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「もっと母様(ははさま)と話さんでもよかったのか?」

 リードラが俺に聞いてきた。

「そうだな会えてすっきりしたし、やることが分かっただろ? まずはダンジョンの攻略だな。」

 リードラに言うというよりも、俺の考えをまとめるために口に出した。

「どうやって?」

 アイナが俺の袖を引っ張る。

「一番難しいと言われているダンジョン? そうだな……できるだけの装備とできるだけの情報が要るんじゃないかな?」

 どんなゲームのダンジョンも攻略本の地図を使えば大体攻略できる。そして、最強の装備があれば攻略に余裕が出る。俺にはマップとレーダーがあり、これをフル活用すれば攻略本に近い状況を作り出すことができるのだ。装備はドランさんトコで買ったクロースアーマーがある。他の冒険者よりも二歩も三歩も有利なのは間違いない。まあ、ラスボスは『ドラゴンな嫁?』いや『ドラゴンゾンビな嫁』確定なんだが、そこにたどり着かないとね。

「とりあえず、ダンジョンってどうやって入るか聞かない? 俺知らないんだ。この町なら冒険者ギルドが有るだろう。聞いてみるか」

 俺がそう言うと、

「そうじゃな」

「ん」

 二人は頷いた。


 俺たちは様々な鎧や服を着た冒険者たちが歩く通りを行く。そんな中大きな声が聞こえてきた。

「お前、どうしてくれるんだ! 高いんだぞこの花瓶」

 体の大きな男が叫ぶ。一輪挿しの花瓶だろうか、白一色の花瓶の首のところが割れていた。

「すみません、すみません」

 ぶつかった子はひたすら謝る。ただひれ伏して「すみません」を繰り返している。

 狐かな? 大きな尻尾の獣人。服は綺麗かな? 男か女かまでは判断できない。

 何だ何だと人が周囲を取り囲んでいた。

「ちょっと見せてみ」

 俺は野次馬の輪の中から飛び出し花瓶を見せてもらう。幸いにも粉々になっているわけではなく割れた面もきれいに残っていた。

 できるか分からないが魔力を通し傷に沿ってなぞる。面と面をくっつける感じで……。良かった成功。指を一回りさせるとヒビ一つ無い綺麗な花瓶が復活した。

「これで大丈夫かね?」

 俺は男に花瓶を見せる。

「凄いな魔法か何かか?」

「そう俺の魔法。解けて割れるなんてことは無いから安心して」

「ああ、割れてないなら問題ない。これは俺の主人の収集したものでな、『いいモノだ』とお気に入りなんだ。割って帰ったりしたら俺も困るところだった助かったよ」

 そう言うと急いでその場を離れていった。


「おう、終わったぞ?」

 震えている子を起こすと体に着いた埃をぱんぱんと払い落とした。

「おわった? 花瓶は?」

 顔を上げ俺を見た。

「直したから大丈夫」

 子供の頭をワシワシなでる。

「お礼は?」

「子供が大人に礼なんて言うな……ん? そうだ、お前冒険者ギルドを知ってるか?」

「うん」

「だったらお礼代わりに場所を教えてくれないか?」

「そこだから付いてきて!」

 そう言うと走り出す。おいおい気が早い。

 俺たちは急いで子供の後を追った。


 子供が入口の前で大きな尻尾を振って待っている。

 何だこの豪邸は? どんだけ儲けてるんだこのギルド……。

 子供がトタトタと中に入っていった。

「エリス様いらしゃいませ」

 ん?様?

「お母さま居る? お客さん連れてきたんだけど」

「マスターは奥に居られます」

「呼んできてもらえない?」

 そのやり取りを入口付近で聞いて俺は固まった。

 えっ? あなた何者?

 冒険者ギルドに入って「○○様いらっしゃいませ」で始まるってあまり無いよね?「また来た」とか「あー、面倒」とか言われない? えっ「お母さま」って言って「マスター」って返ってくる……どういうこと?

