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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第二部
223/370

ウィルヘルム皇帝陛下の苦境



ステータス画面に表示されるメルのスペックは、いつだって大雑把だ。

敵対する相手と、どのくらい能力値が違うのかも分からない。


それどころか、身体能力に関するパラメーターは何処にも表示されていない。

体力、知力、耐久力、素早さなどは、ステータス画面から消え失せた。


ユグドラシル王国国防総省(ペッタンコ)が、不要であると判断を下したのだろう。


だけど、何も問題はなかった。

圧倒的に強いから…。


そんなステータス画面だけれど、気にしなければいけない項目があった。


『コレ』が、注目すべき数値だった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――




【ステータス】


名前:メル

種族:ハイエルフ

年齢:10歳

職業:妖精女王陛下。小さな親善大使。美味しい教団の教祖。魔法学校理事長。命知らずの冒険野郎。熟練ダンサー。歌姫。ファッションリーダー。妖精母艦、妖精打撃群司令官。


レベル:65


花丸ポイント:12万ptコレ


ただいま、凡そ1億の妖精を収容しています。


以下略…。



[注意事項]


無茶をせず、よく食べてよく寝ましょう。

無病息災を当てにして不摂生な生活ばかりしていると、ちみっ子のままで成長が止まります。



【バッドステータス】


幼児退行、すろー、甘ったれ、泣き虫、指しゃぶり、乗り物酔い、抱っこ、オネショ。



【残機】


(*^▽^*)×3…。



【精霊召喚】


レベルMAX。

アナタは精霊召喚(上級)を獲得しています。


この世界から失われてしまった存在を復活させましょう。


もっと色々な精霊を探しだしましょう。

より沢山のお願いをしましょう。


精霊召喚師への道は、一日にしてならず。

日々の積み重ねと、我儘な願いがアナタを高みへ導きます。


ユグドラシル王国の再建には、不可能とも思われる障害が立ち塞がります。

困難な状況を乗り越えるためには、新しく有能な精霊さんたちも必要となるでしょう。


そのようなときには、迷わずに精霊クリエイトを試みてください。


この世界は、アナタのイマジネーションを必要としています。

前世記憶と霊力のコラボレーションで、最強の精霊をビルドアップしよう。


うんざりするような状況をまえにしても、面倒くさがったりせずに元気よく取り組みましょう。


精霊さんたちは、アナタの味方です。


召喚した精霊数:1257体

うち1200コレは、カメラマンの精霊になります。

ケット・シーなど既存の精霊は、アナタが召喚した精霊数にカウントされません。



[最重要ポイント]


可能性は命。

祈りは力なり。

豊かな世界を育もう。


精霊の子は、ユグドラシル王国の再建を使命とします。



【世界の汚染度】


簡易マップに、異界ゲートで移動可能な地域の汚れ具合が表示されています。


メジエール村:クリーン

タルブ川:汚染度3(コレ)

恵みの森:汚染度2(コレ)

各開拓村:汚染度1(コレ)

聖地グラナック:汚染度4(コレ)

ハルフォーン山脈:汚染度5(コレ)

ヴェルマン海峡:汚染度3(コレ)

帝都ウルリッヒ:汚染度7(コレ)

ミッティア魔法王国周辺地域:汚染度9(コレ)



異界ゲートで汚染された土地に移動し、効率よく浄化しましょう。

浄化により、花丸ポイントが手に入ります。



【各地域の支配度】


手に入れたい地域に精霊を配置して、拠点化しましょう。

簡易マップの支配したいポイントに花丸ポイント(・・・・・・)を消費すれば、支配度を上げることが可能です。


メジエール村:支配度10(コレ)

タルブ川:支配度4(コレ)

恵みの森:支配度5(コレ)

各開拓村:支配度7(コレ)

聖地グラナック:支配度2(コレ)

ハルフォーン山脈:支配度3(コレ)

ヴェルマン海峡:支配度1(コレ)

帝都ウルリッヒ:支配度6(コレ)

ミッティア魔法王国周辺地域:支配度0(コレ)



支配度が10になると、その地域がユグドラシル王国の領土(妖精郷)となります。


目指そう、明るい未来。

やり遂げよう、世界征服!!




