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エルフさんの魔法料理店  作者: 夜塊織夢
第一部
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ラヴィニア姫の努力



キス事件があってから、ラヴィニア姫は幼児ーズと再会する勇気を取り戻せずにいた。

其れほどまでに、あの日の出来事はラヴィニア姫を打ちのめしたのだ。


だったら、友だちづくりをあきらめたのかと言えば、そんなことは全くなかった。


過去の失敗から多くを学び、より高みを目指すのがラヴィニア姫の理想とする処だった。


『二度と再び、あのような醜態をさらさぬためにも…。深い反省が必要です…!』


ラヴィニア姫の自己憐憫を排した分析は、容赦なく彼我の相違点を浮き彫りにする。

もちろん、ここで問題となるのはラヴィニア姫と幼児ーズの違いだ。


『わたくしは、お姫さま気分でいるのを今すぐに止めるべきです。淑女(レディー)であることに拘っていたら、メジエール村に融け込めません。何とかして、田舎の子どもにならなければ…。ハダカくらいで恥ずかしがっていては、いつまで経っても幼児ーズと友だちになれません…』


この難題を克服すべく、毎日のようにラヴィニア姫は努力を続けた。

積み重ねた努力は、やがて揺るぎない自信となり、勇気を奮い立たせてくれる筈だった。


ラヴィニア姫の計算では…。




ラヴィニア姫はクローゼットから取りだした衣類をソファーに並べて、真面目な顔で頷いた。

どれもユリアーネ女史とアーロンが用意した、新しい服である。


「とってもシンプルね…!」


遠い昔を思い起こすに、ラヴィニア姫のドレスは小間使いの助けを借りなければ着られないような物ばかりだった。

今でもウスベルク帝国の貴族令嬢が身に纏うドレスは、驚くほど着付けに時間が掛かるし、だれかの手助けを必要とする。


当然のことながら、幼児のラヴィニア姫が自分で着るコトなど出来ない。


だけど新しい服は、頭から被って袖を通すだけだ。

下着からワンピース迄、どれも身につけるのが難しいような品はない。

あえて問題を上げるとすれば、幼児の不器用な指先では靴ヒモがキレイに結べない事くらいだろう。


「ちゃんと五本の指が付いているのに、どぉーして大人みたいに出来ないのかしら…」


ラヴィニア姫の口から、ボヤキが漏れる。



ラヴィニア姫の着替えは、メルと変わらなかった。

何が変わらないのかというと、衣類を身に纏う順序がガッチャなのだ。


いまラヴィニア姫は、かぼちゃパンツと太もも丈の黒い靴下を穿いた状態で、必死になって靴ヒモと格闘していた。

上半身がスッポンポンなので、妙にちぐはぐな格好に見える。


その姿で大きな鏡のまえに立つと、ラヴィニア姫はかぼちゃパンツのフチに指をかけて引っ張り、隙間から下腹部を覗き込んだ。


「ふむふむ…。こうして確認するのが馬鹿らしいくらい、どこもかしこも幼児ですわ…」


鏡に映るラヴィニア姫の姿は、白い肌のヌルヒョンとした幼児体形だ。

メルと同様に、ポッコリと下腹が膨らんでいる。

腹筋が無いのだから仕方ない。


「恥ずかしがって隠すような箇所は、何処にもありません。わたくしは紛れもなく女児であって、乙女の恥じらいとは無縁なはず…。こんな幼児のわたくしが、キスなどで逆上せあがるなど…。それこそが、笑止千万と言うモノです!」


頬を赤らめながら憤るラヴィニア姫は、先日の醜態を思い起こして、クニクニと身を捩った。

だけど、そんなことで恥ずかしがっていたら、幼児ーズとの友情を育てられない。


「何であろうと…。タケウマを教わらないでは、終われません。デスガ…。『酔いどれ亭』に出向けば、金盥のプールが待っています…。また…。またもや戸外で、裸にならないといけません!」


ラヴィニア姫は小さな手を握りしめて、『グヌヌ…ッ!』と唸った。


前回はアビーに助けられて服を脱いだけれど、今回は全て自分でやる。

何だって、自分で出来るのだ。

出来なければいけない。


ラヴィニア姫は大人だから…。

見た目が幼児でも、中身は三百才だから…。


幼児ーズに出来て、自分には出来ないなんて、許せるはずがなかった。


そのためにラヴィニア姫は、コッソリと自室で厳しい特訓を重ねてきた。

小間使いのメアリを手伝って、脱いだ衣類の畳み方も教わった。

長い靴下をクルクルと巻いてから履く方法も身につけた。


靴ひもを除けば、脱ぐのも着るのもバッチリだった。


それだけでなく、ラヴィニア姫は自室にこもって全裸で過ごし、恥ずかしがりな性格を直そうと頑張ったのだ。


「わたくしは、田舎のちみっ子です。鼻を垂らしたガキです…。服なんか着ていなくたって、一向に恥ずかしくありません!」


仕上げに鏡を睨みつけて、自己暗示の台詞をなんども繰り返す。



「野性が一番…。裸族、バンザイ…!ねぇ、そうでしょ…。ネコスケも服なんて着ないのだから、そう思いますよね…?」

「みゃぁ…」


どれだけ負けず嫌いなのか…?

