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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第二部
242/370

港湾施設にて



ダヴィ坊やは紳士デアル。

幼児ーズの白一点は黒一点ヨゴレと呼ばれないために、日々あれやこれやと頑張っているのだ。


同世代の子供たちが、『キンタマ、キンタマ!』と叫んで踊りだしても、絶対に仲間には加わらない。

誘惑に負けて一緒に騒げば、幼児ーズで総スカンを喰らうからだ。


だから手習い所でも同性のトモダチができず、ノリの悪いよい子として避けられるところがあった。


仕方がない。

幼児ーズは女児ばかりで、男児はダヴィ坊やのみ。


ラノベのハーレムとは違う。

少女たちは口うるさく、ダヴィ坊やの逸脱行為を絶対に許さない。


チンチンを引っ張ってメルに見せたときは、即座にグーパンで教育的指導を喰らった。

迂闊な下ネタは、ジョークとして受け入れてもらえないのだ。

メルのグーパンは、ジョークで済まされないほど痛い。


思春期のとば口に立って過去のアレコレを思いだせば、メルに感謝しかないダヴィ坊やだった。

『やめておけ…!』とメルに言われた悪ふざけは最低なモノばかりで、今となれば思いだすだけで赤面する。


ダヴィ坊やが幼児ーズからハブられずに済んでいるのは、ほぼメルのお陰だった。

メジエール村で女子たちからの人気が高いのも、メルのお陰だった。


だけどダヴィ坊やが一番に感謝しているのは、まったく別のコトだった。


(メル姉は、昔とちっとも変わらない。手習い所の女子みたいに気取らないで、オレと遊んでくれる)


そこが何よりも大事だった。


ダヴィ坊やとメルは、幼児期の性差がないトモダチ関係をずっと続けてきた。

最近ダヴィ坊やは、メルに異性を意識してしまうコトもあったが、今の関係を壊したくない。


幼馴染は、幼馴染のままが良かった。


(メル姉が好き!)


それは絶対の真理だった。


繰り返すが、ダヴィ坊やは紳士デアル。


更に付け加えるならば、『そろそろ、ハダカの付き合いには無理があるのでは…?』と感じる、お年頃でもあった。



現在、ダヴィ坊やとメルは、港湾施設の片隅に身を潜めていた。


倉庫が立ち並び、巨大な迷路のようになった通りで、ミケ王子は警邏隊の接近に気づいた。

そこは荷物の運搬に使用される通りだったので、隠れる場所が殆どない。

従って、木箱が積まれた狭い隙間に潜り込むしかなかった。


ダヴィ坊やの上に、メルが乗っかっていた。

そこだけ切り取って見れば、着ぐるみの子供が遊んでいる微笑ましい風景だった。


しかし、メルに()し掛かられたダヴィ坊やは、突然のピンチに焦りまくっていた。


(やぶぁい。密着しすぎだ。スーツの生地を通して、メル姉の身体が…)


ヌルひょんとした少女の肢体が、スーツ越しに生々しい感触を伝えてくる。

手のひらに、スベスベとしたメルの肌を感じた。


(チンチンが…)


ダヴィ坊やは、股間に生じた変化をメルに気づかれたくなかった。


幼馴染は、幼馴染のままがよいのだ。


心臓が、バクバクと脈打つ。


「くっ…」

「デブ、もう少しの辛抱じゃ。きついけど、耐えてくれ!」

「だいじょうぶ…」


恥ずかしくて泣きそうだ。


いくら紳士でも、男子の生理現象は止められなかった。

そこは理解して欲しい、ダヴィ坊やだった。


「二人とも…。巡回の兵士は、角を曲がって行っちゃったよ」


ミケ王子は兵士が立ち去ったことをメルとダヴィ坊やに報告した。


「見通しが利く場所だと、いつまでも隠れてなけりゃならん。いやぁー、辛い。コソコソするんは、わらしの性に合いません」

「いいから…。どいてくれ、メル姉」


「すまぁーん」


メルがダヴィ坊やの腹に手をついて、のそのそと起き上がった。


そのまま頭を跨ぎ超える。


「おっ。ちょい待ち」

「ウハァーッ。ナニ…?」

「いいから、こっちを振り向くなよ」

「えっ。なんでデブは、わらしのケツに触るん?」

「じっとしていろ。メル姉は気にするな!」


「ヒッ…」


メルはダヴィ坊やの台詞に何事かを察して、身を硬くした。


「こいつ、離れろ!」


ダヴィ坊やは、メルの尻に止まっていた大きな甲虫を引きはがした。


精霊樹の分け身はどうやら虫に(たか)られる体質らしく、メルと一緒に居れば昆虫採集が(はかど)る。


(でかい。コレはまた、超レアなサファイアビートルじゃないか…?でっかすぎるから、亜種かな?)


