗せたのはダントさんなんですから、上手く手綱を握ってください」

「頑張るモル」


 つまり、ほどほどに騒動に首を突っ込む、昼行灯おじさんを目指せばいいのか。

 活動方針が定まった気がする。ヒーローは遅れてやってくるものだし。

 などと、ダント氏との会話を膨らませている内に第一体育館についた。


 中には空中に浮かぶヒットマーク付きの風船のほか、怪人ボンノーンの姿が描かれた立て札に、二足歩行で動く人型ロボットの解説ブースが出来ている。

 入り口には受付があり、緑陣営購買部の販売員さんがパンフレットを渡してくれた。ペラリとめくって中を見る。


「魔法少女試験とは――」

「対犯罪者・対怪人・対怪魔戦闘での魔法使用が可能であることを示す、魔法少女唯一の国家資格「超常現象取扱者」を認定するための試験である」

「うわぁ!?」


 後ろからいきなり声がしたので、慌てて振り向く。

 声の主は一週間前に出会ったプラチナヘアーの老貴婦人、ナターシャさんだった。

 彼女は私を見るなりアイアンクローをしかけてくる。


 ガッ、ミシッ――

「い、いたたた」

「ほーん? マジカルステッキが手元に帰って来たというのに、私にメッセージのひとつも寄越さないとはいい度胸だな。私も暇じゃあないんだぞ?」

「あ、会いに来るって言ってたじゃないですかぁ……!」

「報連相を知らないとは言わせないよ」

「連絡先教えてくれなかったのに……!?」

「そういうのは自分から聞いたり、調べたりするもんだ。恋愛だってそうさ」


 パッ、と開放されたので、私は相手をキッと睨む。

 相手もこめかみに青筋を立てながら怒っていた。


「今日は朝から君を視ていた。あれだけ好意を寄せられているのにずいぶんと受け身じゃあないか。どうして実家の連絡先を交換しない」

「た、タイミングがなくてズルズルと伸びてるだけですけど?」

「私はそういうじれったい展開が許せないんだよ……バトルだ」

「なんでモル?」


 ナターシャさんはメガネを外し、杖にエモ力を集めたかと思うと、三つの青い球体を宙に浮かべた。私もマジカルステッキを取り出し、いつでも変身出来るよう腰だめで構える。


「――おおお、お二方! 喧嘩はおやめください!」

「ん?」

「あ、ヒトミちゃん」


 その間に割り込み、止めに入ってくれたのはヒトミちゃんだった。

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