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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第一部
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妖精たちと作戦会議



ご馳走を食い散らかしてお腹いっぱいになったメルは、プースカと寝てしまった。


クリスタとアーロンには、メザシ定食を用意して上げた。

ご飯はオカワリありの、ホカホカ炊き立てだ。

長ネギと油揚げのお味噌汁に、冷奴。

お漬物も添えた。


二人は喜んで食べていた。


(これで、文句はなかろう…!)


そう勝手に決めつけて寝た。

魔法バカには、何時までも付き合っていられない。


メザシ定食がミケ王子のついでなのは、トップシークレットだった。



遮蔽術式に限らず、高位魔法と言うモノはややこしい。

要は妖精に意思を伝える注文書な訳だが、当然だけれどウスベルク帝国の公用語など通じない。

精霊文字なる難解な記号があって、これを魔鉱プレートに刻んで伝達手段とする。


昔の魔法博士や精霊使いと呼ばれた人々が、長い長い歳月をかけて妖精との間に築き上げた共有記号だ。

念話ができるメルとしては、面倒くさくて覚えていられない。


メジエール村の人々や冒険者なども、フィーリングで魔法を使っている。

『酔いどれ亭』のフレッドなど、厨房のコンロも魔法剣も同じ火の妖精に任せっぱなしである。


だがクリスタとアーロンが必要としているのは、もっと信頼性が高くて間違いの起きない指示書の作成だった。

しかも複雑で、驚くほどに要求が多い。

何でもそうだけれど、文書に起こして注文内容を伝えるのは難しい。

だから魔法術式の開発者は、魔法博士(・・・・)とか呼ばれて人々から敬われるわけだ。


だが、メルには関係のない話だから寝た。

二人は徹夜する覚悟のようだが、オネムの時間になったのだ。






夢を見た。

鮮明な夢だった。


メルは西洋風のイケメンや強面のオヤジたちと、広い会議室にいた。

映像設備まで完備された機能的な会議室は、ブリーフィングルームと呼ばれていた。


最近見慣れてきた異世界の中世風イメージではなく、メルの前世記憶に準拠したオフィスのイメージだった。


居並ぶ男たちは、みな軍服姿である。

メルは会議室の上座に、チョコンと座っていた。

指先でカイゼル髭を弄びながら、偉そうに踏ん反り返っている。


髭だけ黒い。

明らかに付け髭だった。

髭以外は、いつもと変わらぬ幼女だ。


窓の外は大海原である。

どうやら巨大な船に乗っているようだ。

と言うか夢なので、細かいことはどーでも良かった。


メルは自分の姿が見えるのも、然して気にしなかった。

なんとなく映画を観ているような気分だった。



「メル司令官殿…。作戦会議を始めてよろしいですか?」


厳つい赤い髪のオヤジが吠えた。


火の妖精だった。

妖精打撃群副司令官である。


「うん…。いいよぉー」


メルは血気盛んなヒャッハーたちを統括する、妖精打撃群司令官だった。


「本作戦に於ける目的は、帝都ウルリッヒ地下迷宮に捕縛された同志たちの解放にある。従って聖戦である!」


居並ぶ妖精たちに向かって、副司令官が作戦の目的を告げた。


「おおーっ!」

「遂に実施するのですな…」

「うむっ。千年は、ちと長すぎたな。囚われた仲間たちも、さぞかし悔しい思いをしたであろう」

「一気呵成に、燃やし尽くしてやりましょうぞ!」


会議室のテーブルに着いた妖精たちは、やる気を漲らせていた。


地水火風の妖精たちは、それぞれに(はや)る気持ちを口にした。

どいつもこいつも、ヒャッハーである。


「諸君、静粛に…!現在、我々の妖精母艦は、屍呪之王(しじゅのおう)と呼ばれる邪悪な術式をターゲットに捉えている…。敵は諸君の足下にある!」


因みに妖精母艦とは、メルのことだった。

妖精たちはメルの身体を住処としているので、一緒に帝都ウルリッヒまで運ばれてきたのだ。


おおよそ二万の軍勢である。


「作戦内容は単純だ。妖精母艦により屍呪之王(しじゅのおう)に最接近…。これを阻もうとする障害は、全て妖精航空部隊によって殲滅。その後に、全力を以て屍呪之王(しじゅのおう)を叩く。短期決戦である。諸君には、迅速かつ容赦のない対応を望む…!」


副司令官による、簡単明瞭な作戦内容の説明が終わった。


勿体ぶって席から立ち上がったメルが、ざわつく一同に告げた。


「本作戦をエーベルヴァイン作戦と名付ける!」


会議室に歓声があがった。






爽やかな朝だった。

メルが領域浄化(大)を連発したせいか、空気が清々しい。


〈おはよう、メル…♪〉

〈オハァー、ミケ王子!〉


ミケ王子も鼻の痛みが消えて、上機嫌だ。


だが、ベッドに身体を起してテーブルの方を見ると、未だクリスタとアーロンは魔鉱プレートに向かっていた。

近づいてみると目が血走っていた。


「おまぁーら、ええカゲンにせぇーヨ!」


メルはクリスタとアーロンのために、紅茶を淹れた。

そして精霊樹の実で作ったジャムをカップに落とし、テーブルに置いた。


これは職人気質とか学者気質と、呼ぶべきモノなのだろうか…?

メルにはオタクとの違いが分からなかった。


お母さんが居たら、『あんたたち、いい加減にしなさい!』と叱られるレベルだ。


「ちっ…。仕方なし…」


メルはストレージに隠し持っていた、大切なキャラメルナッツを二枚ずつお皿に載せてだした。


「なにこれ…?」

「いい匂いですね。ホッとする」


精霊樹の実が、ほのかに香る紅茶だ。


クリスタとアーロンは魔鉱プレートから顔を起し、生気のない様子で紅茶を啜った。


「そえ、飲んで…。ポリポリ食べたら…。ねろ!」


メルは二人の大人を叱りつけた。


何であれ、健康を大切にしない連中は許せない。

そこは転生幼女として譲れないラインだった。


「このところ歳のせいか…。眼が霞んで、よく見えないんだよね…」


クリスタが力なくぼやいた。


ただの眼精疲労だ。

細かい精霊文字を書き過ぎたのだ。


年齢は、まったく関係なかった。


「わたしは、何だか頭痛がするのです。やっぱり歳のせいでしょうかね?」


違う。

明らかに寝不足と脳の栄養不足が原因だ。


年齢は、まったく関係なかった。


メルはヒステリーを起しそうになりながら、二人の不健康なオタクを睨みつけた。






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