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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第二部
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楽しい精霊バトル



始業式が終わると、魔法学校の生徒たちは自分の教室に戻って行った。

校庭で寛ぐドラゴンたちに、後ろ髪を引かれながら…。


もう、新学期の説明なんてどうでもいいから、今すぐにドラゴンと遊びたい。

そんな願望が、初年度生たちの顔や態度から駄々洩れしていた。


一方、新入生たちは、初年度生たちと違って理事長先生のパフォーマンスに、ビビりまくりだ。


担任となる精霊教師が、新入生たちに時間割表と教科書を配った。

このさい、一人ひとりに魔法タケウマやポイントカウンターなども渡される。


「一応、説明書はついているけれど…。新入生には文字が読めない子も、沢山いるだろう。だが大丈夫だ。心配は要らない。文字は、無理やり教えるから…」


教壇に立つ精霊教師が、力強く断言した。


「色々と不安はあるだろうが、諸君の先輩たちを見て安心したまえ。あの子たちは昨年、キミたちと同じだった。やせ衰えて、貧民街で死にかけていた孤児たちだ。学ぶ機会など与えられず、生きる権利さえ強者に奪われようとしていた」


新入生たちは、わが身を顧みて黙り込んだ。


「食事は足りているかな…?」

「「「「はい!」」」」


数名の子供たちが、質問に答えた。


「安心して、眠れるようになったかね…?」

「「「「「「はぁーい!」」」」」」


返事をする生徒が増え、声に力がこもるようになった。


「では、これから強くなろう。キミらを踏みつけにした者たちより、ズンと強くなろう!」

「はい!はい!はい!はい!」


もう教室は大騒ぎである。

立ち上がる生徒や飛び上がる生徒まで、現れる始末だ。


「その意気込みや、よしっ。強くなる方法は、我々が教える。先ずは最初の授業だ。文字が読める者は、立ちたまえ」


精霊教師の言葉に応じて、ルイーザとファビオラを含む数名の生徒が立ち上がった。


「強さ。そこには、色々な種類の強さがある。今日は、仲間を持つ大切さについて教えよう。知識は、(すなわ)ち力だ。そして知識は、他人に分け与えることが出来る。増えることがあっても、減らない力なのだ。文字が読める者は読めない者たちに、教えて上げなさい。読めない者は読める者に、教わりなさい。仲間が知識を得たなら、それだけキミたちの力も増えるのだから…。互いに信頼できて、助け合える相手をトモダチと呼ぶのだ。今日からクラスメイト同士で、信頼関係を築きなさい!」


簡単明瞭である。

妖精たちとトモダチになる、基本の姿勢だ。


「教える者たちは、ともに進む仲間がいる喜びを…。教わる者たちは、感謝の気持ちを…。己の心に、強く意識したまえ…。我々が憎むべきは、傲慢さと無関心だよ。いつ如何なるときにも、アリガトウの言葉を忘れずに…」


