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謝罪と準備

 俺が何も言わないせいか、ピリピリとした感じの食事になる。アイナもサラも気を使っているのか、朝食の準備中に声をかけてこなかった。マールは、俺の後ろに立ちフォローしている。俺がどうするのか知ってるから、いつもの通りだ。リードラはちゃんと席に座っていた。


「ゴホン」

 と、わざとらしい咳払いをすると、席を立ち、

「心配させてすまんかった」

 豪快に頭をテーブルで打つぐらいに謝った。

「あん時は、ちょっと気持ちの整理がついていなくてな。フィナが変だと言っていたけど、その通りだったな。もう大丈夫、どうするか決めたから……」

「で、どうするの?」

 そう言ってクリスが聞いてくる。

「やっぱり亡骸を探すよ。ダンジョンだろうが人の手だろうが、そこに行く。どうなってるのかは知らないが、ちゃんと手を合わせて妻のことを吹っ切る」

「吹っ切ってどうする?」

 アイナが聞いてきた。

「お前らとちゃんと向き合う。中途半端じゃいけないだろう? クリスがお嬢様な奴隷の件やフィナの村が貧しい件、アイナがどこぞの高貴な人な件、マールを傷つけた貴族様にバチコーンとやりたい件、リードラは……追々」

「何で(われ)は追々なのじゃ!」

 リードラは立ち上がる。

「まあまあ、リードラはそのうちということで……」

(われ)の扱いが……」

 と言いながら、座るリードラ。

「で、ちゃんと付き合ってくれって言わないと。なんか先に進めん気がする」

「そのためにゼファードへ行くのです?」

 フィナが聞いてきた。

「ああ行くぞ。リードラ飛んでもらえるか?」

(ぬし)よ任せろ!」

「ありがとな」


「心配させたわりに、すぐ戻ってるし……マール何かした?」

 クリスに聞かれ、マールの目が泳ぐ。

「何かしたはずです」

 じー

 ってアイナとフィナに見られるマール。

 信号機たちは、どうでもいいようだ。触らぬ神とばかりに、仕事へ行った。

「あの日、私の日だったから一緒に寝ただけです」

 顔を赤くしながらマールが答えた。

「マサヨシ、なんかあった?」

 クリス探偵の追及が厳しい。

「なんもないぞ? 一緒に寝ただけだ」

 目敏く何かを見つけるアイナ。

「指輪」

 マールは左手を隠した。

「あー、やっと貰えたの? 良かったわね。で、何したの?」

 ニヤリと笑いながら聞くクリス。

 クリス、お前関西のおばちゃん化してないか?

「膝枕して、話を聞いただけです。ちょっと頭撫でたりもしましたが……」

 全裸ってのは言えないな。

「膝枕、いいですぅ」

 フィナが羨ましがっていた。

「膝枕……」

 アイナがカーペットの上に正座し、ポンポンと太ももを叩き催促する。

「女性が三人寄れば(かしま)しい」という言葉にあるように、五人も居れば大層うるさい。やれうるさい。槍玉にあがるマールも可哀そうなので、強引に方向転換……


「さて、そういうことでゼファードに行きます」

 そう言うと、四人が集まった。

(ぬし)よ、皆は何をやっている?」

 リードラが聞いてきた。

「じゃんけんで俺と同行するのを決める気なんじゃない? まあ、今回はリードラが居ないとどうにもならないからな。リードラのじゃんけんは無しだな」

 そう言っている間に

「じゃーんけん、ポイ……」

 ってな具合に始まった。

「ちなみに、リードラの家からゼファードまでどのくらいかかりそう?」

「わからないのじゃ、行ったことがないのでのう」

「仕方ない、クリスにでも聞いてみるか」


 じゃんけんがしばらく続いたが……珍しくクリスが勝った。ガッツポーズを決めている。

「珍しいな」

 俺が言うと、

「大きなお世話よ!」

 と怒られてしまった。クリスは、とにかくじゃんけんが弱いのだ。


「おーいクリス、ちなみにここからだったら、ゼファードまでどれくらい?」

「んー、馬車で二十日から二十五日くらいじゃない? 天候や道の状態でだいぶ変わるの」

 道の状況次第が……それでも今まで聞いたことないぐらいに遠い。

「俺が知ってるドロアーテ、パルティーモ、オウルのうち、どこから出ればいい?」

「そうね、パルティーモから出れば少し近くなるかな? 普通はパルティーモからフォランカの町を経由してゼファードに向かうの」

 マップの縮尺を変え、パルティーモからゼファードまでの道のりを確認する。クリスが言ったことで、フォランカも表示された。妻の亡骸を青表示にすると、ゼファードのところで光っていた。

「王都までの二倍か……。リードラの飛行速度が俺の三倍程度と考えると………って、面倒なんで、約時速三百キロメートルとしよう。馬車移動がパルティーモからなら二十日、馬車が一日七十キロメートル程度移動として二十日で、千四百十キロメートル。約五時間。リードラが飛行することによるショートカットがどこまで利くかだろうな」

