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カリーネの家



 夕焼けの中、フォランカから帰り冒険者ギルドに向かう。「迎えに来てね」とは言われたんだけど、あれって「迎えに来い」っていう半強制的な物じゃないかと思う。まあ、否定できなかった俺は冒険者ギルドにカリーネを迎えに行った。

 冒険者ギルドの扉を開け中に入るとエリスが居た。俺を見つけるとギルドマスターの部屋に向かう、カリーネを呼びに行ったようだ。

「お母さまぁ! マサヨシさんが来たよぉ」

 おっと、声がデカい。それにその声に反応した職員が俺の方をチラチラ見ている。まあ、この三日間ぐらいはギルドマスターと仲がいいからなぁ、何者かと思っているのかもしれない。

 速足でカリーネがやってきた。

「迎えに来たんだが、まだちょっと早いか?」

「ちょっと早かったわね。もう少し待ってもらえると助かるかなぁ?」

 俺をちらりと見て言った。

「別にいいぞ? 皆も良いよな?」

「大丈夫よ?」

「大丈夫ですぅ」

「ん」

「大丈夫じゃ」

「はい、問題ありません」

 皆の同意も得た。

「だったら、部屋のソファーで待って頂戴。あなたと一緒ならエリスも喜ぶから」

「了解」

 俺がそう言うとエリスが腕に飛びついてきた。俺を見上げにっこり笑う。

 カリーネの後ろについてギルドマスターの部屋に入ると、机の上に書類の束が山のように積まれていた。

「お前、これを処理しているのか?」

「そう、誰かさんがいいモノ狩ってきたでしょ? 書類が増えちゃったのよ。全部私のサインが必要だから面倒なの」

「すまんね」

「まあ、ギルドとしてはもうけが出るから、感謝しているのよ?」

「だったら良いんだけどね。おっと、仕事の邪魔だな。俺もやりたいことするんで終わったら言ってくれ」

「わかった」


 奴隷たちは取り留めも無いことを話し始める。

 俺は今日買った扉にオークプリンセスのマンゴー大の魔石をつける。あとは魔石に座標を流し込んで俺んちと繋げばいいだけだ。

 俺の準備が終わったので、カリーネの仕事姿を見ていた。サインも書類の確認をしてから確実に行っていた。

「真面目なんだな」

 ボソリと言った言葉か聞こえたのか、カリーネがちょっと赤くなっていた。


「はい、お待たせ。私の仕事も終わったわよ。それじゃマサヨシの家に行く?」

 そうは言ってきたが、俺的にはカリーネの家に行きたいと思っていた。

「カリーネんちに行きたいんだが、いいか?」

「へっ? なんで?」

「理由は俺んちとゼファードを繋ぐ転移の扉を作ろうと思ってるんだ。ただ繋ぐならギルドマスターの部屋よりは、カリーネの家と繋いだほうが自然だと思うわけで……。ダメか?」

「えっ、いや、別にいいんだけど。家が片付いてないと言うか汚いと言うか」

「そういうことならメイドである私に任せてください。部屋の片づけ掃除は確実に行いますので」

 マールが一歩前に出て言った。

「まあ、私たちもマールに鍛えられているから、掃除ぐらいはするわよ?」

「洗濯ですぅ」

「手伝う」

「じゃな」

「お母さま、皆が家に来るのですか?」

「まあ、そういうことだ。諦めろ」

 がっくりと肩を落とすカリーネが居た。


 エリスとカリーネを含めた八人はカリーネの家を目指す。カリーネは乗り気ではないがエリスが先頭に立って家を目指す。俺たちが家に来るというのがすごく嬉しいらしい。

 レンガ造りの平屋や二階の家が並ぶ通りを歩いていると、小さな庭のある少し豪勢な家の前に着いた。

「ここよ」

 カリーネはまだ乗り気ではないらしい。

「ふぅ仕方ないわ、入って」

 ため息をついて俺たちを部屋の中へ入れてくれた。

 洗濯した服と下着が山となっており、あまり見せたくはないのだろう。別に仕事にかまけていたわけでもなく、忙しさが原因なのかもしれない。こっちには冷食や洗濯機、掃除機も無いからなぁ。前の世界のお母さんでさえ大変なのに、こっちの世界のお母さんはもっと大変だろうな。ましてはカリーネはシングルマザーだ。

