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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第二部
339/370

こんなところに悪人が!?



「よんどころない事情がございまちて、()んでちまった身でありながら、こうちて戻って参りまちた。再び帰還が可能となるまで、ご迷惑でちょうがちばらくお世話になりましゅ。ちゅいては挨拶代わりの手土産をば……」


メルは畳に正座して、ユグドラシル銘菓『兎だぴょん♪』をすっと徹の前に滑らせた。


「これはこれは、ご丁寧に……。って樹生。実家で余所余所しい挨拶をするんじゃない。家族として、いくら何でも寂しいだろ」

「だってさっき……。お(とう)たまは『樹生が化けて出た!?』と、しゃけんでまちた。ぼくって歓迎しゅべからざる、客でちゅよね」

「なわけあるかー!ちっと、驚いただけだ。ふ、普通、驚くと思うぞ。驚いたらいかんのかぁー!?」


父親の徹が感情的に弁解する横で、兄の和樹もウンウンと頷いていた。


「そんなら、ここに泊ってもよろちい?」

「勿論だとも。好きなだけ居るがよい。ここは、樹生の家だ」

「父さん。メルだよ。樹生はメルに生まれ変わったんだ」

「ウムッ……。そうだったな。申し訳ない。メルさん」

「エェーッ。メルさんって、何だか他人行儀だよ。オレの妹なら、メルちゃんで良くないか?」


和樹が徹の肩を叩き、訂正を促した。


「そうか、そうだな……。うちの娘なら、メルちゃんか……」

「おい、メル。座布団に座れよ。実家に帰って来たんだから、そうやって畏まるなよ」

「では失礼ちて……。おざぶをば、ちゅかわちて頂きましゅ」


やはり徹より和樹の方が、順応性は高かった。


恐るおそるメルを抱き上げて、実体があると分った後は、実に馴れ馴れしい。

樹生が生きていた頃と同じように、図々しく兄貴風を吹かせ始めた。

推定年齢四才女児に偉ぶる、でぶニートの図である。


バイトはしているようだが『兄ぃは、ニートで充分!』と、メルは決めつけた。


「君たちも寛ぐとよい。但し外出時には、よくよく気を付けて欲しい。私たちの世界では、ネコや玩具のアヒルは喋らんのだ。二本足で歩くネコも居ない」


徹が家長らしく、滞在客に注意すべき事項を説明した。


「そうだぞ。メルの耳だって問題だ。誰かに見られたら大変なことになる。ミケが家の外で喋ったり二本足で立って歩いたりしたら、どこかの研究所に連れ去られてモルモットにされちゃうよ」

