テロリスト殲滅作戦
警告:害虫注意!
苦手な人にとっては、非常に苦手なアノ虫が登場します。
今回の内容は戦闘シーンのみであり、読まなくてもストーリーは把握できると思います。
ダメかもと思われた方は、遠慮なくスルーして下さい。
以上の理由から、後日談は戦闘描写と切り離して投稿させて頂きます。
なので、今回は短めです。
テロリストどものアジトは、入口を大きな岩によって守られていた。
大きいと言っても、メルの身体半分ほどでしかない。
妖精パワーを用いれば、撤去も可能だろう。
しかも、ここはパン屋の敷地内だった。
秘密部隊による、事前通告なしの不法侵入だ。
殲滅作戦は、速やかに完了させたい。
欲を言えば、戦闘の痕跡さえ残したくなかった。
だって、そのほうが格好いいから…。
メルは少し悩んでから、大きな岩をどかすコトに決めた。
デルタフォースの主力は、風の妖精だ。
エアバーストを使用すれば、岩の上から押し潰すような衝撃を与えられるかも知れない。
だがエアバーストは破裂するときに、猛烈な爆発音を発生させる。
周囲に与える損害も、少なくない。
間違いなくパン屋のマルセルは、跳び起きてくるだろう。
ここは是非とも、無音のエアブレットで済ませたいところだ。
そうなると、どうしても岩が邪魔だった。
「わらし、どかす。イワぁー、もどす。モンダイなし!」
パン屋の朝は早い。
躊躇している余裕などなかった。
「ぬぉーっ!」
メルは大きな岩に取りついて、妖精パワーを発動させた。
そして大地から引っこ抜くように、岩を持ち上げた。
メジエール村の子なら、誰でも知っている。
石ころをどかした裏側に、何が潜んでいるのかを…。
メルは何も知らない幼気な女児だ。
メルの前世である樹生も、都会育ちのもやしっ子である。
しかも病気で入退院を繰り返したインドア派なので、石ころの裏側に隠された秘密なんて知る由もなかった。
そこは蟲どもの棲み処だった。
ウゾウゾと蠢く蟲たちで、湿った地面が埋め尽くされていた。
黒い穴から這いだしてくる、好戦的な奴らもいた。
メルが抱えた岩の裏側にも、みっしりと飴色の蟲どもが集っていた。
「ネズミ、おらんか?」
メルは抱え持った岩が邪魔で、足元を確認できない。
ネズミは居なかった。
大きな岩に隠れていたのは、ガジガジ虫の大群だった。
ガジガジ虫とは、ゴキブリとコオロギの悍ましさを足して(二で割らない!)、サイズを二倍にしたような外観を持つ蟲だ。
ガジガジ女王が棲む巣穴を地下に張り巡らせ、白アリのようにコロニーを形成する。
もちろん立派な害虫なので、人里で発見された場合は速やかに殺虫剤を用いて駆除される。
メルの部屋に侵入してきたのは、テリトリー内でエサを集める翅ガジガジだった。
巣穴から出てきた一回り小振りなのは働きガジガジで、いまメルの脚を齧ろうとしている顎の大きなヤツが兵隊ガジガジだ。
アリっぽい名称だが、外観はゴキブリとコオロギのミックスである。
ネズミを退治すると説明されていた妖精たちは、ターゲットが居ないので待機状態になっていた。
司令塔であるメルは岩を抱えていたので、何故に戦闘が始まらないのか分からない。
そのような緊迫した状況下で、メルを襲おうとした兵隊ガジガジに強化版ピュリファイが炸裂した。
メルの護衛についていた水の妖精が、放った一撃だ。
兵隊ガジガジが、バラバラになって飛び散った。
パン屋の裏庭で、静かに戦闘の火蓋が切られた。
睨み合っていた特殊殲滅部隊とテロリストたちが、同時に行動を開始した。
岩の裏に張り付いていた翅ガジガジが、一斉に飛び立った。
巣穴を這いだした兵隊ガジガジは、メルを目指して突進してくる。
一方、これを迎撃せんと風の妖精たちが、エアブレットを放った。
幾層にも隊列を組んだ風の妖精による風圧の連射が、弾幕を形成する。
一発の威力は太いゴムバンドの衝撃程度に抑えられているが、途切れることのない連射である。
兵隊ガジガジの群はメルにたどり着けず、四散していった。
空からの神風アタックを試みた翅ガジガジたちは、エアバーストの一撃で大半が飛行能力を奪われた。
『ドーン!』と言う爆裂音が、メジエール村の中央広場に響く。
この時点でようやく岩を降ろしたメルは、空を見上げてぼやいた。
「だれぞ…。えあばすと、ツコうたはダレぞ?!」
命令違反者を叱りつけようとするメルの上に、バラバラとガジガジ虫の破片が降ってきた。
「ふぁーっ?」
何がどうして、こうなった…!
(なななっ、何コレ…。むしっ、虫なの…?虫の脚ですか…?こっちは千切れた胴…。てかっ、ゴキじゃん!)
メルは頭から、ガジガジ虫の破片を浴びてしまった。
手入れを欠かさない長い髪に、虫の死骸が絡まっていた。
「ひやぁーっ!」
叫ぶメルの額に、特攻してきた翅ガジガジがハッタと張り付いた。
「ぐぉーっ!」
蛇腹のある飴色のボディーが、フリフリと尻を振っている。
それは正に、目と鼻の先にあった。
視界の隅っこで、黄色い光が明滅した。
「おい、待て…!ウったら、アカーン!」
風の妖精が、エアブレットを放とうとしていた。
(撃つなぁー。ストップ・ザ・ファイア!ストップ・ザ・ファイア!!)
念話でなければ、興奮した妖精に命令が通じる訳もなし…。
しかし残念なことに、メルも冷静さを失っていた。
「ひぃぎゃぁぁぁぁぁぁ…っ!」
『バチコーン!』というデコピンの衝撃と共に、エアブレットの着弾で飛び散った翅ガジガジのアップ映像を眺めつつ、メルの意識はプッツリと途切れた。
ミケ王子はパッタリと倒れ伏したメルを見て、跳びあがった。
〈おおーい。メル…。どうしたの?大丈夫ですかぁー?〉
またもや返事がない。
戦闘が終わり、妖精たちは撤収していく。
ガジガジ虫の死骸が散乱するパン屋の裏庭で、ミケ王子は途方にくれた。








