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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第一部
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モーニングタイムは食べ放題



程よく冷えたビールに、塩分と脂質、酸味の、黄金コンボ…。

身体を動かしている健康な大人には、回避が難しいS級の攻撃である。

また、この組み合わせは、容赦なく味覚刺激の依存を形成する。


連打で喰らえば、デブ一直線だ。

だらしのない肥満体形。

でぶ…。


(ウフゥー。たんと召し上がれ…!)


これが美食であるかを問われるなら、違うと答える。

そもそもメルの美味しい教団は、美食の追求などしていない。

単純に、教祖さまが食べたいものを作っているだけだ。


なのでアビーには申し訳ない(・・・・・)のだけれど、ソーセージとフライドポテトの皿がテーブルに追加された。

食べたいけれど、メルが我慢している二品だった。


地味にポッコリを気にしていたのだ。


「ほれっ、やまもりドーン!」

「うっは…。この赤いソース、美味しいんだよォー。確か、ケチャップだよね?」

「これは芋か…。切ったイモを油で揚げたんだな…」


「イモは、赤いケチャップ。ケチらんで、ベッチャリつけれ…。黄色い方…。マヨをつけても、美味いどォー♪」


メルは魔法料理店にフライヤーが設置されていたので、どうしても使ってみたくなったのだ。

切ったイモに小麦粉と調味料をまぶして揚げた、皮つきのフライドポテトだ。


フライドポテトとビールの組み合わせは、これまた魅惑の小悪魔セットである。

誘惑に負ければ、デブ一直線だ。


因みにアビーとカイルは大人なので、自己責任となる。

健康管理は自分でしなさい。


朝からビールをかっ喰らい、尚且つジャンクなオードブルセットをパクついているのだから、アビーが肥えたところでメルの責任ではない。

幼児に誘惑されて転ぶ大人など、知ったコトではなかった。



そんなメルだけれど、幼児ーズの食事には慎重だった。

一度、お好み焼きパーティーをしたら、皿に垂らしたソースを吸っていたので、『これはヤバい!』と気づいたのだ。


幼児口は、塩味と甘味を好む。

放置しておくと、際限なく味を濃くしていく。

パンケーキとシロップを渡せば、シロップが無くなるまでかけてしまう。


幼児ーズの食事は、キチンとした管理が必要だった。

塩味の強いフライドポテトなど、以ての外なのだ。


幼児が好む味は、五味のうち三味である。

甘味、塩味、うま味の三種類だ。


苦味や酸味は、味覚の学習をしなければ受け付けない。

五味以外の辛味については、さらに先の話となる。


これに加えて、食べやすさの問題があった。

幼児は柔らかくて、全体に味がついた料理を好む。

ステーキよりハンバーグが好きだし、刺身定食よりケチャップのチキンライスが好きだ。


口に運ぶのが簡単で、最初から均等に味が付いていないとイヤなのだ。


ゴハンにごま塩をかけて与えれば、次回からごま塩ナシに不満を覚える。

おかずが何であろうと、ゴハンにごま塩をかけまくる。


そうやって腎臓機能を損ねてしまう。


幼児のおやつにスナック菓子は、ノーグッドである。

特にポテトチップス系は避けるべきだろう。


味蕾が塩味に麻痺してしまうと、普通の食事を受けつけなくなってしまうからだ。

『味がしない!』と、思うようになるのだ。


幼児の味覚学習を考慮するなら、好物に苦味や酸味を加えて覚えさせるのが良い。


美味しい教団の教祖さまは、幼児ーズのおやつに万全を期していた。



「メルちゃーん。エール、おかわり」

「こっちも、おかわり」


「ちょっと待て…。いま取ってくゆ!」


だが…。

大人のことは知らない。

朝からビールを断らない、大人がイケナイのだ。


メルの口もとに、悪い笑みが浮かんだ。


(ウケケケ…ッ。ママ、食べまくりですなぁー。そのまま、ポッテリと肥え太ってしまえ…。僕のホッペタや下っ腹を笑えなくシテヤル…。傷ついた幼児の怒りに、翻弄されるがよいわ…!)


