メルとネット民
異世界への愛を語り合うオフ会が開催された数日後、何故か唐突に【わくわくエルフチャンネル】が終了した。
オフ会では数名の希望者が名乗りを上げ、主催者の和樹とメルアドの交換をした。
それなのに和樹がアカウントBANを喰らったせいで、長らく問い合わせもできない状態にあった。
だけど今日になって、チャンネルを再開すると告知が入った。
ショートムービーと一緒に転送されて来たメールは、謎に満ちていた。
祝:エルフチャンネル復活!!
耳長族: 【わくわくエルフチャンネル】復活!
右のボタンを押せ: 謎の告知メール、キタ。
ヒマ蔵: それな。あのドメインなに!?
はろたん: Yggdrasill.COM……?
茶色いアレ: ドメインも理解不能だが、どうやっておれちゃんのメアドを調べた?オレはカズキ氏に、メアドを教えてないぞ。
オレチン: ハッカー?
猫耳太郎: 妖精女王陛下だから……。
オレが魔法少女: 魔法だから……。
ホクホク: それは少し思った。追及したところで無駄だと。
リンリン: 動画ないの……?異世界戦争は、どうなったの……?
黄金のスケルトン: おう、間に合ったか……?まだ、始まってないな。
耳長族: ギリ、セーフ。
Toby Tiger: OMG…….Welcome back,Mel!My Sweet Baby!!
ヒマ蔵: ……ッ。外人キタ。
ラリパッパ: マイって……。トビー。メルちゃんは、オマエのものじゃない!
ぬるま湯: そうだぞ。トビー。
Toby Tiger: What are you saying!?
明日の爺さん: みなさん、先日のオフ会ではお世話になりました。
オレチン: いえいえ、こちらこそ。
茶色いアレ: 爺さんが、ぜんぜん爺さんではなかった件。殺しても死ななそうなガテン系。w
ホクホク: 草。キミも、ウ○チではなかった。日焼けサロンに通いすぎなダンサー?オタクらしさの欠片もねぇー。
右のボタンを押せ: 主催者のエルフ兄のみが、絵に描いたようなオタク。プッ……、クスクス。
リンリン: エルフ兄の悪口を言うな。異世界戦争の続きをアップしてもらえなくなったら、どうする。ワイは、続きが見たいんじゃ!
はろたん: ネット民のリアがオマエらの想像と違うのは、定期だろ。それより添付されていたショート動画についてだが、いつもと違くね!?
耳長族: ウムッ。何となく異世界らしくなかった。
転生希望者A: 電信柱が映ってたぞ。w
猫耳太郎: スズメと烏の泣き声が聞こえた。
ヒマ蔵: おれは踏切の遮断機が下りる音を聞きました。
皆が文字チャットを垂れ流している間に、ライブ開始の時刻となった。
ガチャガチャ……。
音声が入る。
耳長族: はじまる?
ぬるま湯: 時間だ。
『メルー。これで良いの?』
『あー、あーっ。聞こえまちゅか?』
ラリパッパ: 聞こえるよぉー。
ヒマ蔵: 音は出てるけど、カメラが明後日を映してる。
猫耳太郎: あーっ、日本家屋の天井だ。
転生希望者A: 仏壇……。仏間か?
『OK。では、ライブを始めましゅ!』
モニター画面にメルの姿が映し出された。
『兄ぃーのアカウントが、ワルモノに削除されまちた。現在の兄ぃーは、スマホもちゅかえない原始人でしゅ。なんでボクが、代わりにライブをやりましゅ!メルだよぉー。よろちくー』
ホクホク: メルちゃん……?
ぬるま湯: マルグリットのサイズに縮んだ……。
オレチン: 美少女を通り越して、可愛らしげな幼女になった。
黄金のスケルトン: いやいや、日本語を話しているじゃん。
ラリパッパ: なんにせよ、てぇてぇ。
右のボタンを押せ: おいっ。それで納得するなよ。本当にメルちゃんか……?あと。そこは何処ですか?
『ウムッ。よんどころない事情がありまちて、ユグドラチルでの戦いは、辛勝で終わりまちた。結果、ぼくはこちらに飛ばしゃれ、パワーを失ったぶん、ちっこくなりまちた。ここはぁー、前世の実家ヨ』
『メルは、本物のメルだよ。ボクが保証します』
猫耳太郎: ネコが喋ってる。
はろたん: ケット・シーのミケ王子だろ。以前の動画でも見たじゃん。
猫耳太郎: 背景が異世界じゃないと、違和感バリバリだよ。字幕でなく、音声がナマの日本語だし。
明日の爺さん: フーム、エエもん見た。寄付したいが、動画サイトのシステムがおかしい。
右のボタンを押せ: 新しいチャンネルだし、動画配信者に課せられた制約は外れてないだろ。チャンネル登録数も条件を満たしていないし。
『あーっ、ある意味でインターネットへの違法アクセシュだから、条件を満たちても本来シャイトが提供ちているシチュテムは使えましぇん。ぼくが使っているのはユグドラチルの霊道回線と国防総省中央管制チェンターのチュパコンでしゅ。みなしゃんが接続ちてるのは、インターネット上に存在ちないニセの動画シャイトで、だれにも見つけられましぇん。安心安全でしゅ!』
耳長族: 信じる。
ラリパッパ: ツッコミどころだらけだが、可愛いから許す。
明日の爺さん: ここには頑張る幼女を困らせるような悪人は居らん。
はろたん: 妖精女王陛下、バンザイ!!
