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ダンジョン攻略2

 現れた魔物……スライム? アイナが杖でパチリと叩くと死んだ。

「やっぱり一階の魔物ってこんなもん?」

「そうね、スライムとジャイアントラットとかジャイアントバットとかじゃない? ダンジョンの一階ってこんなもんよ?」

 物知りクリスが言った。

 そう言えばこのパーティーで、冒険者の知識を持っているのってクリスかフィナぐらいなんだよな……。

 見た目より歳食ってるってのは言っちゃいけないが、それでも知識は豊富だった。

 単独で攻撃に行くクリス、フィナ、リードラ、マールが魔獣に向かっていく。俺やアイナが到達するころには、そこに居た魔獣たちは殲滅されていた。他のパーティーの横取りしてはいけないと注意してあるのでそこら辺は大丈夫なようだ。

 んー俺の出番が無い……ん? いやあった。

 数匹のスライムと戦うと、格闘系のリードラは特に潰れたスライムの飛沫が体中にかかり、若干卑猥な姿になってしまう。

 リードラに洗浄魔法を使うと、

(ぬし)よ気持ちいいぞ!」

 そう言って再出撃していった。汗とかもきれいになるので気持ちいいらしい。

 装備に汚れが目立ってくると来るように指示を出し、彼女たちに洗浄魔法を使うようにした。


 しばらくすると、魔物を表す光点がなくなる。クリスが返ってきたので聞いてみた。

「クリス、この階の魔物の光点は消えたんだが、ダンジョンの魔物って復活する?」

「そう、ならしばらくは魔物は出ないわね。数日に一回ぐらい魔物と宝箱が復活する、それを『再配置』って言うの。私たちが倒した魔物の数は少なかったから再配置してからしばらく経っているんじゃないかしら」

「ふむ、再配置ってタイミングが決まってる?」

「不定期なダンジョンもあれば定期的なダンジョンもある。このダンジョンは不定期だから余計に難しくなっているの」

「不定期な場合はふと気づくと周囲がモンスターだらけってこともあり得ると?」

「そういうこと」

「そりゃ面倒だね、野営中になんて襲われたら大変だ。ところで、宝箱の反応がいくつかあるけど……」

「この辺の物なら大したものは無いと思う。先に進むほうがいいと思うわよ? だって、一階の敵なんて皆一撃でしょ? 魔物が居ないと後から来るパーティーが困るわよ? そういうことも考えないと」

「すみません、やりすぎました。でもどの辺だったら、俺らのパーティーでちょうどいい?」

「このダンジョンの最高到達が三十七階だから三十階目標ぐらいでまず試しに行ってみたら? 階段の位置も罠の位置も分かるんでしょ?」

「敵殲滅優先じゃなくて、三十階を目標ね。知らないことが多くて申し訳ない。アドバイスありがとう」

 俺は礼を言う。

「えっ、いいのよ。まだマサヨシは知らないことが多いんだから」

 礼を言われるとは思っていなかったのか、クリスはちょっと照れて頰を赤らめていた。


 皆が俺の周りに集まってきた。洗浄魔法をかける。そして、俺は収納カバンから果実水を出し、皆に配った。

「凄く美味しいです。汗もきれいにされるし、快適です」

「マサヨシ、こんなに快適なダンジョン攻略は無いわ。人には言えないわね」

 フィナとクリスが言う。

「本当はもっと酷いのですか?」

 マールがクリスに聞いた。

「マール考えてもみて? 汗まみれの下着とモンスターの返り血やスライムのかけらがこびりついたままずっと戦うのよ? 水分も最低限……食料も最低限……。夜は基本野宿、時間感覚さえない。こんなふうに果実水が飲めることなんてないの」

「それは……勘弁してほしいです」

「でしょう、これもマサヨシのお陰」

 俺って部活のマネージャー的な感じになってない? 俺一番ステータス高いんだけどなぁ……。


「階段を探すことを優先して三十階を目指そうと思います。ちょっとここは弱すぎるよね」

「賛成!」

「賛成です」

「ん」

「賛成じゃ」

「おっしゃる通りに」

 と、同意を得たので先に進む。

 魔獣が現れてもフィナの一刀やリードラの一撃で魔物が葬られる。一度逃げるパーティーのトレインって奴に引っかかったが、フィナとリードラが瞬殺した。

 でもフィナよ、血に濡れた刀を見て尻尾を振りながらニヤリとするのはやめよう。結構怖い。

 十一階に行く階段の前に大きな部屋があり、そこにはモンスターが五体配置されていた。

「マサヨシ、このダンジョンは十階毎にボスが居るみたいね」

「クリスこれがボス部屋って奴か?」

「そういうこと、まだ誰も通ってないみたい。中にボスが居ないとこの扉は開かないから。中に何か居るんでしょ?」

「ああ居る」

「だったらボスは健在ね。倒せば下層に行けるわよ? ただ一回入るとボスを倒さないと出られないけどね」

「じゃあボス行ってみる?」

 俺が言うと、

 コクリ×5

 皆頷いた。

 俺が大きな両開きの扉を押す……けど開かない。

「あれ? 開かない」

「内開き?」

 アイナがぼそりと言った

「それじゃ、内側に……」

 俺が内側に引っ張ると……おお開いた。しかし全開になった瞬間

 パタン

 急に扉が閉まる。

「へっ」

 俺は不意に背後を押された形になる。つまり一人でボス部屋に入ったわけだ。

 無様に前に倒れた俺が立ち上がると奥の方に豚の頭を付けた獣人が居た。三メートルぐらい? オークだ。きわどい水着のような鎧、ビキニアーマー? を着たメスたちが居た。手には中華包丁を大きくしたような武器。獲物が来たっていうことで喜んでいる。料理される? 犯される?