―――――――――――――――――――――――――――――――――




そう。

メルは世界地図を自分色に染め上げたかった。


しかし、これがなかなかに難しい。


「ぎょうさん花丸ポイントをつぎ込んだが、未だ帝都ウルリッヒは落ちず!」


浄化によって稼いだ花丸ポイントは、殆ど各地の支配度を上げるために使用されていた。


だから、メルが贅沢に使える花丸ポイントは少ない。

花丸ショップで高級牛肉を買うときに、躊躇するほどだ。


「ミッティア魔法王国に手を出したのは、時期尚早…。正直に言って、失敗デス。突っ込んだ花丸ポイントは、支配度を上げることなく融けたわ」


ミッティア魔法王国は、文字通り底が抜けたバケツだった。

いくら花丸ポイントを振っても、焼け石に水。

翌日になれば、支配度が下がっている。


「むつかしぃーわ!」


今一つコツが分からず、メルは試行錯誤を繰り返す。


「ふむっ。ソコォー抜けたバケツなら、アナを塞がにゃなんめぇー」


そんな訳で実験だ。


ミッティア魔法王国と同じで、帝都ウルリッヒも穴が空いたバケツだった。


「ぐぬぬぬぬっ…。どんだけ、花丸ポイントを使ったか…。ムダ、むだ、無駄ぁー!!」


精霊樹の異界ゲートネットワークで繋がる、未来におけるユグドラシル王国の予定地。

取り敢えずの目標は、ウスベルク帝国の完全支配である。


その地にメルが花丸ポイントをつぎ込んだのは、想像に難くない。

それなのに支配度は6だ。


支配度6を超えても、翌日には6に戻ってしまう。

花丸ポイントを振らずに放置しておけば、数日で支配度3以下に低下する。


穴が空いているのだから、仕方がない。


「アナ、塞ぐわ!」


簡易マップで見る世界は、とっても広い。

だが、その殆どは人が住まない手つかずの大自然だ。


世界には幾つもの国があり、それぞれに生き残ろうと足掻いていた。


「でもなぁー。ちっさい」


クリスタが話題にもしないほど、小さい。

どの国も、ようやく文明を維持できる程度の規模しかなかった。


妖精たちが救いの手を差し伸べなければ、弱小国の繁栄は難しい。


自然は驚異だ。

森は文明を食い尽くす。

本来、人は非力な生きものなのだ。


「ヒト。少なすぎデス」


正直に言って、人類は滅亡寸前である。

ぶっちゃけ、戦争どころではない。


「おとぉーは、平気で殺しまくるけど…。連中は救いようのない悪人だし、メジエール村を守る方が大事だけど…」


それでも人を殺すのは、都合が悪い。


概念界の輪廻転生システムは、暗黒時代の人口激減によって停止した。

死者が多すぎ、それなのに転生可能な母胎がない。


行き場をなくした死者の魂は輪廻転生システムで保存(キープ)しきれず、草木や動物などに生まれ変わった。

容赦なく、世界から人や亜人が姿を消していった。


結果として、輪廻転生システムを稼働させるために必要な魂の量が、足りなくなってしまった。

一定の水量が無ければ、水車は回せない道理だ。


現象界に於ける言語コミュニケーションの減少は、それ即ち概念界の衰退を意味する。

こうした流れの中で、概念界と妖精たちは消滅の危機に曝されていた。


「これ以上ヒトを減らされたら、マジで困るんよ」


神さまではないが、産めよ増やせよ地に満ちよとメルは祈る。


不殺の覚悟は、慈悲や優しさと無関係である。

妖精女王陛下には、人を殺せない明白な理由があった。


減っていく人を増やすには、恵まれた環境が必須だ。


人の文明は、人口増加に欠かせない。

その文明レベルが高いウスベルク帝国とミッティア魔法王国には、是非とも生き延びてもらいたい。


「ふーっ。アナ、塞ぎマショか!」


数年の歳月を費やして拡張し続けた、帝都ウルリッヒの地下迷宮。

特別待遇で強化に強化を重ねた、カメラマンの精霊。


「その力を見せてもらう時が、来よったでぇー」


グムムムムォーッ!と、メルが盛り上がる。


〈皆さん、始めちゃってください!〉

〈了解した。妖精女王陛下〉


メルの念話に、悪魔王子(デーモンプリンス)が応じた。


『呪われし魔法具作戦』の第二段階が、開始された。




◇◇◇◇




枯野に放たれた火の如く、貴族や豪商たちの間に不吉な噂が広まった。


「帝都がヤバい!」

「地下迷宮から、大量の瘴気が漏れている。屍呪之王(しじゅのおう)を封じた結界が、もう限界らしい」


カメラマンの精霊が無数のベルゼブブを操り、『天の声』で不穏な情報をばら撒いた。

せっせ、せっせと…。


そのせいで、元老院の会議は蜂の巣を(つつ)いたような騒ぎに見舞われた。



「バスティアン・モルゲンシュテルン侯爵に屈せずば、封印結界の書き換えは不可能だ。いったいウィルヘルム皇帝陛下は、どうなさるおつもりか…?」

「そうだ、そうだ!」

「この危機を如何に乗り切る算段であるのか、しっかりと陛下の御意見を伺いたい」

「こうなれば、全力でモルゲンシュテルン侯爵領を叩くべきでは…?いま和議を申し出たところで、先方の背後にはミッティア魔法王国がいる。我らの望むように、ことは進むまい」

