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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第二部
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ライトニング・ベア



中の集落に姿を見せたドゥーゲルは、オープンテラスの席に腰を下ろした。


「フゥーッ。美味い茶だ。生き返るぜ…。もう一杯!」

「おい、ドゥーゲル。どっかり座り込みおって、かなわんなぁー」

「落ち着けや、メル坊。三輪バギーは、逃げたりしねぇぞ」


「そやかて、わらしが待てんのじゃ!」


メルはそわそわと落ち着きのない様子で、ドゥーゲルのカップに茶を注いだ。


「おらは、寝ないで頑張ったんだぜ。先ずは、研究結果を報告させろよ」

「箱、開けて。なぁ、わらしの三輪バギー」

「まあ、眠くなったら寝たけどな…。それでも、かなり寝ないで頑張ったんだ」

「アータの話は、意味わからんデス!」

「あーっ、疲れが溜まってるみたいだ。やべぇ。いっきなり、眠くなって来やがった」


「ムキィーッ。焦らさんといて!」


メルが小鬼の顔で、『ウガァー!』と吼えた。


「メルちゃん。ドゥーゲルさんって、しつこく粘るタイプだよ。話を聞いてあげた方が、いいと思います」


ラヴィニア姫がメルに耳打ちした。


ドゥーゲルはメルが話を聞いてくれるまで、席から立たないつもりらしい。

目が充血しているので、寝不足なのは本当だろう。


アクビをしている。

意地の張り合いをしていたら、本気で寝てしまいかねない。


実に面倒くさい親爺だった。


「ちっ。そんなら、おまぁーの話を聞いたるわ。手短にな」

「おぉーっ。さすがメル坊だぜ。実を言うとヨォー。おらの研究成果を理解してくれる奴が、おらん!」

「ほぉー。まあ、あれじゃ。こいつは異界の機械(マシン)じゃけぇー。ちと難しかったかノォー」


「そういうこっちゃ。だからぁー。メル坊に聞いてもらいたい」


ドゥーゲルが席を立ち、メルを手招きした。


「おらのバギーを見て、気づいた点を上げてくれ」

「んっ。なんぞ、特別なところがありますか?」

「よぉーく見ろ」

「おおっ?おおおおおぉぉぉーっ!エンジンが、なぁーわ!」


「そそっ、正解だ。こいつには、エンジンを載せてない」


ドゥーゲルは腰に手を当て、そっくり返った。


「おまぁー、エンジン言うんは動力機関じゃ。三輪バギーに載せんで、どうしますか?」

「不要だからなぁー。おらもメル坊にエンジンの説明をされたから、最初は心臓部だと信じ込んでいた」

「いやいや、心臓部デショ!!」

「だけどヨォー。エンジンがなくても、スイスイと走るぞ」


「はぁー?!」


言われてみれば、ドゥーゲルの三輪バギーは中の集落まで走ってきたのだ。


「エンジン、要らない子…?もしかして、エンジンなくても走るの?!」


メルは頭を押さえ、くねくねと上半身を動かした。

衝撃の事実に、思考がついて行かない。


「うむっ。エンジンも分解してみた。まったく、良くできたカラクリだ。実際に動いているところを確認したので、すっかり騙されちまったぜ。けどヨォー。本当の動力機関は、こいつだ」


ドゥーゲルが、手に載せたディスクを突きだした。


「この円盤(ディスク)が、妖精パワーで回るんだ。車輪に組み込まれていた」

「ぬぬっ。てことは…」

「車輪の回転がエンジンに伝わって、動いているように見えたんだ。逆だよ、逆。動力の伝達方向が、逆なんだ」


「タイヤが、エンジンを回してたんか…。要するに、エンジンはダミー?」


大ショックである。


おそらくユグドラシル王国異界研究所は、三輪バギーにエンジンを載せなければ、妖精女王陛下の機嫌を損ねると判断したのだろう。

三輪バギーは異世界のアイテムだから、完璧にコピーしようと大変な努力をしたに違いなかった。


無駄である。


「食べものや作物と違いますからね。わらし、エンジンなくても気にせんよ。そらぁー、チョコレートがネギ味とか許せませんけど…。三輪バギーは、ちゃんと走ればいいデス」


メルは空を見つめ、ボソボソと呟いた。


「エンジンの件は、かなり早期に解決した。実際に時間を食ったのは、素材の再現だ。金属部品は、ドワーフの技術でなんとかなった。おらたちは鍛冶屋だからな。合金なんかの知識も、先祖からの蓄えがある。困ったのはタイヤだ」

