カリーネさんと
俺は飲みの片づけをした後風呂に入った。
ボーっとしながら
急がなきゃとは思っているが、結局寄り道をしてしまっている。
「焼き肉なんてしてる場合じゃないか……」
それでも、奴隷たちは楽しんでいたようだ。カリーネさんもエリスも……。
「女にうつつを抜かして」
妻に嫌味を言われそうだな。
「すまんね、これが俺のペースってことで」
そう言って顔を洗うと、風呂を出た。
部屋に戻りベッドに入る。
ダンジョンの反省をしておこう。
今のところ一撃で魔物は倒せる。しかし安全マージンを増やすならもっと何かあるのではないだろうか。せっかくギルドマスターが来るかもしれない。まあ、その時聞いてみるか。
そんなことを考えながら横になっていると知らない間に寝ていたようだ。
キシッ
扉が開く音。誰かが入ってくる。
「寝てるの?」
「今起きた」
部屋の魔光燈は消してあったので俺が起きているかどうかが分からないのだろう。まあ、実際今起きたんだけどね。
俺は起き上がり魔光燈を点ける。
そこにはそっと狐の尻尾を抱きながら立っているカリーネさんが居た。白熱球のような黄色い光に照らされて神々しく見える。服はリードラあたりから借りたのかな?
「どうかした?」
大体の内容は聞いている。
「あなたのことが知りたかったら行ってみろって……」
「ってもなぁ、単純だぞ?」
「単純?」
「ああ、たまたま出会って仲間になった者を大切にする。そんだけ……。別に有名になりたいわけじゃないし、できたらこの家でワイワイ言いながら暮らせたらいいかなってね」
「でもあなたは今、ダンジョンを攻略しようとしているじゃない。攻略すれば名声は確実に入る。貴族にだってなれるかもしれない」
「そんなものは要らないんだ。俺がダンジョンを攻略するのは俺の我儘」
「我儘?」
「俺が別の世界から来たって言っただろ? そこには俺の妻が居た。まあ、俺より早く死んだんだけど。その妻が七千年前にこの世界にドラゴンとして転生したらしい。そして死んだんだが、その亡骸がダンジョンマスターに利用されてこのダンジョンのラスボスになっている。妻に『殺してほしい』と言われたから攻略しているだけ」
「たったそれだけ?」
「そう、俺の妻や奴隷たちに対するケジメみたいなもんかな」
カリーネさんは俺の右側に座り、
「急がなくてもいいの?」
と聞いてきた。
「そりゃ、攻略は急いだほうがいいのかもね」
そりゃそうだよな。
「急がなければいけないのに、何でエリスを?」
「たまたま現場に居合わせて、エリスちゃんが泣いているのを見て、助けられると思ったからじゃないかな? それに、この程度で遅くなったとは言えないよ」
俺はカリーネさんを見る。
「エリスちゃんが冒険者ギルドを知ってて助かったよ。俺らゼファードの冒険者ギルドって知らなかったから。まさかギルドマスターの娘だとは思わなかったけど」
「で、私の所へ来たわけね」
「そういうこと。結局行き当たりばったりでたどり着いただけ。まあ、エリスちゃんが俺と遊びたいって言ってたから、俺んちで遊ぶようにしたわけで、カリーネさんはついでかな?」
「ついでって……」
ん? ちょっとがっかり?
「ついでだから仕方ない。でも、ついでなりに楽しめたんじゃないですか? エリスちゃんが楽しんでいるのを見てるカリーネさんが笑っていたから。それに食事も酒も美味しかったでしょ? ちょっと疲れているみたいだったしリフレッシュできましたか?」
俺はニコリと笑って言った。
「あなたはなんでそんなに優しいの?」
「んー、たまたま、あなたが俺の手に届く範囲に来たからじゃないかな?」
「手が届いたら優しくなる?」
「美人さんには優しくなるでしょうに」
「私が美人?」
きょとんとした顔で俺を見る。
「はい、美人です。俺も助けるにはいろいろ欲を出すんです」
「私みたいなのでも?」
「カリーネさん意外と家庭的なんですよね、料理もできるし。奴隷たちなんて料理できない奴ばっかり。おっと聞かれたら怒られるな……」
まあ、奴隷たちが料理できないってのは事実なんだけど。
「ギルドマスターって感じじゃなく優しいお母さんって感じ……そっちの方が俺は好きですね」
カリーネさんが赤くなった。
「マスターじゃなくていいってこと?」
「ずっと仕事の顔をしてたら面倒でしょ? せっかくだから楽にすればいいんじゃない?」
「こんなことしても?」
カリーネさんが俺の肩にもたれてきた。
「まあ、肩ぐらいは貸しますよ」
「ありがとう」
カリーネさんは目を瞑った。
しばらくすると、俺の右肩あたりから寝息が聞こえるようになる。
「寝たか、お疲れさん」
そう言って俺はベッドにカリーネさんを寝かした。
そして部屋を出てリビングのソファーに横になる。
「さて、どうなることやら……」
そして知らないうちに寝てしまっていた。
目が覚めると横になっている俺の前に誰かが居た。
「何で一人寝?」
カリーネさんが怒っていた。
「何で怒られる?」
「あそこまでいったら、襲ってもいいじゃない!」
「襲いません! 言ったでしょケジメがついてないんです」
「私にそういう魅力が無いのかと思うでしょ?」
「魅力はあると思いますよ?」
「あとカリーネって呼んで」
「何で?」
「そう呼んでほしいから!」
「いいですよ? カリーネ」
ピクリとカリーネの体が動く。
「それでお願いね」
カリーネの尻尾がふぁさふぁさと揺れていた。
「朝食は?」
まだ外は薄暗い。
「カリーネ、今から作るけど手伝ってくれる?」
「いいわよ?」
俺はいつも通りコカトリスの卵を取り出す。
「えっ? それ何の卵?」
カリーネが驚いて卵を見ている。
「牧場で見たでしょ? コカトリスの卵だよ」
「超高級品じゃない!」
「皆、ほぼ毎日食ってるぞ? まあ、オムレツって奴を作るから食ってくれ」
カリーネは料理上手でサラダやスープをさっさと作り皆の前に出す。そして、エリスの横に座った。
「お母さま、呼び捨てで呼ばれるようになったのですね?」
「まあ、少しは進んだんじゃない?」
「はい、良かったですね」
俺は皿にオムレツを盛りそれぞれの前に置く。いつもの朝食にカリーネとエリスが並んでいた。
「さあ食べてくれ」
それぞれに「いただきます」をして食べる。
「うわー美味しい」
「これがコカトリスの卵」
カリーネ親子は「おいしい!」を連発して朝食を食べていた。
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