表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第二部
293/370

察してあげる



「おみくじクッキーやで!」

「おみくじ……?」


ラヴィニア姫が小首をかしげる。


おみくじクッキーは、卵白と薄力粉と砂糖で作る。

小さなホットケーキのように、生地を丸く伸ばしてからオーブンで焼く。

焼き上がったら冷めない内にクジを挟んで二つ折りにし、更にくの字に折り曲げる。

味や香りは、生地に混ぜ込むもので好みの調整をすればよい。

オーブンから出したら手早く作業をしないと、冷めた生地が固まってしまい、折り曲げられなくなるので要注意だ。


「また変な物を作って……」

「ひのふのみぃ……。人数分しかありませんね。ん。一個多い?」

「ハンテンも、数に入れて欲しいニャ」

「ああっ、ハンテンの分ですか」

「おぉーっ。クッキーに絵が描いてあるな」


巨大なイグルーに集い、皿に並べられたおみくじクッキーを睨む幼児ーズの面々、+ミケ王子とハンテン(アニマルズ)。

ニュービーのマルグリットも、幼児ーズと一緒に座っていた。


床に敷かれた何枚もの厚い絨毯と毛皮が、程よいクッションとなり、ほんのりと暖かい。

中央に設置されたストーブでは、炭が赤々と燃えている。

鍋に入ったスープが、コトコトと煮える。


アビーとディートヘルムはエミリオの家に招かれて、酔いどれ亭を留守にしていた。

天気が落ち着いて(そり)で移動できるようになると、毎年のように催されるブタの丸焼きパーティーだ。

メルも誘われたのだけれど、どうしても外せない用事があるのでと、丁重にお断りした。

妖精女王陛下は、領都ルッカで盛大なパーティーを開催しなければならない。

新時代を迎えるための、大切な大切な祭祀である。


「一人につき、一個だよ。先ずは皿に盛ったクッキーから、好きなのを選んでくらはい。ほらほら、早い者勝ちデスよ」

「………………」


マルグリットが一番最初に手を伸ばした。

そして一番大きなおみくじクッキーをガシッと握る。

ユグドラシル名物『兎だぴょん♪』と同じように、メルの顔がチョコで描いてあった。


おみくじクッキーの中には、戦場へのお誘いが入っている。


「くんくん。これ、にんにくだぁー」


ラヴィニア姫はガーリックの香りがするおみくじクッキーを見つけて、すかさず狙いを定めた。


「ボクは……。おさかなの描いてあるヤツが、よいニャ」

「おれ、カブト虫のヤツが欲しいんだけど……。メル姉。絵が違うのは、何か意味でもあるのか?」

「絵に意味はないヨォー。クッキーの中に、クジが入っとるんや。クジ言うんは直感どすえ。うじうじと悩んだらあきまへん。ささっと、欲しいのを取りなはれ!」


メルはクッキーが盛られた皿を凝視するタリサ、ティナ、ダヴィ坊やを急かす。


「ボク、これね!」


ミケ王子が、おずおずと手を伸ばした。

そのおみくじクッキーには、魚の絵がアイシングされていた。

色粉を混ぜて作ったアイシングなので、赤と青、色違いの魚が二匹、寄り添うように(えが)かれている。


「わたしは、これ」


ラヴィニア姫はガーリックソルト味のおみくじクッキーを手に取った。

そして、おみくじクッキーに施されたアイシングをじっと眺める。


「カワイイ……」


コロコロとした輪郭をチョコで(えが)いてから白く塗り、突き出した芽を緑色に染めてある。

クリッとしたつぶらな瞳が愛らしい、メルのデザインしたガーリック坊やだ。


「くっ……。ビシバシと作意を感じるわ」

「そうですね。メルちゃんらしい、浅はかさを感じます」