先ずは目に見えるクラスの子たちと、仲良くなろう。




大講堂の地下に、新しい施設が作られていた。

そこにはスケートボード・パークと、小振りな円形闘技場があった。


この施設は、地下迷宮の延長である。

大工の精霊たちに依頼したのではなく、今朝の職員会議を終えてからメルが花丸ポイントで増設したものだ。


始業式と新学期のホームルームは終わり、初年度生から成績優秀な者たちが地下施設に集められた。

メンバーは10名ほどで、彼(女)らが率先してクラスメイトたちの指導に当たる。


特別授業である。

講師はメルとラヴィニア姫だ。

実技がメルで、説明はラヴィニア姫。


先ずはスケートボード・パークで、メルが様々なトリック(技)を披露して見せた。


スケートボードのホイールが、ゴォォォォォーッ!と音を響かせる。

メルはボードのテールを踏み込んで、オーリー。

華麗に宙を舞う。


ボックスに跳び乗ったメルを見て、初年度生たちが目を丸くした。


「かっけぇー!」

「くっ…。タケウマより、面白そうだよ」

「これっ、絶対に流行るよな!」

「ずりぃーよ。せっかく、タケウマを特訓したのに…」


負けず嫌いなメルは、常に逃げ道を用意している。

メルに競争意識を抱く生徒たちは、詐欺師に騙されるカモみたいなものだ。


「はぁーい。みんなのスケートボードを配るよぉー」

「ラビーちゃん。早く早く…」

「アタシにも、スケボー頂戴!」

「ちくしょぉー。今度はスケボー先生かよ!」


嵌められているような気がしても、楽しそうな遊具を見せびらかされたら、『やりません!』とは言えない。


だって、子供だもん。


「ふっひっひっ…。わらひ、シュケボー上手ヨ!」


メルは前歯が抜けた隙間から、舌を突きだした。

ペロペロペロ…。


「ムカつくぅー!」

「歯が無くなって、破壊力は倍増かよ…」

「バカにされている感じが、メッチャ悔しい!」

「アンタたち、なぁーんも授業から学んでいないよ。挑発に乗せられたら負けだって、グノーム(地)先生に教わったデショ?」


「そんなこと言っても、あんな顔されたらムカつくだろっ!」


こうして初年度生たちは、またもやメルのドヤ顔を見せられるのだった。




次にメルとラヴィニア姫が向かったのは、円形闘技場である。


床から迫り出した円形の台は、取っ組み合いの試合が出来そうな広さを持っていた。


「センセイ…。オレたち、スケボーしたいんですけど…」

「うん。試してみたい」

「ボックスに乗るやつを練習したいんです」

「特訓して、スケボー先生を負かす!」


優等生たちの内、四名がスケートボードをしたいと言い出した。


「ふーん。ユースくんたちは、精霊バトルしたくないんだ?」

「……はぁ?!」


ラヴィニア姫の台詞に、初年度生でも強い発言力を持つユースが固まった。


『何それ…?』である。


チルたちはニヤニヤしながら、ユースを眺めていた。


「アンタたちは、そっちでスケボーしてなよ」

「ラビーちゃんの説明は、俺たちで聞いておくからさ」

「ちゃんと後で教えてあげるから、心配しないでいいよぉー」


「まて、待て待て、待てェー。オレにも、教えてください…!精霊ばとるって、ナニ?」


チルとセレナ、キュッツの三人は、当然のように優等生である。

悪ガキなメルの本性も知っているので、立ち回りは完璧。


クラスではリーダーシップを放棄していたけれど、落ちこぼれそうな子たちを見落とさない。

子供なのに大人の気遣いが出来る、真のエリートだった。


精霊魔法が得意で天狗になっているユースたちとは、格が違った。


「精霊バトルは、このまあるい闘技場でやります」

「ほぉーっ」

「理事長がドラゴンを召喚して見せたけど、アレの簡単なヤツ。皆が仲良くしている妖精さんたちにお願いして、モンスターになってもらいます。そして、この舞台で闘うのだぁー!」


ラヴィニア姫も慣れたもので、照れを見せずに盛り上げる。


「まじか…!」

「すげぇー」

「オレたちにも、精霊を召喚できるの…?」


「はい、良い質問ですね…。実は、この闘技場。皆が精霊クリエイトするのを手伝ってくれます。初心者モードから、超上級者向けの無差別級まで用意されてるよ。ヘルプの段階も細かく設定されていて、実力が違う場合はハンディキャップ戦もできるのだ」


ノリノリで解説するラヴィニア姫の隣で、メルが精霊バトルの操作パネルにモンスターカードをセットした。


「それじゃ、やって見せるよ…。この四角いところに、呼び出したいモンスターのカードを置きます」


ラヴィニア姫も、精霊をクリエイトする。


「あーっ。モンスターカード、ナンバー5のスライムだ!」

「ラビーちゃんのは、火トカゲ。ナンバー11のカードだよね!」

「ちょ、ちょ、ちょい待ち。こんなんで、妖精さんたちを闘わせるの…?」

「負けたら、妖精さんたち死んじゃう…?」


「そんな惨いこと、おまぁーらにやらしません。勝負いうても、遊びでしゅるんや。負けた方は、モンスターがばらけるだけ…。けど負けたら、妖精さんたちも悔しがるどぉー!」


闘技場に設置されたランプが、赤、黄、青と光を放ち、ビィーッ!と開始のアラームを鳴らす。


『レッツファイト!』である。


「うりゃぁー。死にさらせ!」

「ふんっ。ゼリーの癖に、生意気よ!」


青いゼリーと赤いトカゲが、闘技場の中央で組み合った。


普段は仲良しなメルとラヴィニア姫だが、勝負ごとになれば熱い。

お互いの妖精さんたちにも、深い思い入れがある。


懸命に攻撃や防御をイメージして、自分のモンスターへ伝える。


「燃えてしまいなさい。蒸発しちゃえ!」

「なんの…。そんなショボい火で、わらひのスライムはやられへんで…。お返しに、消化液をくらえっ!」


初心者モードの闘いは見るからにチマチマとしているのだが、滅茶クチャ熱い。


「うわぁー。これ、面白そう」

「オレも、やりたい!」

「カードかぁー。あそこに表示されているレベルって、もしかすると召喚する難易度…?」

「それっ、間違いないよ。無差別級とか、強いカードを手に入れないと召喚できないのかも…」

「言われてみれば、まだ無差別級のカードがない。そんなの、ダレも持っていないだろ」

「やばいよぉー。アタシも、カード揃えないと…」


モンスターカードには、可愛らしいデザインのモンスターも混ざっていた。


「因みに…。この精霊バトルで練習すれば、普段もモンスターを連れて歩けるようになるのです!」


ラヴィニア姫が、とっておきの情報を投下した。


「まじか…」

「えーっ。もう、やるしかないじゃん」

「何それェー。あたし、可愛いペットが欲しいヨォー!」


もう、大騒ぎである。



初年度生たちの盛り上がりを他所に、精霊バトルでラヴィニア姫に負けたメルが、呆然と立ち尽くしていた。


「何なん、これ…。おかしないかぁー。スライム、弱すぎじゃ!スライム、強いはずなのに…」


それって、何処から仕入れた情報なのか…?


「負けは負けデショ。ちゃんと参りましたって、頭を下げようよ」

「イヤやぁー!わらひ、負けとらんモン」

「スライム、消えてるじゃん。メルちゃんの負けでショー!」

「負け、ちゃうわぁー」


「ムッ…。違いません!」


理事長先生は、ラヴィニア姫に頬っぺたをつねられた。

ぐににーっ!と…。


「ぎゃん!」


けっこう本気である。






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【エルフさんの魔法料理店】

3巻発売されます。


よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] ラヴィニア姫ノリノリで微笑ましいです
[良い点] 「ゲットだぜ!」 [一言] あ~とうとう全世界の子供を魅了したあのシステムを、主人公のニャース(ミケ王子)はバトルするのかな?
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