「ぼ、ぼくも……?」

「メルが一番心配だね。絶対に、魔法とか使うなよ」

「…………ッ!」


相手は異世界からの訪問者(ストレンジャー)だ。

放置すれば、騒動を起こすに決まっていた。


「お兄さま。ご忠告、痛み入ります。我らも妖精女王陛下共々、森川家の御厄介になります故……。よろしゅう、お頼み申し上げます」

「カズキお兄さん、よろしくニャ」

「…………っ!?」


だが和樹は、未だアヒルとケット・シーが苦手らしく、話しかけられる度に視線を逸らす。

ファンタジー好きなのに、現実に喋る玩具やネコを受け入れるのは難しかった。


その晩、森川家では、帰ってきた息子(?)の歓迎パーティーが催された。

由紀恵が腕によりをかけたちらし寿司で、おもてなしだ。

美味しいお吸い物と茶碗蒸しも、食卓に並んだ。


病弱だった樹生の誕生日メニューである。

飯台に敷き詰められたちらし寿司は、錦糸卵やイクラ、細く刻まれた絹サヤにボイルされたエビが飾られていて、実に美しい。

茶碗蒸しと吸いものから漂う優しい出汁の香りが、否応なく食欲をそそる。


「お母たま。ぼく、もう何でも食べれるんだよ」

「そうなのね。それじゃ、お料理が楽しくなるわ」

「でも、ちらちずち、美味ちい。とても懐かちい。ぼく、うれちぃー♪」

「よかったわ。喜んでもらえて……」


和気藹々(わきあいあい)である。


お腹いっぱいに食べたら、魔女っ娘パジャマに着替えてオネムだ。

樹生であったときに暮らしていた自室のドアを開ける。

すべて昔のまんまで保存されていた。


「ウムッ、ぼくの部屋か……。何もかもが懐かしい」


だがメルは、自分のベッドで寝ることを許されなかった。


「何をしているのかしら、メルちゃん?あなたはお母さんと一緒よ」

「エエッ!?エエェェェェェェェェェェーッ!」


由紀恵にガッチリ掴まれて、一緒に母親のベッドで眠ることに……。


父親の徹が怪訝そうな顔をしていたが、由紀恵は欠片も意に介さなかった。




翌日になり、朝食が済んで父親の徹と兄の和樹は、仕事へ出かけた。


掃除と洗濯を始めた由紀恵が忙しそうに働いているので、メルは居間でテレビを見ていた。

と言っても、アニメがないのでニュースとかばかりだ。


「おもちろくない」

「面白くないんだ……」

「こっちの世界で事故があっても、ちりましぇん。政治とか、ちっとも分かんないよね。チャンネル変える。アニメどこ?」


メルはリモコンで次々とチャンネルを変えた。


「ムッ!?」

「ああっ……」

「ユグドラシル王国が指名手配をしている凶悪犯ですね」


TVモニターには、インタビューを受けるブライアン・J・ロングの姿が映し出されていた。


ブライアンは新しいネットシステムの用意があり、より便利で包括的なサービスを提供するつもりだ、と語っていた。

翻訳によれば、そのような内容である。


「極悪人のエリクめー。エルフ耳が消えとるんは、どうちたことヨ?」

「彼はドッペルゲンガーですから、あちらでエルフだったけれど、こっちでは違う種族なのでしょう。名前もブライアンと呼ばれているようです。随分と信用されているように見えるのが、不愉快ですね」