どれだけタケウマがしたいのか…?


ミケ王子は呆れかえって、ラヴィニア姫から視線を逸らした。

早く、シュミーズとワンピースを着てもらいたかった。

女児の裸体がちらついて、ドギマギする。


非常に居心地が悪い。


(ボクとしては、さぁー。ヒト族の幼児には、恥じらいを持って欲しいよ。とくに、女の子にね…!)


ミケ王子の嘆きを他所に、ラヴィニア姫の見当はずれな修行は、今日も続くのだった。




◇◇◇◇




ミッティア魔法王国から派遣された特殊部隊は、プロホノフ大使の屋敷に逗留していた。

表向きは屍呪之王(しじゅのおう)を封印する地下迷宮の警護に、不備がないかを確認するための特殊部隊なので、コソコソと隠れる必要などなかった。

飽くまでも特殊部隊の立場は正式なモノであり、世界の安全を憂うミッティア魔法王国がウスベルク帝国に貸し与えた魔法結界の調査員なのだ。


特殊部隊を率いる隊長のフレンセンは、先日ウィルヘルム皇帝陛下との謁見を問題なく済ませ、調査計画書をフーベルト宰相とヴァイクス魔法庁長官に提出してあった。

あとはプロホノフ大使の交渉力で、地下迷宮の調査日が決定するだろう。


「フレンセン隊長…。帝都ウルリッヒは、やけに魔素の薄い土地ですな!」

「ヘイム副長。計測器の調整に支障がありそうか…?」

「いいえ。魔素が薄かろうと、ゼロでない限りは問題ありません」

「それなら魔法具の調整を続けてくれ!」


「承知しました…!」


ヘイム副長は計測器を操作しながら、フレンセン隊長に答えた。


「魔素濃度が薄いのか…。そうなると…。ウスベルク帝国の魔法文明は、暗黒時代に破壊された知識の寄せ集めに過ぎぬか…?」

「その可能性は、非常に高いと言えます」

「エーベルヴァイン城のおくには、精霊宮があるのだぞ。未だにウスベルク帝国は、精霊信仰をありがたがっている」

「嘆かわしい限りで…。まさに未開人ですな」


ヘイム副長が計測器を床に置いて、座標表示用の魔法具を起動させた。

鈍い振動音と共に、黒曜石のようなパネルが緑色の光を放った。


ミッティア魔法王国が誇る特殊部隊の装備品は、どれもウスベルク帝国に存在しない最新式の魔法具だった。


「無智蒙昧な迷信に憑りつかれた、野蛮人どもだ。我々、ミッティア魔法王国の民とは…。根底から違うのさ」

「根底からデスカ…?」

「そうだ…。連中の思考は、低い位置(レベル)で停滞しているのさ。帝国民を人間と考えるのは、止めてしまえ。いっその事…。(さる)だと思っておけば、間違いなかろう」

「猿…!」


「サルに屍呪之王(しじゅのおう)を管理するコトなど、絶対に出来ぬ…。不安で不安で、夜もおちおち寝ていられん。だったら、どうすれば良い?」


フレンセン隊長は、ヘイム副長の耳元に顔を寄せて囁いた。


「本国はウスベルク帝国の統治権を奪うつもりでしょうか…」


ヘイム副長も小声で囁いた。


「その通りだ。だから我々は…。何があろうとも、帝国側の魔法結界を解読しなければならん。幼児が書いたような魔法術式であっても、へちゃむくれの汚らしい魔法紋であっても、全精力を上げて解読しなければならん。そして幼稚な魔法術式の脆弱性を白日の下に晒すのだ…。屍呪之王(しじゅのおう)を封印する封印結界に難癖をつけて、ミッティア魔法王国の高度な魔法術式と交換させるのさ」

「なるほど…。技術的な依存を余儀なくさせてから、確実に支配していくわけですね」


「知能が低い猿どもには、扱い兼ねる結界術式だからな。メンテナンスには、ミッティア魔法王国の助けが必要となる訳だ」


フレンセン隊長が自信に満ちた態度で、ヘイム副長の肩を叩いた。



因みにミッティア魔法王国の人々が魔素と呼んでいるのは、妖精たちのコトである。

ミッティア魔法王国の聖典が『魔法書』であるために、魔法技術のみを高度に発展させた結果、妖精の存在は否定されてしまったのだ。


妖精たちを隷属化の魔法術式で拘束すれば、感謝などしなくても働かせることができた。

これは精霊樹や妖精たちにとって許しがたい暴挙であり、妖精母艦メルに出動命令がくだる日も然して遠くなかろうと思われた。






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【エルフさんの魔法料理店】

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