(ぬし)よ、昨日家に行ったよりももっと速く飛べるぞ?」

「その場合俺たちが耐えられない可能性があるから、少しずつ上げていこう」

「わかったのじゃ」


「ゼファードに行くにあたって、なんか助言ない?」

「マサヨシ、その恰好じゃまず舐められるわよ?」

「そうです舐められます」

 クリスとフィナが言った。

「なんで?」

「ゼファードってダンジョンがあるでしょ? 人は装備とかで冒険者を見るの。あなた、その恰好じゃ冒険者の駆け出しにしか見えないの。私たちはあなたの実力を知ってるけど、町の人たちは知らないから……」

「そうなんです、小太りな初心冒険者になってしまうんです」

 酷い言われようだ。

 炎の風の残りも、パッとするものがない。鎧はあるのだが、創魔師と言うか魔法使いっぽい俺に合いそうなローブ系はアイナのだけだった。

「んー、買うかなぁ……。王都で買うか、ドロアーテで買うか……パルティーモで買うか」

 サッ

 アイナが手を挙げる。

「アイナどうした?」

「良い武器屋知ってる。ドロアーテの小さいけど面倒見がいい店。私のおすすめ」

 アイナがにっこりと笑った。


 俺は扉を出し、アイナの先導でドロアーテの武器屋を目指す。

「ここ」

 ミラウ武器店

 店の奥からカンカンと槌を振るう音が聞こえる。ああ、鍛冶屋と店が併設されているわけね。

「ごめんください」

 皆で店内に入ると、奥からドワーフのおばさんが出てきた。

 ん? アイナをじっと見てる。

 ゆっくりとおばさんがアイナに近寄ると、

「良かったわね、いい人に拾ってもらったのね」

 そう言ってアイナを抱き寄せた。

 コクリ

 アイナは大きくうなずき、

「幸せ」

 と言った。

 おばさんはアイナの頭を撫でる。アイナは目をつぶった。


「さて、商売商売! それで、こんな小さな武器屋で何をお探しで? あんた! 武器のことはあんたの方が詳しいんだから、こっちに来な」

「ほーい」

 これまたガッチリとした体格のまさにドワーフって感じのオジサンが現れた。

「俺はドラン。おっ、おめえ生きてたのか! 綺麗な服着て、飯もいっぱい食べてるか? 虐められてないか?」

 ドランさんは目を細めて嬉しそうに笑う。

 コクリ

 と、頷くと

 俺の腕にアイナが飛びついて笑う。


「そうか、で、お前の用事は何だ?」

 ドランさんが俺に聞く。

「俺の着れそうなものを見繕ってほしいんだ。ゼファードでバカにされないようなもの。一応職業は魔法使いっぽいんで、それっぽいので……」

「お前、『魔法使いっぽい』って」

「俺が自分の職業に自信が無いから」

「鍛冶屋に魔法使いの装備を頼むってのも変なんだが、俺はあんちゃんの要望を満たすものを持っている。ちょっと待ってな」

 ドランさんはニヤリと笑いそう言うと奥へ行った。

 ドタン! バタン! 奥から大きな音が聞こえる。

「あんた、何やってるんだい」

 おばさんも向かう。

「あれを探してるんだ」

「あれって何よ!」

 箱を持ったドランさんが現れる。

「おぉあったあった、このボロ店の最高級品、マジックワームのクロースアーマーだ!」


「マジックワーム?」

「知らないか? あんちゃん! マジックワームのクロースアーマーだ! マジックワームが獲れなくなったと言われて久しい! そのクロースアーマーだ!」

 興奮しているのか唾を飛ばしながら説明するドランさん

「すまん、そんなに言われてもわからん」

「対刃、耐衝撃、対魔、どれをとっても、このクロースアーマーに勝るものは無い! これがあれば、鎧が要らないと言われているくらいの物だ。これは国宝級の防具。たまたま生地が手に入ってな、俺が昔作ったものだ。出来が良かったんで取っておいた。もう売ることは無いと思っていたが……、お前に売る。金貨1枚だな」

「そんないいモノを金貨1枚なんて……」

「俺はあんちゃんに売る。決めた! ほら、うちのメルと一緒にこれを合わせてきな」

 黒のスーツの上下のような服を箱から出し俺に押し付けてくる。

「おいで、こっちだ」

 メルさんと俺は店の奥に向かった。


 試着室のような部屋。姿見がありカーテンで仕切れるようになっていた。

 俺は、マジックワームのクロースアーマーなるものを着る。やっぱり俺のスーツに似ていた。

 カバンを漁りネクタイを出す。

 おぉ……俺の出勤姿完成。電車に乗って出勤しそう。

「メルさん、こんな感じでいいですか?」

「似合ってるわね、コレならどんな冒険者にもバカにされないわ。その服には大きさ調整の魔法がかかっているからピッタリね。」

 クリスとフィナ、アイナが

「ぷっ」

 と笑っていた。

「出会った日と一緒の姿」

 だそうな。

 まあ、俺はこっちのほうが慣れているがね……。


「本当に金貨一枚だけで?」

「ああ、あの子の笑顔なんて俺は初めて見たんだ、それで十分。ただ、あの子を幸せにしてくれればいい」

 アイナを優しげな眼で見る。ドランさんたちとアイナに何があったんだろう……。

「ありがとう、俺はあの子を幸せにする」

「当然だ」

 俺は、金貨を1枚ドランさんに渡す。

「毎度」

「ドランさん、ありがとう。俺ら行くわ」

 店を出ようとした時、アイナが、ドランさんとメルさんを抱きしめ、頬にキスをしていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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