「おまーら、うっさいわ。子ろもは子ろもらしゅー、素直に好きなモンを選ばんかい!」


おみくじクッキーなのに、一つずつ絵が違う。

残るはチョコレートで描かれたカブト虫。金色(黄色)の王冠。リボンがあしらわれたカラフルな花束。それと明らかに力尽きて手を抜いたのがバレバレな、白い骨だ。

ダヴィ坊やがカブト虫を取り、タリサが王冠、ティナが花束の(えが)かれたおみくじクッキーを選んだ。


「わん!」


ハンテンのおみくじクッキーは、残り物の骨である。

キリッとした眉毛でおみくじクッキーを睨んでいるが、これと言って不満はなさそうだ。


「クッキーの端っこから顔を出した紙が、クジです。そこにアタリとかハズレとか、書いてありマス。アタリを引いたら、わらしと領都ルッカへ行ってもらうで。ハズレを引いたら留守番じゃ。エエかぁー。恨みっこなしやデェー。では、クジを引いてくらはい」

「ムムム……。あらあら。わたくし、アタリを引いてしまいました。バンザーイ!」


既におみくじクッキーを食べてしまったマルグリットが、アタリくじをヒラヒラとさせて見せた。


「あぁーん。ハズレを引いちゃった」

「やったぜ!オレはアタリだ」


ラヴィニア姫が残念そうに俯き、ダヴィ坊やはこぶしを突き上げた。


「ふーん。そういうことを選ばせてから言う」


しかし幼児ーズで人心掌握と情報操作、舌先三寸の詐欺に長けているのは、雑貨屋の娘であるタリサだった。

メルの杜撰(ずさん)なトリックには、騙されない。


「ウフフ……。わたしもハズレです。どうやらメルちゃんは、わたしたちをルッカに連れて行きたくないようですね」


幼児ーズで一番ずる賢いティナも、メルの小細工を鼻で笑った。

タリサとティナの二人は、商人の娘なのだ。


「アタリとかハズレとか、馬鹿みたい。こんなの薄っぺらいインキチじゃん!」


タリサはハズレと書かれた短冊を眺めながら、ため息を吐いた。


「それにしても、相変わらず汚い字」

「…………インチキ、ちゃうよ」


メルが泣きそうな顔でタリサに訴えた。


「はぁ。どんな事情があるのか知らないけれど、今回はアンタの努力を認めて、理由を追及するのは止めとくわ。いい……?騙されたんじゃないからね。忖度して上げるのよ」

「わらし、騙してません。したから、タリサが騙されるはずがありませんデショ?」

「ハイハイ。もう、それでいいから……。メソメソしないでよ」

「泣いてません。ちと、疲れが溜まっとるだけデス」


メルは眼鏡を外し、ぐしぐしと目を擦った。

苦労しておみくじクッキーを作ったのに、タリサとティナが素直に騙されてくれないので悲しい。

悔し涙が止まらない。


「あーっ。ハンテンがアタリを引いたよ」


ラヴィニア姫が叫んだ。


「どういうこと……?」

「ハンテンさんは、領都ルッカにご招待デス」

「ハンテンだけ……?わたしは……?」

「はい。ラビーさんは、お留守番です」

「ふーん。そうなんだぁー。まぁ、いっかぁー」


ラヴィニア姫は、腑に落ちない顔で頷いた。


「フフン。ボクもアタリですニャ!」

「あらあら……。あにまるず、意外とツキ(・・)が強いですね」


ティナはもう、何かを決意したように笑顔を浮かべ、メルにプレッシャーをかける。


「新入り(マルグリット)にハンテンとミケ王子。��れにデブかぁー。何だか知恵の足りなさそうなメンバーじゃん。とっても不安だから、クジを引き直した方が良いと思うけど……。と言いますか、妖精女王陛下のメルさん。クジなどではなく正式に会議を開き、改めてメンバーを決めた方が良いのではないでしょうか?」