常日頃、プチデブ扱いされているメルは、ボンキュッボンのアビーに贅肉を付与してやろうと企んでいた。

ぽっちゃり小悪魔の、ちょっとした悪巧みであった。




◇◇◇◇




森川家の面々に、樹生からのメールが届いた。

およそ三か月ぶりである。


母親の由紀恵がはしゃぎまくって、色々と見当違いなコトをやらかしたのも仕方なかった。

樹生が家に帰ってくる訳でもないのに、好きだった料理をテーブルに並べたり、可愛らしい女児服を購入してきたりと、かなりテンションが異常だった。


だけど和樹は、そのような母親の行動に口を挟まず、浮かれる様子を温かい目で見守った。


「今回は、写真が多かったね」

「そうなのよぉー。カワイイ写真が沢山。プリントアウトして、あの子のアルバムを作っちゃったわ」

「何より、元気そうで…。楽しそうにしてたのが、良いな!」


父親の徹も、嬉しそうに笑みを浮かべていた。


生前は樹生の笑顔など超レアな代物であったから、微笑む幼女の写真をありがたそうに拝むのも理解できる。

和樹だって、弟の樹生が楽しそうにしていれば嬉しくなる。


そのうえ樹生のメールには、十日毎に連絡できるようになったと記されていた。



「それにしても、幼児のくせに飯屋をやるって…。あいつは、いったい何を考えている。大丈夫なのか?」

「あたしのところにも、料理のレシピが欲しいって書いてあったわ…。あの子に料理なんて、作れるのかしら?」

「あーっ。そんな心配は、まったく要らないだろ…。向こうの両親は食堂を経営してるらしいし、よく分からんけど魔法が使えるんだとさ!」


「魔法かぁー。父さんは頭が固くって、どうにも樹生の話を理解できんのだ」


そうぼやく父親が眺めているのは、樹生の料理店だと言う巨木の家だった。


「こりゃまた、非常識な写真じゃないか…。なんだ…。アイツは、生木をくりぬいて住んでるのか…?」

「それなぁー。オレもダメだわ…。何度見ても、信じられないよ…」


「あらぁー。メルヘンで妖精のオウチみたいじゃない。可愛らしくて良いわぁー」


そう言う問題ではなかった。


ひとはリスやフクロウと違うのだ。

木の(うろ)に住んだりはしない。


いや、それも違う。

問題なのは、生きている巨木と家が完全に融合している点だ。

こんなものは、きっと作ろうとしても作れないだろう。


和樹は画像加工を疑いたかった。

しかし樹生には、写実画のセンスが皆無だった。

ファンシーなゆるキャラは描くのだけれど、デッサンを嫌っていた。


そんな樹生が、リアルな写真を捏造できるとは思えなかった。


ハッキリ言えば、これだけの画像ファイルを送信してきただけで驚きなのだ。

写真なんて、撮るのも撮られるのも大嫌いだったから…。


「それにしても、でっかい樹だな…」

「メールの説明によると、精霊樹とか呼ばれているらしいよ」

「こんな所で、商売なんか始めよって…。罰が当たらんと良いな…」


「お父さん…。縁起でもないことを口にしないでください。悪い事なんて、起きっこありませんよ!」


樹生の件になると、いきなり言霊信仰者と化す母親の由紀恵だった。




因みにメルの写真を撮ったのは、カメラマンの精霊である。

タブレットPCを使った個人撮影には限界があるので、新しい精霊をクリエイトしたのだ。


創造されたのはカメラを搭載したドローンっぽい精霊で、グラビアカメラマンのように喋りまくった。


念話を用いずに、音声で話す精霊は初めてだった。

しかし残念なことに、カメラマンの精霊が語りかけてくる内容には、明らかに道徳上の問題があった。


『んーっ。お嬢ちゃん、キュートだねェー。思い切り、お尻を突きだしてみようか…!』

『こんなかのぉー?』


『そっそ、そんな感じ…。バッチリだよ。可愛いねェー』


元はと言えば、メルが悪い。

精霊クリエイトの際に、余計なカメラマンのイメージを混ぜてしまったのはメルだ。


だけどメルは、誇り高き妖精女王さまである。

断罪されるのは、下品な精霊だった。


『いいよ、いいよ…。セクシーだねぇー。さあ、それじゃ…。ちょっとだけ、脱いでみようかぁー♪』

『……ムッ!』


『ワンピースの肩ひもを(ほど)いてごらん…』


結果…。

カメラマンの精霊は、メルから邪霊認定されてしまった。


『おまぁー、クビ!』

『えーっ。そんなぁー』


今ごろ、何処の空を飛んでいるのやら…。

水辺で遊ぶ乙女たちに、迷惑をかけていないと良いデスネ。






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【エルフさんの魔法料理店】

3巻発売されます。


よろしくお願いします。


こちらは3巻のカバーイラストです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 無駄にww腕?だけはたつ♪̊̈♪̆̈カメラマンの精霊♪̊̈♪̆̈ 禊と復権の機会をプリーズч(゜д゜ч)ぷり〜ず♪̊̈♪̆̈ そして……失墜もww あと、召喚の最後がwwガチ…
[良い点] 更新お疲れ様です、ありがとうございます 先日見かけて以来、一気に読みふけってしまいました。これからも楽しみにしています [気になる点] 前世病弱未成年の癖になぜビールの具体的な組み合わせ…
[一言] デブが好む味の種類として「でかい」があるらしい
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