「あいつの本性をだーれも知らないみたいだね。心配だよメル」

「うん。向こうでは、暗黒時代を引き起こちた悪人でしゅ。嫌な予感ちかちましぇん」


エリクの悪行をユグドラシル宮殿(パレス)で学んだメルにすれば、それが碌でもないものであることなど明白だった。


「エリクは千年の長きに亘り逃亡中の極悪テロリストです。クリスタさまを騙し、裏切った正真正銘のクズです。あぁーっ、何とかしてクリスタさまに知らせたい」

「ユグドラチル経由で、婆しゃまに連絡ちゅる?」

「ねえねえ……。ボクは思うんだけど、ユグドラシルはアイツのことを知ってるんじゃない?タブレットPCで調べて見なよ。きっと、次のミッションはエリクの討伐だ」


この件に関して、ミケ王子はアヒルの案内役(パイロット)より有能だった。

これまでメルと一緒に、ユグドラシル王国に振り回されて来た経験者がものを言う。

CATのチーフになったのだって、ユグドラシル王国国防総省(ペッタンコ)からの一方的な通達を断れなかったからだ。


だてに妖精女王陛下の相棒はしていない。

ここに居ることが(すなわ)ち、ミケ王子の凄さである。


「ホントだ。霊素のチャージが完了したら、エリクを捕捉しぇよ!って、指示がある」


メルは起動させたタブレットPCを睨み、グヌヌヌヌッと唸った。


「なんかなぁー。ぜぇーんぶ、ユグドラチルの予定通りかい!!」

「フッ……。メルー。妖精女王陛下と言えども、詰まるところ国家の部品に過ぎないのさ」


格好よくポーズを決めたミケ王子に、メルとアヒルが冷たい視線を注いだ。


「捕捉ちゅるって、どうやって……?アイツは、外人でしゅぞ。ボク、外国に行ったことないヨ!」

「あっ。それでしたら、私にゲート機能と幾つかの座標が入力されております」

「なるほど、そうでちたか……。そう言う意味で、案内役なのね」


アヒルの案内役(パイロット)は、異界ゲートの精霊だった。


やるべきことは分かったけれど、霊素が溜まるまでは待機だ。


「おし。やることがないので、兄ぃの部屋をちらべましゅ」

「確か……。【わくわくエルフチャンネル】をアップしてるんだよね」

「ミーケ、かちこい。ただのネコではありましぇんね」

「ケット・シーだよ。そもそもネコじゃないよ」


メルたちは和樹の部屋に突入した。

鍵が掛かっていたけれど、そんなものは気にしない。

魔法の人差し指で扉の(ふち)をなぞれば、鍵なんて勝手に外れて落ちる。


メルが和樹の部屋に踏み込むと、待っていたとばかりに妖精が近づいてきた。

【わくわくエルフチャンネル】を開始したときに派遣され、オカルト回線を保持していた妖精たちである。


「ほーん。金髪(クショ)ビッチが、あれもこれも破壊ちくしゃったようでしゅ!」

「はぁ。お兄さんが、美人の彼女だと自慢していた女性ですか?アイタタタタタ……。ボク、持病の胃炎が……」

「陛下……。お兄さまは、知っていらっしゃるのでしょうか?」

「そんなこと、ちらん。ぼぉーくも、何にもちりましぇん。キミらも、ちらない。よいね」

「「おぉーっ!」」


余計なことを口にして、和樹に八つ当たりされるのは御免だった。

説明すればユグドラシル関連でとばっちりを受けた和樹が、怒り狂うに決まっている。

ここは、知らんぷりが一番。


部屋を見渡すメルの視線は、薄い本やヤバイHゲームの隠し場所を素通りし、棚に飾られた立派な戦艦の模型に吸い寄せられた。


「ヤマトだ!?」


1/250モデルの武蔵だった。

似ているけれど惜しい。


もっともメルなら、へなちょこな艦橋を持つ扶桑でも戦艦大和だと叫んだであろう。

なんなら、大和しか戦艦の名前を知らない。


「手が届きましぇん」


推定年齢四才女児のボディーでは、棚の上に飾られた模型を(いじ)れない。

だけど、男子の闘魂がメルを突き動かした。


「よし!」


メルは本棚から本を抜いて、階段状に積み上げた。


本棚の奥に隠されていた薄い本やエロゲーは、床に放置された。

それらは階段の素材として、強度に不安があったのだ。

(しばら)く頑張ると、それっぽい足場が完成した。


「フゥー。ボク、天才(テンシャイ)よ」


あとちょっとと言うところで、ドンガラガッシャン!と足場が崩れた。


「あぅ!」


メルは背中から床に転げ落ちた。

模型と一緒に……。


天才(ジーニアス)ではなく天災(ディザスター)だった。

戦艦は、真っ二つ。

大破、轟沈。


「あわわわわ……。えらいことになったわ」

「バラバラだよ。これ、どうするの?」

「陛下、直せますか?」

「キミたち。何も見ていないね。ボクも、何も見なかった。この部屋にも、入っていない」

「「………………!!」」


ミケ王子とアヒルの顔から、表情が抜け落ちた。

実家に戻っても、悪魔チビは悪魔チビだった。


撤収(てっちゅう)ちましゅ!」


和樹の部屋を調査し隊は、秘密裏に編成され、秘密裏に解散と相成った。

鍵も(しっか)りと掛け直せば、追及されるような証拠などない。

すべてはポルターガイストのせいである。


「よし。兄ぃは当てになりまちぇんから、自分で動画を配信(はいちん)ちましゅ!」


こうして久しぶりに、各動画サイトへ【わくわくエルフチャンネル】がアップされたのだ。


これにはブライアン・J・ロングも、吃驚である。






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【エルフさんの魔法料理店】

3巻発売されます。


よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
(´;ω;`)ぶわっ>お母たま。ぼく、もう何でも食べれるんだよ
異世界動画のヒロイン枠が自分で動画アップし始めるとか、もう面白さしかない。
このお転婆っぷりは間違いなく悪魔チビ!
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