メルに見せたら、それこそ絶叫ものだ。


だが今は、股間の変化について言及されずに済み、ホッと胸を撫で下ろすダヴィ坊やであった。

大好きな虫に、ピンチを救われた形である。


「わらし、そっちを見んから…。はよ、はよしてちょ」

「分かっとる。絶対に見るんじゃないぞ!」

「うん。頼むわデブ」


メルは何も分からない振りをして、プルプルと震えた。


ダヴィ坊やは背嚢(デイパック)から取り出したケースに素早く獲物をしまい、『メル姉は、どんだけ虫が嫌いなのか?』と首を傾げる。


「メルは、本当に虫が苦手だよね」


二人して虫の話題を避けたのに、ミケ王子の心ない一言で台無しになった。


「ムムッ、ムシ言うなやぁー!」

「そうだぞ!」


「えぇーっ。虫って言ったらダメなの?!」


メルとダヴィ坊やに(なじ)られたミケ王子は、納得がいかなそうな顔をした。


「ママ、見つけましたよ…。あっちの倉庫に、魔導甲冑が収納されています。封印されているのか、扉が開きません!」


スラ坊に運ばれてきたカメラマンの精霊が、やいのやいのと急き立てる。


「あーっ、もう。あっちは、どっちじゃ…?おまぁーの説明では、ちぃーとも分かりません。スラ坊、案内してくらはい」

「キュィー!」


「あっ、何だか悲しくなってきました」


ボディーランゲージを封じられたカメラマンの精霊は、まともに道案内が出来ない。

普段から映像に頼りっぱなしで言葉を鍛えてこなかったから、こうした場面になると本当に役立たずだ。


「おまぁーは、チームの撮影係です。メソメソと泣いてピンボケ写真を撮りおったら、あとで折檻デス!」

「はい…。誠心誠意、己の務めを果たす所存であります」


カメラマンの精霊に気合が入った。




◇◇◇◇




倉庫の扉を開けると、そこはオモチャの楽園だった。

魔動兵器(オトナのオモチャ)が、ところ狭しと置いてあった。


「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ!」

「すげぇー。ゴレムが、たくさん並んでいる」


「灯りがつけっぱなしだよ。誰も居ないのにさぁー」


モルゲンシュテルン侯爵領での妖精の扱いに、ミケ王子が腹を立てた。


「うん。ミィーケの言う通りだわ。この倉庫に居る妖精さんたちだけでも、何とか解放しよう」

「メル姉、出来るんか?」

「倉庫に結界を張って、内側だけ浄化します」


メルは結界魔法を展開させてから、倉庫内の浄化を行った。


「ありがとう、メル。鼻のムズムズが、治ったよ」

「うん。呼吸が楽になった。もう臭くない」


ミケ王子とダヴィ坊やが、深呼吸を繰り返した。


「あっちの魔導甲冑は、新型です。アレを撮影しましょう!」

「キュイ」


スラ坊とカメラマンの精霊は、倉庫内の撮影に余念がない。



この時、メルたちは気づいていなかった。

自分たちが、トラップを作動させていたことに…。


魔導甲冑はミッティア魔法王国から運ばれてきた、秘密兵器なのだ。

単なる平凡な倉庫に見張りの兵士も付けず、放置してあるはずがなかった。


当然のことながら、強固な安全対策が施されていた。

カメラマンの精霊が、封印されていて入れないと報告した一件である。

本来であらば魔法符を持たぬ者は、何人たりとも倉庫内に入れないはずだった。


だが、その結界魔法を構成しているのは、妖精ピクスたちだ。

虐待を受けて自我が薄れていても、妖精女王陛下(世界樹)の懐かしい気配(カオリ)には反応する。


メルたちの来訪を受け、妖精ピクスたちの勝手な判断で、強固な結界は解除された。

だから、何一つ抵抗を受けずに倉庫内へ足を踏み入れたメルたちは、結界の消失を知って動き出した者たちの存在に気づかなかった。


と言うか、もうオモチャに夢中である。


「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ!見てみんか、デブ。この強そうなこと…」


メルは魔導甲冑によじ登り、力づくでハッチをこじ開け、コックピットのレバーをガチャガチャと弄りまくる。


「オレ、思うんだけどさぁー。魔導甲冑って、虫みたいじゃねぇ?」

「ムシ言うなや、デブ。わらし、気分が盛り下がるデショ!」

「スマン…。だけどさぁー。こう外側がツヤツヤで、関節とかも虫みたいだと思わんか?」


「ちゃうわぁー。ロボとムシは、違うのデェース!」


カメラマンの精霊と違い、魔導甲冑は頑丈に造られているので、何とかメルの暴挙に耐えている。

そうダヴィ坊やが思っていたら、メルに蹴とばされたハッチが宙を飛んだ。


「あっ!」


ダヴィ坊やは、飛んでいくハッチの行方を呆然と見つめた。


ダヴィ坊やの幼馴染は興奮すると、ときおり力加減を誤る。

危険なので直して欲しい、悪い癖だった。


ガコォーン!

