焼き肉
俺たちが家に戻ると唖然とするカリーネさんが居た。
「どうした?」
「これあなたの家?」
「そうだけど?なにか?」
「私たちも住めるわね」
ボソッと言うカリーネさん。聞こえてる……。
「じゃあ、皆で段取りするぞ! 今日は火酒も出すけど、子供も居るから暴れないように!」
「やった!」
「火酒です!」
「あれは美味いのじゃ」
「程々にですね」
呑兵衛たちは沸き立つ。
「えっ火酒まであるの?」
「有りますよ、いける口ですか?」
「程々には」
「だったら、あとで皆と一緒に飲んでください。さてと、俺は焼き肉の準備をしてきます」
俺は外に出た。柵のところに行くとキングがやってきた。
「ん? どうかしたか?」
「クエッ」
頭を振って注意を促す。
「ああ、エリスも来たのか」
「マサヨシさんこの子は?」
「キングだよ」
キングはエリスが届くくらいの高さまで頭を下げてきた。
「撫でていいのか?」
「クエ」
「いいらしい、キングの頭を撫でてやって」
俺がそう言うと、エリスが恐る恐るキングの頭を撫でる。キングは目を細めていた。
キングはエリスの襟をつまむとひょいっと背中に乗せる。
「走るか? だって」
「いいの?」
エリスがキングに聞く。
「クエ」
「いいってさ。キング、程々でな」
そう言うとゆっくりキングは歩きだした。徐々に速くなっていく。
「きゃははは! たのしー!」
エリスはキングが見ていてくれるようだ。
俺は、オークプリンセスが持っていた三丁の包丁を出し、一つは鉄板に、一つは燃料を置く箱に、一つは燃料を置く箱の足に作り替えた。
調理場に戻り、子供にはパンも必要かとスライスした物を作る。ちょっと時間があるからマヨネーズにも挑戦してみるかな?
定番のマヨネーズである。現実世界でも、でもラノベ界でも、最強調味料じゃないだろうか? これの販売権で儲けた主人公も多いと思う。
コカトリスの卵を割り卵黄と卵白に分けてと……。確かダチョウの卵は鶏の卵の約30倍って聞いてたから、結構マヨネーズできそうだなぁ、保存利くかな? 覚えているレシピをもとに、作っていく。おっと、混ぜる道具がスプーンしかなかったので、泡だて器を作っておいたのだ。まあ、おれのAGIを利用すれば、簡単に乳化できるんだがね。酢を入れかき混ぜた後、油を少しずつ入れながらかき混ぜると乳化しマヨネーズっぽくなった。そして、一舐め。久々に舐めたら懐かしくて涙が出そうになった。
さて、卵白が余ったのでお菓子でも作っておくか。残った卵白を混ぜるとにかく混ぜる。角が立つまで混ぜると、更にはちみつを入れながら少しずつかき混ぜる。
フライパンの上に卵白を小出しに乗せ蓋をして焼いた。香ばしい匂いが漂う。鼻のいいフィナとリードラが柱の陰から覗いている。
「味見するか?」
コクリ×2
二人はいそいそと俺の傍に近づき、卵白で作ったお菓子を一つずつ頬張った。
「「おいしー!」」
この世界に甘いものは少ない。だから余計美味しかったのかね。
「これ以上はダメだぞ?アイナやエリス、信号機たちが食べる分が無くなる」
そう言ったそばで、信号機たち、クリス、アイナ、ん?カリーネさんまで、柱の陰から覗いている。
「はいはい、一人一個ね」
ニコニコしながら、皆が頬張るのだった。
「そろそろ時間だから肉貰いに行ってくる。カリーネさん一緒に行ってもらえます?」
「わかったわ」
俺が扉を開けるとすぐにカリーネさんがやってきて、引きずり込むように俺とギルドマスターの部屋に行くと扉を閉めた。
「あなたみたいな人見たことない。マサヨシ、あなた何者なの?」
「内緒です」
「なぜ? あの子たちはそのことを知ってるの?」
「はい知っています。あの子たちは俺の奴隷ですから」
「私には言えない?」
「わかりませんね、言うかもしれないし言わないかもしれない。たまたまそうなっただけですから」
俺はカリーネさんを引きずるようにして解体場に行くと解体中のオーククイーンがおり、解体スタッフが解体した肉を見せてくれる。
おお、霜降りのいい肉だ。こればかりだと脂っこいから、鶏肉とかも混ぜたほうがいいかな?
