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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第二部
311/370

妖精たちが喜ぶので……



輪廻転生システムがフル稼働を開始して、メルの花丸ポイントは一気に増えた。

まさにパチンコの確変である。


「一兆越えって……。ウハウハじゃ!」


花丸ポイントの表示にはゼロがたくさん並び、数えるのも面倒くさい。

もう、一生遊んで暮らせるお大尽さまだ。


だが財産と同じで、上手に花丸ポイントを運営すれば更なる増資を見込めそうだ。

そのことを実感したメルは、転生してくる人々のために生活可能なエリアを広げようと考えた。


「おおーっ。産めよ増やせよ地に満てよ。われは妖精女王なり!」


と言うことで、タブレットPCに表示された地図(マップ)を睨みながら、生まれて来る子供たちが快適に暮らせるエリアを用意する。

エルフの里を作ったときと同じノリで、ドワーフたちが暮らす地域にも花丸ポイントを注ぎ込む。

タルブ川に沿って点在する開拓村の周辺にも、どっさりと花丸ポイントを投下。

魔法学校の施設も拡張し、より多くの子供たちが学べるようにした。


「妖精さんと人々が楽しく暮らせる土地を山ほど作るんじゃ。皆の感謝が、概念界を豊かに変えてくれよう。そしたら、わらしの花丸ポイントもドカーンじゃ!」


夢のような話だった。

クイッと眼鏡を直すメルの瞳は、病的な熱を帯び、潤んでいた。

ギャンブル狂の目つきだ。


「姉さま。そんなに花丸ポイントを使って良いのですか?」

「マルーよ。今のわらしにとって、一億ポイント程度は、お小遣いじゃ」

「…………一億が、お小遣い」


驚いたマルグリットの眼が丸くなる。


「そうじゃぞ」

「あのー。そう言う事でしたら、わたくしにもアイスクリームを買ってくださいませ」


モジモジしながらマルグリットが強請(ねだ)った。


マルグリットは甘いお菓子が大好きだった。

妹分の可愛らしいお願いである。


「よかよか。お姉ちゃんに任せんしゃい。なぁーんでも、マルーの欲しいもんを買うてやるさかい」

「やったぁー」


マルグリットはタブレットのモニターに表示された花丸ショップの商品リストから、高級アイスのセットを指さした。

以前、『贅沢は許さへん!』とメルにデコピンを喰らった、高級アイスのセットである。


「ほぉーん。マルーは、これがエエんかい?」

「はい」


メルは少し考えた。

メジエール村は夏を迎え、木陰から出たなら猛烈な炎暑である。

弟のディートヘルムもへばっている。

皆アイスは食べたかろう。


「よし。アイスは好きなだけ食べてもいいから、ちょこっと頼まれてくれんかのぉー」

「お仕事ですか……?」

「なぁーに……。村人に無料でアイスを配る、簡単なお仕事じゃ。ディーと一緒に、やってみませんか?」

「外は暑いです」

「摘まみ食いあり。おかわりあり。コーンに何段重ねてもエエよ。一切の制限はなしじゃ。アイスがのおなったら、わらしが幾らでも補充します」


エルフさんの魔法料理店にて、アイスの無料サービスだ。


「やります」


マルグリットは力強く頷いた。


取り敢えずメルは、業務用の大容量アイスを十ケースとワッフルコーン、アイスクリーム・ディッシャーを購入した。

販売用の冷凍庫がついた、ラブリーな屋台も用意する。

布製の日除け屋根が、可愛らしい。


(のぼり)も作ったる」

「姉さまが……?」

「なんか文句でもありますか!?」

「いいえ」


涼しげな青い布地に、『マルーのアイス屋さん』と赤い文字が大書された。

メルが書いたので、赤いインクが垂れておどろおどろしい。

文字はギリギリ読めるが、ちょっとイヤだった。

オシャレな屋台に不釣り合いだ。


マルグリットの美的センスは、かなり上等な部類に入る。