ハッチは勢いよく倉庫の床に落下して、大きな金属音を響かせた。


「あちゃぁー。ちゃちいノォー。簡単に壊れよった」


メルがハッチの脆弱性を詰った。

絶対に、自分の非を認めようとはしない。


「メル姉…。こんなゴッツイのまで、壊すのかよ。てか…。そんな音を立てたら、不味いだろ」

「わらしの結界は、倉庫の中の音を漏らさん。ちぃーとも問題ありません」


「ダヴィくん、メルのガサツさを舐めたらいけないよ。言うなれば、邪悪な破壊神が少女に化けているようなものだと思わなきゃ!」


ミケ王子がしたり顔で、メルの危険性を語った。


「すっ、すごい!!」


カメラマンの精霊が、感極まった様子で叫んだ。


「はぁー。どうしたのさ。何が、すごいの…?」


何かに感動しているカメラマンの精霊を見て、ミケ王子が訊ねた。


「いやぁー。ぼくの方が、ずっと丈夫でした。ママはミッティア魔法王国の魔導甲冑より、ぼくのボディーを頑丈に造って下さったんだ」


魔導甲冑のハッチは、カメラマンの精霊がアームをもがれたときより簡単に壊された。

その事実に感動を禁じ得ない、カメラマンの精霊だった。


「うむっ。わらしが精霊クリエイトをするさい、基準にしとる耐久度はシジュじゃけぇー。そうそう簡単には壊れん」


探索機八号がハンテンを誘導する際に破壊された件を受けて、その後メルは精霊たちを徹底的に強化した。

とくに捜査活動を旨とするカメラマンたちの耐久性は、これでもかと言うほど上げてある。


「ゾウが踏んでも壊れませぇーん。100人乗っても大丈夫!」

「「「…………?」」」


筆箱や物置のCMと比較されても、ピンと来ない。

異世界の話は、その世界でしか通じない。

文化が違うのだから仕方ない。


「ゾウってなんだ…?」

「ゾウは分からないけれど、要するにカメラマンの精霊が頑丈だってコトでしょ」

「ふむっ…。ぼくのデータバンクを検索してみたところ、ママが口にした台詞はコマーシャルのフレーズですな」

「説明に使われている言葉からして、分からないよ。だからさぁー。こまーしゃるって、なんだよ!」


「そこまでは…。ぼくにもワカリマセン…」


だけど土の妖精たちが良い仕事をしていることは、理解できた。

カメラマンの精霊としては、それが分かれば充分である。


「コマーシャルとは、商品をセンデンする手段デス」


メルが説明を続けた。


「センデン…?」

「センデンとは、皆に知らせることヨォー」


「はぁーっ。もう、どうでもいい。メル姉の話は、まったく意味が分かんない」


ダヴィ坊やは、メルとのコミュニケーションを放り出した。


メジエール村の子供には、消費社会の仕組みなんて理解できない。

資本主義と大量生産を知らないのだから、CMの説明をされても分かるはずがなかった。


それにしてもネタが古い。

カビが生えているどころの話ではなかった。


当初から和樹(兄)の送って来る情報には、節操がなかった。

幾ら楽しくても、妖精母艦メルで動画観賞に耽るのは、程々にしておくべきだろう。


「わらしに、電話してくらはぁーい!」


コックピットに設置されていた魔動通話機を手に取って、メルが叫んだ。


「「「…………?」」」


まあ夢の中だから、メルにも如何ともしがたいところはあった。

それにしても、レトロな動画が多すぎやしないか…?






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― 新着の感想 ―
[一言] >わらしに、電話してくらはぁーい! 調べました、1975年代のCM(スタ〇リー)が元ネタですね。
[一言] ダヴィ坊、男はつらいな…。
[一言] >>「わらしに、電話してくらはぁーい!」 70年代のCMじゃなかったっけ? 懐かしのTVみたいな番組も無くなって久しいのになんでお前知ってるんだよw
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