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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第三章

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第100話 おじさん、屋形光子と競い合う

 互いに狙うは一番槍。

 私より数倍も早く動いた白衣姿の屋形先輩は、剣の突きでパァン、とCタイプ(赤い鳥ロボ)のモノアイを吹き飛ばしながら、ついでの薙ぎ払いで周囲の取り巻き(A・Bタイプ)を掃討。速さの有利を生かして敵をなぎ倒していく。


「ファーストキルは私だ!」

「くぅっ」


 遅れて斬り込み、食い残しを蹴散らした私は、速さ勝負で負けた悔しさを噛み締めていた。


「私より先輩の方が速いなんて……!」

「違う! 私が速いんじゃない、君が遅いんだ!」

「どういう――」

「エモーショナルエネルギーには適正保持量が存在する!」

「適正量!?」

「数値にしておよそ3000から5500エモーション! それ以上はエモーショナル過多により通常形態の「正式礼装(フォーマルコーデ)」、イベント景品などで気軽に入手出来る「略式礼装(カジュアルコーデ)」級コスチュームの性能が(いちじる)しく低下する! 特に54万などという埒外なエモ力は身体にも影響を及ぼすだろうさ! 端的に言うと太る!」

「そ、そんな」


 私は驚いて攻撃する手をピタ、と止めてしまった。


「エモ力って多ければ多いほど太るんですか……!?」

「手を止めるな! マルチタスクを心がけたまえ!」

「っ、分かってますよ!」


 エモ力が多いと太る。

 魔法少女になる前から容姿と体重の変化がコンプレックスであり、地道な筋トレや有酸素運動を欠かさなかった私にとっては、あまりにも衝撃的な言葉だった。知りたくない情報すぎた。


「エモ力が多いと太るなんて、そんな、そんな……!」

「夜見さん! もう効果終了時間になるモル! 離脱するモル!」

「わ、私は……!」


 魔法の効果終了が近いというのに、先に戦線離脱して円形広場に戻った先輩と違い、未だ敵陣の中で戦うほど、雑念で判断力が鈍っている。

 今までのどんな出来事よりも辛い言葉で、泣いてしまいそうだった。

 だから私は。


「嫌だ、私は……! 大人のレディになりたいぃぃぃ!」

「夜見さん!?」


 我慢・忍耐という美徳をかなぐり捨てた。

 怒りと悲しみを飛び越えた、魂の「慟哭」が沸き起こり、広場一帯のロボットを吹き飛ばすほどに猛烈なエモ力が放出される。白衣先輩は笑みを浮かべた。


「ハハ、それが君の本心(トリガー)か!」

「――やっと分かったんです。私は誰かのため、世界平和のため、幼女先輩の憧れになるためにと、自分を誤魔化し続けてきました」


 私は今まで溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのごとく、膨大なエモ力を放出しながら、涙を食いしばって我慢しながら、堰を切ったように自己を語り始める。


「でも、最高の魔法少女になるという願いは、前提に過ぎなかった。私は「その先の夢」を見ないことで、誰とも争わない平和な世界を楽しんでいました。だから私の日常には、平和と相反する「迷いと困難」があった。私が本心で願わないから、この膨大なエモーショナルエネルギーは溜まり続けてたんだ。でも、願う以前に、私には使い方が分からない。私は、誰かに認めてもらうために頑張ることしか知らない……」

「その通りだよ一年生くん。気づきはきっかけ。覚醒の兆しに過ぎない。その上の結論にたどり着かなければ、君は最高の魔法少女になれない」

「その上の結論……?」

「質問を授けよう。君は世界を救った上でどんな人間で居たいんだい?」

「私は――」


 世界を救った上でどんな人間で在りたいか。

 言われるまでもなく決まっていた。

 例外なく、社会の荒波に心を殺された私には、これしかなかった。


「立派な大人になりたい。今は大人のレディに。魔法少女は引退するかもしれないけど、私のあとに続くであろう、聖ソレイユ女学院の後輩たちが道に迷わないための、闇夜を照らす灯台のような人間で在りたい」

「違うね。在りたかった、が正しいだろう?」

「……そうです、本心は違う。私は飢えている。友達との交友に。優しい両親に。幸せな記憶に。そして――勝者の栄光に。私は、今までの人生に足りなかったものを埋めたいから、失ったものを取り戻したいから、私は魔法少女になった。……だから私は! 世界一強くて! カッコいい大人のレディにもなりたい! 皆に愛されて、誰かと恋をして! 酸いも甘いも噛み締めて! 最後の時まで幸せに生きたいぃぃ……!」

「ははっ、そうだ一年生! それが君の本心(トリガー)だ! 愚かしいまでにエゴに染まった願いこそが、君の目指すべき未来を教えてくれる!」


 私からあふれ出す執念、無念、羨望。

 屋形光子先輩は笑いこそすれど、否定せずに教えてくれる。


「次は祈りを込めた銀の銃弾のように、自分を取り巻く理不尽に向かって、引き金を引くように自身を語れ。そうすれば、君は理不尽に二度と負けることはない」

「私は――」


 理不尽な環境とやらがあるとすれば、それは私の心の中だ。

 未だにしがみつく社会的正義――清廉潔白さが私の心を蝕んでいる。

 胸に手を当て、ダント氏を撫でながら、私を語った。


「私は魔法少女プリティコスモス。現実に裏切られながらも、夢を見続ける者だ」


 何てことはない。ただ、プリティコスモスだと言っただけ。

 すると、私の身体から溢れるエモーショナルエネルギーの奔流が中空に集まっていき、ピンク色の宝石を生み出したかと思うと、私の胸部ブローチと融合し、コスチュームを進化させた。


『魔法少女プリティコスモス! 流星礼装(スター・ライナー)!』

「それが君の切り札だ」

「これが切り札……」


 通常のピンクゴスロリコーデをベースに、右肩から左足に向かって銀色の流れ星が飛来し、綺羅星を散りばめたかのようなコスチューム。

 運命礼装(デスティニーサッシュ)の正当進化版みたいだ。

 以前とは少しだけ違い、全身に満ち、ほんのりと温かさを感じた。


「心がスッキリしました……」

「改めて祝おう。ハッピーバースデイ、一年生くん。それで君は道に迷うことはない。誰がなんと言おうとも、君は魔法少女だ」


 限界メンタルで社畜根性の染み付いた、誰かのためにしか生きられない、どうしようもなく救われなかった夜見治という人間を、魔法少女(今の私)は明るく照らしてくれる。

 魔法少女に選ばれたのだから、自分の願いを叶えるために生きて良かったのだ。

 私はようやく正直さを取り戻せた。


「おさげちゃんの言っていたことが今なら分かります。我慢したり、辛抱しても、望むものは手に入らない。無私の英雄は物語の中の主人公だけ。私が本当の意味で魔法少女になるには、欲望――本心から生まれる願いを理解しなきゃダメだったんだ」

「限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです、って感じモルね」

「私、そんなに限界でしたか?」

「僕から見れば梢千代市の忍者さんたちよりも耐え忍んでたモルよ。さあ、反省会はここまでモル。先輩との勝負はまだついてないモルよ!」

「はい!」

「フフ……覚醒した君の実力、見せておくれよ?」


 不敵に微笑む光子先輩。さらに数を増やして広場に集う鳥型ロボット軍団。

 ロボット軍団のモノアイは赤く光り、怒っているかのように見えた。

 私は正眼に構え、次のウェーブに備える。

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