クリスのこと
今日はクリスの日だ。着替えて寝る準備をしていると、
カチャリ
扉が開き。クリスが入ってきた。
「甘えていい?」
入るとすぐに言ってくる。
おっと、ストレートだね。
「いつもと一緒添い寝ぐらいだぞ?」
「いいわよ、それで……」
「なら、こっち来い」
俺はベッドに入るとクリスを抱え込むようにして横になる。そして、頭を撫でた。
「私のことはどうしてくれるの?」
「そう言われてもな、不安か?」
「うん」
「悪い、考えてないわけじゃなかったんだけど。お前のことあんまり知らんし」
「うん」
「で、お前って何者?」
「私は、エルフの王族。継承権三位。クリスティーナ=オーベリソン」
「ふーん」
急にカミングアウトされてもな。まあ、ええとこのお嬢様なのは薄々わかっていたから気にもならん。
「ふーんって、それだけ?」
「俺、王族なんて知らん。言っただろ? 俺は別の世界から来たんだ。俺は今の冒険者のお前しか知らんし? 王族だから何なんだ? どうなる? もう俺の奴隷からは離れられんのだろ? 継承権三位ってことは、別に女王にならんでいいのなら気にする必要が無いと思うんだが……」
「父から、私を奴隷に落とした者として討伐命令が下るかも」
「お前、俺が死ぬと思うか? オールEXは伊達じゃないぞ? 創魔師なめるなよ? 返り討ちにしてやる」
不安そうな顔をしたクリス。
「おいで……」
クリスが俺のほうを向いてすり寄り、じっと俺を見る。
「何の因果か知らんが、変なステータスになってる。まあ、なかなか死なないのは確かだ。俺の周りに居るお前の姉妹を見てみろ? あのメンバーで少々の部隊が相手になると思うか? エルフの国ぐらいは何とかするさ」
「あなたにとって、その程度なのね?」
「ああ、その程度だ」
「考え過ぎて損しちゃった。このことを言ったらあなたが離れていきそうで……」
「んー、面倒だとは思うが、その程度だな。悩み損だ」
ニヤリと笑ってやった。
「バカ」
赤くなって、クリスが俯く。
「さて、継承権三位の王女様を隷属させようと思ったらどうすればいい?」
「そうね、お父様だけでなく周りも私が隷属したことを納得する必要がある。私の肩の隷属の紋章。これはいろいろ言われるでしょうね」
左肩を指差す。
「ふむ、面倒だねぇ」
いきなりハードルか高いな。
「その紋章は、俺が着けた物じゃないからなぁ。形をユニコーンにしたんじゃ許されないか?」
「形は私も好きだけど、結局紋章には変わりない」
左肩の紋章をいじるクリス。
「どうしてもクリスが俺に隷属しなければいけない状況があった。ってことにすればいいわけだな?」
「そうね、そういう状況があれば……ね」
「隷属しなければならない状況ねえ……。ゴブリンから救出するときに、クリスが体を差し出すから助けてと言ったとかはダメ?」
「状況としては有りだけど、普通に助けて終わりじゃない? マサヨシがすごい悪者になるわよ? ゴブリンに襲われていることを逆手に取って奴隷にしたことになる。それに助けられる前の私でも、体力と装備さえあれば、あの程度のゴブリンは対処できたと思うし。もっと私があなたの物にならなければならなかった状況にしないと」
更にハードルが上がる。
「もっとって言われてもな」
クリスを所有することがこんなに難しいとは。でも何とかしてやらないと……。
「物、物、物。賭けの対価になったとかは? 俺とクリスで賭けをやった、負けたほうが奴隷になる。賭けの内容はできるだけ難しいもの。その内容で契約書を作り、俺が勝って契約書を履行した。結果、クリスは奴隷になった。こんな流れでどうだ?」
「ゴブリンから救出よりはましね」
ましにはなった。
賭けの内容は、人に迷惑をかけないことじゃないとなぁ。無茶して死ぬかもしれないような場所……。ふと思う。
「この辺で、一番難易度が高いと言われているダンジョンは?」
「ゼファードにあるダンジョン。魔物が強すぎて、最下層までたどり着いた者は居ない。と言うか、中層まで行ければ凄いと言われている」
そういや、そんなことをフィナが言ってたな。
「だったら、そのダンジョンを攻略できるできないで賭けをしたことにしたら? クリスが俺をバカにして、俺が怒って賭けにする。売り言葉に買い言葉で、クリスが同意、契約書を作る。俺が踏破して戻ってクリスを隷属化」
風が吹いたら桶屋が儲かる……みたいな感じだな。無理やり感満載だ。
「それなら……って、あのダンジョン誰も踏破していないわよ?」
「踏破はどうでもいい。で、いけそう?」
「多分……」
「まあ、嫁の件でゼファードには行くんだから、契約書作って、実際にダンジョンを攻略すればいいか……」
「簡単じゃないわよ?」
「人に迷惑をかけない最上級の難度じゃないと。簡単だったらクリスを賭けの対価にできないだろ?」
「まっ、まあ、そうだけど……」
クリス、赤くなった?ちょっと照れた?
「俺みたいな素人の筋書きで、不安かもしれんが、この流れでいこう」
「わかった、不安だけどそういう流れで」
やっぱり不安だよね。
「あと、クリスの国ってどういう所? 俺知らんのよ」
「アルタと言うの、王都から北に歩いて一か月ほど行った自然が美しい国」
クリスは、自分の国を思い出しているのか、遠い目をしていた。
「どのくらい帰っていない?」
「五年ぐらいかなぁ。帰ったら父上にすごく怒られるだろうし、帰り辛いのよ」
「黙って出てきた系か……。外が見たいって置き手紙したとか?」
唖然とした顔、
「えっ、なんでわかるの?」
当たりなんだ……。
「んー、今までの付き合いで何となく。黙って出ていって隷属化されて帰ってくる。父ちゃんめっちゃ怒るよね。俺が父親でも怒ると思う」
「何も言えないわ」
ちょっとしょんぼり?
「そのお陰で会えたわけだがね」
クリスにっこり。
「そうだ、一夫多妻も何か言われない?」
「それは多分大丈夫、お父様も第三夫人まで居るから」
でも俺の方が多いのね……。
「安心できたか?」
「ええ、少しはね」
二人は目をつむる。クリスは俺に抱き付くようにして寝始めた。
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