タリサがしみじみとした口調で述べた。

クジは見せかけだけのインチキで、結果として選ばれたのは考え抜かれた末のメンバーだと知りながら、メルに再考を促す。

メルの肩をつかんで、ゆさゆさと揺する。


「そんなわざとらしく、騙された振りをするのはやめて!」


メルが激しく頭を振りながら、吠えた。


「詰まるところ……。わらし、どうすればよいの……?」


そして上目遣いでタリサに訊ねる。


「分からない子ね。要するに商売人の娘としては、『ハズレ』が気に喰わないのよ」

「はぁ?」

「だって、損したみたいじゃん」

「はい。メルちゃん」


ティナが『ハズレ』と書いてある短冊の裏側に、『エルフさんの温泉宿へご招待!』と書き込み、メルに手渡した。


「こうすると『ハズレ』を引かされても、気分が違うよね。逆に相手を煽りたいなら、『ハズレ』と書けばいい」

「なるほろ……」

「メルは先読みが足りないよ。駆け引きってモノは、魚釣りと同じですからね。取引相手の心理をよく読んで、押したり引いたりしながら上手に釣り上げるの……」


タリサはメルの頭を撫でながら諭した。


「いいですか、メルちゃん。相手を騙すにしても、おもてなしの心は大切です。例えばですけれど、お客さまを満足させられなければ、料理店の店主として失格ですよね。注文されたのに出せないメニューがある場合、フレッドさんやアビーさんはどうしていますか?」

「そんなん……。他の料理を季節限定の特別料理だとか、適当なこと吹かして勧めとるわ」

「ちゃんと見ているじゃありませんか。いいですか。『ハズレ』は自分で招いたお客さまに向かって、『あんたに料理は出せない』と開き直る行為です。相手を挑発して、怒らせたいときにだけ使いましょう」


ティナの説明が心に染みる。


「メルー。あんたはハズレです。ハズレ、はずれぇー。ハズレ、ハズレ、ハズレ、ハズレ、はずれぇー!」

「うぉぉぉぉぉぉぉーっ。タリサ、耳元でうっさい。喧しいわ。メッチャ腹立つなぁー」

「でしょ。ハズレという言葉は、それだけでも不愉快なんだよ。誤魔化したいことがあるときに使っては、ダメだね」


メルはポンと手を打った。

腹は立つけれど、実に分かりやすい講義である。

余りにも分かりやすいので、自分が誘導されていることにさえ気づかない。

クジに当たり外れがあるのは、当然のことなのに……。


「うんうん。そう言うことかぁー。あーたら、賢いわ」


結局のところメルは、タリサとティナの手のひらで転がされ、幼児ーズの女子組をエルフさんの温泉宿へ招待することになった。


「メル姉が騙されとる」

「いつものことだし、問題ないよ」

「そうニャのか?」

「…………」


ダヴィ坊やとラヴィニア姫、ミケ王子の三名は、生温かい目でメルを見守っていた。

ニュービーのマルグリットも、急遽こちらの派閥に合流した。


「あの二人。怖いもの知らずですわ」


戦場で暴れまわる勇気はあっても、タリサとティナの仲間になる勇気が無かったからだ。






明けましておめでとうございます。

昨年中は、大変お世話になりました。

本年も、メルの応援をよろしくお願いします。


沢山の感想を頂いておきながら、返信できずに申し訳ございません。

取り敢えず、あとがきにて感謝に気持ちをお伝えしたく思います。


ありがとぉー!( ̄▽ ̄)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【エルフさんの魔法料理店】

3巻発売されます。


よろしくお願いします。


こちらは3巻のカバーイラストです。

カバーイラスト


こちらは2巻のカバーイラストです。

カバーイラスト


こちらは1巻のカバーイラストです。

カバーイラスト
カバーイラストをクリックすると
特設ページへ移動します。

ミケ王子

ミケ王子をクリックすると
なろうの書報へ跳びます!
― 新着の感想 ―
[一言] 妹分に手管をレクチャーしながらしっかり自分の利益は確保する姉貴分二人がリアルで面白い。 でも見方を変えると賄賂くれれば騙されてやるって裏取引。 それにしても新年からメルはアホかわいいなあ(…
[一言] 作者様、新年あけましておめでとうございます。
[一言] う。うああああ…新年から妖精女王陛下が良いように掌で転がされとる…!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