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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第一部
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家族会議が開かれた



メジエール村に、メルの噂話が広まり始めた頃…。

フレッドとアビーは村人たちの話題にのぼる、『可哀想なメルちゃん』の噂を頭から信じていなかった。


二人が噂話を事実無根と思い込んだのには、ちゃんとした訳があった。



フレッドはメルに留守番を任せたとき、厨房と食堂の通路に障害物を設置しておいたし、裏庭と通じている扉にも内カギをかけておいた。

厨房に向けられたメルの飽くなき探究心を知っていたので、絶対に入れない工夫をしたつもりだった。


ちいさなメルの力で、どうこうできるような状態ではない。


その障害物は、朝方フレッドが設置した通りに残されていた。

更に付け加えるなら、メルが妖精たちの力を借りて完全に証拠を消し去ったので、調理場も野菜くず一つ落ちていないキレイな状態だった。



「メルが厨房を使って料理したとか、あり得ないんだよ!」

「そうねぇー。何とかして誤解を解いてあげないと、ハンスさんやゲラルト親方が可哀想だわ…。ねぇ。メルちゃんも、助けてあげた方が良いと思うでしょ?」


「………ッ!」


メルはフレッドとアビーの会話を黙って聞いていた。


内心では、『バレたら叱られる…!』とビビりまくっていたので、アビーに話を振られると身体がビクッとなった。


「わらし、ちっさいで…。よーわからんヨ。ハナシ、むつかしぃ」


『きゃるん♪』と、笑顔でごまかす。


明らかに挙動不審デアル…。


「おいおい…。どうした?何でいきなり、子供ぶってるんだ?」

「おっかしぃなぁー。普段は、大人の話に混ざりたがる癖して…。あーっ。なんか、隠してるのかなぁー?メールちゃん。ママの目を見て、ちゃんと話そうか」


「やぁー!」


耐え切れずに脱走だ。

メルは妖精パワーを駆使して、ピューッと姿を眩ませた。


「おおっ!逃げやがった」

「ねぇねぇ…。あの子、動きが速くなってない?」

「ああっ、はぇーよ。ついこの間まで、どんガメみたいだったのになっ!」


噂話の真相はともかくとして、メルの行動が非常に怪しかった。

怪しすぎて真っ黒だった。


親にも言えないような、重大な秘密を抱えているとか…。


「しばらく、様子を見るか?」

「うん…。無理に聞きだそうとしても、黙秘しそうだし。けっこう頑固だし…」

「迂闊な癖して、口が堅いんだよな」

「だって…。メルちゃんは、小さな子供だから…」

「たしかに…。ときどき、ちみっこだって事を忘れちまう」


「長期戦になるかもね」


二人はメルをコッソリと監視するようになった。

心配性の夫婦であった。



だが、然して待つことなく。

メルの隠し事は、二人が予期していなかった人物によって暴露された。


「えーっ。噂話は事実ですよォ。メルちゃんが作ってくれた料理を食べたら、私の身体は元気になっちゃいました…。悪い噂のせいで、長年アタックしてた彼女には振られちゃいましたが、またメルちゃんに料理を作って貰いたいです…。反省はしてるけど、メルちゃんの料理をあきらめることなんか出来ません!」