「結構脂肪が有りましたけど、いい肉だと思います」
そう言って塊を俺に渡してくれた。
「一部販売する気は?」
と聞かれたが、
「無いですね」
そう言って流しておく。
「じゃあ、さっさと俺の家に戻ります。さあ行きますよ」
再度カリーネさんを引きずり、ギルドマスターの部屋に行くとさっさと家に戻った。
俺は鉄板の下に薪を入れ火を起こすとパチパチと音がしはじめた。鉄板の上にオーククイーンの脂身を使い油を引く。そして油から湯気が出始めると、直径三十センチメートルほどの肉を五枚ほど乗せ、その横で野菜を焼き始めた。
フィナとリードラがすでに皿を持ちスタンバっている。
俺は面倒なので、冷やしたエールを樽で出しサーバーのように自分で飲むようにしてもらった。
焼き色が付き完全に火が通ったのを確認すると切ってフィナとリードラの皿に入れる。
「美味しいですぅ、油が美味しいですぅ」
「美味いのじゃ! エールが進むのじゃ」
俺は次々と焼き、それぞれの皿に入れていると、
「私も焼くわ、手伝わせて」
カリーネさんが俺を手伝いだした。
意外と家庭的? 焼くのも上手かった。綺麗に肉を切り皆に盛っていく。
焼く量が増える分、皆に渡る肉の量も増える。ついでに飲む量も増えた。
マヨネーズも好評らしく野菜に付けたり肉に付けたりしてどんどん減っていった。
おっとエールがほとんど無いねぇ。
周りを見ると酒が弱いクリスやフィナの顔はすでに赤かった。マールもちょっとヤバいかな?
ちょっと離れたところで、エリスとカリーネさんが話をしている。
「マサヨシさん落とさないと」
「そうなんだけど、なかなか固いのよねぇ」
「お母さま頑張れ! お酒に酔った勢いって言うのはどう?」
「勢いに乗り遅れているのよね。まあ努力してみるか」
母子作戦会議のようだ。ターゲットは俺らしい……。
更に離れたところでは、
「クリス様、マサヨシ様はあの人のことどうするんでしょう?」
「マール、マサヨシも悩んでいると思うの。多分どっちにしようか悩んでいるんじゃないかな?」
「強い男に妻が多いのは自然」
アイナが言う。
「私は私を見てくれるなら多くてもいいです」
フィナが言っている。
「我は子が作れれば良いぞ? じゃが、抱いてもらうのも良いな」
おっと、ストレートなリードラ。
「結局あの人にも何かあると思ったんじゃない? たまたま出会った私たちと一緒だと思うわよ?」
「マサヨシ様が決めるならいいです」
「ん」
「じゃな」
「任せましょう」
何となく結論が出たようだ。責任重大だな……俺。
食べる物もなくなり、軽く片づけをする。食器などを片付けているとカリーネさんが来て食器洗いを始めた。
「マサヨシは食器を洗ったりするのね」
「ああ、別に女が食器を洗わなきゃいけないとかそういう気は無いんだ。メイドがしなきゃいけないとも思わない。できる者がすれば良いと思う。俺んちはほとんど俺が飯作ってるしな」
奴隷たちは庭の片づけをしている。
「何でそんな考え方ができるの?」
「そういう所で育ったからかな?」
「それはどこ?」
「別の世界」
「そうなんだ」
あっけらかんとカリーネさんは言う。
「へっ?」
「驚くと思った?」
「程々には」
「私も冒険者だったから、色々体験はしているわ。不思議なこともね。だから別の世界から人が来るということがあってもおかしくないとは思う。それにあなたはこの世界の人と考え方が違う。あの子たちは奴隷でしょ? あんなに活き活きしているのは見たことが無いわ」
「まあ、奴隷の扱い方を知らないだけなんですがね」
「そこが違うのよ、奴隷は押さえつけ使役するものとこの世界の人は思っている。あなたは優しい。私にもエリスにも奴隷にも子供たちにもコカトリスたちにさえもね」
「身内に優しいのはいかんですか?」
「私も身内?」
お狐様が俺を見上げて言う。
「すぐには決められないと言うか、それこそ流れで良いんじゃない?」
食器の片づけも終わり俺は火酒と人数分のグラスを準備する。
「わかったわ」
そう言うと俺と一緒にカリーネさんはリビングへと向かった。
リビングに行くとアイナがエリスと居た。
「アイナ、信号機たちは?」
「外の片づけが終わったら離れに戻った」
「エリスちゃんは?」
「私が一緒にお風呂に入ろうかと……」
「ありがとな、後で髪を乾かしてやるから」
「うん」
アイナは風呂の道具を持つとエリスと風呂場に向かった。