「お手伝いさんは雇っているんだけど毎日じゃなくてね」

 言い訳を言うようにカリーネは言った。

「マール、みんな頼めるか?」

「私にお任せください、みんな手伝ってくださいね」

 そう言うと、マールが皆に仕事を割り当て掃除や片づけを始める。俺も何かしようかと思ったが、

「マサヨシ様はエリス様、カリーネ様とお話でもしていてください」

 と手伝うことを拒否されてしまった。


 まあ仕方ないのでエリスに質問してみることにする。

「エリス、お前家で一人だったのか?」

「はい、お母さまがお昼には一度帰ってきて食事をしたら、またギルドに戻るので家で絵を描いたりして待っていました」

「なんであの時は外に居たんだ?」

「ちょっと外に出たくて……。いつも家の中だったから。それにお母さまの顔も見たかったし……」

「一人は寂しいよな」

「はい、寂しかった。でも今はマサヨシさんも居るしクリスさんもフィナさんもアイナさんもリードラさんもマールさんも居ます。キングも居ます。サラさんもタロスさんもテルフさんも……。だから楽しいです!」

 そうだよな、誰かが居るのは楽しい。ましてや好きな人と居るのはなお楽しい。


「お母様と一緒にマサヨシさんの家に住んでいいですか? お母さまはマサヨシさんが好きみたいです。私と居るとお母さまは男の人の話はしなかったけど、最近はマサヨシさんのことばかりです。私もマサヨシさんならお父さんって呼んでもいいかなって……」

 照れながらエリスは言う。突然の言葉だがまあ俺は覚悟していたので気にはしない。しかしカリーネはそうじゃなかった。

「エリス! 恥ずかしいじゃない」

「だって、ギルドで私と話をする時だって、『マサヨシ来るかしら?』って言ってた。本当は待ってたんでしょ?」

 エリスに言われて図星だったのだろうカリーネは真っ赤になる。

「私が言うことが無いじゃない。全部エリスに言われて……」

エリスに負けるカリーネ。

「で、結局どうするんだ?」

 カリーネはモジモジしながら

「あの家に住んでいい?」

 と聞いてきた。

「ああ、いいぞ。まあ、元々そのつもりでこの扉を作ったわけだし」

 俺は収納袋からおっちゃんに作ってもらった扉を出す。

「じゃ、ここの座標を魔石に流し込むから」

 そう言って魔石に座標の登録処理をした。

「これで、俺んちとココに繋がる扉になった。あとはカリーネが使えるように登録をすれば使える」

 俺は強引に手を取ると魔石に触らせた。すると魔石が光る。

「ホイ、これでこの扉が使えるようになった。カリーネなら大丈夫かな? 開けてみて」

「この扉を開ければいいのね」

 カリーネが扉を開けると、俺の家のドロアーテ行きの扉がある部屋につながった。

「私にも使える! でもけっこう魔力を吸い取られたみたい。このくらいなら大丈夫だけどね。それにしてもこの部屋は?」

「ここは扉の部屋。もう一つの扉はドロアーテ行き。カリーネは登録していないから使えないけどね」

 扉の部屋に着いた俺は小さな魔石を細く伸ばし、ゼファード行きの扉と魔力を貯められるスイカ大の魔石を繋ぐ。魔力が少ないエリスでも使えるようにするためだ。

「エリスおいで」

 俺がそう言うと、トタトタとやってきた。俺は手を取り魔石に触ってエリスもゼファード行きの扉に登録する。

「じゃあ、エリス、この扉を開けてみて」

 俺がそう言うと、エリスはゼファード行きの扉を開けた。

「あっ、私の家」

「これで遠慮なく俺の家に来れるだろ?」

「ありがとう、マサヨシさん」

 俺に抱きついてくるエリス。それを見ていたカリーネがその上から抱きついてきた。

「この子が言ったからじゃないけど、あなたが好きなの。私を貰ってくれない? この子込みだけど?」

「まあ、そのつもりだから……」


「あーあ、やっぱりかぁ」

「順番が大変ですぅ」

「面倒」

「まあ、(ぬし)らしいがな」

「確かに」

 ニヤニヤと皆に見られる。

「お前らも似たようなもんだろ? 片づけは終わったのか?」

「当然です」

 マールがドヤ顔で立っていた。


「さあ、家に帰るか」

 俺たちは扉を使って家に帰った。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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