「ここが冒険者ギルド。お母さまの仕事場だからよく知ってるんだ」

 自慢の尻尾なのかファサファサと振り笑いながら言った。

 えっ後ろに居るのってギルドのガードマンでしょ? 俺睨まれてるんだけど……。

「あっありがとう、でもマスターを呼ぶまで……」

 俺が止めようとする前に女性の声が聞こえてきた。

「エリス! どうしたの?」

 お狐様登場だぁ……。リードラといい勝負の体。巫女の姿ならいいんだろう。でもな、チャイナドレスっぽいのにハイヒールそれも上下赤って……どうなん? 妖艶って言葉が似合いそうなんだけど、俺には「赤〇きつね」のうどんしか思い浮かばん。


「お母さま聞いてください!」

 ギルドマスターに熱く語り続けるエリス。そして俺の方へ近寄ってきた。

「話は聞きました、私はこのギルドのギルドマスターをしているカリーネと申します。エリスがトラブルに遭っているところを助けていただきありがとうございました」

 頭を下げるカリーネさん。

「私はマサヨシと言います。今回のことはたまたま見かけたので解決のためできることをしたまで、それにもうお子様からは、もうお礼を貰っています。ここに連れてきてもらいましたから」

 そう言うと俺がエリスの頭を撫でる。

「お母さまがお礼を言う必要はありません。こちらこそ事を大きくしたようで申し訳ない」

「エリス? その人は嫌いじゃないの?」

 何だその質問?

「お母さま私このマサヨシさん好き! お父さんになってほしい!」

「はぁ?」

 突然の言葉に戸惑う俺。

「すみません急に話をして……。エリス困っているわよ?」

「ごめんなさい」

 エリスは俺に謝る。

「いや、事情が分からんので、どうすればいいのか……」

 訳わからん。

「エリスは父親を知らない。父親が必要だと思って今まで私が付き合った男性には懐かなかったの、だから結婚しなかった。それは私の一番がエリスだったから。だからエリスが懐くような男の人が居るなら私も結婚に前向きになろうかと思ってた。あなたが初めてじゃないかしら? エリスがこんなに懐いたのは。私もエリスがこんなに懐くあなたなら……」

 状況説明と前向き発言。カリーネさんを見ると潤んだ目で俺を見てる。


「ダメ、マサヨシは私たちの夫になる」

「そうじゃ、我の(ぬし)じゃしな」

 阻止にかかろうとする二人。

「あっそうだ! 俺はこのギルドに用事があって来たんですよ。この町にあるダンジョンへ入りたいんだけど、どうすればいい?」

 何とか話を逸らせたい俺。

「この町のダンジョンへ入るためにはダンジョンへ入る通行手形が必要。それをギルドで買ってもらえればダンジョンへは入れるわ。通行手形一枚につき六名までダンジョンに入れるからリーダーが一枚持っていれば問題ないの。一日用、十日用、(ひと)月用、半年用、年間用の五種類があるわね」

 じーっ

 俺を見るカリーネさん。

「炎の風を単独パーティーで討伐しなかった?」

「はい、そのマサヨシです」

「ちょっと握手してもらえる?」

「ええ、いいですよ?」

 俺が手を出すとカリーネさんが手を握ってきた。カリーネさんの腕に筋が浮かぶ。ああ、力を入れていたのね。俺がちょっと握り返すと

「イタッ」

 カリーネさんが手を引く。

「ああ強すぎたか申し訳ない」

 俺は謝った。そういうんじゃなかったの?

 じっと見られる俺、

「私より強い男……」

 カリーネさん目力強い。戻される話を進めねば……。

「通行手形、年間の奴を貰えませんか?」

「わかったわ、こっちに来て」

 俺たちとエリスはギルドマスターのカリーネさんに付いて空いた受付へ向かった。


「ギルドマスター直々って……何者?」

「あれギルドマスターだろ?」

 ボソボソと冒険者たちの囁き声が聞こえる。

 俺たちどんな奴らだと思われているのやら……。

「さあ、そこに座って」

 ギルドマスター用なのか少し大きめの机の前に俺たちは座る。エリスはカリーネさんの横に。

「年間の通行手形なら三万リルになるわ」

「それじゃ金貨三枚」

 カリーネさんに渡した

「ちなみに一日だったら?」

 俺が聞くと

「百リル」

 一日一万円か。

「で、ここのダンジョンを制覇するつもり? 誰も制覇したことが無いダンジョンだけど……」

「んーできれば制覇したいですね、俺のケジメもありますから」

「ケジメ?」

「内緒です、機会があれば話しますよ」

「その機会はあなたが作ってくれるの?」

「わかりません」

「ずるいわね」

「はい、俺はずるいですよ。それじゃ、そろそろ出ます」

 俺がそう言うとエリスが近づいてきて言った。

「マサヨシさんまた会える?」

 不安なのかな?

「俺は冒険者だ冒険者ギルドには用事があるから会えるぞ?」

 俺はワシワシとエリスの頭を撫でた。

「うん! マサヨシさんくすぐったいよぉ」

 そんな俺たちを見るカリーネさん。

「じゃあまた!」

そう言って、俺は冒険者ギルドを出た。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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