一度戻って
俺たちは魔法陣で外に戻ってきた。入口の横の法陣のある部屋に通じていた。まあ、そんな部屋があるのも知らなかったけど……。俺たちが部屋の外に出ると通行手形の処理をした受付嬢が近寄ってきた。ちょうど受付けの正面になるから出てきた者がわかるようになっているようだ。
「お帰りなさいませ」
受付け嬢は怪訝な顔をしている。
「はあ、何か?」
「ボスを倒しての帰還で?」
「十階のボスを倒して帰ってきましたが……何か?」
「えっ、まだ昼になっていませんよ?」
びっくりすること?
「昼飯が食べたいから十階で帰ってきたのですが?」
「昼飯のために急いだ?」
「いや、そういうわけじゃなくて、ボスを倒した時間が昼飯前だったから、戻って飯を食おうって話になっただけ。それじゃダメかい?」
「いえ、そういうわけでは。私が受付を始めてから最速だったもので……」
「いつもはどのくらいで?」
「三、四日」
早すぎたかな……
「それじゃ気になるか。大丈夫ちゃんとボスは倒してきたから見てみる?」
「遠慮しておきます」
まあ、普通の人が見る物ではないか。
「それじゃ行くね」
そう言うと俺たちはダンジョンの入口から離れた。
「クリス、オークの肉ってどうやったら食える? 誰か解体してくれるのか?」
「冒険者ギルドに持って行けば解体してもらえるわよ? 冒険者によっては自分で解体する人もいるけど私はできない。フィナは?」
「簡単な魔物なら解体できますが、オーククイーンは本職にやってもらったほうがいいと思います。皮も高いです」
「じゃあ、冒険者ギルドに行くか」
俺がそう言った時、
「敵が居る」
「狐美女がいるのう」
アイナとリードラから声が上がる。
カリーネさんのことだろう。
「ギルドマスターだから仕方ないだろう?」
「親子ともども主に懐いているがな」
周りの視線が痛いが、
「リードラは肉を食いたくないのか?」
「ぐっ、主よ肉は食いたい!」
リードラは肉を優先した。
「だったら文句を言わない!」
そう言って、俺は冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドに入るとエリスが居た。
「マサヨシさんだぁ」
俺に抱きついてくる。
「おう、昨日の今日でここに居るのか?」
「うん、マサヨシさん来るって言ってたから。待ってた!」
うわっ、皆の視線が痛い。
「お母さま呼んでくるね」
そう言うと、エリスは奥にあるギルドマスターの部屋に行った。
俺の後ろで話が進む。
「アイナ、あの子?」
「あの子とあの子の母親」
アイナが答える。
「リードラ様、その母親は美人ですか?」
「マールよ、あれは美人じゃな。体は我、顔は我々並みじゃ」
「強敵です」
「フィナ、あれは強敵じゃ」
「増えるかも」
「まあ、とりあえず様子を見ましょう」
クリスがカリーネさんの気配を感じて会話をやめた。
「いらっしゃい、今日は何の用?」
自慢の体をアピールするようにカリーネさんが出てきた。エリスも一緒だ。教育上良くないと思うんだが。
「魔物の解体を依頼したいんです。十階のボスのオーククイーン一体とプリンセス四体の解体ですね」
「へっ?」
「いや、十階のボスのオーククイーン一体とプリンセス四体の解体です。できますか?」
カリーネさんが驚き固まる。
「カリーネさん?」
「あっああ、どういうこと? もう十階のボスに到達した?」
「さっきもダンジョンの入口で聞かれましたが、昼前に十階のボスを倒しました。キリがいいので昼食にオーククイーンの肉を食べようかという話になって、解体の依頼に来たわけです」
「オーククイーンはどこ?」
「場所さえ指定してもらえれば出しますよ? ちょっとここでは混乱が起こりそうなので……」
カリーネさんは後ろを向きスタッフと話す。
「解体場が空いているらしいわ、ちょっと来て」
俺たちはカリーネさんに付いていった。
「ここで大丈夫?」
バスケットコートぐらいの広さがある、まあ大丈夫かな?
「エリスちゃんは見ないほうがいいと思う。あんまり気持ちのいいモノじゃないからね」
俺がそう言うと、エリスはカリーネさんの顔を見る。
「この子を連れていって」
カリーネさんはガードマンに指示を出すとエリスは連れていかれた。
「じゃあ出します」
俺は頭部の弾けたオーククイーン一体とプリンセス四体を収納カバンから出した。
「噂には聞いていたけど凄いわね」
カリーネさんが驚きながら言う。
「知っていたんですか」
「ええ、ギルド周りじゃ有名よ。『炎の風を単独討伐したパーティーは死体を全部カバンに入れて持ち込んだ』ってね」
「まあ、そういうことです」
軽く流す。
「そういうことで、このオークの解体をお願いします。肉と魔石以外は要らないので買い取ってください。ああ、やっぱりオーククイーンの皮だけはいただけますか?」
ドランさんへの土産も必要か。
「肉なんてどうするの? すぐ傷むじゃない」
「決まってるじゃないですか、食べるんですよ! 美味しいんでしょ?」
カリーネさんに解体のスタッフが耳打ちをする。
「えっ、オーククイーンが解体されるって噂になってる、買い取りたいって依頼まで? 一体丸ごとなんて確かに無いわね」
「肉は私たちで食べるのですべて回収します。ペットの餌にするのでモツも持って帰りますね」
「今からあなたたちどうするのよ!」
何かキレ気味なカリーネさん。
「家に帰って焼き肉にします。できたら腕一本でも足一本でも早めに肉を頂きたいかな? どのくらいかかりますか?」
「そうですね、この状態ならすぐに可能です。大体一時間を見ておいてもらえれば両腕あたりの肉は解体できると思います。全部だと二日程度でしょうか」
解体のスタッフが言った。
「それじゃあよろしくお願いします。一時間ほどしたらここに取りに来ますので」
「じゃあ、戻りましょうか」
俺たちは受付の方に戻った。ちょっと不機嫌なエリス。まあ、ダメだって言われたら嫌だろうな。だったら、
「焼き肉にカリーネさんも来ます? 飲みもできるし」
「えっ、いいの?」
「エリスちゃんも一緒に来ればいいですよ。さっきのけ者にしましたからね、それくらいは準備しておきます」
「エリス、マサヨシのところに行く?」
「うん! 行く!」
即答だった。
「一つお願いが」
「何? 何でも言って」
グイグイ来るカリーネさん。
「迎えに来るにあたって、できれば人目に付かない部屋があると助かるんだけど」
「ギルドマスターの部屋があるわ、そこなら外部から人は入れない」
「一度、部屋の中に入れてもらっても?」
「ええ、いいわよ? 付いてきて」
俺たちはゾロゾロとギルドマスターの部屋に入った。
意外と片付いているな。
「じゃあ、俺たちは帰ります」
そう言うと例の扉を出す。扉に魔力を通し家のリビングと繋いだ。
「へ?」
唖然とするカリーネさん
「向こう側の景色が違う、マサヨシさんは魔法使い?」
「そういうことだエリス」
俺は頭を撫でながら答えた。
「マサヨシは凄い。そしてこの扉の向こうがマサヨシの家」
アイナ、なぜおまえが胸を張る?
「私も行っていい?」
「お母さまが『いい』と言ったらだな」
フリーズしているカリーネさん
「お母さま、マサヨシさんの家に遊びに行っていい?」
エリスが聞くとカリーネさんは復帰した。
「今からでも大丈夫なの?」
「多分大丈夫」
「だったら私も行くわ!」
カリーネさんはそう言って勝手に扉を通っていくのだった。
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