しかも幟なら、軍旗と大差ないように思えた。

それらしいものを作る自信はあった


「少なくとも、姉さまよりはマシ」


この日からマルグリットとディートヘルムは、メジエール村の中央広場で美味しいアイスクリームを配るようになった。

無料で美味しいのだから、言うまでもなく大盛況である。


アイスクリーム効果で、メジエール村の中央広場を訪れる人の数がグンと増えた。

メルとアビーはアイスクリームが欲しくて集まった村人たちに、焼きそばやトウキビを売りまくって大量のメルカを稼いだ。

暑い夏の日には、塩分もまた喜ばれるのだ。




◇◇◇◇




夕暮れ時の田舎道をライトニング・ベアが疾走する。


〈見せたいものがあるのぉー〉

〈コッチ、コッチ〉


妖精たちはメルが操るライトニング・ベアを先導して、メジエール村の舗装路を北西へと向かった。


「なあ、妖精さん。そっちには荒れ地しかないで……」


メジエール村と北東の端っこで隣接する忌み地は、遠い過去に滅びた文明の遺跡を残すのみ。

悪霊たちと淀んだ瘴気が障害となり、草木も生えぬ不毛の地だった。


霊蔵庫を作成していたときに度々訪れた荒れ地であるが、メルの新世界創造計画からは外されていた。

ここは茫漠たる砂漠であり、人の精神を蝕む瘴気の溜まり場だった。


「なぁーんとなく、妖精さんの言いたいことは分かった」


この地を浄化するには、とんでもない花丸ポイントを必要とする。

それ故に、見て見ぬ振りをして来たエリアなのだ。


〈アレ見て〉

〈ちゃんと見て〉


妖精たちが示した場所には、数本の草がへロリと生えていた。

熱と乾燥と瘴気の影響で、今にも枯れてしまいそうだ。


〈カワイソウ〉

〈妖精女王陛下、あの子たちを助ける〉


妖精たちはメルの周囲をクルクルと飛び回った。


〈ナオシテ、ナオシテ!〉

〈キレイ、キレイにするの……〉


「うーむ。費用対効果(コストパフォーマンス)と言うもんがあってなぁー。ここは、それが最悪なのデス」


〈ナオシテ、ナオシテ!〉

〈キレイ、キレイにして欲しいの……〉


「グヌヌヌヌッ……。ここを浄化するには、五千億ポイントも必要になるのですぞ!」


ライトニング・ベアを忌み地との境界に停めたメルは、ヘルメットとゴーグルを外し、夕日に照らされた遺跡群をじっと見つめた。


〈出し惜しみ!〉

〈けちん坊〉


妖精たちがメルのおでこに、全力で体当たりを始めた。


「うぉー。ウザイわぁー。分った。分かりました。アータらの、お願いを叶えましょう」


妖精女王陛下は、泣く子と妖精さんに勝てなかった。




◇◇◇◇




概念界に於いて、古くから存在する精霊たちが宮殿に集まり、緊急かつ重要な会議を開いていた。


「つい先ほど……。妖精女王陛下が、古代ドンウォン共和国の領土を浄化なさいました」


議長席に座った精霊が会議室のテーブルを囲む一同に向かい、穏やかな口調で語りだした。

その精霊は、美しい女性の姿を持っていた。

何なら女神と呼ぶ方が相応しかろう。


「あの忌まわしい忌み地が消え失せたか」

「これでユグドラシル王国を現象界に打ち立てることができますな」

「妖精女王陛下を玉座に迎えることは、我らの悲願」

(いとけな)い陛下の粗暴さを看過するのであらば、今のままユグドラシル王国へお迎えすることができます」


議長は歓喜する精霊たちに、まだ解決せねばならぬ問題があることを匂わせた。


「議長殿は、陛下に至らぬ点があると申されるのだな」

「今のままで良いかと問われるなら、素直に頷けぬ点はあります」

「うむ。そこは我らで話し合わねばならぬだろう」


手放しの喜びから一転、精霊たちは解決すべき問題と向き合うべく、姿勢を正した。


「では……。このままで構わぬと思うもの、早急に解決すべきであると思うもの。それぞれの意見を伺うとしましょう」


議長は女性らしい所作で、会議のために用意された書類を捲った。


精霊たちは例外なく美しく、威厳を備えていた。