「モルゲンシュテルン侯爵に屈するは論外。完膚なきまでに打倒して後の、和議であろう」

「現状…。騎士団の攻撃は、生ぬるいとしか申せませんな!」


「…………………」


ウィルヘルム皇帝陛下は、フーベルト宰相とアーロンに支えられて沈黙を守った。

しかし糾弾の勢いは激しく、このままだと皇帝の地位から追われそうだ。


最悪、皇帝一族の斬首も、あり得る。


「朕は、身の危険を感じる(小声)」

「デスネェー」

「アーロン殿。陛下の不安を煽るのは、止めて下さい」


フーベルト宰相が、アーロンを叱りつけた。


「スミマセン」


アーロンは肩をすくめ、苦笑した。


「なあ…。屍呪之王(しじゅのおう)は消滅したと、あいつらに教えてやるべきではないのか…?」

「なりません」

「陛下ぁー。そんな真似をすれば、調停者さまにぶち殺されますよ」


「くっ…!」


ウィルヘルム皇帝陛下は、家臣たちに真実を告げるコトができない。


どれだけ詰られても、じっと我慢だ。


「なぁ、アーロンよ。本当に、大丈夫なのか…?」

「勿論です。妖精女王陛下を信じてください」

「本当に…?」


幾らアーロンに(なだ)められても、ウィルヘルム皇帝陛下の表情は暗かった。



一方、メルを襲った冒険者たちは、悪徳商人に助けを求めた。


ベルゼブブは流行り病と同じだ。

追跡中のターゲットが接触した相手に、次から次へと感染していく。

これを可能とするために、メルは何年も費やしてカメラマンの精霊を強化した。


〈コントロールセンターに、報告。ウェンデル商会の番頭が、隠し倉庫に入りマシタ…〉

〈よくやった。でかした!〉

〈微かに、妖精の反応アリ。捕らえられた仲間デス。大量の魔法武器が、木箱に収納されています〉


ビンゴである。


ベルゼブブの調査報告を受けた悪魔王子(デーモンプリンス)は、ミッティア魔法王国から密輸された品々が保管されている倉庫に、死霊(ゴースト)を送り込んだ。


ベルゼブブたちは、次から次へと隠された倉庫を発見していく。


これには悪党たちも頭を抱えた。



「うちの倉庫に、悪霊が()りついた」

「ミッティア魔法王国から仕入れた魔法具が、死霊を呼び寄せたようだ」

「マチアス聖智教会に相談したが、祓魔師の派遣を断りよった」

「ちっ。聖職者どもめ…。資金援助ばかり強要しおって、とんだ役立たずではないか…!」


「仕方がない。冒険者に、やらせてみよう!」


悪党たちに、追い風が吹いていた。


『今がチャンスだ!』


これまでに悪行を重ねてきた貴族や商人たちは、そう思った。


責任遂行能力に欠けるウィルヘルム皇帝陛下を断罪し、その地位から追放する。

強引な追放イベントを開催するには、またとない機会である。


それなのに予てより用意してあった魔法具を取り出せなければ、ウィルヘルム皇帝陛下の喉首に刃が届かない。

最低限、近衛兵や親衛隊たちは黙らせる必要があった。


「なぁーに。冒険者の命など、紙っぺらみたいなものだ」

「うむっ、その通りである」

「ちんぴらヤクザでも構わぬ。何なら、食い詰めた遊民どもを雇おう。頭数があれば、魔法具の回収も容易(たやす)かろう」

「確かに…。何も、幽霊(ゴースト)を祓う必要などないのだ。魔法具を回収できれば良い」


「各々方、手抜かりなきよう」


悪党たちは、色々と甘く考えていた。


まず彼らは、自分たちの足下に何が存在するのかを把握しておくべきだった。

そこにあるのは、討伐難易度SS級のモンスターが徘徊する地下迷宮だ。


それだけではない。


帝都ウルリッヒの支配度6は、メルが満足できる数値に満たなかった。

だけど精霊たちが力を発揮するには、充分な数値である。


メルから許可さえもらえば、悪魔王子(デーモンプリンス)は帝都ウルリッヒを迷宮に組み込むことが可能だった。






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【エルフさんの魔法料理店】

3巻発売されます。


よろしくお願いします。


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[一言] 概念界が人の認知によって形作られるなら殺しは下策かぁ。 滅びかけの世界を救うのは難しい…。
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