「さて、お待ちかねの火酒登場、今日は新しい飲み方を教えてやろう、『オンザロック』っていう飲み方だ」
俺はそれぞれのグラスに丸氷を入れその上から火酒を注ぐ。
「ホイ、飲んでみな」
皆の飲み方は基本ストレートで酒を飲む形が多かった。氷でもあればなぁとは思っていたのだが、こちらの魔道具にはそういう物が無い。まあ、丸氷は飲みに行ったときに見たことがあったのでイメージすればすぐ作ることができる。火酒を入れる前にグラスに入れオンザロックにしてみたのだ。すでに俺も飲んでいるが美味かった。
「美味しい……冷やすだけでこんなに味が変わるのね」
「マサヨシ様、美味しいですぅ」
「マサヨシ様こんな飲み方もあるのですね。美味しいです」
「美味いのじゃ」
クリス、フィナ、マール、リードラは口々に言う。
「ほい、カリーネさん」
俺はグラスを渡した。少し口に含みコクリと飲み込むと目を見開いた。
「美味しい……」
「だろ? 向こうの世界の飲み方。こっちじゃ氷なんてものは手に入らないから、なかなかできないだろうけどね」
俺はニコリと笑う。
「部屋はあるから、今日は泊まって帰ればいい。明日の朝どうせ皆でゼファードには行くんだから」
しばらくすると、
「マサヨシ、出た」
下着姿のアイナとエリスがやってくる。
「おう、髪を乾かすぞ、俺の前に座れ」
アイナが俺の前に座る。俺は温風を出しブラシで髪を梳いてアイナの髪を乾かす。
「ん、気持ちいい」
羨ましそうに見ているエリス。
「エリス、マサヨシに言ったらやってくれる」
「いいの?」
恐る恐るって感じだね。
「アイナが終わったらな」
「うん」
アイナが終わり、温風を出しエリスの髪を梳く。
「気持ちいい、アイナお姉ちゃんが羨ましいなあ」
「マサヨシがエリスのお母さんを選べば一緒に住める」
アイナがチラリと俺を見た。
どうしろっていうんだ?
「お母さまはお酒を飲んでるから、今夜はここに泊まって帰りなさい。アイナと一緒に寝ればいい。アイナ、頼むな」
「はい」
「ん」
そう言うとアイナはエリスを連れ自分の部屋に行った。
さらに時間が経ち、彼女たちの酒が進むにつれ弱い者が潰れる。
ああ、クリスとフィナはすでに寝ているか。
「ちょっと部屋に寝かせてくる」
俺はクリスを抱き上げ、部屋に連れていった。
クリスを抱き上げ部屋に行く。こいつ意識あるな、首に手をまわしてくる。
部屋に着くと下着姿にして寝かせる。
ベッドに寝かせると、クリスが抱き着いてきてキスをしてきた。
火酒のアルコールの匂いがする。
「それ以上は無しな」
「だってしたいんだもん。好きなんだもん」
「ダメだよ、もう少し待ってくれ」
「ケチ!」
「ケチで結構だ!」
俺はクリスに布団をかぶせると部屋を出た。
フィナも部屋に連れていく。フィナは完全に寝てるかな?
「抱っこされて嬉しいのですぅ」
ああ、目的達成できたから、嬉しいのね。
下着姿にして布団に寝かせるとすぐに寝息をたて始めた。
俺は一人で酒を飲む。三人で何か話しているみたいだねぇ。
「何であんなに優しいのよ!」
「そうじゃな、お主が綺麗だからじゃないか?」
「へっ?」
きょとんとするカリーネさん。
「そうですねぇ、あの人は美人を助けます」
マールが笑いながら言った。
「私は助けられた? マサヨシに何もされていないけど……」
「あなたを助けたんじゃないと思いますよ。どっちかと言えばエリス様じゃないでしょうか? あなたの家庭の事情は知りませんが、エリス様は最近あのように笑われていましたか?」
「そうね、あの子があんなに笑うのを見たのは初めて……」
「あなたはだから気になったんでしょ? 不思議だし、抜けてるようでちゃんとしてるし」
「マサヨシは別の世界から来たって言ってたけど」
「主はそこまで言っておるのか? まあ、我はどちらでも良いがの」
「そうですね、私もどっちでもいいです」
「マサヨシが今目指しているものって何?」
「それはマサヨシ様ご本人から聞いてください。マサヨシ様は言ってないのでしょう?」
「そうだけど……」
「今日は皆で寝る日ですが、この様子では皆個室で寝ることになると思います。マサヨシ様の部屋に行ってみては?」
「そうじゃな、行ってみればいいと思うぞ?」
リードラとマールはチラリと俺を見た。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