ウロコや角がある龍。

焔を纏う火蜥蜴の精霊。

蝶の羽を持つ、草原の精霊。

雪原を疾駆する、氷狼の精霊。


様々な姿を持つ精霊たちだけれど、そこには確固たる調和が存在した。


「それでは、私見を述べさせて頂こう。不敬な発言であるかも知れぬが、陛下の美的センスにはちと問題を感じる。いいや、最低だ」

「しかり……。あの調子で新しい精霊を創られたら、ユグドラシル王国の評判を落としかねない」

「見た目は重要だからな」

「真っ当な姿を与えられなかった精霊たちも、不満を持とう」

「さよう。集中治療室(ICU)の精霊と申したか。医療を司る精霊が、悪霊と見まごうような姿なのは拙かろう?」

「大工の精霊とやらも、言葉遣いがべらんめえ口調だ」

「儂はカメラマンの精霊とやらが気になる。あの黒いクラゲはなんだ。くねくねと頼りない!?」

「どれもこれも優秀な精霊でありながら、残念な姿よのう」


精霊クリエイトでメルに生み出された精霊たちの、外見的な不調和が次々と指摘された。


「皆さん、お静かに……。確かに妖精女王陛下のデザインセンスは、壊滅的です。しかしそれは私どもが、精霊クリエイトのさいに手を貸せば済むこと。まず現実的な問題として取り組むべきは、陛下に相応しい行儀作法を身に着けて頂くことにあると考えます」


議長が皆を黙らせ、悪魔王子(デーモンプリンス)に指示を与えた。


会議室の壁にメルの姿が映し出される。

カメラマンの精霊が撮影した、特筆すべき点のない日常風景である。

ただしそれは、メルが妖精女王陛下でなければの話だった。


大きなお友だちが演奏する曲に合わせて、メルは激しくお尻を振っていた。

往来で、こっそりと鼻くそを穿(ほじ)っている場面もあった。


会議室に集まった精霊たちは、これまで知らされていなかった妖精女王陛下の素行に息を呑む。

その行儀作法たるや、野生のサルと変わらなかった。


「これは……」

「何と言うことだ。見るに堪えん」

「おい。道端に落としたクッキーを拾って食べているぞ」

「ヌォォォォォーッ。悪魔王子(デーモンプリンス)よ。キサマが付いていながら、何という体たらくだ!」

「誠に……。誠に申し訳ございません」


悪魔王子(デーモンプリンス)は精霊たちの前で拝跪(はいき)し、声を震わせた。

その顔色は真っ青である。


「皆さん驚きでしょうが、これは単なる一例に過ぎませぬ。陛下の在りようは、まさに野生児。玉座について頂くには、それ相応の教育が必要となるでしょう」

「儂は議長殿の意見に賛同する」

「なるほど……。今日の議題に挙げられた陛下の教育係を決めるとは、このことですか?」

「どうやら、そのようだな」

「妖精女王陛下に相応しい、教育係か……」

「これは、よくよく吟味せねばならぬのぉー」


教育係には、有能な精霊が必要だった。

妖精女王陛下メルに負けない、強い精霊が望ましい。

言うならば、ひと睨みで妖精女王陛下を従わせるような、厳しさを備えた精霊である。


「思い当たらん」

「わたしの配下にも、相応しいと思われる精霊はおりません」

「こうなれば、一から創造するほかあるまい」

「フムッ。フォーマルの概念から、強力な精霊を生みだそう」

「それがよい」


意見の一致を見た精霊たちは、フォーマルの精霊を生みだすことにした。

こうして儀典長の精霊が誕生するのだった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございますm(_ _)m [一言] 天敵生誕? エルフのお婆ちゃんはお婆ちゃんのままだったら よかったのに若返っちゃったもんね
[気になる点] 言いたいことは分からなくないけど妖精女王を都合よく動くラジコンにしたいようにしか見えない。笑
[一言] 行儀作法の精霊とか絶対メルが「幼児やぞ!」と反発する奴ですね…!
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