『あいがとー』
『メールを受け取った方々は、ユグドラシル王国が厳選した特別な人たちです』
『ミーケの言う特別とは、キミらが異世界からの転生者だってことでしゅ!』
『みんなメルを応援してくれる味方だよね』
だから金髪糞ビッチのエミリアは、今回のライブに招かれていない。
和樹の恋人(?)は、既に敵認定されている。
耳長族: 転生……。信じたい。
ラリパッパ: 信じたいけど、信じがたい。なんか話が詐欺っぽくなってきた。
明日の爺さん: 最近はやりのスピリチアルか?
転生希望者A: ワイは信じる。やっぱりか!?と言う思いしかない。
リンリン: 異世界戦争の動画は……。続きはないの……?
『リンリンしゃん……?ご希望の動画なぁー。残念ながら黒曜宮は撮影できんかった。ミッティア魔法王国を急襲した映像は、編集が終わればアップできるでしょう。だけど今は、ぼくの手元にありましぇん。そんな訳でしゅから、カボチャダンスで勘弁して』
ミケ王子が楽器をかき鳴らし、メルは得意のダンスを披露した。
右のボタンを押せ: やべえ。幼稚園児のダンスじゃない。プロのレベルだ。
ラリパッパ: ……くっ。問題はあるけれど、メッチャ可愛いのでヤメろと言えない。
はろたん: 激しく同意。
リンリン: はぁはぁ……。カボチャダンスで許す。
その後もミジエールの繁華街で鍛えた、メルの大道芸が続いた。
ちょっとエロ可愛い幼児離れした大道芸は、洗練されたパントマイムや高度なジャグリングを含み、見ごたえ充分である。
ネット民たちは、幼児の巧みな芸に心を奪われた。
明日の爺さん: お金、払いたい。これがタダとか、申し訳なさすぎる。
猫耳太郎: オフ会。メルちゃんに会いたい。
右のボタンを押せ: あーっ、おまい。言ってしまったな。夢は夢のまま、本当かも知れんと希望を抱き続けるには、超えてはならない一線があるのだぞ。
ラリパッパ: オフ会でメルちゃんに会って、全部CGでしたとか悲しいだろ。
猫耳太郎: だって、会いたいよ。
『オフ会に、ぼくも参加ちましゅ。それが今回のライブで伝えたかった本題でしゅ!ぼくだけでは何にもできないので、実際の準備は兄ぃに頼むつもりでしゅ』
メルはジャグリングの小道具を背嚢に片付けながら、オフ会の開催を告げた。
メルがモニターに視線を戻すと、文字チャットのログは止まっていた。
『兄ぃには悪いけれど、幼児だと会場の予約が無理ぽ。しょれどころか、一人では移動ができしょうもない』
『こっちではさぁー。エルフ耳を隠さないといけないんだよね』
『ミーケさん。そんなん、帽子かマホォーでごまかしゅ。問題は、どこがどこか分からんことでしゅ。駅まで行くのが、もう冒険でしゅ。恥ずかちながら、ぼくは電車の切符も買えましぇん。券売機に、背ぇー届かんモン』
幼児が一人でフラフラしていたら、速攻で保護されるだろう。
明日の爺さん: 当日の車は、わしが出そう。
リンリン: ステーキハウスで良いなら、ウチを使うといい。近場の店を用意しよう。
右のボタンを押せ: リンリンさんのチェーン店が、オフ会の会場か。エルフ兄に任せるより、安全そうだ。
ぬるま湯: 会場が遠くなりそうだけど、ワイは絶対に参加する!
Toby Tiger: What are you saying!?
茶色いアレ: Toby…….I'll explain to you later.
Toby Tiger: Oh.Thank you.UNKO……!
茶色いアレ: くっ……。おまえ、日本語が分かってるだろ!?
猫耳太郎: メンバーを増やす?何なら、知り合いに声掛けするけど……。ほら、エミリアさんとか、知らせを貰ってないでしょ。
耳長族: あの外人女は好かん。エルフ兄には悪いけれど、どうにも怪しい。
ラリパッパ: あの女さぁー。カズキさんに張り付いて、どうするつもりなんだ?
はろたん: やすっぽいパブの商売女みたいなスキンシップをしやがって……。男ばかりのオフ会に、紅一点とかあるかぁー?
右のボタンを押せ: ウムッ、臭いな。何やら陰謀の臭いがする。
猫耳太郎: もぉー。何やかや言っておいて、右のボタンさんも異世界の存在を信じてるんだろ!?さもなければ、こんな会合に陰謀なんてあり得ないし。
右のボタンを押せ: 夢を信じていたいからこそ、種明かしは欲しくないのだ。
『兄ぃがBANされた原因は、エミリアでしゅよ。エミリアはワルモンのスパイでしゅ。兄ぃにも、伝えるつもりでしゅ!』
『メルの耳は、作りものじゃないよ。ホラホラ……』
『ウヒャ。ミーケ、ぼくの耳を引っ張らんでくだしゃい!』
本物そっくりなディープフェイクが存在するネットで、何をしようと意味などない。
だけど、さすがのミケ王子も、CGの存在は知らなかったのだ。