 その中にひときわ大きなオークが居た。リーダーか? 顔はけばけばしい化粧がされた上に口元からよだれが垂れている。体はぶよぶよって……鎧が食い込んでるし。いくらメタボな俺でも勘弁だ。

 オークのメスたちはニヤニヤしながら俺を指差し、ゆっくりと近づいてきた。

 舐められている。どう考えても舐められている。獲物認定だ。俺ってそんなに弱く見えるのかね。

 俺はスコープをイメージ。中央に居るリーダーらしきオークの眉間を狙って撃つとリーダーの頭はザクロのようになって弾けた。イラっとしていたせいか魔力が多めだったのかもしれない。

「えっ」と言う顔で中央を見るオークのメスたち。中央には頭から血を噴きだすリーダーが居た。獲物が狩人に変わった瞬間なんだろう。

 俺は続けざまに両端に居るオークを狙って撃つ。オークたちは横を見ていたせいか眉間に当たり弾ける。

 残り二匹……俺がニヤリと笑うとメス二匹は悲鳴を上げて逃げ出した。俺は悲鳴を無視し一歩も動かず二度撃つと広間は静かになった。

「酷いものを見た」

 正直な感想である。


 入口を開けると、五人は不安そう? じゃなくガールズトークを楽しんでいた。

「おーい、終わったぞ?」

「マサヨシ様、お疲れさまでした」

 マールが俺の汗をぬぐう。

「心配してなかったのか?」

(われ)(ぬし)ならあの程度大丈夫じゃ」

「そうです、あの程度の気配なら問題ないです」

 リードラとフィナに言われた。そんなもん?

「どうせ瞬殺だったんでしょ? 入ってちょっとしか経ってないし」

「クリス、そりゃそうなんだけどな」

「お疲れ」

 俺の頭を撫でるアイナ。

「はあ」

 それでも心配ぐらいはしてほしい。


 ボス部屋に入るとフィナとリードラが喜ぶ……何で?

「マサヨシ様! オーククイーンとオークプリンセスです!」

 耳ピコピコ、尻尾ブンブンで喜ぶフィナ。

「この肉は美味いのじゃ!」

 リードラはすでに涎が見える。

「そんなに美味いのか?」

「ですです」

「のじゃのじゃ」

「マサヨシ様、オーククイーンの肉は美味なうえなかなか出回りません。この巨体をダンジョンから持ち帰る苦労を考えてください。美食家が高値で買い取るものです。ちなみにこの皮は中の上ぐらいの皮鎧の原料になります」

 マールが補足してくれた。

「この鎧は?」

 マールが俺の指差すビキニアーマーらしきものを見ると顔を隠し、

「まっマサヨシ様がどうしてもとおっしゃるのならば……」

「いや、着なくていい。どの程度かなって」

「チッ、残念。わかりませんね、鑑定してもらわないといけません」

 マールが舌打ち? えっこんな子だった?

 とりあえず五体のオークを俺の収納カバンに入れる。

 ありゃ、鎧は卑猥な鎧って出た。魔法は特にかかっていない防御もあんま無さそうだ、そのまんま趣味の鎧だな。

「リードラ、この包丁両刀で使ってみるか? 何かカッコ良さそう」

 クイーンの包丁が約一・五メートル、プリンセスの包丁が約一・二メートル。長刀と短刀って感じで良さそう、なんて考えていたが、

(ぬし)が言うのなら使ってみよう!」

 リードラが喜んで包丁を手にして振ってみる。

(ぬし)よ適度な重みじゃな、頑丈そうじゃし使い勝手が良さそうじゃ」

 そう言って包丁を構えていた。何かの鉄人っぽいな。


 俺達はボス部屋の出口にある扉を開けると階段と魔法陣がある。それを見てクリスが説明してくれた。

「マサヨシ、この魔法陣はダンジョンの外に出るための物。次からは外にある魔法陣からここまで直通で来ることができるわ」

「ほう、救済もあるんだね。ってことは、今から帰るか更に降りるか選択になるわけか」

「そういうこと」

「みんなどうする?」

「肉です」

「肉じゃ」

 確かに昼時、フィナとリードラの視線が痛い。

「肉で良いんじゃない?」

「肉」

「肉にします?」

 もう決まってる

「ここから一回外に出て肉を食ってみたい人!」

 サッ

 五人全員だ。

「このまま先に進むほうがいい人」

 シーン

「肉食いに行く人!」

 サッ

 やはり五人全員だ。俺たちは魔法陣の中に入った。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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