「はぁーっ。それじゃ、アンタが木箱を退けやがったのか?」

「キバコ…?ああっ、野菜の入った木箱ですか。私は触ってないです。最初から食堂に置いてありましたよ」

「んっ。そうなの…?」


「私が店に入ったとき、メルちゃんは裸でお昼を食べようとしてましたから…。すでに、料理を完成させた後ですよ」


ハンスは頻りと礼を言って、何枚もの金貨をフレッドに手渡し、活力に満ちた足取りで立ち去った。

身体の不調が消え失せた途端、性格まで陽気に変わってしまったようだ。


今度はフレッドが、頭を抱える番だった。

体調不良が危ぶまれた。



「ハダカでお昼って、ナンダヨ…?」


フレッドはメルが打ち明けてくれるまで、気長に待つ方針を投げだした。


「えーい。今日は休みだ!」


『酔いどれ亭』の入口に、休業の札が下げられた。


家族会議の始まりである。




メルはお菓子に騙された。

チョロインなので、ドライフルーツ入りのバターケーキにより捕獲された。

今はアビーの腕に抱かれて、口をモグモグさせている。

こうなればもう、逃げることなどできない。


「さあ、メル…。大切な話があるんだ」

「わらし、おやつ中ヨ…」

「食べながらで良いから、聞いてもらおうか」


フレッドの声音が硬い。

ごまかして済む話ではなさそうだ。


「おセッキョー?ぱぱ、おこゆ…?」


約束を守らなかった後ろめたさはある。


だが、この期に及んでも、メルは叱られるのが嫌だった。

自由な行動を阻害されたら、何かが台無しになりそうな不安に駆られていた。


フレッドには、怒らないでいて欲しかった。

たとえ約束を破っても、自分を理解しようとして欲しい。


メルは、そう祈った。


「お説教はしない。俺はメルを叱らない…。叱るのは、間違った事をしたときだけだ。それで…。これから話すのは俺が間違っていたのか、メルが間違えているのかを明らかにするためだ…。だから嘘を吐くなよ。隠し事もダメだ。一緒に、ちゃんと考えよう。分かるかい?」

「おうっ。わらし、ちゃんと話す」


「メルが留守番をした日のことは、全てハンスから聞いた。分かるかい?」


メルはフレッドに頷き、バターケーキをもう一口食べた。


「アビー、メルを放してやってくれ」

「うん。メルちゃん、逃げたらダメだよぉー。騙して捕まえて、ゴメンね!」

「気にすゆな。ケーキの、オカワリ!」


「お腹こわすって…!」


アビーはバターケーキを隠してしまった。


「さて、それでは検証を始めようか」

「ケンショー?」

「メルが留守番をしてた日に、何をどうしたのか…。俺とアビーが居るところで、同じようにやって見せてくれ」


「ほぉー?わぁーた。わらし、やる!」


メルが能力を隠していたのは、コッソリと厨房に忍び込むためだった。

もうバレてしまったのだから、隠しておく意味がなかった。


「先ずは、どうやって厨房に侵入したのか…?木箱を退けるところからだな」

「カンタン…」


メルはポンとお腹を叩いて、フワリと宙に舞った。

そして次の瞬間には、何食わぬ顔で木箱のフチに立っていた。


「おいっ。飛んだよ。見たかよ、おい?」

「見た、見た…。フワッて飛んでたヨ」


「どっせぇーぃ!」


驚いている二人の目のまえで、野菜の入った木箱が動きだした。


ちいさなメルが、大きな木箱をグイグイと押していた。

ギシギシ音を立てながら、木箱は食堂のスミへと運ばれた。


あっという間に、食堂と厨房を繋ぐ通路が確保された。


「意味ねぇじゃん。障害物が、これっぱかしも障害になってねぇよ!」

「うんうん。さすがは、メルちゃんだねぇー」

「……アビー。俺だって褒めてえよ。だけど、これじゃ立ち入り禁止に意味がない。放っておいたらメルは、屋根にだって上がっちまうかも知れないんだぞ」


「良いじゃん、良いじゃん…。元気が一番だよ!」


アビーの台詞にフレッドが黙り込んだ。


どこか遠い目になったアビーに、大人の覚悟が滲んでいた。

フレッドの知らないアビーが、其処にいた。


これが母性愛と言うモノか…?


フレッドはアビーを見て、『尊い』と思った。



メルがマイ包丁を翳して言った。


「まほー。あぶくない、ホォーチョ!」


そしてムイムイと自分の腕に押し当て、切れないことを証明する。


「わらし、切れん!」


傍で眺めていたフレッドとアビーは、あんぐりと開けた口を両手で押さえた。

幼気な女児の自傷行為は、それが演技であっても心臓に悪い。


「……分かった。自分は切れない、魔法の包丁だな。了解した」

「メルちゃん、そういうのは良くないよ。ママ、びっくりしたでしょ。あんまり驚かすと、心臓が止まって死んじゃうぞ!」


「スマヌ…。ままぁ、死ぬろナシ。わらし、コマゆ」


メルは申し訳なさそうに頭を下げた。


「見れ…!」


そして包丁を構えるなり、高速で玉葱を細切れにする。

ニンニクと生姜も微塵切りにする。


『スタタタタン…!』と、リズミカルな包丁の音が厨房に鳴り響いた。


「なんだよ、おい。えらく包丁さばきが、良いじゃないか?」

「わらし、タツジンよ」

「まいったなぁー。なんか、俺が間違ってたみたいだ」

「ぱぱぁ、なにぃー?」


「メルを厨房に入れなかったのは、俺の間違いだって話だ!」


フレッドが深く溜息を吐いた。






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【エルフさんの魔法料理店】

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