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ゼファードにて

 俺は妻の亡骸を目指し歩く……。

 ゼファードの街の城壁は意外と低かった。ダンジョンがあり魔物が身近であるにもかかわらずである。まあ、その理由はダンジョンの入口に近づけばわかる。そこには王都オウル並みの高さの壁で囲まれた一画があり、その中に入るとダンジョンの入口になっているのだ。

 必要な部分を強化しているわけね……。

 コストの面もあるのだろう。

 そして、亡骸のある場所にたどり着く。

 ファンタジーと言えばダンジョン、定番の場所である。


『やっと来た。遅かったわね』

 ん? 何かが聞こえた? でも聞こえる方向はハッキリしない。

 アイナが一点を見ていた。その場所には何も居ないし何もない。

「そこに誰か居る」

 指差してアイナは言った。

「えっ何か居る?」

「そう、何かがが居る」

『あなたには見えないのね』

「ああ、見えない」

 俺は見えない者に言った。

「リードラと同じ姿格好、でもリードラより年を取ってる」

 そうアイナはそう言う。

『私にはわかる。だってあなた変わってないもの。そういう呪いにしておいてよかった』

 嬉しそうに話す声が聞こえる。

「お前か?」

『そう、やっと気づいた?』

母様(ははさま)?」

 リードラにも声は聞こえているようだ。

『元気だった? あなたマサヨシに会えたのね』

「はい会えました。色々あって(ぬし)の奴隷です」

『そうなの? 奴隷ってまた極端ね。マサヨシは優しい?』

「はい、(ぬし)は優しい」


 俺は声をかける。

「で、何で俺はこんな風にここに来たんだ?」

『会いたかったんだから仕方ないじゃない。文句ある? だから呪いをかけたのよ』

 逆切れ気味に言う。

『遅いのよ! なんでもっと早く来ないの? 私死んじゃってるじゃない!』

「そんなこと言われてもなぁ、俺も死にかけてこっちに来てるし」

 妻にタジタジな俺……。

『私の旦那ってのはマサヨシしかいないんだから』

 言われて恥ずかしい一言……。

「あと、なんで俺メタボな体のままなの?」

『だって、私、その体形のあなたしか知らないし、呪いをかける第一条件が容姿を変えないってこと』

「そういやそうだな。でも俺の若いころの写真は見せたことがあったが忘れたんだろ?」

『その通り! ご名答です。毎日会っている人間と滅多に見たことのない人間じゃ毎日会っている人間を選ぶのは当然だと思うんだけど?』

 言われてみればその通りか……。しかし変わってねぇなぁ。

「俺、ステータスがEXで二十二歳なんだけど、その辺は呪いに入ってた?」

『そんなはずないじゃない! 私が条件として出したのは、メタボな恰好のあなた。後はランダムなの!』

「ってことは、たまたま?」

『そういうことになるわね』

「お前、適当すぎ」

『今更でしょう? 知っているくせに』

 ああ、知っている。適当でめんどくさい奴。でもな、それでも好きだったんだ。まあ、ここで面と向かって言えないがね。

「ああ、知ってるさ! お前の適当さに何度苦汁を飲まされたか」


『適当な私にもお願いがあるの……私を殺して……』

「どういうことだ?」

『このダンジョンのマスターに私の体を使われているの。アンデッド化されて最終階のラスボスって奴? だから、私の体を倒してほしい』

「夫婦喧嘩しろってこと?」

『そういえば夫婦喧嘩なんてしなかったわね』

「お前が死んで今でも引き摺っているよ」

『私は七千年』

 七千年って長すぎるだろ?

「俺は三年程度か……。もっと早く来られなくて済まない。どうしても『ちゃんと生きなくちゃな』って思ってしまってな、命を投げ出したのは最近なんだ」

『気にしないで、私はあの子、リードラって呼んでるんだっけ? が居たから、楽しかったわよ? 本当はあなたとの子だったら良かったんだけどね』

「すまん」

『でもね、あの子は私と同じ遺伝子。単性生殖だからクローンみたいなもの。育った場所が違うだけ……。だから結局私と同じ。そしてあなたの傍にいた。それだけでも嬉しいの。あの子だけじゃなく、小っちゃい子もいたわね、他にもいそうだけど……』

 ジロリと睨まれたような気がした。

「ああ居るぞ? あとはエルフとダークエルフ、更に獣人だ。お前のせいでいろんな女の子と会ってる」

『モテモテね』

「流れでそうなったんだ。お前の呪いのせいだろ?」

『呪いだけじゃないと思うわよ? あなた優しいから……。だったら、私の体を殺せるわね。あなたには守る女性たちが居る。私はもうこの世に居てはいけない存在。でもこのダンジョンのダンジョンマスター、リッチが私の体をこのダンジョンの最下層に呼び寄せたの。私も体に引き寄せられてここに居る。アンデッドになった私の体がこの最下層に居る。だから私を殺して解放して! 私はあなたに会えた! だから思い残すことは無いの!』

 懇願するような声が聞こえる。


「悪い、今の伴侶候補のためにここのダンジョン攻略するんだ。だから、お前の体は倒す!」

『ついで感が漂うわね。まあ、あなたらしいかな? それでも私を倒して! ただ、簡単には倒されないと思うから覚悟しておくことね』

 それって、悪役的セリフじゃね?

 夫婦の会話……普通の夫婦じゃない会話に入れないアイナとリードラ……。

「結局クリスのことが有ろうが無かろうが、ここは攻略せねばならんのね」

『よくお分かりで!』

「攻略させていただきます。それじゃ一回ここから離れるぞ?」

『わかったわよ、早く攻略してね』

 俺はその声を聞きながらダンジョン入り口前を離れた。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


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