「タイヤかぁー」

「メジエール村の錬金術師や魔法使いに声をかけて、共同開発した。お陰で、よい素材が出来たぜ!」


ドゥーゲルは清々しい顔で、語り終えた。


「箱、開けよ」

「ぐははははっ…。話を聞いてくれて、ありがとうよ。そんじゃ、メル坊の三輪バギーをば引っ張りだすとするか」


ドゥーゲルの手で、素早く木箱が解体された。

荷車に設置した板を傾斜路として使い、メルの三輪バギーが降ろされる。


「シートに背もたれが、ついとる」


ヘッドレストの部分が、黒いクマになっていた。


「ふぉぉぉぉぉぉっ!ライトニング・ベアじゃ!!」


目つきが悪い黒クマの額には、稲妻のマーク。


「デザインで迷ってたら、ゲラルトが紙っぺらをくれた。メル坊の落描きだ」

「わらしが、デザインしました。ライトニング・ベア言います」

「まあ、メル坊が乗るんだからヨォー。その落描きをもとに、いい感じでデザインを決めた」


逆三輪で、車体前面には頑丈そうなバンパーを装備している。

色はクリームイエローで、ガソリンタンクの側面にパンチを繰り出すライトニング・ベアが(えが)かれていた


「んっ。ガソリンタンク…。コレは何じゃ?」

「そいつは小物入れ。カパッと開けると、メル坊のヘルメットが入っている」

「マジか?!」


メルは小物入れの蓋を開けて、黒く塗られたコルクヘルメットを取り出した。


「はぁーっ、耳がついとるやん!」

「クマだからな」

「ふぉぉぉぉぉぉっ!ヘルメットも、ライトニング・ベアじゃ!!」

「因みに、動力ディスクを増やしてある。かなりパワーアップしたから、気をつけないと危ないぞ!!」

「わぁーとる。わらし、不死身よ」


「違うでしょ、メルちゃん。メルちゃんが頑丈でも、ぶつかれば納屋は壊れるの」


ラヴィニア姫の言う通りだった。


道を横切るヒツジの群れに突っ込めば、大惨事だ。

お爺ちゃんお婆ちゃんや、ちびっ子たちにも要注意である。


まあ、見晴らしがよすぎるメジエール村なので、居眠り運転でもしない限りは事故を起こせない。

道路に飛び出した野生動物を避けようとして、側溝に落ちるなどの自損はありそうだが。


「スピードは、出さへんヨォー」

「わたしのベイビーリーフ号は、ちゃんと止まれるけど…。メルちゃんの三輪バギーは、ドゥーゲルさんに改造されちゃって大丈夫なの…?」

「そこは問題ねぇーぞ。こいつは障害物があると、勝手に止まるからな」

「そうなんだ。それなら、ベイビーリーフ号と同じね」


「だけどヨォー。勢いよく走っているときに急停車すると、ドライバーが投げ出されちまう」


三輪バギーにシートベルトはない。


「わらし…。飛ばされるくらいで、へこたれんわ」

「そんならまあ、心配は要らないか。三輪バギーは、バッチリ止まるからな!」


妖精さんのアクティブセーフティ機能は、改造されても生きていた。

たぶんおそらく、動力ディスクさえあれば安心安全なのだ。


「あーっ。何やら、目に見えるようです。三輪バギーから投げ出されたメルちゃんが、納屋の屋根に突き刺さってるの…!」

「ラビーさん、ホントやめてんか。わらし、スピードださんもん」

「うっそぉー!」


「本当デス!!」


そう。

メルはスピード狂じゃなかった。


少なくともラヴィニア姫より、ずぅーっとマシである。




◇◇◇◇




ドゥーゲルは、やり遂げた顔をして帰って行った。


残されたメルとラヴィニア姫は、エミリオの家まで行くことにした。

アビーがディートヘルムを連れて、三泊四日の予定で遊びに出かけたからだ。


今日の夕刻には帰って来るので、どうせなら迎えに行こうという話になった。


ティッキーに馬車で送ってもらうなら、ベイビーリーフ号に載せて帰ればよいと、ラヴィニア姫が言い張ったのだ。


「でもなぁー。ラビーの運転は…」

「わたしは、ちゃんと安全運転ができます」

「……そう」

「メルちゃんは、助手席ね」


「わらし、ライトニング・ベアに乗って行きます」


メルはベイビーリーフ号の助手席を拒絶した。



因みにフレッドは、数日前から忙しそうにしている。

クリスタと一緒に異界ゲートを使って帝都ウルリッヒを訪れ、アーロンや傭兵隊のメンバーと何やら相談しているらしい。


おそらく、冒険者ギルドの再建だ。


何を相談しようが、人材は湧いてきたりしない。

ケット・シーたちも全力で手伝っているが、出来ることに限りはある。

バルガスたち冒険者の配備は、地下迷宮での特訓が終わらなければ許可を出せない。


悪魔王子(デーモンプリンス)も、首を縦には振らないだろう。


人材不足については、フレッドと傭兵隊で何とかするしかあるまい。

そんな訳で、フレッドの帰りは遅くなりそうだ。


「ずっと帰らんでも、エエよ。まぁまとディーは、わらしが守るけぇ」


メルがニヤリと笑った。


フレッドさえ居なければ、メルはアビーやディートヘルムと川の字になって寝られる。

フレッドが不在でも、何も問題はなかった。


むしろ良い。


メルはベイビーリーフ号の後ろについて、ライトニング・ベアを走らせた。






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【エルフさんの魔法料理店】

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 妖精パワーで動く謎の妖精ディスク自体の再現は難航しなかったのかな……? ミッティア魔法王国の技術と似たようなもんなんだろうか
[一言] 親父の不在を喜ぶ悪い小鬼ちゃん。
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